いたづら秋子さん イヂメちゃいやです
お茶目な秋子さん、相変わらずのノリで…
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ある日のことです。
祐一さんが、私の元へと来ました。
「あの、秋子さん…」
「はい、どうしました?」
なんでしょう。
今の祐一さんには、いつもと違った、真剣な雰囲気が感じられます。
祐一さんは、重苦しい面もちのまま、沈黙を守っています。
私も、その雰囲気に飲まれ、どきどきしながら黙って祐一さんの言葉を待ちました。
やがて、祐一さんの唇が、ゆっくりスローモーションの様に開きます。
「…秋子さん。俺ももう、高校三年生になります」
「はい」
そうですね。
…それで…?
「ですから、これからは、俺も秋子さんに甘えないように、自立していこうと思うんです」
「ええ、それはいいことですね」
ちょっと、寂しいですが。
「それで、そのためにも、お互いの立場をはっきりさせておかないとダメだと思うんです」
「はい?」
何のことですか?
「だから、これから、秋子さんの事をこう呼びます」
え、ま、まさか…
もしかして、祐一さん。
私が、一番恐れている、あの呼び方を…使うつもりですか?
そんな。
やめて下さい。
いえ、祐一さんに限って、そんなことはないですよね。
ええ、ええ。
はい、大丈夫です、さぁ、祐一さん。
私のことを、なんて呼ぶんですか?
―――呼び捨て…は、ちょっと恥ずかしいです……よ……♪
なんて。
私ったら、何を舞い上がってるのかしら。
嫌じゃないですが。
うふふ…
「あの、秋子さん? 聞いてますか?」
「あ、は、はい」
私の、呼び方でしたね。
「ですから、これからは、こう呼びますよ―――――
――――――――――『オバサン』と」
いやぁぁぁぁぁぁ!
一番私の恐れていた呼び方じゃないですかぁ
がちゃり
「う〜…? あれ? 祐一、お母さん、どうしたの?」
ああっ、名雪。いいところへきたわね。
お願い、祐一さんに何か言ってあげて。
しかし、私がそう名雪に呼びかけるよりも早く。
「ああ、名雪。俺、これから秋子さんの事を『オバサン』って呼ぶから」
いやぁ!
私は慌てて耳を塞ぎます。
そんな。
いや。いや。
嘘よ。
ぶるぶるぶるぶる。
いくらなんでも、祐一さんが、私のことを、オバ、オバ…
『オバサン』だなんて――――
とりあえず、崩壊しそうな自我を抱え、なるたけ冷静を装って、祐一さんに尋ね直します。
「嘘ですよね、祐一さん?(ニッコリ)」
「いいえ、本当ですよ――――『オバサン』(ニッコリ)」
いやぁ!
またそう呼ぶんですね!
「へぇ、そうなんだ〜」
名雪がのんきそうに相づちを打ちます。
「じゃあ、お母さんの事を『オバサン』って呼ぶんだね」
名雪まで!
やめて…やめて…
許して…そう呼ぶのだけは…
「ああ、これからはきちんと『オバサン』って呼ぶから」
ひぅ…
今まで通り、『秋子さん』って呼んで下さい…
自立なら、それでも充分ですよ…
それとも…
ひょっとして、私、祐一さんに何か悪いことしましたか?
その、お返しなんですか?
そんな…私が祐一さんに悪いことなんて…
(過去シリーズ参照)
…いっぱい、してましたね…しくしく
ごめんなさい祐一さん
許して下さい
出来るだけのことはしますから、それだけは許して下さい
もう、いたづらしませんから
もう、からかったりしませんから
お願いします…
秋子は、貴方好みの女になり
そこまでは違います。
と、とにかく。
それだけは、そう呼ぶのだけは、許して下さい
いや、いや、いやなのぉ…
祐一さん、お願い…
しかし。
ああ、祐一さんはなんて残酷な人なんでしょう。
私が余りの事にしゃがみ込んでいると、そこにとどめの一撃。
「ところで、『オバサン』」
!!!!!!
えぅっ…ぐすっ…ひっく…
うぁぁぁぁぁん!
もう、知りません!
ダッ!
「お母さん!」
「あ、秋子さん!」
私は、何も省みず、目に涙を溜めたまま明後日の方向へと逃げ出しました。
(続く)
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次回、「いたづら秋子さん 拗ねちゃいますぅ」に続きます(^^;
それでは〜
次回へ
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