霍青娥は酒に酔いながら友達に愚痴るようです

「……で、あの朴念仁ったら、その後、何て言ったと思います? って、聞いているの?」
 はいはい聞いてます、と言いながら、口をすぼめてこちらを睨んでくる霍青娥に私は鷹揚に頷いた。
 時計を見れば、もう夜更け。彼女がじんわりと目を潤ませながら私の部屋に駆け込んできたから、何事かと思って心配していたのに。口から飛び出すのは、物部布都――彼女の愛しい人だ――に対する愚痴、悪口、取るに足らない恨み辛みの数々。どうも、痴話喧嘩をして飛び出してきたらしい。
 お酒をあおりながら、もうこうして小一時間ほど喋り続けている。段々とその内容は惚気に近しいものになっており、女同士の友人とは言え、そろそろ勘弁して欲しい――私は辟易としながらも、彼女のご機嫌を損ねないように適当に相づちを挟みながら聞いている振りをする。
「本当にもう、あの方と来たら女心がまるで分かってない! 同性のはずだけれど、まるで純朴な少年貴族を相手にしているような気分にもなってしまうわ」
 布都の前でもこうして素直な感情を吐露することができれば、二人の仲ももっと密着するだろうに。しかし彼女曰く、「物部様の前でそんな無様を晒すわけにいきませんわ」だそうだ。人を翻弄するのが大好きな癖に、特定の相手の前では途端に不器用になってしまう。霍青娥は高慢で我が儘で淫蕩で、しかしどうしようもなく乙女だ。
 空になったお猪口を無言で差し出してくる青娥。私も無言でそれにお代わりを注ぐ。
「恐れ入りますわ」
 だなんて、全然恐れ入った様子も無しにそう言って、またちびちびと酒を飲み始める青娥。そんな彼女を見ていると、友人として微笑ましく思うと同時に、チリチリと胸の奥が疼き始める。こうして布都に対する愚痴をこぼしてこようとも、二人は決して離れはしないだろうという確信。そして、そこに自分の割り込む隙が無いだろうという諦念。
 その代わりにこうして、悪酔いして乱れる青娥を眺めることができる、と言うポジションを手に入れたわけだけれども。自分には絶対に届かない存在だった彼女と友人になれただけでも、僥倖に感謝しなければならないのだろう、とは思う。そんな益体もないことを考えながら、私も猪口の底に残っていた僅かな酒をきゅっと飲み干した。
「んふぅ……」
 酔いが回ってきたのか、まだ波打っている猪口を横に退けて、青娥はテーブルの上に両手を乗せて気怠げなため息をつく。酒気のせいで頬に強めの紅が差していて、彼女の妖しい美貌を際だたせる。私はしばらくの間見惚れてしまい、ドキッとして顔を逸らした。
 何か食べるもの作ってこよっか。そう言って私は気まずさを誤魔化すように起ち上がり、キッチンへと向かおうとする。
「お待ちなさい」
 呼び止められ、私は嫌な予感を覚えつつ振り返る。青娥は私を睨み付けるように眼を細めて、じっとこちらを見ていた。あの、妖艶な表情でだ。
「……」
 彼女は無言だ。何となく、空気が重い。外は雨が降っており、余計な雑音は一切聞こえてこない。
 厭な顔、厭な空気。厭な汗が背筋を流れる。
 この雰囲気は何としても打破しなければならない、と、臆病な私の本能が告げる。しかしそれは間に合わず、青娥の艶やかな唇が開いた。
「ねえ。私には魅力が無いかしら?」
 そんなことはない、と私は言う。
「それならばどうしてあの方は、もっと私を愛してくださらないの? 私を求めてくださらないの?」
 それは知らない、布都に聞け――とはさすがに言えず、私は押し黙る。
 何も答えない私に業を煮やしてか、青娥は立ち上がり、胸元をくいと引っ張る。豊満な彼女の乳房が形作る谷間が目に飛び込んでくる。透き通るような真っ白い肌がほんのりと汗ばんでいて、私は思わず唾を飲み込む――同性としても魅力的で、どうしても視線がそこに吸い込まれてゆく。
 青娥は小首を傾げると、満足そうに唇をきゅっと歪めて笑い――あ、まずい。これはまずい。何せ相手は霍青娥だ。絶対にまずい状況だ。それは分かっているのに、私の体は動かない。振り向いたままのマヌケな格好のまま、微動だにできない。
 しかもよりまずいことに、私はこの状況に――期待、している。興奮と言い換えても良い。血が、集まってきてしまっている。
「うふふ」
 目の前に居るのは私の友人の霍青娥ではなく、邪仙、青娥娘々だった。彼女は固まって動けない私にしずしずと近寄ると、酒臭い息を浴びせ、緩慢な手つきで抱きついてきた。
 それは愛おしい者への情を込めた抱擁ではなく、蜘蛛が獲物を捕らえるような手つき。「捕まえた」と言う彼女の心の声が聞こえてくるようだった。
「興奮していらっしゃるのね」
 今までに聞いたことの無い声色。心の奥底を揺さぶられるような、桃色の媚びた声。
「あん、隠さなくても結構。私としたことが不覚でしたわ、物部様以外にも、こんな素敵な方が近くにいらっしゃったというのに」
 青娥の顔が近い。潤んだ瞳がよく見える。先ほど私の視線をとらえた乳房が、ぎゅっ、と脇腹に当たっている。
「ほら、股間もこんなに硬くなっていらして……あら、素敵。物部様のよりも、大きいかも……? 女の子の癖にこんなに膨らませて。うふふ、いやらし」
 やめて。やめて青娥。やめて。私の心の叫びは声にならない。それは私も、この欲望に身を任せることを望んでいるからか。ズボンの上からでも分かる膨らみに、青娥が艶めかしく手を沿わせる。それだけで私の男根は無様なまでに反応して、腰を震わせてしまう。
 青娥、何をするの。私はそんな愚にも付かないことを口にする。
「何をって……私が魅力的だとおっしゃるならば。どうか私を抱いてくださいませ」
 ああ、言われた。やっぱり言われた。私がとても言われたかった言葉で、絶対に聞きたくなかったセリフだ。
 青娥、酔ってるね? 平静を装ってそう言ってみても、青娥にずっと股間を撫でられ続けているせいで、浮き足だった変な声音になってしまう。それぐらいは見透かしているのだろう、青娥はくすくすと笑う。
「ええ、この上なく酔っておりますわ。とてもとても楽しい心地……。ならば衝動に任せて情愛を交わすのも、一興だとは思いません?」
 ねっとりした声でそう囁かれると、私が越えるまい越せるまいと思っていた一線も、何やらあやふやで取るに足らないものだと思えてくる。私もアルコールに思考をやられたか。
「あなたはこんなにもオスの情動に満ちて、私はメスとしての情愛に飢えている……何も悩むことはありませんわ。あなたはその欲望をぶつけてくださるだけで結構、私が何もかも受け止めて貪って差し上げますわ……。このぐらいは何でもないこと。一夜限りの過ちを、ともに犯してみませんこと?」
 私が肉体的情交に不安なこと、モラル的な問題があること、青娥は一つ一つの歯止めを適確にほぐしてゆく。ああ恐ろしい。青娥娘々は本当に恐ろしい。
 手を伸ばし、青娥のくびれた腰を抱いたら、もうお互いに止まることはできないだろう。それが良いことなのか悪いことなのか、もう判断は付かない。しかし確実に言えるのは、私達はもう今まで通りの関係では居られなくなってしまうだろう、と言うことだ。
 いよいよ心臓が高鳴り、どくどくと言う音さえ聞こえてきそうなほど。きっと、青娥にもこの鼓動は伝わってしまっていることだろう。
「私のことが好き? 私を魅力的だと思う? 私のことを……抱きたい?」
 私は心中の葛藤をそのまま表に出したような苦しい顔をしながら――頷いてしまった。もう、嘘をつくこともできない。口の中はからからに乾いて、じっとりと暑い夏の夜の空気が皮膚に纏わり付いてくる。もうこれは止まることができない。私は青娥のただの友達ではなくなってしまう。それは甘美で光栄で――今までの私を全て投げ捨てなければならない覚悟が必要なことだ。
 だが、それでも良いじゃないか――自分の中の欲望が囁く。愛し、追い求め続けていた霍青娥が、あとほんの少しで手に入ろうと言うのだ。相手もそれを望んでいる。迷う必要は無い。
 酒のせいで思考能力がだいぶあやふやになっている。青娥を、愛せる。愛して貰える。私の手が彼女のたおやかな腰にそろそろと伸び始める。
「本当に私の事が、好き?」
 嘘か誠か、青娥は切なげに眉を震わせて、もう一度尋ねた。私は迷わずに頷いてしまった。これでもう、戻れないだろう。
 が、しかし――
「それならば私を愛して! 愛し尽くして頂戴! 物部様も及ばないぐらいに!」
 ――青娥の言葉を聞いて、脳裏に忘れかけていた大事な人物の面影が浮かび上がる。
 と、私はほとんど無意識のうちに彼女の肩を掴み、そして自分の体から引きはがしていた。
「え? え?」
 青娥は目を丸くして、きょとんとしている。私も、自分がどうして彼女を拒んだのか、よく分からない。
 しばし無言のまま、見つめ合う。お互いに不思議そうな顔をしながら視線を交錯させている光景は、端から見ればだいぶ滑稽だったろう。
 私は呼吸を整えながら、自分の意識を落ち着かせる。うん、そう。そうだ。うん。
 私は青娥も好きだけれど、布都のことだって好きで。二人が悲しいことになってしまうのが、私は何よりも嫌で。だからこれは、していけないことだ、と――私は考えたんじゃないかな。多分。
 そんなようなことを、たどたどしく私は青娥に言って聞かせる。と、彼女はすっと眼を細め、
「はぁ」
 つまらなそうに、吐息を漏らした。
「興が削がれましたわ。意気地無し。臆病者」
 そう言う一面もあったことは否定しないけれどもっ。私はぐっと歯噛みする。
「まったくつまらない、面白みのない。あーあ」
 と言いながら青娥はしゃがみ込み、私の股間のジッパーを下げ……って、ちょっと、ちょっとお!?
「どう致しましたの?」
 どうもこうもっ……!
 青娥は、慌てて押しとどめようとする私の両手をはっしと掴んで抵抗できなくすると、開いた窓からちらりと見えているショーツの端に歯を掛け、器用に引きずり降ろしてゆく。あ、やばい。これヤバイ。
 あれよという間に、ぶるっと力強く、私の男根がズボンの外に飛び出してしまった。先ほど青娥に執拗な愛撫を受けていたせいで、すっかり熱を帯びて、ほこほこと茹だっている。
 ひええ。青娥に、私のチンポ、見られてる! うわっ、恥ずかし……! と言うか何でこんなことになってるのっ!?
「私が本気で誘惑したのになびかなかったのは、物部様に続いて二人目ですわ。本当、口惜しい。だからこれはその腹いせと――私たちのことをそんなに親身に考えてくれた大切なお友達に、つまらないちょっかいをかけてしまったお詫びですわ♥」
 だからってあの流れでこれはおかしいと思うんだけどー!
「全然おかしくないですよ? あなたは興奮していて、それは私のせい。そしてあなたは私の好ましいお友達……だったら私が責任を持って鎮めて差し上げないと、ねえ?」
 ねえ、と言われても。青娥、まだ酔ってるよね?
「酔っていたら何だと言うのです。このぐらいはお友達のスキンシップ。じゃれ合いですわよ。愛して、だなんて重たいことは申しません、マッサージの延長気分で、ちょっと気持ち良くなって頂戴♥」
 そうかな。別にいいのかな。青娥の術中にハマっていってる気がする。うーんっ。
 しかし青娥の言葉を聞いて、私の男根はじつに正直に、びんっといきり立って淫らに震えた。恥ずかしすぎる。
「ほら、チンポは正直ですわよ? ね? もう是も非も聞きません。私にそのスケベなメスマラをしゃぶらせなさい♥ いただきまぁす……♥ あぁん……♥」
 青娥は大きく口を開けて、震えている私の亀頭に迫ってくる。赤桃色の粘膜に生温かい吐息がかぶさって、先ほどとは別の意味で心臓がどきどきと高鳴る。
 ああ。私。これから。青娥に。チンポ。しゃぶられちゃうんだ……♥
 と、そこで、青娥はぴたっと口を止めた。え? え? 何で? どうして?
 オアズケを命じられた犬のような表情になってしまった私を見上げると、青娥はいや〜な笑みを浮かべた。
 それで私は察し、苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
 あ、やられた。何て性悪な邪仙だろう。私はすっかり、からかわれていたのだ。
「うふふふふ♥ 童貞おちんぽちゃんにはちょっと刺激が強すぎたかしら?」
 なぜ私が童貞と見破られていたのかはともかく、これはちょっとタチが悪い。
 でもおそらくこれからも、私は青娥のことを嫌いにはなれないんだろうな、なんて、苦笑い混じりの感想を思い浮かべながら、ほろ酔いの一夜はこれでおしまい――と、思っていたら!
「あ〜もっ♥ ぶじゅずじゅるるるるうぅうぅぅっ♥ じゅるうぅぅっ、じゅるうぅっ、ぶじゅるぅ、じゅれろおぉっ♥」
 突然股間に迸った快感。目を開けば、はしたなく勃起した私の男根にむしゃぶりついている青娥の顔。それを認識したとき、私は思わず腰を抜かしそうになっていた。え、何で、何で? 冗談じゃなかったのっ!?
「誰がいつ、冗談だなんて言いましたの?」
 半分咥えたまま喋らないでっ……! 厚ぼったい青娥の唇が亀頭の裏ッ側ににゅるにゅるして、あ、これ、やばい、気持ちいい……♥
「はふっ♥ ちゃんとお風呂に入っているのかしら? なんだか汗臭くて、しょっぱい……夏が近いせいかしら? ねぇろ……♥ れろおぉ♥ じゅるぅ♥ れろろぉ♥」
 私を辱めるようなことを言いながら、青娥のざらざらした舌が私の先端を這い回る。あう。あふ。はっ♥ 私が青娥に抱いている複雑な感情を吹き飛ばすような強烈な快感に、ろれつの回らない喘ぎをあげて、痺れたように腰を震わせる。
「うふふ、でもあなたのオチンポ、とっても美味し……♥ にゅるれろぉ♥ 如何です? 私の熟練のチンポしゃぶりあげテクニック……♥ と言っても、童貞美少女のオチンポには他に比べる相手もいないでしょうけれど♥」
 あ、あ〜……♥ あ゛♥ はあぁ〜……♥
 体の感覚が弛緩してゆき、股間が勝手に開く。O脚状態になってしまった私は、天を仰ぎながら理解できない快感に打ちのめされていた。
 青娥を止めようとしていた両手は逆に青娥にしっかりと握られ、拘束されている状態に等しい。私の体に自由はない――私はあの妖艶で油断できない邪仙に体を任せているのだ。それはひどく恐ろしく、ひどく甘美な興奮を誘う。
「あら、あなたのさもしいおチンポに懸命にお口ご奉仕している私から目を逸らすだなんて、いけずなお方。ほら、もっと私を見て? こんなにも必死になって、お友達のデカマラむしゃぶってるはしたない青娥をご覧になって……♥」
 多分それは本心からの服従ではなく私をただ惑わすための虚言。だと言うのにその甘い毒は私の理性を簡単に麻痺させる。見てはいけない、見たら思うつぼだと思いつつも、私は誘惑に負けて首を曲げ、下を向いてしまった。
 途端に青娥と目が合ってしまう――きっちり結われた唐子髷と、かんざし代わりの鑿。青くふわふわした髪は汗ばんだ頬に張り付いて、微笑んで細くなった眼は私をしっかりと見据えている。しかしてその唇は無様に突き出されて、私の女根を深くまで飲み込んでいて――
 はお゛お゛っ♥
 見たこともない青娥の淫らな表情、人のぬくもりを知らなかった私の男根が口の中に含まれているという衝撃。見つめ合ったまま、青娥の舌がぬるぬると私の亀頭裏をほじくったとき、私は体を大きく震わせて、思わず射精してしまいそうになっていた。
「あら、我慢せずに精を解き放ってしまえばいいのに、何を遠慮しているのかしら。この霍青娥、あなたのザーメンなら喜んで、じゅるじゅる……♥ 啜らせて貰いますわ♥ 私のお口をちり紙だと思って、気持ち良く、興奮メスチンポすっきり♥ してしまいなさい♥」
 出しちゃいけない、射精しちゃいけない。もういいような気もするけど、でもやっぱり何か駄目。私の心のストッパーが最後の一線を越えるのをためらう。これは最早、ただの臆病なような気もするけれども。
「ああもう、本当に遠慮しなくていいってば。出して良いのよ? イッて? ねえ、射精して頂戴♥」
 あ、そう言う、素で言われるのはズルい。私の抵抗が無意味なように思えてきて、ついつい緩んでしまう。
「柄でもなく緊張しているの? ここにいっぱい濃い精子溜め込んでるくせに……♥ お友達として、あなたの悶々ザーメンを吸い出して差し上げたいの……♥ お友達として、この性悪ビッチ邪仙にオチンポ汁頂戴っ♥」
 そんなお友達があるかなあ。と思いつつ、青娥が手を離しても、私はもう何も抵抗しない。ショーツから私の陰嚢が引きずりだされても、ただドキドキしながらその様子を見守っていた。
「頑固ね。無理矢理吸い出しても良いけれど、どうせなら心地よくチンイキ絶頂♥ して欲しいのだけれど。乱れるあなたの姿が見たいの……♥」
 はぁぁ……♥ 唇で亀頭ばっかりをぬもぬもしながら、蒸れた陰嚢の皮を優しく撫で回すの、そう言うの、駄目、本当にもう、駄目……♥
「金玉だってこんなに締まって、射精寸前じゃないの……♥ ほら、下から頑固キンタマすくい上げて、ぽんぬぽんぬしてあげるから♥ ずびゅずびゅと童貞汁を漏らしちゃいなさい♥」
 そんな、お手玉するように私の睾丸弄ばないで……! ちょっと痛い、でも、射精感は高まってきてしまう。ううっ、来る、来ちゃうよ♥
「は〜い、とどめ♥ いっぱい出して、気持ち良くなって……♥ ずじゅるるるううぅぅじゅるうぅっ♥ ぼじゅるるうぅぅぅぶじゅずじゅずじゅぶじゅるるうぅぅぅっ!」
 青娥は再び私の男根を口に含むと、喉奥にまで飲み込んでしまう。青娥の喉がぐりぐりと私の亀頭を強く圧迫し、その上、もう一方の手で私の根本辺りを強く握り、膨らんだ裏筋をぐりぐりと擦られては、私はもう、観念するしかなかった。
 あ゛……はァ〜っ……♥
 何というマヌケな声を上げてしまったものだろう、しかしそのぐらいに気持ちが良かった。びゅる、びゅると濃い精液が尿道を突き抜けてゆく快感。意識が薄らいでゆく。まるで自分の魂が抜かれてしまうかのよう。しかしそれでも極上の愛撫はやまず、睾丸も竿も先端も、それぞれに強烈に刺激される。噴きこぼれる精液は、出したそばから青娥が喉を鳴らして飲み込んでゆく。
 いくらでも射精出来る気がした。もっともっと青娥に精液を注ぎ込みたい、ずっとずっと男根をくわえこんでいてほしい、そんなことまで考えてしまった。心の内に溜め込んでいたモヤモヤが白色の澱に形を変えて吸い出されてゆく。私は歯を食いしばり、自分の服の裾を掴みながら、霍青娥の口淫に男根を酔わせていた。
「ぷふうぅ……♥ 御馳走様でした。あなたのとっても濃いオス汁♥ チンポ汁♥ 堪能させていただきましたわ……♥」
 ちゅぽんと音を立てて青娥の口が離れる。一瞬だけ唇と鈴口との間に淫らなアーチが掛かった。
 長い間射精をしていたように錯覚していたが、実質、30秒にも満たなかったろう。そんなものだ。
 射精後の虚脱感と倦怠感が私の体を包む。とんでもないことをされちゃった、と言う恐怖と、ああ青娥に気持ち良くしてもらっちゃった、と言う悦び。さて、この状況、何と言ったものだろうか、と私が逡巡していると、青娥がふいに忌々しそうな顔つきになった。
「……と言ってみたものの、この味、あまり好きになれませんの。洗面所を貸してくださる?」
 もっともである、私だって好きこのんで飲みたくはない。青娥のその言葉で一気に空気が和らぎ、私は青娥を洗面所に案内した。この時、青娥の唾液に濡れた男根をどうしたものか分からず、ズボンからぼろりとはみ出させたうすらみっともない格好だったことは、後々思い出してみてももっとも恥ずかしいことだったのではないか、と思う。
 さてその後、青娥は口を丹念にゆすぎ、ついでに顔も洗うと、スッキリと憑き物が落ちたような顔になり、「お恥ずかしいところをお見せしましたわ」と笑って帰って行った。恥ずかしいところを見せたのはどっちだったやら。
 臆病な私は、これで青娥との関係が壊れてしまうのではないかと内心危惧していたのだが、帰り際、
「あなたが前に作ってくれた、あの下品な食べ物は何だったかしら? えーと確か、そばとごはんで……」
 そばめし?
「そうそれですわ。あれ、また作ってくださる? そこそこ癖になる味でしたわ」
 だなんて気取って言う青娥を見ると、ああ、私達の関係は特に変わってないのだなと私は安堵するのだった。



(終わり)