kittens got claws (laibach-remix)



 ある日の夜も更けた頃。
 双月堂の家の奥、メイド達に与えられた居室の一つで、仁保はもじもじと自分の髪を弄っていた。
「うー、やっぱり似合わない気がするなぁ……」
 もぞもぞと指先を毛並の中に潜らせて、顎よりも下にきた先端まで、ゆっくりと赤茶色の
地毛を擦る。結構な年月を酷い癖っ毛と共に過ごしてきただけに、半日以上が経った今の
時間にも、仁保は新しい頭に慣れることができずにいた。
「ぐぅてんにゃーく、仁い保ちゃぁん♪」
「わあ、則恵ちゃんがお利口さんだにゃー? 明日はヤリイカが降っちゃうにゃー
、タイヘンだにゃー♪」
 そんな仁保のぐずぐずした気分に構うことなく、部屋の扉が荒々しく開け放たれた。
同時に、騒々しさにおいては屋敷で一二を争える――二人揃えばメダルを独占なんじゃ、と
仁保は思った――人間、つまりはメイド稼業での先輩達が、仁保の寝所に転がり込んでくる。
もういつもの流れであるだけに、仁保は両方の眉だけを動かして、二人の方へ視線を走らせた。
「……どれだけおバカなんですか、先輩は」
「イカじゃないです、ってツッコミは貰えなかったにゃー? 清子ちゃぁん♪」

「でもでもぅ、おバカだって、則恵ちゃんおバカだってぇ♪ わあい、則恵ちゃんはおバカさんなのにゃー?」
 乗り込んできた則恵と清子は、目の前の仁保を差し置いて、丸めた指で相手を掻き始める。顔と言わず頭と言わず弄りまくるせいで、二人の頭はたちまちのうちにボサボサに荒れてしまっていた。
「ぅうー、仁保ちゃぁん! 清子ちゃんが冷たいにゃー、何とかいってあげてにゃー! ……はれ?」
「ひれ? 仁保ちゃん、その髪、どうしたんだにゃー?」
 嵐の後のような髪型になったままで、メイド達は揃って仁保に向いた。
 二人は向き合った姿勢でカニ歩きをして、仁保が座った四角い椅子ににじり寄ってくる。そして、引っ掻き合っていた両手はそのままに、ひょこりと仁保を上から覗き込んだ。
「わぁっ!?」
「あれーにゃー」
「あらーにゃー」
 仁保が驚いて声をあげても、二人の先輩メイドは頭の上から動こうとしない。事ここに到って仁保は、真直ぐに伸びた髪に感謝する気になった――サラサラと音がしそうなまでに軟らかく揺れた仁保の髪は、赤くなった顔を半ばまで埋めてくれたのだった。

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「すとれえと……」
「……パーマン?」
「ヘルメットで空飛ぶ気はないですよ、あたしは」
 物珍しげに四方八方から頭を眺め回す則恵と清子に、仁保は自分の髪がこうなった訳を話した。なんの事はない、一念発起朝一番から美容院に行って、生まれて初めての縮毛矯正をしてみたのだった。
「あれはきっと、頭に生えた羽根で飛ぶんだにゃー」
「違うにゃー則恵ちゃん、きっと背中に生えたマンタで飛ぶんだにゃー」
「何をどーすりゃ人間の体にイトマキエイが生えるんですか、清子先輩」
「それが女体の神秘だにゃー」
「……絶対ウソだ」
 どうしようもない会話だったが、仁保にとっては今や、これも気安い日常となっていた。取り止めもない連想をズルズルと追い掛けているうちに、慣れない髪型が引き起こしていた恥ずかしさが引いていく。それとともに仁保は、二人の先輩メイドの言葉遣いが、いつになく狂っていることに気がついた。
「ところで先輩」
「はいにゃー?」
「なんにゃー?」
 二人が揃って返事をした。
「どうして話し方がにネコっぽいんですか?」
 そう、則恵と清子は、揃って語尾ににゃーを付けていた。それを即ネコのマネだと言ってしまうのには仁保のせっかちな性格が表れているようでもあったが、ともかく疑問をぶつけてみる。すると、答えは意外なほどアッサリと返ってきた。
「それはですにゃー」
「来週にネコミミの日があるからなのにゃー」
 ネコミミの日。法律が変わったとしてもそんな不可思議な日は登録されたりしないだろうが、先輩達が語ったところによると、双月堂の家には何年か前から、不定期に訪れるネコミミの日を祝う仕来りがあるらしい。その真実の意味は、その日を創始した現当主しか知らないとのことだったが、家人全員が思い思いのネコミミを付け、その日一日を猫らしく過ごすのだそうだ。
「それで、お二人ともネコミミですか」
 言われて眺めてみれば、則恵の髪の隙間には茶色の、清子の頭からは白黒のブチ模様のついたケモノ耳が覗いている。それほど大きなものでもない為に目に留まらずにいたが、それは紛う事なきネコミミだった。
「そうなのにゃー」
「分ってくれてうれしいにゃー」
 二人は声を揃えて『にゃー』と言う。両側からにゃーにゃーと鳴かれると、仁保はなんだか、間違って猫の家に紛れ込んだよそ者のような気がしてくる。目の前に迫った猫達を弄びたい欲望がむぐむぐと湧き上がってきた仁保は、咽を鳴らして左右を見回す。
「それでなんだけどにゃー、仁保ちゃあん♪」
「ネコちゃんは一体どんなことが好きなのか、分るかにゃー?」
 眼をぎらぎらと光らせたメイド達が、顔をくっつけんばかりにして仁保ににじり寄る。その、不釣合いに小さく開いた口の端に浮かんだ表情を見て、仁保は予想ができないなりに、次の展開の破天荒さを覚悟した。
「え、ええと……よろしくお願い、します」
「うにゃーん♪」
「ぬにゃーん♪」
 心なしか尖って見える白い歯を剥きだして、則恵と清子が仁保の体に襲い掛かった時、仁保の脳裏には今晩の分のゲンナマのイメージがありありと浮かんでいた。

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 仁保の股間はぱっくりと開かれている。
「ぶちゅりゅ……ちゅうぅー♪」
「ぶはあ、うにゃー……♪」

 そこには、二人のメイド――否、二匹の猫が群がり、屹立した男根を散々に弄んでいる。それぞれ毛色の違う猫達は、裸の太股を押さえるように二つの前足を乗せ、猥らな色に染まった口唇で、薄く黒ずんだ仁保の性器を貪っていた。
「ちょっ、結局そうなるんですかっ……?」
「むにゃー、仁保ちゃんだっていいって言ったにゃー」
「ネコに二言はダメなのにゃー?」
 口の端に男根を挟んだまま、則恵と清子は器用にしゃべる。露出しきったカリ首や、粘液を含んで脹らんだ根元をモニモニと刺激され、仁保は幾度も腰を震わせる。
「だって、そこまでするとかぁ……」
「うにゅんにゅー、仁保ちゃんうるさいにゃー」
「則恵ちゃんっねばぁ、積極的なにゃー♪ わたひも負へないにゃーむにゅー」
「……ぁあああ……」
 充血し過ぎて赤黒くなった性器の先。竿に甘咬みを仕掛けた則恵の所為で、裂けそうなほどに張り詰めた薄皮の上に、よだれを垂らした清子の唇がおおい被さる。二人のメイドの口からあふれた唾液はぬらぬらと照明を照り返し、血管の走るカリ下の粘膜をよりいっそう卑猥に見せてくる。
 前歯を立てて幹の中ほどを何度も絞めつける則恵の口、咥え込んだ亀頭だけを捻り取るように舐めまわす清子の舌。決定的な快楽を与えられないままに勃起を穢されて、仁保はいつしか背をそらし、ねばついた液体を漏らす男根を揺らしては身悶えていた。
「ううぐああぁ……先輩ぃ、もう、もっとしてくださいよ……おぉぉ」
 訴えてみても、二人の先輩は同じように男根をしゃぶり回すだけで、一向に返事をしてくれない。敏感な亀頭の付け根には生温い汚液の感触だけが染み渡り、精を吐かせてくれる屹立の根元には、色欲を募らせる毒気のごとき鼻息のほかには何も触れてはくれない。先の穴がどろついた汁をこぼしていることさえ気にしないような舌使いに焦れきった仁保は、清子の咽奥に無理やりにでも性器を押し込もうとする。
「にゃーめえ♪」
「おあずけにゃーのぉ♪」

 しかし、仁保の努力は無残に打ち砕かれた。太股と下腹の境に滑った先輩メイドの手が、仁保の体を寸分も動けないように押さえつけていたのだ。
「ううううー! もぉダメぇっ、先輩達なんて嫌いだぁあっ!!」
 仁保は思わず叫んでいた。気持ちよく自分を絶頂させてくれない他人を許せないばかりに、力の余った仁保の咽は部屋の外にまで聞こえそうな大声で宣言する。
「ふぇっ!?」
「にゃーっ!?」
 舌のざらつきで掻きとった仁保の淫汁を味わっていた清子と、そのお零れに清子の唾を混ぜたひた垂れを頬肉に絡めていた則恵が、互いに咄嗟に目配せをした。
 いつも一緒に仁保と付き合ってきただけに、意思の疎通はすこぶる速い。
「ふぐっ!?」
 ゴポゴポと鳴る咽をそのままに、二人のメイドはがぶりとばかりに仁保の男根にかぶり付く。そして、くぐもった声でうめく仁保には構わず、意地汚く脈打つ仁保自身を吸い上げた。
「むぐぅぃいいいいっ!!」
 その途端。
 びくりと勃起が暴れたかと思うと、舌の真ん中に鎮座した男根の先穴から、強烈な味が清子の脳天に突き抜けた。その塊は続いて、どろりと清子の咽に流れ込み、否応なく食道を犯してゆく。胸の中に溜った空気すら侵食するような生臭さに、清子は目を細めて洟をすすった。
「あーっ!! 清子ちゃんってばズルイにゃー、仁保ちゃんのスケベ汁、勝手に飲んじゃダメなのにゃー!」
「にゅへへー、いいでしょー♪ 仁保ちゃぁんのぅ、オチンボ汁ぅ、今日は私の専用なんだもんにゃー♪」
 口の中一杯に仁保の精液を溜め込んだ清子は、わざと口の端から一筋白濁をこぼしながら、焦げ茶猫の親友にニッコリ笑う。
「……はぁっ、はあ……。ま、また、先輩達は、勝手なことを言ってえ……」
 一息に絞り取られた仁保はと言えば、永遠に続くかと錯覚しかけた責めに続く突然の射精で、息も絶え絶えになりながら抗議をする。
 それでも呟いた一言が先輩達の耳にしっかりと入っていたことは、暫らく後になってから知ることになるのだが――
「あ、あたしもつけてみちゃダメですか、……にゃ?」




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