いたづら秋子さん 一日目午後




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 昼下がりのひととき。
 私は、家事を一段落させると、ゆったりとソファにもたれかかり、
他愛もない物思いに耽りながら、お茶を飲んでいます。

 トタトタトタ…

 あら? 祐一さんが、階段を下りてくるようですね。
 程なく、その姿が現れました。

「すいません、秋子さん」
「はいはい」
「何か、食べる物あります?」

 あらあら。
 祐一さんたら、もうお腹がすいてしまったのかしら。

 私はクスリと微笑みつつ、
「はい。キッチンに何かありますから、どうぞ」
「ども」
 祐一さんは一声返してキッチンに向かうと、
少しして手に何かを持って、私と同じようにソファに腰掛けました。
 何を持ってきたのかしら?

「秋子さん、これ、貰いますね」
 そう言って祐一さんが私に見せた物は、

 あら、
 これは…

 それは、一本の熟れきったバナナでした。


 祐一さんが、先端に手を掛け、丁寧に皮を剥いていきます。
 そして、豪快に頭からかぶりつきました。

 その様子を黙ってみていた私は…
 私は…

 あの。
 何というか…

 …たまらない気持ちになってきました。

 じぃっと、祐一さんの食べる様子を見つめてしまいます。


「…? あひほはん、ほうひまひた?」
 私の視線に気づいたのか、祐一さんがこちらを向きます。

 私は、くねらせた手を頬にあて、熱っぽい視線をその顔に送ります。
 そう、バナナをくわえている祐一さんの、その顔に。

 私の心に気づくはずもなく、祐一さんは「は?」と言う表情をします。


 だけど、その様子を見ているだけで、私は…

 こんな事を言ったら、はしたない女だと思われてしまう…
 でも、ご無沙汰だったから…

 自然に、私の体がそれを欲してしまいます。

 だめ…
 もう…
 我慢できない…

「…ね、祐一さん…」
「はい?」





「祐一さんのバナナ、私にください…」


 懇願するような口調で私は話しかけます。

 それを聞いた途端、祐一さんの表情が固まりました。

「え…? あ、秋子さん、それって…」
 戸惑ったような声をあげます。
 やはり、こんな事を頼んではいけなかったのでしょうか…?

 でも、やっぱり。
 欲しい物は欲しいんです…
 私だって、人間ですから、そんなときもあります。

「お願いします…」

 祐一さんが、ごくりと音を立てて唾を飲み込みます。

「少しでいいですから、祐一さんの、その…」

 私は、ちょっと恥ずかしげに俯きながら、視線だけを祐一さんの方に向けて、

「黒ずんだバナナを、ください…」


 それを聞いて、祐一さんは、ちょっと待って下さい、と、私を制止しました。


 一分も経ったでしょうか。祐一さんは、まだ悩んでいます。
 額にはうっすら脂汗まで浮かんでいます。

 やっぱり、こんな事を言ってはいけなかったのかしら…
 と、私がそう思ったその時。

「…わかりました…その、…どうぞ」

 嬉しい!

「有り難うございます、祐一さん」
 言うが早いか、私は、おもむろに祐一さんのバナナに手を伸ばし…

 食べやすい様にして、

 私の唇をそっと近づけ…

 邪魔な髪をかき上げ…

 はぁっと、私の吐息が先端にかかります。


 ああ、もう、こんなになって…

 我慢…できません。
 下品な女だと…思われても…いい…


 はむっ


 そして私は、一息にそれを口に含みました。

 ああ…祐一さんがこちらを見ています…
 あんまり、見つめられると…ちょっと、恥ずかしいんですが…

 でも、私の口は止まらなくて。

 ふちゅ、…ちゅ と、まずは全体に舌をまとわりつかせます。

 ああ…祐一さんの顔が、困惑から、苦悶へと移行しています…

 ごめんなさい、祐一さん… でも、私は、どうしても…欲しかったんです。
 今、私の手が握っている、…これが。

「このバナナ、とっても美味しいです…」
「あ、秋子さん、俺…」
 祐一さんが切なそうな声をあげます。


 そして…

「くっ!」
「あっ…」



































 ダッ!

 祐一さんは、泣きながら二階へと駆け上がってしまいました。

 …?
 どうしたのでしょう。



 そんなに、この、私の食べている、「普通のバナナ」が欲しかったのかしら。
 確かに、だいぶ黒ずんで熟れてきて、とっても甘くて美味しいですが。


 ごめんなさいね、祐一さん。
 私、実はバナナがことのほか好きなんです。
 バナナジャムだって、作ってありますしね。


 もぐもぐ、ごっくん。

 ごちそうさまでした。


 私は、祐一さんが居なくなったので、バナナをぺろりと平らげてしまいました。


 あら? 今、二階から、「チクショー」とか、声が…
 いえ。空耳でしょうね、きっと。


 それにしても祐一さんたら、どうしたのでしょう…。
 悲しそうな顔で、前屈みにしていましたが…お腹の調子でも、悪いのかしら?




秋子さん:いつの間にか祐一に一勝☆




(続く)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

やぁ、ごめんなさい(^^;
それだけです、では。

次へ

Libraryへ   トップへ