霍青娥は友達に飲んでもらうようです


 ついうっかり張り切って夕食を作りすぎてしまった私は、保存しておいても味が悪くなるし、かと言って廃棄するのも勿体なくて、せっかくだから友人の霍青娥と物部布都にもご馳走しようと、二人に連絡した。
 しかし残念ながら布都の方は都合が付かないらしく、青娥だけが来訪することとなった。ん。困った。自分の部屋に青娥と二人っきりになるとは。うわあ。
 このシチュエーションは、先日、酒の勢いでちょっとした『いちゃいちゃ』をしてしまったことを思い出して、多少気まずいのだけれど――だからと言ってそれを理由に断るような尚更恥ずかしい真似はできない。私はなるべくその発想を意識から追い出して、平常心で青娥を出迎えることにした。
「お待たせェ〜♪ 娘々ですわ♥ 夕飯が余ったと聞いて食べに来て差し上げましたわよ♪」
 うぜえ。
 私の平常心は一瞬で瓦解してしまったわけだけれど、ともかく青娥を中へ迎え入れる。お土産ですわ、と駅前の洋菓子店で買ったケーキの箱を渡してきたので、丁重に受け取って冷蔵庫にしまった。
 テーブルの上にずらっと並ぶ、私の作った夕飯。そこまで自信があるわけではないが、家庭料理レベルであれば悠々と作れるぐらいの腕前は自負している。とはいえ、ついつい多目に作ってしまったところは反省点。
「あらま、地味」
 料理を見た青娥が漏らした言葉に、私は眉根を寄せながら振り返る、が、
「でもとてもおいしそうですわね」
 と、ごくごく素直な声音でそんなことを言うものだから、私は思わず口元をゆるませてしまう。いけないいけない、この邪仙相手にこんな顔を見せたらからかわれるだけだ。そこに座ってて、とだけ言って私はすぐに前を向き、ご飯をよそいに行くことにした。



「ん〜っ……このとろとろのすじ肉。味が濃いめでご飯が進みますわね。掛けてあるネギが辛いのも良いアクセントですわ」
 青娥、ちょっとそのレタスのお皿取って。
「何ですの、これ? サラダにしてはやけにしんなりしちゃってますけど」
 それはこの挽肉と刻みタマネギを炒めたやつを乗せて、くるんで食べるの。おいしいよ?
「ふうん? ちょっとやってみせてくださらない」
 はいはい。スプーンで肉をすくって、レタスに乗せて。で、箸でくるんで……ん、ちょっと難しいな? しょうがない、手で……あちっ、あちっ、あちあちあち!
「ホホホ、あわてんぼうがいますわ! ウケますわー!」
 うるさいなあっ、もう! 青娥もやってみればいいじゃん!
「ええ、もう少し冷めてからに致しますわ。今はこの鯖のトマト煮の方に興味津々ですので……」
 ぐぬぬ。
 と、青娥とそんな風にわいわいと喋りながら食べる夕飯はとても楽しく、時間はあっと言う間に過ぎていき。
「ごちそうさまでした」
 柔らかく両手をあわせて、眼を閉じて軽く頷く青娥。邪仙でも食べ物に感謝することがあるのかと言ったら、失礼な、と鼻で笑われた。とはいえ、そう言う礼儀作法が意外ときちっとしているところも、青娥の好ましいところだとは思うのだが。
 布都が居ない分、少しだけ余ってしまったがこれは仕方がない。私はそれらをキッチンに運んで、ラップを掛けておく。リビングに戻ると、青娥はお腹に手を当てつつ、ゆっくりとお茶を飲んでいた。
「おいしかったので食べ過ぎてしまいましたわ」
 お世辞であろうともそう言われれば嬉しい。ありがとう、と軽く言って、私も湯飲みを手に取りややぬるくなったお茶を一口飲んだ。
 特に話すこともなく、少しだけ沈黙が訪れる。
 軽い話題を探して思考を巡らせていると――ここで再び、私の脳裏に先日の出来事が甦る。
 青娥が。この部屋で。私の男根に。お口で。気持ち良くて。ああもう。思い出すなと言うのに。
「あら」
 青娥はそんな私を見て、眼を細めて笑う。あっしまった。相手は霍青娥だ。これはきっと、私の思いを察せられてしまったに違いない。
「なあに……? ご飯をいただいたお礼でもして欲しいのかしら?」
 い、要らない。
 私は反射的にそう言ってしまう。いや実際に要らないのだが、あんまりにもつっけんどんな言い方になってしまった。って言っても、してほしくないと言うのはこんなふうに冗談まじりでの場合の話であって、もしそう言うムードになったのであればまたして欲しくもあったりなかったりいやそもそも青娥はお礼と言っただけで性的なサービスであるかどうかはまだハッキリとは言って無くて。ああああ。
 私がすっかり慌ててしまって思考を暴走させている間に、青娥はただくすくすと笑う。
「あなたって本当に見ていて飽きませんわ」
 それ褒めてないよね?
「素直な感想ですの」
 否定とも肯定ともつかぬことを言って、青娥は眼を閉じる。
「確かに、ご飯を頂いたからと言ってそう言うことに及ぶのは無粋も無粋、美しくありませんわね」
 一応聞いておくけど。そう言うこと、って。……何さ。
「言わせたいの?」
 くっ、弄ばれている。私はギリッと歯噛みする。
 私はこれ以上目の前の性悪な邪仙に弱みを見せまいと、何も答えずにもう一口お茶を飲む。と、そこで私はあっと思い出した。
 大体、食事のお礼って言うなら、さっきケーキ貰ったし! ケーキ。アレで充分だよ。
「え? ああ。そう言えばそうでしたわね」
 毒気を抜かれた顔で、きょとんと答える青娥。
 これでもう、食事のお礼をネタに私をからかうことはできないだろう。
 やった。勝った。やり込めた。それで何を得したのかは知らないが。
「それじゃ、お食事のお礼なんて野暮ったい名目は捨てて、純粋に致しましょうか……♥」
 勝ったと思ったのは間違いだったよ。
 ちょっとー! 何なの、もー!
 あんまり変なことばっかり言ってると怒るよ! と言うと、青娥は子供のように口をとがらせて、ぷいっとそっぽを向いた。
「詰まらないですわね」
 詰まらなくて結構。いっつもいっつもからかわれてたまるもんか。
「からかってませんわよ? 本気ですもの」
 だから尚悪いのっ!
「ふんっ。あらそう。そんなにイヤなんですの。ならいいですわ」
 ちょっと何拗ねてんのさ。私のことを楽しいおもちゃとでも勘違いしてんじゃない?
 だんだんと、私の口調にも怒気が含まれ始める。
「そう言う訳じゃありませんけど……私だって、何となくあなたとちゅっちゅってしたくなる時もありますわ」
 えっ?
 青娥の言葉に一瞬意識が混乱する。あ、私をただおちょくって遊んでたわけじゃなくて、青娥自身もそう言うことを期待していたんだ。怒気は消え去り、別の理由でかーっと体温が上昇していく。う、うわ。
 これはちょっと、早まったかも。青娥がそう言う意志なら、私だってやぶさかじゃない……恥ずかしいけど。私は浮かせかけた腰をすとんと降ろし、ちらちらと青娥の顔を見る。
「私、機嫌を損ねましたわ」
 あ、なんか、一方的に私が悪いみたいな言い方。最初から素直に言わない青娥だって悪い癖に。ま、でも、これ以上険悪なムードになっても困るので、私はとりあえず従順な振りを装って聞いてみる。
 どうしたら、機嫌が直るかな?
「そうですわねー……三回くるくる回ってワンと鳴いて貰ったり……全裸で私の脚を舐めてもらったり……」
 あっこのクソ邪仙あっと言う間に調子に乗りやがった。
「うふふ……持ってきたケーキに私のザーメンを引っかけてそれを食べてもらったり……」
 おっと、それはダメ。私の倫理コードに強烈に引っかかった。
 食べ物を粗末にするようなのは許さないよ! と、テーブルをどんと叩いて青娥を睨む。
「えっ? あっ、はい。ご、ごめんあそばせ」
 虚を突かれた青娥は背筋をぴんと伸ばして目を丸くする。いや、まあ、冗談だって分かってるけれど、どうしても許せなくって。
「いいえ、絶対許容できないものってありますわよね、こちらこそ調子に乗りましたわ」
 ふっと肩の力を抜き、穏やかな顔で謝ってくる青娥。
「確かにあんなものを食べ物に掛けるのは冒涜的ですわね。ただ飲むのだって御免被りたいのに」
 うんうん。あ、でも、青娥のだったら、私、飲めると思うよ?
「えっ?」
 あっ。つい本音が漏れた。しまった、と思ったときにはもう遅かった。
「え〜っ……♥」
 にやぁ、とそれはそれは厭な顔をしてこちらに微笑みかけてくる邪仙。ああもう。
「今の言葉、不覚にもキュンと来てしまいましたわ。ではそれが本当かどうか、確かめさせていただいても宜しいかしら……?」
 と、青娥はテーブルの下から足を抜くと、少し腰を後ろに引き、私に股間を見せつけるようにして太股を開く。スカートに覆われている青娥の股間が、みるみるうちに膨らんでゆく。
 これはもう絶対に断れない雰囲気だ。もっとも、こうなった以上はさっき漏らした本音の通り、後退する気は無かったが。
「さっ。お願い、しますわ……♥」
 それにしても、そんなしっとりとした声音は卑怯だ。ぜったい、卑怯だ。私でなくとも、言われるがまま青娥にシテあげたくなるじゃないか。
 私は一度咳払いをして、決して誘惑されたわけではないのだぞ、という体を装い、しっかりした足取りで青娥の元へ向かう。
「んふん……♥」
 近づいてきた私の方に向き直り、改めて青娥は足を開いて見せる。スカートから覗く太股は白くむっちりしていてとてもいやらしい。
 ええと……これ、この後、どうしたらいいのかな。いや、何となくは分かるけれど。その、作法とか……
 そんな風にまごまごしている私を見かねたのか、青娥は鼻息を漏らし、
「んもう。こういう時はちゃんと自分からリードできるようにならなくちゃダメですわよ? 童貞お嬢さんには難しいかも知れませんが」
 うるさいな。
 私が憮然とした顔になったのも気にせず、青娥はスカートを捲り上げて、肉棒のせいではち切れそうになっているショーツをゆっくりとずらす。
「んくっ」
 かすかに青娥が吐息を漏らす。ツン、とした汗の臭いが放たれ、同時に青娥の男根がまろびだした。艶熟した青娥の柔らかな女体にそぐわない、暴力的な象徴。
 と言うか、うわ、うわ。私のより、一回りぐらい、でかい。
 自分で見慣れているとは言え、やっぱりグロテスクだ。えっ、これを? 私が、口で? するの? マジで?
「うふふ……もっと間近でじっくり観察しても宜しいのですわよ? 興味があるのでしたらね」
 ないし。いやあるけど。ないし!
 竿の周囲には血管が浮き上がり、全体はぴくんぴくんと痙攣している。あ、青娥、興奮してるんだ。って言うのが、聞くまでも無く理解できた。
 しかし多分青娥以上に、私の心臓はどきどきと早鐘を打っている。これは興奮なのか、それとも恐怖か。初めて生で見る、自分以外のチンポ。しかもこれを、今から舌で舐め唇で挟み口腔で味わうなんて!
 だがここでためらっていては、また青娥に「これだから童貞は」と馬鹿にされるに違いない。私はごくりと唾を飲み込むと、恐怖感を押さえ込み、しゃがみ込んで大きく口を開けた。
「っと、お待ちなさい」
 青娥の手が私の頭を掴んで押しとどめる。私は口をぽっかり開けたまま、上目遣いに青娥を見た。
「そんなに必死になってがっつかなくても結構よ。ウェットティッシュはあるかしら?」
 え? あるけど。
「じゃ、ちょっとそれをお持ちいただけるかしら。まずはこのオチンポを綺麗に拭いてからにしましょう……こんな不潔なもの、そのまま舐めたら汚いですわよ?」
 わ、分かってるよ汚いことくらい! と言うか、前に青娥がしたとき――してくれたときは、何もせずにそのまま舐めてくれたじゃん……
 そう抗弁すると、そこはそれですわ♥ といかにも適当に誤魔化された。
 とはいえ私としても、少々匂いがツンとくるこのチンポを、「せーがのおちんぽぉ♥ 味が濃くておいしい♥」だなんてふざけたことを言いながら舐められる自信は無い。ここは素直に甘えることにしよう。
 私はまだ頭を掴んでいる青娥の手を軽く払いのけて立ち上がり、ウェットティッシュのパックを掴んで持ってくる。そして青娥に手渡そうとすると、
「あら、どうして私に渡そうとなさるの?」
 だなんて言われた。え? だって……
 ああ、つまり、そういうことね。うぐぐ。ちょっと癪に障るけど、そのくらいはしてあげようじゃないか。
 ウェットティッシュを一枚抜き取り、屈み込んで青娥の男根に手を伸ばす。濡れたティッシュが表面に触れると、んくっ、だなんて吐息を漏らす青娥。不覚にもかわいいと思ってしまった。
 そのままごしごしと乱暴に……してやるのもどうかと思ったので、せっかくだから丹念に拭いてあげることにした。指先にティッシュを絡めて、美術品を磨くように、細かいところもしっかりと。
「んふふぅっ……♥ お、お上手ですわ……♥」
 挑発の混じった色香のある声。私はこんなことされたことはないけど、なるほど何となく気持ち良さそうだということは分かる。陰毛を巻き込まないように気をつけながら、根本の辺りをゴシゴシ。少し余り気味の皮を引っ張りながら、裏筋、そして幹の中腹へ。
「あ、ふぅっ……♥ どこでこんな技術を覚えたのかしら、いやらしい子ね……♥」
 何失礼なことを言ってるんだ。自分にも生えているわけだし、大体分かるよ。
 それにしても青娥のチンポ……凄く熱い。顔を近づけていると、その熱気が伝わってくるようだった。ティッシュもあっと言う間にぬるくなってしまう。
 指に絡める面を変えて、次にカリ首の周辺へ。多分この辺に匂いが詰まってるんだろうなあ、と思うと、不快感よりも使命感の方が強く溢れ出てくる。指先で溝をほじるように動かしてやると、予想通り、ぬるぬるとイヤな感触がした。
「おほっ♥ おっおっ……ぉ……♥ 刺激的……♥」
 青娥は先ほどからぴゅくぴゅくと先走りの汁を漏らしている。感じてくれていることが分かって嬉しいけれど、正直拭くのに邪魔だから少し我慢しててくれないかな?
「そ、そんなところを徹底的にぃ……♥ ひいっ♥」
 汚いもん。ちゃんとやるよ?
「最初はそのまま舐めようとしていた癖に♥」
 それとこれとは別。
 私はカリの周囲をゆっくりとなぞり、不快なぬめぬめが無くなるまでこしこしと掃除を続けた。これが青娥のチンポだという事実はさておき、汚れていた小道具を綺麗にしたような爽快感があって、少し楽しい。
 そして私はふと、ちょっとした好奇心から、青娥のカリ首を拭いたティッシュの面を鼻に近づけ、匂いを嗅いでみる。うわっ、臭ぁ!
「や、やかましいですわ! こんな羞恥プレイを受けるなんて予想外ですわよ!?」
 いや、うん。これは興味本位で嗅ぐものじゃなかった。さきイカのような酸っぱい刺激臭。うええ。ごめん青娥。
「謝らないでくださいまし。ますます惨めになってしまいますわ……」
 そう言うものかな? あ、うん、確かに、同じ状況で私が青娥にそんな風に素で謝られたら傷つくかも。なるほど。
 私はひとつムダに賢くなったが、さておきまだ掃除は終わっていない。次は亀頭の辺り……でもここは敏感だから、なるべく優しく……ティッシュをふわりと乗せて、その上をかるく撫でるような感じで。
「あっ♥ はふっ、うっ、くふっ♥」
 先汁がどんどん漏れ出してきていることについてはもう諦めよう。きりがないし。
 ティッシュを剥がすと、適当に畳んで下に置いた。汚いからと言ってこれをぽいっとゴミ箱に投げ捨てるのは何となく失礼なような気がしたからだ。
 さて――改めて青娥の男根に向き直る。ウェットティッシュに拭かれた青娥の男根は、濡れててらてらと光っており、異様な迫力と存在感を放っている。ティッシュで拭いてるときはそれを気にしてなかったけれど、私、これから、これを、舐めるんだ、よ、ね。青娥の、チンポを。う、ううん。
「うふ……ちょうどいい前戯でしたわ……♥ それじゃ、お願い致しますわね?」
 青娥の言葉が、私の躊躇いの隙間をきゅっと埋める。するって言ったんだから、しなくちゃね。私は改めて自分に言い聞かせ、青娥の太股に手を付ける。温かく、柔らかい。
 私は舌を伸ばし、亀頭へと顔を寄せた。今度は頭を押さえられたりしなかった。だから私は、そのまま止まらなかった。
 ぺろり、と舌先が鈴口の横に触れる。
「はぅん……」
 そのまま、くすぐるように舌先を上下させた。何の味もしない。しっかり拭いたのだから、当然と言えば当然か。
 ええーっと。でもここからどうしたら良いんだろう? 最終的にどうなるかは分かるけれど……そこに至るまでの道筋を忘却してしまったようだ。いつまでもこうしてちろちろと舐め続けるわけにもいかないだろうし。えーっと。
「そのまま、亀頭全体を舐めてくださいまし……♥」
 青娥が甘ったるい声で私の行為を誘導する。なるほど。
 私は少し唇をかぶせるようにして、舌の腹で青娥の亀頭表面をゆっくりと舐めあげる。こんな感じかな?
「んっ、いいですわ……唇でも、してくださらない?」
 注文が多い。私は唇で亀頭を挟み込んで、ぬもぬもと動かしてやる。端から見たらちょっと不格好だろうけれど、その時の私は青娥を満足させてやろうといっぱいいっぱいで、なりふりを構っている余裕は無かった。
 舌になんだかしょっぱい味が伝わり始める。青娥の先走りの味だろう、ちょっとイヤだったが、我慢できなくはなかった。青娥が漏らす甘い声とで相殺だ。
「はあぁっ♥ お上手……♥ 積極的で素敵ですわ……♥」
 ん。私の口で、青娥が気持ち良くなってくれている。
 もっと気持ち良くなってもらいたい。私の欲望がむくむくと膨らみ始めた。
 私のそれほど豊かではない実践性知識をフル回転させて、青娥を喘がせる手管を考える。そうだ、フェラチオなんだから、もっと奥まで飲み込んでやらなくちゃ。
 そう思って、唇で亀頭を包みつつ、ゆっくりと男根を口内に迎え入れようとしたのだ、が。
「痛っ!」
 青娥が甲高い悲鳴を上げる。前歯が広がったカリにぶつかってしまったのだ。
 私は慌てて大きく口を開けて男根を吐き出すと、青娥を見上げる。ごめんね、大丈夫?
「ふうっ……幸い、血も出ていないようですし、大丈夫ですわ。うふふ。頑張ってくださるのは嬉しいですけれど、無理は禁物ですわよ。慣れてないのですし」
 青娥の優しい言葉が胸に痛い。別にフェラチオ名人になろうと思うわけではないが、好きな人も満足に気持ち良くさせてあげられないなんて。気落ちしている私を見かねてか、青娥は優しく眼を細める。
「頭でも撫でてさしあげましょうか? いいこ、いいこって」
 そこまでは要らないよ!
 青娥の軽口に、ちょっとだけ気分が楽になる。幸いにして、目の前の男根はまだ隆々とそびえており、痛みで性欲が飛び散るようなことはなかったようだ。
「お口でしていただくのは先端だけで充分気持ちイイですわ。幹の方は、こう、手で擦っていただけるかしら?」
 んーっと、それじゃ……歯を立てないように気をつけながら、唇でこう挟んで。舌を動かしながら、手で握って上下にシコシコ……ん、意識を二箇所に分散させなくちゃならないから、結構難しい。
「おほっ♥ こ、これいいっ♥ たまりませんわっ♥ あはぁっ♥ チンポシゴキに手慣れていらっしゃるのねっ……♥」
 そりゃあ、自前のものがあるし。
「いつもこんな風にしごいていらっしゃるの?」
 その質問は黙秘します。
「うふふ、答えずとも、この手つきで理解できますわ♥ この童貞ったら、いっつも一人で盛ってマスカキ♥ なさっているのでしょう♥ たどたどしい口淫とテクニカルな手コキのギャップで、オチンポが燃え上がってしまいますのっ……♥」
 青娥の言いようになんとも小馬鹿にされたものを感じて、ちょっと一泡吹かせたくなり、私は空いている左手で青娥の陰嚢を下からすくい上げてやる。
「あふっ♥ そんなところまで……♥」
 ちょっと難しいけれど、楽器でも演奏するみたいに、両手と口をそれぞれ動かす。やや単調になってしまうが、それはしょうがない。
 ぽふぽふと陰嚢を弾ませつつ、竿を下から上へと摩擦する。
「ん、んぅっ♥」
 ぬめぬめと舌を這わせ、先汁を口内に導く。
「はあぁぁっ……♥ いいっ♥ 稚拙なのに必死で熱心でっ♥ キンタマにきゅぅっと来ますわ……♥ あ、はっ♥ そろそろ、出そうっ……♥」
 あ、イクんだ。青娥の言葉を、私は自分でもびっくりするほど冷静に受け止めていた。こうして青娥のチンポに口で奉仕し始めた時点で理性の垣根は取り払われていたのかも知れないし、青娥の股間から発せられる熱気に当てられていたのかも知れない。
「あーっ……♥ あぁっ……♥ そのまま、そのまま、続けてくださいまし……♥ いいですわ、射精、致しますわ……♥ 受け止めて……ね♥」
 しっとりした情愛を孕んだ声。こんな声音で懇願されては、断れようはずもない。
 私が青娥にこんなことを言わせているという事実に高揚する。目線で肯定を示すと、彼女の太股はかすかに震え、
「あはっ……♥」
 笑い声のような、気の抜けた吐息。と同時に、私の口内に熱いものが注がれる。
 私は反射的に唇をきゅっとすぼめて、それをこぼさないように心がける。何だかそうするのが礼儀のような気がしたからだ。
 どぷどぷと、口の中に熱くてねっとりとした液体が溜まってゆく。青娥の、ザーメン。絶頂した証。私が青娥を気持ち良くしてあげたんだと言う満足感と、ああとうとうやってしまったという虚無感が同時に去来する。
 それにしても、想像していたよりも風味が感じられない。少しだけ青臭さはあるものの、噎せ返るほどではない。こんなものかなと思いつつ、意識して味わえばまた違うのかも知れない。何せ邪仙の精液だ、きっとえげつない味だろうなと覚悟しつつ、青娥の絶頂が一段落するのを見計らい、私は恐る恐る舌でそれを攪拌した。
 あれ? なんだこれ。甘い。
 決して爽やかで飲みやすい味とまでは言えないが、味蕾に絡みつくような濃くて甘い味がする。
「あはぁっ……はあぁっ……あっ、ふうぅ……♥ うふふ、なんだか不思議そうな顔をしていますわね?」
 見透かしたようなことを言う。青娥は腰を引いて硬直している私から男根を引き抜くと、ふうっ、と長いため息をついた後、いつも通りの調子で続けた。
「こう見えても私は仙人の端くれ、精液の味を変えることぐらい、お茶の子さいさいですわ」
 お茶の子さいさいって今時あんまり使う人居ないよね。と言おうと思ったが私の口は精液でふさがっているのであった。
 ともかく、うん、この味なら大丈夫。いける。
 私は眼を閉じると、口内に溜まっていた甘い蜜のような精液を喉に流し、ごくりと音を立てて嚥下した。何だか喉に引っかかる感じだが、飲み込めなくは、ない。
「……あ、あらあら。それでも、本当に飲んでくださるなんて、ちょっと予想外でしたわ」
 どうだ、と私は青娥に勝ち誇って微笑んで見せる。
 ザーメンを飲んで微笑むなんて、まるで娼婦か淫婦か霍青娥のような仕草であったが、そ、そう言う意図じゃなかったよ? 多分。
 さて、私の笑顔から青娥はつつっと目を逸らし、んー、と少し考えた後、いつも通りの憎まれ口を叩く。
「んふん……中々優秀でしたわ。これなら、貴方の元に週一で通って、お口を使って差し上げてもよろしくてよ?」
 なにそれ。私の事なんだと思ってんの、まったく。
 ……それもちょっと良いかも、と思ってしまった自分に嫌悪。
 それにしても、中々優秀、ね。この評価を良いと思うべきか悪いと思うべきか。
「不服かしら? あらあらそれともまさか、この私に、後生ですから堪忍してくださいましぃ♥ とでも言わせる気だったのかしら?」
 さすがにそこまでは期待してないけれど。いや、言わせられるものならぜひ言わせたいが。
 と言うか、さっきから精液が喉にへばりつくようで、なんだか落ち着かない。青娥の出した精液のわざとらしい甘さが私に吐息に溶けて口から溢れ出すかのようだ。この味、なんだか癖になってしまいそうで……ああ、まさか媚薬でも含まれているんじゃないだろうね。青娥の精液中毒になってしまうかも……それはさすがに、言い過ぎかな。
「精液。味はともかく、ちょっとお口と喉にイヤな感じが残るでしょう? 無理せず、うがいでもしていらしたら?」
 穏やかな口調で青娥がそう勧める。そう言えば、以前青娥に口でしてもらったときも、彼女は容赦なく洗面台に吐いていたっけ。それなら別に私も、遠慮することはないか。
「それとも、お口の中が綺麗になるまで、唇を重ねながら口吸いをしてあげましょうか……?」
 青娥がチュッと唇をならし、ウィンクしてこちらを見る。私はうっと息を詰まらせた。
 多分これ、このまま普通にお願いすれば青娥はしてくれる。青娥が、私に、キスを、してくれる。想像しただけで、私はほうっと桃色の心地に包まれてしまう。私たちはお互いの性器を舐め合ったというのに、未だにキスすらもして居なかったのだ。
 だけどそれは、ああ、そうだ。ちゃんと理由があった。私たちは、愛し合えるわけではないからだ。
 私が青娥とキスをしあうなんて、背筋がとろけおちるような、それはとても甘美な夢だけれど、合ってはいけないことなのだ。
 だって。
 だってそんなことをしたら、布都が悲しむだろうが。バカ邪仙。
 私たちはあくまでも友達同士。そして青娥の恋人は、物部布都なんだから。
 それとも――それとも、だ。
 青娥は、布都を捨てて私を選んでく――ダメだ。私はそれ以上の思考をストップする。青娥は布都と一緒に居るのが一番幸せなんだ。そこに私のような第三者が入り込んではいけないんだ。何度もそう考えて、自分でも納得しているじゃないか。
 青娥とも布都とも、私は友達のままでいたい。定期的に性処理をしてあげる関係でもなく、抱擁と口吻を重ね合うような恋人の関係でもなく。友達のままでいたいんだ。
 三人でご飯を食べたり遊んだり旅行にいったり、楽しく過ごしたい。いずれ私たちにどうしようもない別れが訪れるにしても、それは今じゃないよ。誰に何と言われようと、例え何が起ころうとも、私は、今のこの関係を壊したくないんだ。キスとか簡単に言っちゃダメだよバカ。
 押し黙ってしまった私を見かねて、青娥が気遣わしげに声を掛けてくる。
「……どうなさったの? キスはお嫌?」
 嫌。とだけ短く言って、私はそそくさと立ち上がる。ひょっとしたら私は涙ぐんでいたかもしれない。それを知られたくなくて、すぐに顔を背けて、私は部屋から出ようとする――
「お待ちなさい」
 青娥も立ち上がり、私の手首を掴む。
 何するの、離してよ。と言う拒絶は逆に遮られた。青娥の唇が私の口を塞いだからだ。
 もう片方の手で私の頭を捕まえての早業だった。
 な、な、な、な――今キスした!? 青娥、私に、キスした!? えーっ……嘘。
「んもう、真面目に考えすぎですわよ。かーわいい」
 でも、でもですね青娥さん、やっぱりキスって大事なもので。
「別にぃ。キスぐらいスキンシップのうちだと思いませんこと?」
 えっ? えっ、あっ、えっ? あ、そ、そうなの? 青娥の中ではそうなの?
「ええ勿論。ちゅっちゅっとするぐらい、じゃれあいの範疇ですわ? あなたが何か罪悪感を覚えるというならば、物部様にもキスしていただきましょうか? たぶん彼女、よろこんでしてくれると思いますわよ」
 そうかなあ。あ、そうかも。青娥にころっとそそのかされて、気恥ずかしいのう、とか言いながら。
 あ、え、じゃあ。キスしても、いいのかな?
「勿論ですわ。ん、ちゅっ……♥ ちゅるっ、ちゅぶっ、んちゅううぅ♥ ちゅ……♥」
 青娥は私の身体を抱きしめ、唇を触れあわせる。貪るような激しいものではなかったけれど、凄く柔らかく、優しかった。時折舌を入れては、私の歯や舌先を舐る。青娥のザーメンの風味が残る口内を青娥の舌にかき混ぜられるのは格別の心地よさで、喉に絡む不快感は消えなかったけれど、そんなものが霞むくらいの陶酔感を私は味わっていた。
 あれだけ悩んでいたのにキスひとつでこんなに蕩けさせられてしまうなんて。私はやっぱり青娥がとても大好きで、ああもう、この邪仙と来たら。
「そうやって煩悶してのたうち回っているあなたって本当にかわいいですわ……♪ 見ていてとても心が和みますわ」
 うるさいなあっ。かわいいとか言われても恥ずかしいだけだしっ。そんな私を見て楽しむなんてやっぱり青娥は性悪邪仙、んっ、ふあっ、あっ、またキス……ふあっ……気持ち良い……ああごまかされてる、私もてあそばれてる。まったくもうっ。なんなのこれっ。なんなのっ、もうっ! あーもうっ!
「かわいい♥」
 だまれ! だまれ!


(終わり)