白河紅音という生き方 後編


「くっ……う゛っ、ふっ、ふう、ん……! 中々、やるじゃないの」
 僕が優しくしゅっしゅっとその硬く反り返った男根を擦ってあげると、紅音さんは苦しげに片目をつぶり、歯を食いしばりながら苦しげに呻いた。
 って、ええっと、その。そんな、無理に我慢しなくてもいいじゃない……
 僕は唖然としながらも、その弱々しい愛撫を続ける。紅音さんのおちんちんは、僕のよりもずっとグロテスクな形状をしているけれど、美人のお姉さんから生えているものだと思うと愛らしくも見えてくるから不思議だ。
「まあ、僕も、一応……自分でも、持ってるわけだし……」
「ふうん。つまり、えっちなことなんて苦手だよお、なんて顔しながら、毎日毎日猿みたいに自分でいやらしいことしてたのねっ!」
いやっ、その!? え、それはッ……」
 僕は絶句した。まさにその通りで、図星だったからだ。
 もっとも、僕はまだまだ早漏がちだから、あんまり長い間擦ることは出来ないけれども。
「何よ。言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさい!」
「く、う、あ、そのっ」
 まずい。紅音さんを恥ずかしがらせる予定が、僕の方が羞恥心を煽られているっ!?
「言いたくないなら、言わなくてもいいのよ。でもその代わり、貴方はその途端に私に逆らえなくなる。このままずっと、私にアドバンテージを握られ続けるのだわ。それでもいいのね?」
 優しく、言い聞かせるように囁きつつ――紅音さんは、僕の手技が弱々しくなったところで、改めて僕のおちんちんを握り直した。
 そして、先端の方を集中的に、時には、カサになって出っ張っているところをくすぐるように、白くて長い指を躍らせて……ひああ。
「あう、う、んひっ、あああぁっ……あ、あ、ああうぅぅ」
 僕は思わず情けない声を上げてしまう。紅音さんの技量は力加減も絶妙、おちんちんの弱点を隅から隅まで知り尽くしていて。僕の腰はあっと言う間にとろかされ、またもいやらしいお汁を放ってしまいそうになる。
 つるりと張り詰めた僕の先端を、紅音さんの手が優しく包んで、まるで可愛がるように、でも執拗なまでに撫であげくすぐり、刺激され……ああ、あふっ。なんとか、反撃、しなくちゃ……!
 そう、紅音さんの言うとおりだ。言わなくちゃ。恥ずかしくても、紅音さんに僕の自慰行為のことを伝えなくちゃ……
「う、うん……毎日、して、ました……。綺麗なお姉さんのことを考えながら、自分で、おちんちんを握って、白いおしっこ、どぴゅどぴゅって、してたよお……」
「へえ、言えたわね。じゃあ、どう? 自分の手でするのと、私の手でするの。どっちが気持ちいい?」
「それは……あ、紅音さんの方が、気持ちいい……です」
 でもやっぱり、僕の声は女の子のように弱々しく、どうしても受け身になってしまう。
 段々と、先端がむずむずしてきて、また僕は達してしまいそうになっている……快感に、抗えない……!
 でもそれはダメだ、紅音さんは僕を弄ぶのが目的なんじゃない。
 この人はいつでも、自分と対等の相手を求めてる。最初は紅音さんがリードしていても、そこにがんばって追いついてくる相手が、紅音さんは何よりも好みなはず。
 だから何とか、反撃の糸口を掴まなくっちゃ。え、ええとっ。
「紅音さんは、その、してる……の?」
 伏し目がちに伺うように、紅音さんに同じ質問を返してみる。紅音さんの充血しきった亀頭を、きゅ、きゅって指のリングで扱きながら。
してるわよ
 あっさりと返されたッ!?
「何? それで終わり? やっぱりまだまだね、少年……その、先っぽをするときは、もっと優しくしなさい。こんな風にね」
 やっぱり言葉を選びつつ、紅音さんは指の腹で僕の先端をぬるぬると撫で回す。僕は、ひうっと情けなく鳴いて、腰を震わせてしまう。でも、ここで押し負けちゃダメなんだ……! 言葉を選んでいるところに、紅音さんの弱点があるに違いない。だからそこを、巧妙に、遠回しに、さりげなく……
「紅音さん。エッチな言葉、言ってみてよ」
 ストレートな手段しか思いつきませんでした。
「えっちな言葉? 例えば、どんな言葉よ?」
「え? えっと、その……おちんち……チンポ、とか」
 むしろ言っていて僕の方が恥ずかしい。僕は肩をすくませて、小さく縮こまりながら呟いた。
 どうして、紅音さんの前で、こんな恥ずかしい目に遭ってるんだろう、僕。
 正直な話、もう逃げ出したいくらいだけど、紅音さんの優しい手淫が気持ちよすぎて、あああ。
 でもこれで、紅音さんが多少なりとも弱みを見せてくれれば。
「いいわよ。チンポチンポチンポ〜」
 しかし僕の期待に反して、紅音さんは口をとがらせて、人を小馬鹿にするみたいな顔で連呼した。
 うわあ……僕は思わず眉をひそめた。全然色気が無い。
 何その、悪ガキが教室でズボンを脱いで、女子を苛めてふざけてるときみたいな言い方。確かにその、言ってはくれたけど。
「……もうちょっと、いやらしく言えないかな?」
「何よ贅沢ねっ……んっ、ふううぅ……!」
 猛々しく、熱く脈動する紅音さんのチンポ。それが僕の手の中にあることに不思議な高揚感を感じつつも、何とか紅音さんを打ち倒そうと、手を小刻みに震わせてその欲望の肉根を刺激する。
「どうしたの紅音さん? 言えなくなったの?」
「調子に乗るんじゃないわよ……ち、チンポ……ちんっ、ぽぉ……」
 悪態を吐きながらも、再び言ってくれる紅音さん。そしてその声はさっきよりもよっぽど悩ましい響きを持っていて、僕の鼓膜を甘ったるくくすぐる。ああ、そう、そんな声。紅音さんのそんな声が聞きたかったの。
 紅音さんが見せたほころびに調子づいた僕は、薄ら笑いなんかを浮かべつつ、頬を紅潮させている紅音さんに囁きかける。
「そう、紅音さんの、チンポ……チンポだよ、チンポ。僕なんかに手で扱かれて、さっきからべとべとのおつゆを垂れ流しちゃってる、いや〜らしいチンポ
「私の、チンポ……ひっ、あ、ああっ! チいんッ……ポお……
 やったっ! ついに紅音さんから甘い甘ぁい喘ぎ声を引き出すことが出来た。潤んじゃった目を伏せて、半開きの口からハァハァと熱気に溢れる息をこぼしてる。なんだか、可愛い。
 んふふふ、よし、それじゃあこのまま僕の逆転劇の始まりだ。このまま紅音さんを羞恥責めにして二度と僕に逆らえないくらいにイカせまくってもう虜になっちゃうくらへぶうっ!?
 流星の如くほっぺたに与えられた痺れるような衝撃に、僕の暗い欲望は一瞬にして打ち砕かれた。
「……ッ!
 紅音さん、怒りの無言ビンタだ。喰らってから気づいた。
 って、今僕を引っぱたいた手ってさっきまで僕のアレを握っていた手じゃッ!? うわわわわ。僕のほっぺたがあ。
 いやそれはいいんだ。それにしても無言ってところが怖い。え、ま、まさか、本気で怒ってるんじゃあ。あの、紅音さん?
 ん、いやまてっ。多分今のは、余りにも恥ずかしすぎて、つい反射的に放ってしまったビンタだ。僕には分かる。
 紅音さんは筋の通ってないことが大嫌いだ。僕を引っぱたくときには、必ず何らかの理由がある。
 だけど今回の平手は、紅音さんが感情の赴くままに振り抜いたものであって。僕が調子に乗っていた分を差し引いても少なからず紅音さんに非がある――
 でー。あーるーかーらーしーてー。頬に二度目の衝撃。
ぶうっ!
「はあっ、はあ……!」
 筋の通って居ない行動を取ってしまった自分への怒りに対する八つ当たりビンタが飛んできたッ!
 やっぱりっ! 予想通り! 僕は、じんじんとした頬の痛みと脳髄が直接揺さぶられるような痺れを感じつつも、いつも通りな紅音さんの暴力に諦めの境地だ。
 以前からこの手のビンタを何度も何度も喰らい続けてきたからなあ。やっぱりそう来ると思ってました。
 紅音さん的にはこれは筋が通っているらしい。八つ当たりは八つ当たりだって認識しているから問題はないのだそうな。
 どうも紅音さんの思考回路は複雑怪奇でいけない。理由なんてどうでもいいからさ、ビンタぐらい遠慮無く出そうよ。
 いや、ごめん、やっぱりダメ。それは僕の柔らかいほっぺたがすごく困る。
 でもさすがに、二発も撃てば気が済んだろう。僕は真っ赤に腫れた頬をさすりながら、ゆっくりと姿勢を直す。とほほ。もう、泣きそうだよ。
 紅音さんは、謝罪の言葉を一片たりとも口にせず、真剣な顔で僕の瞳をじっと見つめてくる。
 僕はきょとんとしてそれを見返す。え? 今度は、何?
 強い意志の宿った瞳。凛と筋の通った鼻。溢れるような豊かな黒髪に、引き締まった口元。
 うん、何というか、やっぱり紅音さんは美人だなあ、えへへ。
 べちーん。
 って思ったらまたビンタされたよっ!? 何っ、何さ、今度は何だよもう!
恥ずかしいじゃないの!
 ああっ、ついに認めた!
「ここまで来たら認めるわよ! 全く、恥ずかしい真似をしてくれるじゃない!」
 今更ぷんすかと怒りを露わにして、どたどたと床を踏みならす紅音さん。認めたので、改めてビンタってわけだ。だったら最初っからビンタ一発にしてよう!
 全く――紅音さんがえっちなお相手をしてくれるからって頬をてろんてろんに緩ませて期待してたら、結局いつもの、いや、いつも以上のビンタの嵐だ。いくら堪忍袋の緒の長さに定評がある僕だって、もう付き合いきれません。ふんっ。
「もういいよ紅音さん」
 僕はいよいよふて腐れて、紅音さんに背を向けるとベッドによいしょと寝転がる。
「あ、あら?」
 拗ねた僕を見て、紅音さんのちょっと抜けた声。ここからじゃ勿論見えるわけがないんだけど、今頃紅音さんはあれあれ困ったな、って顔をしているんだろう。
「ううん――」
 困惑しているそぶりをして見せているものの、紅音さんは相当な意地っ張りだ。今更自分のしたことを謝るはずがない。
 いいです。僕も、謝って貰おうなんて思ってないから。
 ただ、今日はもう気分じゃなくなったので、お互いにほとぼりの冷めた頃にまたね、って言うのが今の僕の意志だ。
 今日は紅音さんも多少不機嫌になって帰っちゃうかもしれないけれど、多分またしばらくすれば、紅音さんは何事も無かったかのように、いつものように遊びに――襲撃して来るだろう。
 その時紅音さんは今日のことを蒸し返したりしない。僕も今日の怒りは忘れてる。それで元通り。
 だからそれでいいんだ、と思った。紅音さんと、そう言うことは――その、今でもものすっごくしたいけれどさ。僕は諦めが早いんだ。だからまた今度。僕たちがもう少し落ち着いた頃にしよう、ね。
 って、僕は勝手に思ってたんだけれども。
「ごめんね。やりすぎたわ」
 思ってもいない言葉を聞いたので、僕は何このリアルな幻聴!? と驚いて身体を紅音さんの方に向けた。
 すると果たして紅音さんは、両手をあわせて、ぺこんと頭を垂れていた。
 そこまで真剣味に溢れる謝り方じゃないけれど、謝罪の意志はハッキリと伝わってくるポーズだ。
「え、あ、や、その」
 紅音さんに謝られるなんて、何年ぶりだろう――ともかく久しぶりにそんな経験をした僕は、すっかり慌てふためいてしまって、紅音さんへの怒りはおろか、自分が何を謝られているのかさえ忘れてしまう始末だ。
「ん、何? あなたのそこ、やる気無くしちゃってるみたいだけど。続けるわよ」
 紅音さんは、すっかり萎びてしまった僕のおちんちんに向けて顎をしゃくると、平然とそう言った。
 え、続けるの? それはその、まあうん、それもアリなんだけれど。
「僕としては、今日はもうやめて、次の機会にしたいなって思ってるんだけどね」
 と、力なく微笑んでそう告げると、紅音さんは見る見るうちに不機嫌そうな顔になり、僕の眼前にぴしゃりと人差し指を突きつけた。
「何言ってるの! また次の機会に、なんて言って、次の機会ってのはいつ来るのよ! 明日? 明後日? 来週かもしれない、来月かもしれない、来年かもしれない……ひょっとしたら、いつまでも来ないかもしれない。そんな不確かなものに、私はすがったりしたくないわ。今あなたと接しているこの時だけを大事にするのよ!」
 えっ!? な、何さ、いきなりそのシリアスなセリフ。
 あ、まさか!? 僕は思いついて押し黙る。
 紅音さん、近々、どこか遠くへ引っ越しちゃうとか――
 或いは、実は不治の病で、もう入院しなくちゃならないとか――
 だから、最後の思い出作りに、僕のところへ――
 ああっ! 紅音さんのそんなけなげな乙女心を解してやれなかった僕のバカバカバカ! ビンタの一発二発、いいや数十発だって、広い心で受け止めてあげるのが男ってものじゃないか!
 そんな、紅音さんともう会えなくなるなんて、イヤだよっ。まだまだビンタされ足りないよ、まだまだ叱られ足りないよ!
 ん、ううん。紅音さんが求めてるのは、そんな泣き言じゃない。自分を受け止めてくれる相手を求めているんだ。そしてその相手は僕なんだ。泣いたりしちゃ、ダメだ。
 お別れはイヤだけど、仕方がないって言うんなら、うん、今日はとことん、紅音さんに付き合ってあげるよ。
 僕は決意を込めたまなざしで、紅音さんの真剣な顔を見た。
「紅音さん――」
「あ。言っとくけど、別に引っ越しとか入院とかの予定はないわよ。あなたとはもうお別れ、なんて意志もさらさら無いし」
 僕は自らの意志で背後に吹っ飛び、後頭部を壁面に強かにぶつけた。
 何がしたいんだこの人は。
「だーかーらっ! いい!? 確かにあなたの考えてる通り、それならいつでも会えるじゃん――ってのも、間違いじゃないわ。でもね、ひょっとしたら何かの拍子に、私とあなたが永遠に会えなくなる可能性も、ゼロってわけじゃないでしょ?」
 紅音さんと、永遠に会えなくなる。
 その恐ろしい想像を一瞬だけして、僕は慌てて首を振ってその考えを頭から追い出した。
「人生ってのはね、一期一会なのよ。だから私は、あなたとしようと思ったことは、全部一度にしたいの。いいわね」
 追い出した結果全然方向性が違う発想が僕の頭に湧き出てきました。
 しよう、とか、したい、とか。うふふ、そんな、紅音さん、僕困っちゃう……痛いッ!
「聞いてるの、このエロお子様は!?」
「聞いてますごめんなさい!」
 たちまちピンク色の妄想をしちゃう僕に、切れ味の良い紅音さんのビンタだ。
 それにしても僕も泣いたり呆れたりデレデレしたりと忙しい。
 まー、でも、僕としては。
 僕と紅音さんとの縁が、そんなに簡単に断ち切れるだなんて全然思えないわけだけど。だから無根拠な自信でまた今度、なんて言えるんだけれど。これもまた一つの信頼関係だとは思うんだよね。
 でも紅音さんの言いたいことは分かる。そして僕は紅音さんを圧倒的に尊重する。
 と言うわけで、ええっと、その……
「……続き?」
「続きね」
 やっぱりへらへらにやにやくねくねしちゃう僕に、爽やかで凛とした笑顔の紅音さん。
 スレンダーな裸身をさらけ出し、おちんちんまで丸出しだと言うのに、その威風堂々としたオーラはどこから立ち上るのか。
「まぁー……そうね。何かして欲しいことがあるなら、言ってみたら?」
 僕がいじけたことへの慰めか、悪いことをしたからお詫びのつもりか。
 仕切り直した紅音さんの嬉しい提案に、僕はたちまち色めき立ってそわそわと思考を巡らせる。
 して欲しいことなんて山ほどあるさッ。ええと、ええと、なんて言おうかなッ。
「ただし、言われたからってやってあげるとは限らないとは覚えておきなさい!」
 はう。ご挨拶代わりの軽ーいビンタが来た。紅音さんの手が僕のほっぺたにぺたり。これくらいなら心地良い。ピンタと呼称しよう。
 でも、うん、それはそうだ。
「エロ水着でがに股腰振りオナニーしてよ!」
 なんて言って素直にやってくれる紅音さんとは思えない。やってくれたらやってくれたで、後々の報復が恐ろしすぎる。危ない危ない、また僕は調子に乗るところだった。
 じゃあええっと現実的な妥協点としては――
「口で、して欲しいな、なんて」
「ふうん。……口で、ね」
 特に際だって表情を変えたりせず、軽く頷く紅音さん。と言うかもういい加減にフェラチオとか言っちゃえばいいのに。今更。
「いいわよ。で、して欲しいの? それとも、したいの?」
 えっ、ええっ。承諾の返事が来たのは小躍りしちゃいたいほどに嬉しいけれど、したいの? と聞かれるのは予想外だった。
 紅音さんの、血管が浮き立って硬く反り立った立派なおちんちんを、僕が……は、はう。紅音さんさながらに熱く燃えているから、舌を当てただけで火傷しちゃいそうだ。
 やっぱりさすがに、僕も男だ。おちんちんを舐めるのには抵抗がある。いや、女の子だって抵抗はあるだろうけれどそれは置いといて。
 例えその辺りの抵抗を一時忘れて、僕が唾液をこってりと肉の棒にまぶして情熱たっぷりにぺろぺろしたら、紅音さんはひんひんと可愛い声を上げて悶えてくれるだろう。それはとっても見てみたいのだけれど、その時はその時でまた逆ギレされそうだしなあ。
 と言うわけで当初の予定通り、
「その、僕のを……」
「分かった。じゃあ、そこに寝っ転がりなさい」
 消え入りそうな情けない僕の声を組んで、てきぱきと指示をくれる紅音さん。やった、紅音さんは乗り気のようだ。言われたとおりに僕はベッドに仰向けになって、邪魔な布団を蹴っ飛ばして奥に寄せた。
「そうしたら、やりやすいように足を開いて……手も退けた方がいいんじゃないかなあ」
 のしのしとベッドに上がってきた紅音さんは、この期に及んで股間を覆っている僕の手を無造作に掴んだ。
 え、やっ、そのう。やっぱりまだ、こう、紅音さんに間近でじろじろと僕のおちんちんを見られるのは恥ずかしくて、ほら。
 でもしかし、紅音さんは僕の手を掴んだまま、無理に動かそうとはしない。あくまで、僕の自発的な行動を促すかのように、優しい顔でじっとこちらを見つめるだけ。
「う、うう。……はい」
 僕は観念して、おずおずと手を退かし、充血した恥部を幼なじみのお姉さんの目の前に晒した。
 紅音さんは、良くできましたとでも言わんばかりににっこりと微笑んでくる。こんなシチュエーションじゃなければ、メロメロになってしまうような大人のお姉さんの魅力溢れる笑顔だ。
 いや、今でも別の意味じゃあメロメロなんだけれどね。
「ふーん。ふーん。ふー……ん。こうなってるのね〜」
 意味ありげな呟きを交えつつ、紅音さんは僕の肉棒をじっと観察する。時には、うにっと膨らんだ裏筋をからかうように指先でなぞりつつ、でも決して大きな刺激を与えようとはしない。
 僕は恥ずかしさと期待が入り交じったどうにも落ち着かない気分のまま、そっと顔を横に向けて紅音さんの行動を待っている。してくれる、と言った以上、やっぱりしない、なんて言い出したりはしないのが紅音さんだ。だから安心して、でもやっぱりちょっとだけの不安を抱えながら、僕はその時を待っている――
「ん。ん」
 あれ? 何だろう、この感触。
 僕のおちんちんが、ぬめった温かいものに包まれている、不思議な感触。
 亀頭全体がふわっとマシュマロのように柔らかくなってしまった気分で、それはとても安楽的で心地よくて。
 僕は顔を上げた。そして、自分の肉棒の先端が、紅音さんの口の中にすっぽりと飲み込まれているのを視認した。
ふああぁ
 その瞬間に僕は天にも駆け上る快美な感覚とともに、射精しちゃっていた。

 どぶびゅるるるうぅっ! びゅるっ、ぶびびゅううぅ!

ぷぅっ!? ぷっ、はあっ、ふっ、ふぁ!」
 慌てて口を離した紅音さんだが、やっぱり有る程度の量は口に入っちゃったみたいで。
 口内に残るねば苦い白濁液に顔をしかめ、射精の感覚にほうっと気の抜けた顔をしていた僕のことを軽く睨み付けている。あっ、いえ、その。
「ごめんなさい」
「……いいけど」
 言葉少なく、不機嫌そうに言い放つ紅音さん。
 早すぎるわよ! と言う叱責はまた僕が拗ねるから飲み込んで、イクならイクって言いなさいよ! とは、恥ずかしくて言えなかった。そんなところだろう。多分。
「うーん。そもそも敏感すぎるのが問題なのね。これは、根本から正す必要がありそうね」
 面目ない。って、それは紅音さんも同じじゃないか。僕は口をとがらせた。
「な〜んか言いたいことがありそうな顔ね〜。ま、いいわ」
 またビンタが来るかな、と思いきや、紅音さんはぺろっと可愛らしい舌を伸ばすと、その先端で僕の鈴口を軽くねぶってきた。ひやっ! 不意討ち!?
「いつ如何なる時も油断しちゃダメよ。だって相手は私なんだから!」
 ごもっともです。
 流石に今回は、すぐにまたぴゅうぴゅうしちゃうって事態は避けられたけれど、僕の男根はまだまだ興奮が収まりきらず、またその早漏ぶりをいかんなく発揮してしまいそうな具合で。
 んもうっ、紅音さん、処女の癖になんでそんなにぺろぺろするのが上手いのさッ、さてはひょっとして自分で、やっ、ごめんなさい何でもないです、やだっ、あっ、また、またすぐ、また気持ちよくなっちゃうよおっ……!



 結局十回近く搾り取られたときには、すっかり日も暮れ、辺りは夜のとばりに包まれておりました。カーテンを開けっ放しの窓の向こうはまっくらで、隣家の灯りぐらいしか見えない。
 僕はげっそりとやつれてベッドの上から起きあがる気力も出ず、紅音さんは脱ぎ散らかした自分の上着を掴んで着ようとしている。つまり今日はこれで終わりってわけ。
 最後まで紅音さんにされっぱなしだったし。はうあ。情けないにもほどがある。
 しかも、疲れた紅音さんが呆れて自発的に中止したと言うならともかく、もう持たないと僕がギブアップした結果だしね。凹んじゃうなあ。
「全ッ然まだまだね! 悔しかったら、私相手にもうちょっと持たせてみなさいよ。せめてあんたが三回出す間に、私を一回くらい、うん、――満足させるとか!」
 紅音さんにもっと恥ずかしい言葉を言わせたかったなあ。満足とか、言い換えにもほどがある。
 でも紅音さんの言葉は罵倒じゃなくて、僕のやる気を奮い立たせるための叱責で、励ましだ。それが分かるから、僕もそれほど落ち込んだりはしない。うん。
 そうだね、次の機会には、それくらいにはなりたいなあ。
 次の機会――か。さっきの、紅音さんの言葉が僕の中で引っかかった。一度の機会に、最大限出来ることをする――ね。
 やっぱり僕自身は、普通に、また次回はがんばるよ、って思っているんだけれど――言ったとおり。僕は紅音さんの意思を出来るだけ尊重する。
 だから、スポーティな上着を着終えて、でもまだ下半身はすっぽんぽんのままの紅音さんに音もなく忍びより、後ろから抱きついてみた。
「ちょっと、何よ」
 紅音さんはビクンと肩を震わせたけれど、でもそんなことはおくびにも出さず、いつも通りの調子で僕に言う。
 そして僕はいつも通りじゃないことを言う。
紅音さん、大好き
「ふうん――」
 反射的にそう答えて、そのまま受け流すつもりだったんだろう、紅音さんは。
 でも残念ながらそれは失敗。次に続く言葉が見つからないらしくて、ただただ、頬ばかりをその名の如く紅に染めて。
 僕は紅音さんの細い肩に顎を乗せて、身体をぎゅっと密着させる。素肌と素肌じゃないけれど、布地越しでも紅音さんの身体はとっても温かくて心地がよい。
 そうして紅音さんの股間に手を伸ばすと、やや萎えかかっていたその巨根を僕は優しく掴み上げ、再び血流を巡らせるように何度も扱きだした。
 みるみるうちに剛棒は元の硬さを取り戻して、僕の手の中で脈打っている。
ひゃうっ……! くっ、う、んっ、うう、んっ、んうっ!
 やめなさいよ、とも、何すんのよ、とも言わない。もっとして、とも、気持ちいい、とも言わない。
 ただ声を押し殺してひたすらに耐えようとする紅音さんがとても可愛かった。
「紅音さん。気持ちよくなってくれる?」
「くふっ……ふ、ふぅ しょうがないわね……んっ、ふ、あっ!」
 調子に乗ってはダメ。弱気になってもダメ。僕は自分に言い聞かせて、大好きな紅音さんにただ気持ちよくなって貰いたい一心から掌でおちんちんを愛撫する。
 ――いや本心はうっひっひ紅音さんったら僕相手にこんな姿見せて恥ずかしいなあンもう、とか4割くらい思ってたりするんだけれど、その辺は上手いこと隠すことにして。
 根本から、先端まで、するっと通すように、時にはカリ首の辺りを揉み込むように。睾丸愛撫や乳首責めも……なんて余計な色気は出さずに。ただ紅音さんの男根だけを、こしこしくしゅくしゅと。
んうっ! ふ、んっ、く、ふ、くひい……っ!」
 紅音さんの声がいよいよ切なげなものになってきた。そろそろ、かな。
 僕は紅音さんの耳元で、こう囁きかける。
「紅音さん。イク、って言って?」
「はああっ……あ、ああっ、あ……イ、…… ひっ!

 びびゅるぶびゅびゅぶびびゅううぅっ! ごぶびゅるうぅ、どぶっ、どびびゅううぅ!

 それはもう僕の射精なんか比べものにならないくらいの轟音を立てて、紅音さんはゼリー状の濃厚な精液を床に噴き出した。
 集めればお椀一杯くらいになるんじゃないかってくらい、とても大量に。
「やられたわ……は、あっ、はあ、はあっ……」
 僕が身体から離れると、紅音さんは呼吸を荒げつつ呆然と呟いた。
 うーん。不意討ちだったし、反則すれすれなこともしたけれど。でもやったっ。紅音さんに見事一矢報いることが出来たッ。
 一矢報いたので自制終了。僕は顔中に満面の笑みを浮かべて、ガッツポーズなんてしちゃう。
 すると紅音さんは、くるっと僕の方に振り向いて――なんだかとても、爽やかな笑顔を見せている。
「色々と言いたいことはあるけれど、見事ね。満足――イカされちゃったわ」
 おっと。怒られると思っていたのに、褒められた。僕はますます嬉しくなって、だらしなくえへっと首を縮めて見せる。
 それにしても、さすがは紅音さん、とっても潔い。どうかな、どうかな? 僕のこと、少しは見直したかなっ?
でもやっぱりなんか悔しいわ!
 ぱあん、とそれはもうとても小気味良い音を立てて僕の頬が鳴る。今日最高のビンタだ。
 そして僕はそれを逃げも隠れもせず受け止めて、斜め後ろに吹っ飛ばされるのであった。


(終わり)