いたづら秋子さん 一日目朝
ちょっとしたifシリーズ…
もし、秋子さんがもっとお茶目な性格だったら? というSSです。
それでは、どうぞ
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太陽が昇り、朝の訪れを告げます。
まだ少し肌寒い空気に、幾分和らいだ日差しが舞い込みます。
ちゅんちゅんと雀は電線にとまり、庭の草木は朝露に濡れてキラキラと輝いています。
辺りはすっかり春の様相…
そう、今は春休み。
主婦であり社会人である私にはそんなことはあまり関係がありませんが、
名雪は、陸上部の合宿とかで、今日は早くから家を出ていってしまいました。
今日から3日間、この家に祐一さんと二人きりです。
そう、年頃の男の子と二人きり…
うふふ、いやですね。
そんな新鮮なシチュエーションに、柄にもなく心を浮き立たせている私が居ます。
さて。そんな気分で家事を済ませ、朝御飯の支度をしていると、
時計の針が9時を指しました。
そろそろ、祐一さんに起きてもらおうかしら…
そう思ってトントンと階段を上り、そっと、祐一さんの部屋をノックします。
「祐一さん、起きてますか…」
返事は帰ってきません。
もっとも、これで起きてしまってはちょっとつまらないのですが。
私はゆっくりと、ドアを開きます。
あらあら。
祐一さんたら、昨夜が多少暑かったのか、布団を蹴飛ばして、散々な格好です。
これから起こすにも関わらず、とりあえず私は優しく乱れた布団を直してあげます。
祐一さんの頑丈な足をどけて…毛布を…引っ張って…
掛け布団を…肩まで、ちゃんと。
ぽむぽむ。
仕上げに、ちょちょっと布団を叩いてあげます。
それが心地よかったのか、祐一さんは寝顔ながらうっすらとした微笑みを浮かべ、とても気持ちよさそうです。
そんな祐一さんの穏やかな顔を見ていると、起こすのがちょっと可哀想な気もしますが、いつまでもこうしては居られません。
でも、このままただ普通に起こすのもつまらないわね…
それにしても、穏やかな寝顔です…
自分の甥ながら、かわいい、などと思ってしまいます。
…そうだわ。
私は、少しばかりいたずらを思いつきました。
うふふ。
安らかに眠る、祐一さんの顔…
その耳に、少しずつ私の顔を近づけていって…
少しずつ、少しずつ…
そーっと、そーっと…
唇が、耳たぶに触れるか触れないかの距離まできた、その時に。
ふぅっ☆
「だっ!? わわっ、わわわわっ!?」
ガバァッ!
あらあら。
祐一さんが跳ね起きてしまいました。
「な、ななな…? 今のは?」
びっくり仰天のようです。
大成功です☆
祐一さんたら、何が起きたのかも分からずに、こそばゆさの残る自分の耳を押さえながら、辺りをきょろきょろと見回します。
そして、傍らににこにこと微笑んでいる私に気づきました。
「あ、秋子さん…?」
「お早う御座います、祐一さん」
努めて平静を装って、私は答えます。
意地悪ですね。私も。
でも、どうしても頬の辺りが微妙に弛んでしまうのはご愛敬でしょうか。
「あー…んー…?」
祐一さんはまだ釈然としない様子でしたが、頭をぽりぽりと掻くと、
まだとろんとした目で朝の挨拶をします。
「おはようございます…」
「おはようございます。今日もいい朝ですよ」
ちょっとだけ、私の声が弾んでいたのは、祐一さんには気づかれなかったようです。
「ああ…そういえば、名雪はもう行ったんでしたっけね」
「ええ。朝も早くに、行ってしまいました」
「じゃあ、今日から3日間…」
「はい。私と、『二人っきり』です」
私はわざと『二人っきり』の部分に力を込めて言いました。
「あ…はぁ、そうですね…」
あらあら。
祐一さんは、何を言ったらいいものか、ひとしきり私の顔をじっと見つめてもごもごと口ごもった後、じっと黙って押し黙ってしまいました。
その、何というか。
純情そうに頬を染める、その仕草が、とても、とても…
可愛い!
思わず抱きしめちゃいたくなりましたが、さすがに祐一さんも年頃の男の子ですから、
それはすんでの所で押さえました。
え? 祐一さんが年頃でなければどうしたのかって?
うふふふふ…
あら? でも、祐一さんたら、俯いたまま動きが止まってしまいました。
どうしたのかしら? 何か、一点をじっと凝視したまま動きません。
何か大変なものに気づいたかのように、その目は大きく見開かれています。
一体、どうしたのかしら?
「わ、秋子さん!」
祐一さんの制止の声も聞かずに、私は身を乗り出して、祐一さんの見つめている先、
まだ布団に隠れたままの下半身の方を見つめます。
すると、
テントが建っていました。
……
気まずい沈黙が場を支配します。
その間、私の視線はその突起に注がれたままです。
かーっと、頬が見る見る熱くなるのが分かります。
ここからでは分かりませんが、多分、祐一さんも同じ状況なのだろうと思います。
「ご、ごめんなさい!」
といったものの、何が悪いのかは分かりません。
とにかく、なんだか申し訳ない気持ちになってきて、いたたまれなくなった私は
脱兎のごとく部屋を抜け出します。
バタン!
背後で、部屋のドアが閉まる音がしました。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
部屋を出た所の廊下で、私は呼吸を整えます。
えーと、その…
落ち着いて。落ち着くのよ、私。
そうよね。祐一さんだって、健全な男の方なんですから、あれは健康の証なのよね。
そうよ、そうそう。あれは男性の生理現象。何でもない、普通のことなのよ。
私が過敏に反応したら、祐一さんだって恥ずかしがってしまうわ。
ええ、それはもう恥ずかしいほどに大きくて。
はっ?
私ったら、一体何を考えているの?
祐一さんは、私の甥っ子なのよ?
だめよ、だめだめ。落ち着かなくちゃ…
すぅ…はぁ… 深呼吸。
ふぅ…もう、大丈夫…です。
少し、落ち着きました。
「秋子さん」
「ひゃん!」
突然後ろからかけられた声に、私はびっくりして飛び上がってしまいます。
スタン。地面に着地したスリッパが、小気味いい音を立てました。
「な、なななななんですか? 祐一さん」
私はドキドキして声がうわずってしまいます。
「あ、えーと、あの…朝御飯は…」
あ、なんだ。
朝御飯ですか。
「はい。下に、用意してありますよ」
「ども」
祐一さんはまだ少し恥ずかしいのか、私の顔を見ないようにして階段を下っていきました。
ふぅ…
びっくりしました。
それにしても…びっくりさせようとした私が、逆にびっくりさせられてしまうなんて。
むぅ…ちょっとだけ、悔しいですね。
でも、まだまだ一勝一敗。
これからが、勝負ですよ、祐一さん。
……あら? 何時の間に勝負事になったんでしたっけ…
(続く)
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……後書き
いつの間にかに始まってしまった、このSS(^^;
作者以外の方が楽しんでいただけるのか、少し不安ですが…
ちょっとでも私の書く秋子さんを可愛いと思っていただければ、嬉しく思います。
それでは、また次回。
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