土の感触を確かに足に感じる。
少し傾斜がかった道は、それでも筋肉を疲労させるのには困らなかった。
後ろを振り返っても、もう帰り道など有って無いような物。
突き進むしか選択肢は残ってないような気がしていた。
それでも俺は口を開いていた。
「本当にあの道で良かったのか?」
俺は前を歩く北川に聞く。
北川は足を止め、首にかけたタオルで額から流れる汗をふき取りながら振り返った。
「今更言うな」
はっきりした口調でそう言い、そしてまた歩き出す。
「北川君。あたしもう疲れたわ」
「祐一〜。わたしも暑くて死にそうだよ」
名雪と香里が愚痴をこぼす。
確かに俺も疲れてはいた。
迷ってから時間もたいぶ経った。
しかも普段歩き慣れない山道だ。
足は歩き過ぎのせいで、パンパンにはっているた。
なによりも、夏ということで俺は水分不足も心配だった。
「こんなことなら、あの時ちゃんと駅で道を聞いておけば良かったぜ」
俺はそう言いながら、空を見上げる。
木々に遮断された太陽の光が、俺達を強く照らす。
俺はしばらくの間、木漏れ日の光を浴びた。
ゆっくりと目を閉じて…。
その時、小高い地点まで登っていた北川が叫んだ。
「おい!村だ!」
その声に俺達は、全員その地点まで急いで走った。
北川はゆっくりと指でその村を指差す。
確かにそこに村はあった。
回りを山に囲まれて、ひっそりと…。
まるで外界から隠れるように…。
「北川君。今日はあそこに泊まりましょうよ。あたしもう疲れたわ」
「そうしようぜ、北川。もう帰るに帰れないしな」
俺と香里の言葉に、北川も首を縦に振る。
そうして俺達はその村へと足を踏み入れたのだった…。
その時の俺の感覚だが…。
妙な感覚だった。
どんな感覚かは適切には説明できないが…。
ただ、なんだか見てはいけない物を見た、という感じだった。
その時の俺には、そんなことを気にする余裕も無かったのは事実だが…。
戻る 次へ