祐一、香里にマッサージする(前編)
アレがアレでアレなシリーズ(笑)第5弾、お届けします。
一応続き物ですが、前回までを読んでいなくても特に何の支障もありません。
今までのあらすじ
舞に伝授してもらったそのマッサージテクニックで
ものの見事に秋子さんと名雪を立て続けに陥落した相沢祐一。
・・・これだけで済むのか(^^;
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凍てついた冬の外気が俺の体をむしばむ。
吐いた息も白く凍って地面に落ちていきそうだ。
新雪が降り積もり、すべてが白に染まった朝の風景。
そんな中を、俺たちはいつも通り慌てて水瀬家の門をくぐる。
いや、一つだけいつも通りではないところがあった。
「さ、名雪、いくぞ。学校に遅れちまう」
昨夜の出来事のせいか、名雪は俺が話しかけても顔を合わせようとしない。
「・・・・・・・うん」
その返事にさえ、生気が感じられない。
とても気まずい雰囲気のなか、俺たちは通学の道を辿っていた。
*
ギリギリの時間で教室に付いた俺たちは、ふー、と安堵の息をもらしながら
重い鞄をおろす。しかし、名雪との間の空気は変わることはなかった。
まぁ、名雪が決して俺を嫌っているのではないことは分かる。
きっと、ただ恥ずかしいだけなのだろう。
そう考えると、少しは気も楽になった。しばらくしたらいつも通りに戻るだろう。
しかし、名雪の親友は、微妙な雰囲気の違いを敏感に察知する。
緩いウェーブの掛かった黒髪をたなびかせ、香里が心配げな顔で名雪に話しかける。
「ねぇ、名雪。どうしたの?なんだか今日は、様子がおかしいわよ・・・・」
しかし名雪は、
「なんでも・・・ない、よっ」
そうは言うものの、昨晩の出来事を思い出したのか、その顔は見る見る朱に染まる。
「そう・・・?本当に、大丈夫?なにか、あったの?」
執拗に名雪に問いかける香里。
すると名雪は、ぽそっとこんな事を口にした。
「ううん・・・祐一と・・・ちょっと」
わっ、バカ!俺の名前を出すな!
そう思うも時すでに遅く、
皆関心がないフリをしつつも、いつも話題の的である俺たち従姉妹同士の
様子をうかがっていたのか、この時とばかりに何故か教室中の目が一斉に俺の方を向いた。
「ち、違う!俺は・・・・俺は・・・」
あわてて弁解しようとするも、何もなかったとはさすがに言えない。
ますます周りの視線は強くなり、無言の非難が俺の体中に突き刺さる。
香里はそんな俺の様子を見ると、ふぅ、とため息を付き、すべてを理解したような顔で、
「だめよ、相沢君・・・・お互いに初めてだから仕方ないのかも知れないけど、
もうちょっと優しくしてあげなきゃ・・・」
香里!お前は誤解しまくっている!
「そうだよ祐一・・・・わたし、あんな事されるとは思ってなかったよ」
名雪!お前は香里の言葉を理解していない!
真っ白な目が俺を取り囲む。
ジーーーーーーーーーーーッ
ぐ・・・いい加減、ますます強くなっていく周りの視線に耐えきれない。
そうだ、こんな時こそ!
俺は北川に助けを求めようと、すがるような視線をヤツに送る。
・・・・ポキ・・・ポキポキ・・・・・
北川ぁ!無言で拳を鳴らすなぁ!
「ええい、この」
俺はとりあえず香里を手招きすると、何とか誤解を解こうと説明することにした。
「なによ・・・」
いぶかしげな香里に、事のあらましをかいつまんで話す。
「実は・・・かくかくしかじかなんだ」
「かくかくしかじかで分かるわけないでしょ!」
もっともだ。
仕方なく、俺は昨日あったことの一部始終を香里に話した。
聞き終えた香里は、なんだ、と息を吐く。
「人騒がせね・・・」
そう言った香里の顔が妙に残念そうに見えるのは俺の気のせいか?
その香里の様子を見て、教室のみんなも、誤解であったことを理解したのか、
興味を無くしたようにそれぞれ一限目の用意を始める。
ふぅ・・・何とか収まったか
しかし、まだ香里は食い下がる。
「でも、どうしてマッサージしただけで名雪があんなふうになっちゃったのよ?」
当の名雪はぼーーーっとして椅子に座っている。
その視線は虚ろに空中を泳いでいる。
ひょっとして、ただ眠いだけなのではあるまいか。
しかし、いくら何でも「俺が名雪の尻をむんずと掴んでしまったからだ!」
なんて声高らかに宣言できるわけで無し・・・・
「ま、まぁ・・・俺のマッサージがだいぶ効いたからじゃないのか?」
といってお茶を濁すことにした。
「そうなの?名雪」
名雪に問いかける香里。
「うにゅ・・・マッサージ・・・」
やっぱり半分寝てやがる。
しかし香里は、
「ふぅん・・・本当の様ね」
と、何故か納得した。
「これで納得しただろ?」
やれやれだ。
しかし、運命は俺を許してはくれなかった。
次の香里の一言。
「じゃあ・・・そんなに効くんなら、あたしもしてもらおうかしら」
ぶーーー!
思わず吹き出してしまう。
いや、違う。今吹き出したのは、俺じゃなくて今まで黙って事の成り行きを見守っていた北川の方だ。
「み、美坂!い、いくらなんでもそれは・・・・!!」
「あら、北川君。どうしたの?」
無様にあわてふためく北川の横で、香里は冷静にそれを返す。
「だ、だからだなぁ、その・・・」
北川の気持ちは痛いようによく分かる。
「なによ、はっきり言いなさいよ」
冷たく言い放つ香里。
ひょっとしてこいつは、北川の気持ちを知っててこんな事言ってるんじゃないのか?
もしそうだとしたら・・・・
美坂香里。
やはり、恐ろしい女だ。
「そ、それは・・・いろいろと・・・問題が・・・・」
「何言ってるのよ北川君」
軽く一蹴する。
「別に、ただマッサージしてもらうだけよ・・・最近、腰の辺りが痛くて。」
「ふむ。香里は腰の使い過ぎなのか」バキッ!
言い終わる前に香里の裏拳が俺の顔面にヒットする。
「どうして「勉強大変だな」とかそう言う発想が出来ないの!?」
「冗談なんだが・・・・」
俺はじんじん痛む自分の顔を撫でさする。
「ま、いいわ。今日のお昼休み、学食行った後、ちょっと付き合ってね」
「あ、相沢ぁ!変なことするんじゃないぞ!」
俺の知らない間に話がまとまっている。
北川のためにも断ってやろうとも思ったが、
実は名雪よりも香里の方がスタイルがいいことを知っている俺は、
ついつい黙って頷いてしまった。
はぁ。
俺って奴は。
と、横でそんな大騒ぎをしてるとも知らずに、
「くー」
元凶は、やっぱり寝ていた。
*
で、昼飯をたいらげた後・・・・
「ここよ」
香里に案内されてやってきたのは、
プレートの掛かっていない、なんとはなしに怪しげな雰囲気が漂う部屋の前。
「なぁ・・・香里」
「なに?」
俺はそこから漂うオーラに指さす手も震わせながら、おそるおそる尋ねる。
「ここ・・・何の部屋だ?」
「あたしの部室よ」
・・・・・・
「俺、帰るわ」
「待ちなさい」
さっときびすをかえそうとする俺の腕を、香里がグッと掴む。
「は、離してくれ!お前の部活って、なんだか謎だらけじゃないか!」
「失礼ね。秘密主義なだけよ」
どっちもどっちのような気がするが。
と、とにかく。
俺は強引に香里に腕を引かれて、その部室の中に入った。
そこは昼間だというのに真っ暗く、どうやら窓という窓に黒いビロードのカーテンが掛かっているようだった。
何だこの部屋は・・・
写真部の暗室か?
「暗いわね・・・」
香里が電気をつけると、
目の前に、床一面に大きく描かれた魔法陣と、
その中心に鎮座まします黄金色のドクロがぼぅっと浮かび上がった。
・・・・
「帰る」
「待ちなさい」
香里は俺の手を離してくれない。
何とか振りほどこうと必死にもがくが、どこにそんな力があるのか
香里の手は俺の腕を力強く掴んだまま離さなかった。
「一体、何なんだここは!」
俺は率直な疑問をぶつける。
「見ての通りよ」
・・・・
わかるか。
「ま、そんなことはどうでもいいわ・・・」
そうつぶやくと、香里はすたすたと歩いていき、
何故か部屋の奥に置いてあったベッドに気怠げに横たわった。
そしてそのベッドには、四隅から皮の輪が付いた鎖が伸びていた。
・・・拘束具?
「おい、香里。何だこのベッドは?」
「いけに・・・・仮眠用よ」
いけに・・・ってなんだいけに・・・って。
大体、学校に仮眠用のベッドがあるのもおかしいだろう。
俺は今まで得たこの部屋に関するデータを整理した。
怪しげな雰囲気。
秘密主義。
暗い室内。
魔法陣。
ドクロ。
・・・・
結果:危険!
「やっぱ、帰るわ」
「ちょ、ちょっと!相沢君!」
香里はあわてて立ち上がって俺を後ろから羽交い締めにする。
ふにょん。
制服越しの背中に香里の胸の柔らかい感触が伝わる。
あ・・・いや
だめだ!煩悩に負けるな、俺!
「俺は!俺は帰る!」
「仕方ないわね・・・・」
俺の苦悩をよそに、香里はそう言うと傍らの棚から怪しげな瓶を取り出した。
・・・・何だその瓶は!?
香里は手慣れた動作で片手でその瓶のふたを開けると、
「はい、相沢君、あーんして」
するか!
しかし香里は、中から一つの錠剤を取り出すと、身動きできない俺の口の中に無理矢理ねじ込んだ。
そして、間を置かず俺の背中を強く叩く。
ゴクリ。
その拍子に、俺は喉を鳴らしてそのクスリを飲み込んでしまった。
「か、香里!俺に何を飲ませた!」
「別に、何でもないわ。ただの人格矯正剤よ」
なんだ、人格矯正剤か。
・・・・・・
じ、人格矯正剤!?
さらりと恐ろしいことを口にする・・・・
「ふふ・・・これであなたはあたしの言いなり。さぁ、黙ってあたしにマッサージなさい」
香里は、ゾクリと背中に鳥肌が立つような笑みを浮かべると、
瓶を元あった棚に戻し、再びベッドに仰向けに横たわった。
「さぁ、何をしているの、相沢君?」
香里の声が俺の脳髄にガンガンと響く。
「ぐ・・・が・・ぁ、ぁぁ・・・」
俺は・・・・
俺の体は・・・・
なんともなかった。
はれ?
不思議に思い、先ほどの瓶をチラリと盗み見ると、ラベルには「ビタミン剤」と記されていた。
ちなみに、その横にあった瓶には、見事に「人格矯正剤」と書かれていた。
さては香里め。
慌てていて、間違ったな?
よし、今のうちに・・・・と逃げ出そうと思ったが、
ふと、俺の心の中に一つの考えが浮かぶ。
今のうちなら、何をしても香里が飲ませたクスリのせいに出来るのではないか?
何をしても。
そう、何をしても・・・・
カチリ。
俺の心の奥の方で、何かが音を立てて外れた。
秋子さんを悶えさせ、
名雪を泣かした、
俺の冴え渡る技のキレ。
ふふ。
香里、覚悟しろよ?
「何をしてるの、相沢君・・・」
その言葉に導かれるように、俺は黙って何も知らない香里の元へと歩み寄っていった。
「さ、早く始めて・・・」
うつ伏せに寝そべる香里は、不幸にも、
瞳に妖しい光をたたえた俺の薄笑いを見ることはなかった。
(後編へ)
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いや、前編は書きづらいです・・・
自分でも、申し訳ない内容になってしまったと思います。
でも、メインは後編なので。
それなりに、ご期待下さい。
では〜
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