PARASITE VAMPIRE〜人食い憂月〜
エロシーンに一っ飛び
どろどろと体を這い回る空気。熱気も湿気もたっぷりで、服の中とて容赦なく滲みこんでくる。
ぶんぶんと耳に届く羽音。どうやら頭上近くに虻でも居るらしい。
市場なのか街道なのか宅地なのか判別のつかない街路。犇めく露店で売られている農産物だの妙に生白い肉だのに読み取れるような値札の一つも付いていないのはいたし方が無いとしても、その上で肢が多い外骨格生物が色々と蠢いているのだけはご勘弁願いたい。
‐‐そんな世界から今居る場所を隔絶しているのは、狭い赤土の空間を囲い込んだ塞壁と、石と砂の相の子のような色合の大石を組んだ建物そのものだけ。それなのに、日光を殺がれた廊下はさんと冷え、仁保を案内する召し使の足音を殊更大きく響かせていた。
「えーっと、こんなトコロで、お花の水遣りの日当なんてあるんですか?」
双月堂の家屋敷から休暇を貰い、まったりと旅行に出てみて数日。左右に眼の離れた仮面の人足が引く速や駈の乗り合車に揺られて着いたのは、熱帯の異国ことヒンドゥスだった。
「……はい。んふぅ……こちら、です。裏手に中庭があるのです、よ……」
「裏手にあるなら裏庭ですよねぇ。……アレかな、育てちゃいけない植物のサンプルが生えてるとか」
熱帯といえば毒花。毒花といえばクスリ。クスリといえば金。金がもらえるといえば隠したい仕事。条件にはぴったりと当て嵌まる。
「……あら、なかなかに、はぐぅっ……。厳しいことを、仰いますのね」
作品を戴きました
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