あるけみっく☆しすた〜ず 白濁編


 ある冬の寒い日。公爵令嬢ユングヴィは王城に来ていた。
 と言っても、ごく私的な用事、有り体に言えば、ドーラ姫と仲良く遊ぶためであった。
 普段の厳格で高圧的なユングヴィからは想像できないほどうきうきした仕草で、彼女は姫の部屋のドアを開ける。
「姫様にはご機嫌麗しゅう〜♪ って、あら、おまけもいらっしゃったの」
「おまけとはなんだ」
 そこにいたのは、ユングヴィの終生のライバルである、アリス・キリエであった。
 自分の部屋でもないのに、それ以前に一国の姫の部屋であるにもかかわらず、アリスはすっかりくつろいでいて、カップに入れた飲み物を啜っている。
「おお、ユン姉なのじゃ」
 その隣には、愛くるしく微笑むドーラの姿。アリスと同様、何かを飲んでいる。
「一体、何を飲んでいまして? 紅茶かしら?」
 アリスの存在にやや機嫌を悪くしつつも、ユンは興味津々でカップの中を覗き見る。
「……ひっ!」
 そして短く叫んだ。
 カップの中に注がれていたのは、なにやら異様な臭いのする、白くどろりと濁った液体。ユンは一瞬でそれを何か理解し、顔を引きつらせて身を離す。
「ん? どうした」
「あ、あなた、なんてものを飲んでますのっ!? 前々から変態だとは分かっておりましたが、まさかここまで!」
「どうしたのかの? とっても美味しいのじゃ」
「姫までっ! 信じられませんわ!」
「何をそんなに嫌っておるのかわからんが……ほれ、ユン姉も飲むのじゃ」
 そう言ってドーラは、ユンの目の前に湯気をたてるカップを近づける。ユンは目を閉じて顔を背けた。
「お、お断り致しますわっ!? ああ、もう、不潔ですわ〜〜〜っ!」
「何を誤解しているのか知らないが、これは東洋の飲み物で甘酒と言ってな、おい、こら、何処へ行くんだ」
 アリスの呼びかけも振り切って、二人が呆然と見ているなか、ユンは慌ててその場から逃げ出した。
 そして、転んだ。


(おわり)