いたづら秋子さん 二日目午後
ちょっとしたifシリーズ…
もし、秋子さんがもっとお茶目な性格だったら? というSS、とうとう5回目です。
それでは、どうぞ
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うららかな春の昼下がり。
居間に面した窓から差し込む日差しがぽかぽかと、とってもいい陽気です。
そんな陽気に誘われて、ちょっと買い物がてらお散歩にでも行こうかしら、そんな気分になります。
…祐一さんでも誘って。
うふふ。
思い立ったらすぐ行動です。
とんとんと階段を上がり、祐一さんの部屋をノックします。
こんこん。
「祐一さん? ちょっと、いいですか?」
「はい、なんです?」
気怠げな顔の祐一さんが顔を出します。
ちょっとお部屋の中を見やると、ベッドの上に読みかけの漫画雑誌が一冊。
「祐一さん、今、お暇ですか?」
「ええ。特にすることもないですが」
ちょうどいいですね。
お誘いしてみましょう。
…なんとなく。
思いつきで、主語を省略してみましょうか。
「付き合って下さい」
「はい!?」
祐一さんは、びっくりです。
私もちょっと、びっくりです。
「あの。お買い物に…」
「あ、あ、ああ。はいはい。いいですよ」
びっくりしたので慌てて説明しましたが、あのまま誤解させておいたら、
祐一さんはどう返答する気だったのかしら?
ちょっと、残念です。
*
さて。買い物かごを手に持って、玄関を戸締まりして…
「行きましょうか」
「そうですね、行きましょう」
祐一さんが隣にいるだけで、不思議と私はうきうきした気分になり、足取りも軽くなります。
「秋子さん、なんだかご機嫌ですね」
「そうですか?」
祐一さんにさえ、見透かされてしまいます。
そうですね。
どうせなら。
私は、ちょっと調子に乗って。
くい
祐一さんのたくましい腕に、自分の腕を絡ませます。
「あ、秋子さん!?」
「どうしました?」
私は敢えて平静を装います。
まるで、それが当然だと言わんばかりに。
「い、いや…なんでもないです」
私の様子から、逆に意識するのは気まずいとでも察したようです。
祐一さんも平静を装って、私と一緒に歩きます。
本当は祐一さんの方が歩くのは速いでしょうに、私に歩調を合わせてくれるのが、なんだか嬉しいです。
そういえば。
唐突に、気になっていたことを質問します。
「そういえば祐一さん」
「はい?」
「名雪とは、どの辺まで行ったのかしら?」
ぶっ!
祐一さんが吹き出します。
あらあら。
よろけちゃいました。
大丈夫ですか?
「しっかりして下さい」
「い、あ、な、いきなり何を聞くんですか!」
あら?
随分と、動揺していますね。
と、すると…
私はにっこりと微笑んで、
「じゃあ、行くところまで行っちゃったんですね」
ぶはっ!
卒倒しかける祐一さんを、すんでの所で支えます。
「大丈夫ですか?」
「あ、あのー!」
祐一さん、どうしました?
お顔が真っ赤です。
「べ、別に俺と名雪は、そう言う関係じゃ…」
あら? そうなんですか。
私ったら、てっきり。
今時の若い人ですから、それくらいは当然かと思っていました。
いやですね、私ときたら。
ちょっと、下世話でした。
うーん、だめよ、私。
でも…
祐一さんたら、以外とウブなんですね♪
「で、ですからぁ…」
なおも口どもる祐一さん。
とっても、可愛いです。
いけないとは思っても…
意地悪したくなっちゃいます♪
「じゃあ、名雪とは付き合っていないんですか?」
「え、ええ。付き合ってませんよ」
あら?
そんな、嘘ばっかり。
さすがに、二人の雰囲気から、付き合ってるくらいは分かります。
私には、教えてくれないんですね。
のけ者にされた気分です。
ぷんすか。
それなら、私にも考えがありますよ。
私は、さらに祐一さんに身を寄せて…
「じゃあ…」
自分でもびっくりするくらい、色っぽい声を出します。
「こんなことしても、いいですね♪」
がしっ。
祐一さんの腕にさらに絡みついて、体に寄りかかるような格好になります。
がっしりした肩に、頭を預けたりして。
「あ、あきっ、秋子さん!」
あらあら?
どうしました?
なんだか祐一さんは困り顔ですね。
ダメですよ、祐一さん。
もっと、楽しく行きましょう。
「こうしてると、まるで恋人同士のようですね」
「え! あ、あの…その…」
祐一さんたら、煮え切りませんね。
「それとも、こんなおばさんと一緒に歩くのなんて、イヤですか?」
「え? い、いや、それは」
少し、祐一さんから離れます。
「そうですよね…私なんかと一緒に歩いても、祐一さんには迷惑ですよね…ごめんなさい」
なるべく、しおらしく。
すると、
「そ、そんなことは無いですよ。俺、楽しいです。ただ、ちょっと…恥ずかしいだけで…」
口どもりながらも、フォローを入れてくれます。
もともとフォローを求めての、ちょっと卑怯な行動でしたが、その言葉が、本当に嬉しくて。
「嬉しいっ♪」
だきっ
さらにずっと、祐一さんに密着してしまいます。
ぎゅぎゅっと、くっついちゃいます。
なんだか私、開放的ですね。
春の陽気に惑わされたのでしょうか。
「あ、秋子さん」
「どうしました?」
「あ、あの…俺の腕に…むにゅって…」
「なんですか?」
「秋子さんの…そ、その…む…む……なんでもないです」
?
変な祐一さん。
なんだか、さっきよりますます緊張しちゃったようです。
でも、なんだか顔がゆるむのを我慢しているみたいです。
よく分かりませんが、嬉しそうなので、いいですね。
*
そんなこんなで、商店街の入り口まで歩いてきました。
もちろん、その間ずっと腕は組みっぱなしですよ。
祐一さんの体温が伝わってきて、暖かくてとってもいい気持ちです。
名雪だけには、独占させませんよ。
なんて。
うふふ。
ふと、気が付くと。
目の前に、一人の少年が立っていました。
彼は、なんだか鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、驚きに口をぱくぱくさせているようです。
祐一さんが彼の姿を見とがめ、困ったような顔をします。
「ぐあ…北川」
あら? 祐一さんのお友達かしら。
私は、彼に向けてニッコリと微笑みます。
すると、どうでしょう。
彼は突然悔しそうな顔をして、祐一さんを睨むと、一目散に向こう側へ走っていってしまいました。
「ありゃあ、確実に誤解されたな…」
誤解?
なにをでしょう。
よく、わかりません。
*
さて。八百屋さんの前まで来ました。
いつものご主人が、ねじりはちまきも勇ましく、威勢良く声をあげて今日のオススメを説明しています。
「こんにちは。今日も、ご精が出ますね」
私の声に気づいて、ご主人がこちらを振り向きます。
「おお! 秋子さん! 待ってまし…………げぇ!?」
あら? どうしたのかしら。
いつもだったら、歓迎してくれるはずなのに…
八百屋さんは、私の様子を見て、突然固まってしまいました。
不思議ですね。
別に、私はいつもと変わったところはありませんよ?
ただ今日は、祐一さんと仲良く腕を組んでいるだけです。
「あの…秋子さん」
祐一さんが遠慮深げに私に囁きます。
「やっぱり…その、まずいんじゃあ…」
なんだか心配げです。
もう。
別に、何も心配する事なんてないですよ?
私は、祐一さんを安心させるために、より一層祐一さんにぴとっとくっつきました。
その途端です。
「キショーーーッ!!!!」
八百屋のご主人が奇声をあげて、頭に締めていたねじりはちまきを地面にたたきつけました。
突然の事にびっくりです。
どうしたのかしら?
すると。
「は、は、は」
今度は、力無く笑い始めました。
忙しい方ですね。
「今日は…もう…店じまいだ…」
あら?
そう言って、奥に引っ込んで行ってしまいました。
「あの、ほうれん草と、ニンジンが欲しいんですが…」
そう声をかけると、
「今日は、もういいっすよ…好きに、もってって下さい…」
そう返事したきり、姿が見えなくなってしまいました。
突然、どうしたのでしょう?
…でも、せっかくのご厚意ですから。
私はありがたく、籠の上に乗った新鮮なほうれん草とニンジンを戴きました。
「あ〜あ…」
傍らの祐一さんも、なんだか困り果てた顔です。
「俺、これからここに来れないな…殺されちまう」
?
そんなに、物騒なところでしたっけ、ここは。
なんだか不思議なことが多いですね。
春だからかしら?
*
そのあと、いろんなお店を回りましたが、どのお店のご主人も八百屋さんのご主人と似たりよったりの反応で…
今日は、春の一斉処分バーゲンの日なのかしら?
そうそう、祐一さんも。
私は始終うきうきしていましたが、祐一さんは家に帰る頃にはもうぐったりしていて。
重い荷物もなかったはずなのに、変ですね。
ぶつぶつと、
「俺…殺される…」
だなんて呟いていて。
一体、今日はどうしたのかしら。
(秋子さん、無敵! 商店街の親父どもと祐一をまとめてノックダウン! 四勝二敗)
(続く)
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それでは、次回に。
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