いたづら秋子さん 一日目夜





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 しんしんと夜も更けて…


 冷えた体をストーブで暖め、体温が逃げないうちに、私はベッドに潜り込みます。

 うふふ
 今日の祐一さんの事を思い出すと、自然に笑みがこぼれてしまいます。

 バナナを取られたときの顔…
 耳に吐息を吹きかけられたときの顔…

 明日も、祐一さんのあんな顔が見られるかと思うと、とても楽しみで、思わず体が疼いてしまいます。
 体が疼くと言えば、あのテントを見たときも



 …はっ?

 わ、私ったら、何を考えているのかしら。

 えっと、確か、祐一さんのことを考えていて、

 テント



 …えっ?


 あ、えーと…
 テントとは、雨、日光などを遮るために張る、カンバスなどの幕のことです。
 そうです、はい。
 テントとは、そう言う物です。
 決して、殿方の下半身にある





 …じゃなくて!

 はぁ…
 人知れず、淡いため息を付きます。

 ……私ったら、どうしたのかしら…

 ベッドの中で、寝返りを打ちながら…
 いい知れない思いに心を馳せ…

 だめよ、こんなことじゃ。
 しっかりしなくちゃ。

 名雪は、私の娘です
 祐一さんは、私の甥です
 名雪と祐一さんは、恋人同士です

 私は、そんな二人の保護者です

 はい。まとまりました。
 心が静かに落ち着いてゆくのが分かります。
 
 これで、やっと寝られそうです。

 ふぅ
 …おやすみなさい



 どんどん
「秋子さん」
「はひぃっ!?」

 突然名前を呼ばれて、私は素っ頓狂な声をあげてしまいます。
 これでは朝の繰り返しではありませんか。

「……?」
 ほら、ドアの向こうで、祐一さんが困っているのが分かります。
 今度こそ、毅然とした態度で望まないと…

 はい。
 覚悟、完了です。

 どうぞ、いらしてくださいな。

「すいませんこんな夜中に…」
 ぎぃっとドアを軋ませて、祐一さんが現れます。

「…どうしました?」
 私はニッコリ笑って応答します。
 はい。私は、いつも通りの「秋子さん」ですよ。





「あの…俺…」
 祐一さんが口どもっています。
「はいはい」
 私はそれを優しく促します。

 大丈夫ですね。
 ばっちり、保護者してますね、私。

 はい、祐一さん。何でも言って下さいな。




































「俺…体があつくて…我慢できないんです」




































 ぱーーーーーーん

 私の覚悟は軽い音とともにどこかへ弾けとんでしまいました。



 ゆ、ゆゆゆゆゆゆ祐一さん!?
 あ、あの、ちょ、ちょっと、それって

 私の心の中は真っ白になります。
 自分でも、何を言ったらいいものか、言葉が見つかりません。


 ゆ、祐一さんたら。
 か、体が熱いだなんて。
 あ、あらあら。

 どうしたのかしら。
 熱っぽいのかしら。
 風邪かしら。
 それはいけませんね。

 テント。


 ……違いますっ!



「あの…秋子さん」
「はぃぃ」
 気の抜けきったような返事を返すことしかできません。

「それでですね、秋子さん」

 ちょ、ちょっと待って下さい、祐一さん
 もうちょっと、時間を下さい
 まだ、考えがまとまっていません
 心の準備も、まだです

 落ち着いていません
 心が、ふわふわふわふわ浮いています
 まだ、今は何も言わないで下さい



「その、」
 言わないでっ…って、言ってるのにぃ

「取っちゃって…いいですか?」


 取っちゃう?
 取っちゃうって…なにかしら

 まさか…
 私の、パジャマ?

 あら、そういえば
 私、パジャマ姿でした


 いや
 恥ずかしい

 今になって、羞恥心がこみ上げてきます

 カーッと、頬の辺りが熱くなります

 ああ、祐一さん、そんな目で見ないで
 私 おかしくなってしまいます


 祐一さん 私のパジャマを取ってしまうつもりですか
 はぎ取ってしまうんですか

 私の下着姿を 露わにしたいんですか
 パープルのレースに包まれた 上から86・57・83の 成熟した肢体を
 違います

 やめて下さい
 見ないで下さい

 布団の中に隠れようと思っても
 体が言うことを聞きません
 

 イヤよ
 イヤよ
 イヤよ
 見つめちゃイヤ…


 ぐるぐるぐるぐる
 私の思考がぐるぐる回っています

 だめ
 何も考えられません


「俺…もう…毎晩、熱くて…」

 はい
 私も、とっても熱いです

 熱いです

 ほっぺばかりでなく全身が燃えさかるように熱いです
 さっきまで寒さに震えていたのに
 どうしたの 私
 こんなの おかしいわ


 じっとりと汗が噴き出し
 パジャマにわずかな不快感がまとわりつきます

 熱いです

 …パジャマ
 脱いじゃって いいかしら


 何を考えているの私


 そういえば祐一さんもパジャマ姿です
 薄い布きれの上から 若い男性の体が はっきりと見て取れます
 上半身は なかなか がっちりしていて
 お腹の筋肉も しまっていそうで

 テント。
 違います

 もうやめて
 祐一さん

 そんな目で私を見ないで
 私を これ以上苦しめないで

 もう、何も言わないで

 黙っていて、下さい


「秋子さん…いいですか?」


 そんな
 困ります

 私には夫が
 娘が

 あなたは私の甥っ子です

 いけません
 いけません

 ダメです
 ダメです

 禁断の愛
 違います
 許して下さい

 でも


「秋子さん? いいですよね」

 ああっ!


「…はい」



 ああ
 言ってしまったわ

 私ったら
 何を

 そんな


 もうダメ
 もうダメです
 私

 私
 ふしだらな女です

 ごめんなさいあなた

 でも
 ああ、祐一さん
 ニッコリ 微笑まないで
 その笑顔が 私の思考を麻痺させる

 今度は
 その開きかけた唇から
 何を言うの

 何を言って
 私を狂わせるの

 祐一さん


 そして

 祐一さんは言いました

































「ああ、よかった。毎晩布団が暑くて仕方なかったんですよ。
 今日から掛け布団を取って眠ります」









 …は?




 ぎぃ ぱたん とたとたとた

 祐一さんは言うだけ言ってさっさと二階へ戻っていきました







 あ?

 あの?

 祐一さん?



 わ、わた、私は、どうすれば!?

 ど、どうすれば…


伸ばした手が、わきわきと宙を虚しく掴みます



 ……



 はぅ…



 私はその晩、熱く火照った体を抱きながら、悶々と眠れない夜を過ごしました。







(秋子さん、祐一に惨敗! 現在二勝二敗)



(続く)

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こんなのばっかりですみません(^^;
では〜
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