いたづら秋子さん 三日目夜

ちょっとしたifシリーズ…
もし、秋子さんがもっとお茶目な性格だったら? というSS、ついに9回目、最終回です。


それでは、どうぞ
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 とん、とん、とん…
 包丁のリズムが軽やかにキッチンに響きます。

 今日は名雪の帰ってくる日。
 腕によりをかけて、ごちそうを作っています。

 おだしは、このくらいで…
 はい、大丈夫です。いい味です。

 キッチンには、お料理のいい匂いが立ちこめています。


 さて。そろそろ、名雪の帰ってくる時間になりました。


 名雪を迎えようと、私はお鍋の火を切って、エプロンで手を拭くと、キッチンから出ました。


 あ、そうだわ。
 祐一さんも、呼ばなくちゃ。

 名雪が帰ってきたら、二人で玄関先で出迎えてあげる、という算段でしたものね。

 うふふ。
 名雪が帰ってきた時の、びっくりした顔が目に浮かぶようです。


 と、私が二階に上がろうとして、階段の上を見上げると。

 あらあら。
 心配は無用でしたね。

 すでに祐一さんは、階段を下っている途中でした。


 ところが。


 突然ひょっこりと顔を出した私にびっくりしたのか、祐一さんは、



「うわっ!?」

 つるっ


 と、足を滑らせて…


 ふわっ


「危ない!」


 咄嗟に私は祐一さんを受け止める体勢になりました。



 一呼吸おいて。



 どすん、という衝撃が私にぶつかります。

 私はそれを支えきれず、ふらふら後ろによろめきました。
 後ろには壁も何もありませんから、そのまま二人一緒に玄関先に倒れ込む格好になります。


 どちん。


 はぅん
 痛ぁいです…
 シリモチをついてしまいました。

 あ、そ、それよりも。

「祐一さん、大丈夫ですか?」

「うー、いたたた…」


 ほっとしました。
 祐一さんは、無事なようですね。



 でも、私は気が動転してしまい、今現在私たちがどういう状況に有るのか分かりません。
 分かっているのは、私の上に何か重い物…祐一さんがのっかっているということくらいです。
 それは私の上に乗っている祐一さんも同じ様で、
立ち上がろうとしてなかなか上手くいかないでいるのがありありと分かります。

 困りましたね。
 なんとか、しませんと…

 衝撃のあまり目を閉じていた私は、開く前にとあることに気づきました。

 あら?

 私の頭を、つんつんと何かがこづいています。

 何でしょう。

 細長くて、堅いモノです。

 細長くて。堅い…


 それって…


 テ

 テ。

 テント。
 …違います。
 いえ、違いません。
 でも、違うんです。


 だ、だ、だ。
 だめです。

 私の頭の中に、ぱーっと新しい地平が開けたような感覚がして、思考能力が麻痺して行くのが分かります。


 テント。
 テント。


 …はっ。
 違います。

 ううん、だめよ秋子。
 しっかりしなくちゃ。


 えっと。

「えい」
 ぐっ

 とりあえず私は、それを握りました。


 …何をしてるんですか私は!?




「だうぁっ!?」


 祐一さんが、ばたばたと暴れます。


 た、大変です。


 は、早く放しませんと。



 しっか。





 …何故さらにしっかりと握ってしまうんですか!?


 はう。

 それは、私の予想を遙かに超えて、びっくりするほどに太




 えっと、違うんです…
 わたし、そんな…
 信じて下さい…


 ばたばたばた…


 きゃぁっ!


 ゆ、祐一さん!

 あ、あんまりもぞもぞと動かないで下さい。

 はぅん。

 そ、そこはぁ…


「ひぃん☆」

 思わず、声が漏れ出てしまいます。

 すると、その声に反応するように、私のお腹の方で何かがむくむくと大きくなっていくようです。


 あら?

 なにかしら?


 …おかしいわね
 テントは、私が握っ



 そこで私は気づきました。

 わ、私ったら。
 いつまで、これを握っているつもりなのでしょう。

 ほら、祐一さんも放してくれと言っています。

「あ、秋子さん! は、早く放して下さい!」

 放しちゃって、いいのかしら

 いえ、早く放してあげましょう。



「お、俺の…」

 そう。祐一さんの、テ…

「つまさきを!」




 え?

 つ…

 つまさき?



 ぐいぐい。

 あら。いやです。


 確かに、指があるじゃないですか。


 つま先を掴まれていては、立ち上がれるわけがないですね。


 うーん。
 私のおばかさん♪



 と、すると。




 いま、私のお腹の方でむっくりと起きあがってる、こっちが。


 ようやくつま先から手を放して、私は目を開けると、ちょうど私のお腹当たりにあるテントを確認して、


 こっちですね。
 えいっ♪
 

 おもむろに「本物」の方を掴みました。







 な。

 なっなっなっなっな。

 何をしてるんですか私は!?


「ぐあっ!?」


 祐一さんがなおもばたばたと暴れます。


 その都度、私の手の中でそれが自分の意志を持っているようにふるふると身を振るわせます。



 とっても元気
 …違います…


 は、早く放してあげましょう。
 とっても熱くて、堅く



 その、ですから、あの…


 やはり本物は違…
 …じゃなくて…

 私、何をしているんでしょう…

 もう、自分でもよく分かりません…

 ああん
 もう
 体中が熱いです

 もう
 もう私
 メチャクチャになりそうです


 ところが。
 不幸というものは、重なるものなんですね。
 私はそれを改めて思い知りました。



 からから…

 玄関の戸が、軽やかな音を立てて開いていきます。


「祐一、お母さん、ただい…」










































「うっ…ううう…うえーーーーーーーーーーん」


 何が起こっているのか分からずに、目の前の光景の余りの異常さに、混乱した名雪は泣き出してしまいました。

「うえーーーーーーーーーん、うえーーーーーーーーーーーん」


 よれよれよれ〜と、テントがしぼんでいきます。

 私たちは今まで立ち上がれなかったのが嘘のように、慌てて身体を引き離すと、名雪の元に駆け寄りました。


「ち、ち、違うんだ名雪」
「ち、ち、違うのよ名雪」

「うわーーーーーーーーーん、不潔、不潔だよーーーーー」

 わたわたわたわた…


 訳も分からず暴れる名雪をなだめるのに、一体どれくらい苦労したことでしょう。


 ふぅ…

 いつもこんな事ばっかりです。
 もう♪




(名雪の水入りにて勝負は全てお流れ! お約束の展開にご容赦を!)





(終わり)


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えっと、F.coolです。
こんな展開ですが、怒らないで下さいね(^^;
終わり〜…としましたが、何かネタが思い浮かんだら復活するかも知れません。
それでは。

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