いたづら秋子さん 三日目朝


ちょっとしたifシリーズ…
もし、秋子さんがもっとお茶目な性格だったら? というSS、7回目です。


それでは、どうぞ
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 ちゅんちゅんと、小鳥が囀り…
 窓から差し込む柔らかな日差しが、春のうららかな朝を…


 そんなことはどうでもいいのです!

 私は、今、怒ってます。
 とっても、怒ってます。
 ぷんぷんです。


 その理由は、昨日の夜のこと…

 私がお風呂に入っていると、祐一さんが突然、ガラッと…

 あぁ…

 思い出しただけで、身体が火照っ…



 えっと。
 思い出しただけで、全身が羞恥の怒りに打ち震えます。

 祐一さん。
 昨日のあの屈辱、忘れてはいませんよ!

 もう! 許さないんですから!

 さっさと自分の部屋に戻ってしまって…


 それは、まあ、私と顔を合わせるのが恥ずかしいのは分かります。

 私だって、あの後はとても祐一さんと顔を合わせられません。



 …あら?

 じゃあ、お部屋に戻ってくれていて、良かったのでは…


 いいえ!
 私は、怒っているんです!

 そうです!

 絶対に、そのことをダシに祐一さんをイヂメようなんて…




 お、思って…。
 思ってません! 

 と、とにかく。
 怒ってるんです!


 ですから、祐一さんのお部屋の前に立っても、にへらと顔がゆるん…


 きっ! と目の前をにらめ付けます。

 私は、水瀬秋子。
 水瀬家の主。

 怒ると、怖いんですよ!


 へにゃぁ。


 ああん。
 また、どうしても顔が…ゆるんじゃいます。

 もう一度、眼光鋭く!
 ぴしっ!

 祐一さんに、お仕置きです!


 お仕置き。


 おしおき


 オシオキ


 祐一さんに…オシオキを… …オシオキ…


 オシオキ…♪


 はっ!?

 わ、わわ、私。不埒な事なんて、考えてません。
 え、ええ。ほほほ。


 ふぅ…
 …私ったら、一人芝居が上手ですね…
 自分自身に、呆れてしまいます。


 と、とにかく。

 祐一さんに、オシオキ
 違います。

 …一言、言っておきませんと。

 ドアを、開けます。
 そーっと、中をうかがうと…


 あらあら。
 祐一さん、今日は頭からすっぽりとお布団をかぶってしまって。
 珍しく、寝乱れた様子はありませんね。

 つかつかと、ベッドに近づきます。
 まったく、もう。
 祐一さんたら、一人だけ平和ですね。

 さて…今日は。
 どんな手で起こしてあげようかしら。

 うふふ…

 私はまず、祐一さんの寝顔を眺めようと、そっと布団をめくります。


 …あら?

 中には、丸められた毛布が入っていました。











「わっ!」
「ひぃっ!?」


 ばふっ。
 突然後ろからかけられた声に驚いて、私はベッドの上へと前のめりに倒れてしまいます。

 な、ななな、なんですか!?

 私が振り向くと、そこには…


 ふらふらとした足取りの祐一さんが、虚ろな目で私を見つめていました。


 驚いた私は、思わずぺたんと祐一さんのベッドに座り込んでしまいました。

 な、何事ですか?

 どき
 どき
 私の心臓が早鐘のように激しく脈打ちます。


 ひいい
 なんだか、妙な迫力を感じます

「ゆ、祐一さん!?」

 私は彼の名前を呼ぶことだけが精一杯でした。


 ゆっくり、ゆぅっくりと祐一さんの唇が開きます。


「秋子さん…俺……昨日から…」

 は、はい。昨日から。

「お風呂で…」

 お風呂。
 お風呂…

 いやぁ
 また、恥ずかしくなってきてしまいます

「その後、秋子さんの事ばっかり頭に浮かんできて…眠れなくて…」

 …と、すると。


 祐一さんは、一晩中、私の事を考えていたのかしら。
 一晩中、私の裸体を…


 いやですぅ
 やめてください

 私は余りにも恥ずかしくなって、俯いて両頬を押さえます。


 ずい。


 そこに、祐一さんが近づいてきます。

 え!?


 い、一体、な、何を



「秋子さん…もう…俺は…」



 な、なになに
 なんですか


 ずい


 や、

 ちょ、ちょっと、祐一さん?


 わ、私に近づいてきて
 何をするつもりですか



 ナニをするつもりなんですか



 ずい


 きゃ
 いやです


 ずざざ

 いい知れない恐怖を感じて、私はベッドに乗り上げます


 ずい
 そこに、さらに祐一さんは迫ってきます


 虚ろな瞳で
 私を
 じいっと見つめています


 ずい


 はう

 ずざざ

 さらに後ろに引き下がろうとします


 でも
 でも


 こつん
 背中に、かたい感触

 ああ
 ついに
 壁際まで追いつめられてしまいました

 もう私に
 逃げ場はありません


 ずい

 やめて
 やめて下さい
 祐一さん


 こ、怖いです


 ああん どうして

 さっきまでは
 私が祐一さんを怒るはずだったのに

 祐一さんの
 男性の迫力に
 気圧されっぱなしです


 助けて下さい


 ずい

 ひや

 ずざざ

 もう逃げ場はないと 分かっているのに 分かっているのにぃ


 ごめんなさい
 ごめんなさい

 祐一さん 怒ったりしないから 許して下さい

 怖いです

 もう、オシオキするだなんて
 考えませんから


 オシオキするだなんて

 オシオキ…


 オシオキ


 祐一さん

 私に…

 私に オシオキするつもりですか?


 はぅ

 いやです
 怖いです

 背筋がぶるぶると震えます

 オシオキ
 オシオキ

 祐一さんが、私に

 オシオキ


 いやです
 怖いです


 ちょっと楽しみ
 違います



 お願いです
 もう、イヂメたりしませんから
 私を
 イヂメないでください


 はう
 いやいや


 イヂメないで


 私は無力な子供のようにふるふると首を横に振ることしかできません


 ゆらり


 祐一さんが

 ああっ


 ぐらりと

 私の方に


 いやぁ



 覆い被さるように

 倒れ込んで




 がばぁっ



 私の
 太ももに

 むしゃぶりつくように倒れ込んできて


い、いきなりそこなんですか
 そんな
 やめてください
 スカートの中に顔をつっこむつもりなんですね

 どうせならもっとムードが
 違います

 でもこんながむしゃらなのも
 もっと違います


 ひぅぅ

 祐一さんの熱い吐息が
 私の
 奥の、奥の方に…

 びくん
 ぞわぞわ

 はふん
 やめて


 ああ
 ああ

 ついに私

 もうおしまいなのね

 祐一さんに

 オシオキされてしまうんですね



 どきどき


 わくわく
 違います




 そして 祐一さんは そのまま…




















「すぅ…」


 私の膝の上で安らかな寝息を立て始めました。




 …はい?

 あの。
 祐一さん?


 拍子抜けした私は、つんつんと祐一さんのほっぺたをつついてみます。


「ん…」

 と唸ったきり、何の反応もしてくれません。
 完全に、熟睡しています。



 そういえば、昨日一睡もしなかったって言ってましたね…


 はぁ…
 私は情けなくため息をつきます。


 終わってみれば詰まらないこと。
 祐一さんは、ただおねむだっただけなのです。
 勝手に動揺していた私が、バカみたいです。


 でも、私をこんなに怖がらせるなんて。
 いけない子ですね。


 そう思い、何かいたづらをしてあげようかとも思いましたが…


「ぅぁ…秋子…さ…ん」


 私の太ももの上で、安らかな寝顔を立てている祐一さんを見ると…


 可愛い…


 そんな気も、雲散霧消していきました。


 ふぅ。
 私はもう一度ため息をつくと、祐一さんを起こさないようにそおっと身体を起こし、
 頭を枕に乗せ、ちょっと重い祐一さんの身体を持ち上げて、ベッドに寝かせ、上から布団を掛けてあげて…

 一連の行動の間、私はずっと微笑んでいたように思えます。


 さて、祐一さんをきちんと寝かしつけて、その無邪気な寝顔をもう一度見つめた後…



「お休みなさい、祐一さん」
 ニッコリ笑って、私は祐一さんのお部屋を出ていきました。


 全くもう、祐一さんたら。
 あんな可愛い寝顔は、反則ですよ。
 うふふ。










(とりあえず、祐一寝ぼけ攻撃で勝利! 現在四勝四敗)





(続く)


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