PARASITE VAMPIRE〜人食い憂月


   エロシーンに一っ飛び

 どろどろと体を這い回る空気。熱気も湿気もたっぷりで、服の中とて容赦なく滲みこんでくる。
 ぶんぶんと耳に届く羽音。どうやら頭上近くに虻でも居るらしい。
 市場なのか街道なのか宅地なのか判別のつかない街路。犇めく露店で売られている農産物だの妙に生白い肉だのに読み取れるような値札の一つも付いていないのはいたし方が無いとしても、その上で肢が多い外骨格生物が色々と蠢いているのだけはご勘弁願いたい。
 ‐‐そんな世界から今居る場所を隔絶しているのは、狭い赤土の空間を囲い込んだ塞壁と、石と砂の相の子のような色合の大石を組んだ建物そのものだけ。それなのに、日光を殺がれた廊下はさんと冷え、仁保を案内する召し使の足音を殊更大きく響かせていた。
「えーっと、こんなトコロで、お花の水遣りの日当なんてあるんですか?」
 双月堂の家屋敷から休暇を貰い、まったりと旅行に出てみて数日。左右に眼の離れた仮面の人足が引く速や駈の乗り合車に揺られて着いたのは、熱帯の異国ことヒンドゥスだった。
「……はい。んふぅ……こちら、です。裏手に中庭があるのです、よ……」
「裏手にあるなら裏庭ですよねぇ。……アレかな、育てちゃいけない植物のサンプルが生えてるとか」
 熱帯といえば毒花。毒花といえばクスリ。クスリといえば金。金がもらえるといえば隠したい仕事。条件にはぴったりと当て嵌まる。
「……あら、なかなかに、はぐぅっ……。厳しいことを、仰いますのね」
 仁保の苗字は雑賀。こんな書き方をする名前の人間の言葉がここヒンドゥスで通じることは驚きだったが、聞けば土地柄と主人の人柄の問題で、訪れる人間も少なくないのだそうだ。旅先ででも残金は常に増やす、が身上の仁保としては、楽な日雇い仕事が見つかったのは実に都合が良いのだが。
「それで、なんであたしなんかを?旅先だし、そんなに長くは続けられないと思うんですけど」
 仁保が気にしているのは、今日の召し使の様子だった。二日前に面接しに来た時には感じられなかった、妙な興奮具合が、それほどではないにしても不審感を誘う。
「そ、それは、ですね……御嬢さまの、お言付けで、あっ……。ちょっと」
「へぇー、ここの当主さんってお子様までいらしたんですか。大変なんですねぇ」
「え、ええ……お仕事、ですから……ふはぁっ……」
 返答は要領を得なかったが、どうやら内部の人間の要請らしい。ここで仁保の言葉を肯定してしまったサヤがその後どういう目に遭うかなどテンから頭に無い仁保は、「自分には関係ない」ということを敏感に察知したことで満足して、今日任されることになっている(手当は当日貰えるらしい。なんと良心的なのか)「お仕事」に思考を戻したのだった。
「それで、お着替の場所なのですけれど……」
「は?」
 目の前の召し使がふと立ち止まり、仁保に左手の部屋を示す。真直ぐに長く続いた廊下の端近くで、そこだけ小さな扉が壁に凹んでついている。
「はふぅっ……中庭とは言いましても、外は日差しが強いので……はぁ……こちらで用意しました衣装に、お着替を願います……」
「は、はぁ……」
 水遣りに衣装。日雇いとはいえ来訪者の服を汚さないための気遣いか、裏庭にしても敷地の一部、外部からの見栄えに神経を使うのか。どちらにしろそれが条件のようなので、仁保は大人しく、導かれるままに控え室に入っていった。

      Helmuth Serpenth Helmuth Serpenth Helmuth Serpenth Helmuth Serpenth 

 灼癪と、とでも言いたいような、砂塵にくすんだ空からでも下界を威圧する太陽の下。
「み、水って……!?」
 涎掛けのような白い布を首元に巻き、黒いハイヒールを履いただけの姿で、仁保は裏庭に立ち尽くしていた。受容れてしまった仕事なのだから後には引けないが、召し使も一言くらい注意しておいていいものだ、と考える。
「いや、一応アブない植物かな、とは思ってた、んだけどね?」
 誰にともなく呟く。さしもの仁保も、世話をするべき花という言葉が、「赤土の上で蠢くモノ」という物体とイコールで結ばれるものなのだとは金輪際知らなかった。
「これに、あたしのチンポで水をやれ、と……いうことは、ただ土に撒いてオシマイ、じゃ駄目だよねぇ」
 仁保を案内した召し使は、とっくに庭を去ってしまっている。やり方を訊こうにも、何処にいるのかも判らない相手を探し回っていては、仕事が遅いといって給金を取り上げられかねない。
 目の前の花壇‐‐のつもりらしい盛り土の上では、灰緑色の太い茎の植物が、うねうねと動きながら垂れ下がる葉を擦り合わせ、シワシワとした虫の声のような音を鳴らしている。
「直接葉っぱの上にオシッコでもすればいいのかなあ?」
 成分が緑には良くない、と聞いたことがある気がするが、なんでもここは呪術に長けた年齢不詳の魔女が住んでいるという邸だ。隠された太古の秘儀とかで、普通の植物にはできない代謝を可能にしたのかもしれない。
「ま、考えてても仕方がないな。やっちゃおう」
 いつもの貨幣とは違うとはいえ、国情がインフレ気味な分厚みの増す札束を想像して、仁保は盛り土に近づいてハイヒールの股を開いた。
「それでは、一体どういう風に……ふぉぅ!?」
 ガサガサと蠢いていた植物達が、仁保の股の下で一斉に口を開いた。一応これが「花」なのだろうが、肉厚でごつごつと畦(うね)を抱き、中から数センチに届きそうな触手を生やした粘液まみれのそれは、ほとんど食虫植物の趣だ。
「ちょっ、これをどうしろと……ひぐっ!」
 一本の茎がひゅるりと後ろに撓り、その反動で仁保の男根にかぶりつく。 更に数本がそれに続くが、ヒールの高い靴の所為で持ち上がった仁保の腰には今一歩届かず、ひゅんひゅんと空を切って赤土の埃を舞い上げる。
「ううぅっ、こんなチンポのされ方するのは初めてだよぉ、うひぅっ……」
 既に逃げることを諦めていた仁保は、股を固定して灰緑色の花のされるがままに男根を任せてやった。緩い曲線で先の尖った花ビラが男根の半ば過ぎの位置で窄まり、茎を脈打たせて仁保の半ば勃起した男根を吸い立てる。
 汗と垢で薄汚れていた肉竿の表面を触手が幾度も擦り、仁保のモノを怒張させると同時に表面に液体を行き渡らせる。ハイヒール故の悪いバランスを支える為に膝を開いていた仁保は、股間をあられもなく開帳しながら、暑さに垂れた睾丸を震わせた。

「気持いい……っ。なんか臭いのに、擦るの上手いぃっ……!」
 仁保の男根の脹らみ具合を察知して、男根一番乗りを獲得した植物がぶりんぶりんと揺れる。花弁の中に濃厚な粘液を滲み出させ、肉の花はずるずると口の中で触手を擦り合わせた。
「うーっ……! でも、これじゃなんか、物足りないなあっ……」
 当初の目的をそろそろ忘れてきた仁保は、全裸に近い姿で、ゆらゆらと腰を振り始めた。その下では、お預けを食らっている他の花達が、粉を吹いたような体をくねらせて、動く仁保の下半身を追いかけている。一方で、仁保の性器を咥え込んだ花の方は、発条の切れかけた機械のような不規則な腰揺らしに振り外されないよう、勃起しきった男根をきつく締上げる。
「うひっ! な、なにコレ、こんなんじゃ離れないじゃ、ぁはぁ……!」
 股間を前後に動かしてみても、灰緑色をした植物はしっかりと仁保の腰前に吸い付き、絶対に離すまいとしている。かといってただ咥えているだけで終わる筈もなく、仁保の男根を包んだ触手達の動きは段々と激しさを増し、左右に捩るようにして剥き出しの粘膜を刺激してくる。
 外気の熱に中てられて火照っていた仁保の体には、益々液体を増しながら蠢く食精植物の給餌行動は、既に快感を与えるものとして認識されてしまっていた。肉傘の付け根辺りにこみ上がってくる放出の予感に、仁保は自分の好む感触を上積みすることを求めて、眼下の植物に話し掛ける。
「んんっ……! え、ええと、ブニブニして変なお花クン?」
 仁保の男根の先で、植物はふごふごと音を立てる。花弁を擦り合わせながら液を滴らせる動きの為に鳴っているだけのそんな音が、仁保には貪欲暗愚な植物が主人に耳を傾けている様子に聞こえてきて‐‐
「あたしのチンポ、気持よくしてくれるよねっ!?」 
 勝手なことを口走り、固めていた腰を一気に振り出した。自在に茎を操るだけの硬さを具えた植物の方はと言えば、咥えた餌のチューブの動きについていけず、花の奥に空いた精液を吸い込む為の通路にまで、怒張した男根の侵入を許してしまった。
「あひぃっ!? すごっ……、お、オナホールって使ったことなかったよねぇ、あたし」
 花弁の根元から更に先はつるつるとした粘膜が続いており、異常な狭さと密着感だけが強烈に男根に注ぎ込まれる。植物の唾液が酸性を帯びているのか、嵌り込んだ肉傘の裏側がびりびりと痺れるような感覚に溺れている。仁保は、則恵と清子がよく話題に出す淫具の名前を口にして、それはこんなものなのか、と想像を逞しくする。
「せ、先輩達って、毎日こんなのほぉ、され合ってるのかなぁ……?」
 もごもごと蠢く花の方は、唐突に突き込まれた肉竿に危機感を煽られたのか、花弁を脹らませ、丁度良い位置まで仁保を圧し戻そうとする。しかし、中が緩んだ隙を逃さず、仁保はずっちゅずっちゅと植物の涎を掻き雑ぜながら本格的な自慰を始めた。
「うほぁっ……いい、いいよっ……! 今度のお給料でホール買って貰おぉぉおぅ……清子先輩と、則恵先輩で、一個ずつぅぅっ……!」
 相変わらず植物は慌てているのか、不規則に揺れる触手が、肉竿といわず亀頭といわずずるずると擦るので、男根そのものが根元まで包まれている分過不足なく快楽を味わえる。そこに仁保自身の小刻みな前後運動が重なり、花の底を掘返すごとにカリ首を締め付けられる。加えて、双方の動きの度に花がえずくように粘液を吐き出し、尿道に滲み込む痺れまでが仁保の意識に絶えず新鮮な性感を上乗せしていく。
「あはぅふっ!? こ、これなら、全然すぐにイケそうっ……! 早漏だねぇ、あたしっ」
 ハイヒールを履いて、立っているのはごつごつとした赤土の上。自分を支えるだけでも労苦のある足場で、仁保は一心不乱に下半身を振り回す。ぶぴぶぴと啼く灰緑の花に性器を押し込み、両脚を交互に踏ん張って股間の快楽が途切れないように植物とのセックスに仁保は勤しんだ。
「ああっ、ぁは、き、来たぁっ……。くぅふうううっ!!」
 一・二・三・四。十回に届く前には忘れてしまう腰振りの回数をこれまた十回位数えたところで、仁保は精液を空に飛ばした。射精はそのままで粘液まみれの男根を尚も擦り、花ビラの中程から根元の穴の中にまで仔種をぶしゅぶしゅりと注いでやる。
「こっ、これだけ、あればっ……。水遣りも、十分でしょおほぉぉぉっ!?」
 注がれた白濁の粘液は植物自身が滲ませる涎を混じり合い、太い茎の中をごぷごぷと流れていく。土の近くに不気味に脹らんだ、やはり灰緑色をした球根のような部分で精を溜めて、食精植物は与えられたばかりの餌の消化を開始した。
「……はぁ、はぁっ……。いっぱい出た、なぁ……っ!」
 がに股を開いたままで、仁保は自分の下を見る。裸の下半身の向こうでは、数十本にも及ぼうかという植物の群がざわざわと蠢き、動物めいた葉擦れの音を反響させていた。
「……これの相手、全部するの、あたし?」

 仁保の性器は、異形のモノとまぐわることに嫌悪感を抱いた様子もなく、薄黒く日光を照り返させながらびくついている。しかし、人間相手ではないだけに、それでどれだけの体力を消耗するものなのかが、仁保には想像がつかない。
「……仕方ない、これもお金の為だよね。やるしかないか」
 仁保は男根を振り立てて泡立った液体を草叢に飛ばすと、少しだけ横に動いて、次の花の来襲を待ち受けた。

      Helmuth Serpenth Helmuth Serpenth Helmuth Serpenth Helmuth Serpenth 

「へぇ。それで、全部の花にザーメンをあげたの?」
「そう、です……。私がじかに、確認、しました、はぁっ……」
 夕刻。宵闇と砂を巻く風とが溶け合い、いつまでも夜の帳を霞ませ続ける窓辺で、黒肌の魔女は眼下の裏庭を眺めていた。
「それで、貴女はちゃんと、イキチンボを我慢できたのかしら?」
「そ、それは、はぁっ……!?」
「その調子なら、大丈夫そうね」
 狼狽した吐息を吐く召し使に、しかし男爵位を称する魔女は一瞥をくれただけで興味を失い、再び暗くなり始めた庭の景色に目を戻した。
「そう、それはそれは、大したものねぇ。ヤポーネの国の御嬢さまは、皆そんな風なのかしら?」
 その小娘はまた明日も来るという。今度は出迎えの際からサヤを全裸に剥き、年端のいかない客の痴態をつぶさに見せ付ける位置に繫いでおこうか‐‐自分の下劣な思い付きに唇を歪ませながら、魔女は想定外に殖えそうな植物の転売先を考えて、厭らしく、つと頬を吊上げた。


作品を戴きました
流 己洲さんのサイトはこちらです
concatenation