いたづら秋子さん 三日目午後

ちょっとしたifシリーズ…
もし、秋子さんがもっとお茶目な性格だったら? というSS、8回目です。


それでは、どうぞ
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 柔らかい日差しが舞い込む早春の午後。

 私は、居間のソファに腰掛け、読みかけの小説を読んでいました。


 ちょうど、本の半分くらいまで読み終えたところでしょうか。

 とん、とん、とん…と、断続的に階段を下りる音が聞こえます。

 あら?
 祐一さん、起きたのかしら。

 昨日の晩、いろいろありまして、祐一さんは一睡もしていないそうです。
 ですから、寝かせておいてあげたのですが、ようやく起きてきたようですね。
 私は本にしおりを挟み、テーブルの端の方に置いて、祐一さんを迎える準備をしました。

 やがてがちゃりとドアノブが回り、寝ぼけまなこの祐一さんが顔を出します。

「祐一さん、お目覚めですか?」
「ふぁぁ…あふ。秋子さん、おはようございます」

 あらあら。
 祐一さん、今はもう午後ですよ。

 それに、祐一さんの格好と来たら、
 頭には寝癖。
 パジャマはボタンが外れ。


 擬音で言えば、「むにゃむにゃ」です。
 …とっても、可愛いです。


 下半身にテントは
 違います。


 えっと。

「祐一さん、お腹空いたでしょう? 何か簡単に食べられる物でも作りましょうか?」
 と、私が声をかけると、
 祐一さんは私にふらふらと近づいてきて…

「まだ…眠いです…」


 え?
 そのまま、ばたんと…

 ちょ、ちょっと。

 私の太ももに、倒れ込みました。


 ああん、祐一さん。
 どうして、いつもいつも私の方に倒れるんですか。

 すぅ、すぅだなんて。
 罪のない寝息を立てないで下さい。

 でも、祐一さんの寝顔は、とても安らかで…
 とっても、気持ちよさそうで…


 そんなに、私の太ももが好きなのかしら。
 …そう考えると、悪い気はしません。


 それなら、いっそ…

 私は寝癖の残る祐一さんの髪の毛を撫ぜながら、こてんと倒れた祐一さんを、しっかりと太ももに乗せて…


 きちんと、ひざまくらをしてあげることにしました。


 祐一さんの頭の重みが、妙に心地よくて、柔らかいほっぺたから伝わるぬくもりが、とっても暖かくて…


 なでなで…

 祐一さん…
「ん…すぅ…」

 なでなで…

 いいこ、いいこ…


 何故でしょう。こうしていると、とても心が落ち着きます。
 祐一さんは危ういまでに無邪気な寝顔で、まるで赤ちゃんのようです。

 なま暖かい寝息が時々くすぐったいのはご愛敬ですね。



 はぁ…

 私は今、すごく安らいだ心持ちです…



 こういう時間を、幸せって言うのでしょうか。


 差し込む日差し。
 眩しすぎず、熱すぎず。私たちを優しく包みます。

 テーブルに置かれた読みかけの本。

 ふかふかのソファ。

 そして、膝の上には祐一さん…


 うふふ…
 まるで、あつらえたかのように完璧な空間です。


 幸せ…ですね。
 とっても、落ち着いた…幸せ。


 なん…だか

 うつら うつら

 私…も

 あふぅ

 おねむぅ…


 はぁ…
 祐一さんをなでる、私の手の動きが、段々と遅くなってきて…


 なで

 なで

 な

 で





























「うう…ん」


 …ふと、私は目を覚まします。

 あ…ら?

 あら?

 いつの間にか…わたし、寝ちゃったようです。

 いけませんね。



 ふにゅ…

 ああ、でも…

 なんだか、暖かくて、いい気分です…



 ほっぺたの辺りが、ほわほわと暖かくて…

 私の頭の下に、微妙な柔らかさの枕があって…


 もう、ひとねむり…


 ああ まるで…

 ひざまくらのようです





「って!?」

 がばっ

 私は跳ね起きます。


 隣で、祐一さんがびっくりした顔で私を見ています。


「あ、起きちゃいましたか」

 …祐一さん?


 えっと…

 まだ、頭がボーっとしています…



 ここは…
 さっきと同じソファの上で…
 隣には祐一さんが居て…


 祐一さん。


 確か…
 私は、祐一さんをひざまくらしていて…

 それから…
 それから?


「俺が気がついたら、秋子さんがこっくりこっくりと船を漕いでまして」


 ああ
 私は、眠ってしまったんですね
 いけないわ、私ったら



「ですから、あんまり気持ちよさそうに眠っていたもんで、起こすのも忍びなくて」



 ええ…
 そして


「その…つい」


 つい?


「えっと…俺の方に倒れてきたので、そのまま、ひざまくらを」



 え?

 祐一さんが、私に、ひざまくらを?


 あらあら…


 私が祐一さんにしているつもりで、いつの間にか祐一さんにひざまくらされていたなんて。

 びっくりです。


 そこで祐一さんは、ちょっと照れくさそうに微笑むと、
「秋子さんの寝顔、可愛かったですよ」


 あら、いやですね。
 からかわないで下さいな。


 祐一さんたら。
 ずっと、私の寝顔を見ていたんですか?


 うふふ
 嬉しいですけど、
 ちょっと、恥ずかしいです


 でも。
 お返しですよ。
「祐一さんの寝顔だって、とっても可愛かったですよ」


「え…あ、あはは…」

 祐一さんはそれを聞いて、俯いて頭をぽりぽりと掻きます。
 うっすら、その頬は赤らんでいるようでした。

「うふふ」

 私はにっこり微笑みます。
 祐一さんも、まだちょっと照れくさそうに微笑みます。




 そんな、午後の一時。




(今回は引き分け。四勝四敗のまま)





(続く)

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えー、今回はほのぼので(^^;
今回の副題は、「on the sofa2」…そんな事どうでもいいですね(笑)
では、また次回。

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