焼き芋とベンチとあゆと
なんとなく、あゆでほのラブっぽいのです。
ちょっと時季はずれでしょうか・・・?
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空は青く、しんしんと透き通るようだ。
季節は秋。
俺は、休日だというのに珍しく何もすることが無く、商店街をぶらぶらと歩いている。
街路樹はとっくに葉を朱に染め、俺に秋の訪れを告げる。
くんくん・・・・
ん?なんだか妙にいい匂いがするな・・・
「いしや〜きいも〜」
お、懐かしいな。焼き芋屋だ。
「やきいもやさ〜ん、まって〜」
たったかた〜
小さい子供達ががんばって後を追いかけている。なんとも、微笑ましい光景だ。
「うぐぅ、焼き芋屋さ〜ん、まってよ〜」
たったかた〜
・・・それほど小さくない子も混じっていた。
*
俺は念願の焼き芋を手にして幸せいっぱいのあゆに声をかけた。
「よう、あゆ」
「あっ、祐一くん」
その手には新聞紙にくるまったやや大きめの焼き芋が湯気を立てている。
紫に絡まる微妙な焦げ目からしてとても美味しそうだ。
「今回の戦利品か?」
「うぐぅ・・・出会って早々、失礼だよっ」
「じゃあ、押収品」
「同じだよっ。ちゃんとお金払ったもん」
「あゆが金を払うなんて、珍しいな」
「普通だよっ」
毎度おなじみのたわいないやりとりを交わしつつ、俺とあゆは商店街を歩く。
いつしか、町外れまで歩いてきていた。
「わぁっ・・・」
ふいに、あゆが感嘆の声を漏らす。
目の前には、真っ赤に彩られた木々。
町外れの公園にも、やや遅まきながら、秋は遠慮なくその証をたてている。
「きれいだね」
「ん・・ああ、そうだな」
俺とあゆは、ごく自然に、片隅のベンチに腰を下ろす。
わずかな音を立ててベンチがきしむ。木のベンチは、わずかな冷たさを俺達に与え、俺達を受け止めた。
「はぐ、はぐ・・・」
あゆはさも美味しそうに焼き芋を頬張っている。
「はぐ・・・ゆういひふんも、たへる?」
「ちゃんと全部食べてから喋れ」
俺は苦笑しつつ、新聞紙の中から多分一番大きい焼き芋を取り出す。
はぐ・・・
今だ湯気を発し続ける焼き芋を、口へ運ぶ。
ほくほく
ちゃんと中まで火が通っていて、なかなか美味しい。90点と言ったところか。
はぐ・・・
あゆと二人、こうして何もせず、ただぼーっとして焼き芋を食べる。
はぐ・・・
辺りの紅葉は目に眩しく、だが、多少の寂寥感を感じさせる。
はぐ・・・
誰もいない公園で、ただ、噴水の音だけが静かに、静かに広がる。
はぐ・・・
しかし・・・
「おいあゆ、ちょっとペース早くないか?」
「はいひょうふだひょ、ゆういひふん」
なにがどう大丈夫なんだ。
「らって、おいしいんはもん」
「まあ、そりゃあそうだが・・・そんなにハイペースじゃあ・・・」
「うぐっ!?ごほ、ごほ・・」
ほら見ろ、言った側から!
焼き芋をのどに詰めてむせ返るあゆ。その丸めた背中を、ぽんぽんと軽くたたいてやる。
「大丈夫か・・・?」
「うぐぅ・・・けほっ、もう、大丈夫・・・」
あゆの目には涙がたまっている。
「全く・・・少しは落ち着け」
「うん・・・ごめんね、祐一くん、心配かけて」
「気にするな」
「うぐぅ・・ありがとう」
「そのかわり焼き芋もう一個没収だ!」
言うが早いか俺は新聞紙の中から焼き芋を一つとりだした。
「あっ、ダメだよ、もうあげないよっ」
「こんなにあるんだ、けちけちするな」
「うぐぅ・・もう一つしかないよっ」
「十分だ」
俺は早速強制的に頂いた焼き芋にかぶりつく。
「ほぐ・・うん、うまいな、」
「うん!おいしいよね・・・って、ああ!ボクの焼き芋がぁ〜」
あゆは心底悲しそうな顔でこちらを見つめる。
その顔があまりにも悲壮だったので、思わずぷっと吹き出してしまった。
「うぐぅ・・・」
「焼き芋くらい、いつでも買えるだろ」
「でも・・・」
あゆは沈んだ顔で俺の顔と焼き芋を交互に眺めている。
まったく、こいつと来たら・・・
「なあ、あゆ。そんなに食い意地はってると、・・・・」
「・・・・なに?」
「太るぞ」
「うぐぅ!ボク太ってなんか無いもん!」
あゆは頬をぷくっと膨らませて、俺に抗議する。
「どれどれ」
俺はあゆのほっぺたに手を伸ばす。
くい うにゅう
「おお」
あゆのほっぺたは、驚くほど柔らかかった。
「手遅れだ」
「はなひてよほ」
うにゅう
「おお、おお」
引っ張ると面白いほど、伸びる、伸びる。
「ひたひよふ・・・・もぅっ」
あゆは自力で俺の手を振り払った。
俺は遠くを見つめ、呟く。
「天高く、うぐぅ肥ゆる秋・・・・か」
「なんだよ、それ・・・」
「あゆ・・・暴飲暴食は、ほどほどにな」
「うぐぅ・・・ボクそんな事しないもん!」
「とてもそうは見えないぞ」
「食い意地がはってるのは、祐一くんの方だよっ!なんでボクの焼き芋をとっちゃうんだよっ」
「おいしいからだ」
我ながら実に正当な理由だ。
「うぐぅ・・・そんなこと言ってると、祐一くんの方こそぷくぷくぷくぷく太っちゃうよ」
一瞬、俺の頭の中にだらしなく太った自分の姿が浮かぶ。
・・・相当、いやだ。
「あゆ・・・よせ」
「大丈夫だよ、祐一くん、もし祐一くんがおでぶさんになっても、今までと変わらず接してあげるからね」
あゆは大仰に手を開き、太った俺の姿をイメージさせる。
なんだかすごく嬉しそうなのが気に障る。
「なにおう、そんなこと言うのは・・・・」
この口か、と言う前にあゆは自分のほっぺたをガードした。
恐らく俺がまたも自分の頬をうにうにやるのでは、と予想したからだろう。
・・・・むむ・・・・
では、
こうだ!
俺はあゆの頭を押さえると、強引に自分の唇をあゆの唇に重ねた。
「!」
突然だったため、歯と歯がカチッとぶつかってしまった。
・・・・・・
ふ、ふふ、どうだ、あゆ。
俺だって、これぐらい・・・
・・・・いやまて、いったい俺は勢い余ってなにをしてしまったんだ?
自分の行為に気づく。
で、でも、このくらい・・・・
いや、しかし・・・・
ぷに
柔らかな感触。
あゆの体温が、唇を通して伝わってくる。
あゆが、びっくりしている。
俺だって、びっくりしている。
・・・・・・
ややあって、唇を離す。
・・・・・・
あゆはまだ自分の頬を押さえたままぼーっとしている。
なんとなく、落ち着かない。
俺は何事も無かったように再び焼き芋を口に運ぶ。
「ああ、焼き芋がうまいなあ」
まるで棒読みのセリフのような言葉。
本当は混乱のあまり味なんて全然わからなかった。
「な・・・な、なにするんだよっ!」
突然、我に帰ったあゆが、真っ赤な顔で憤慨した。
「なんだろうなあ」
俺はそっぽを向き、素っ気なく答えた。
本当は、あゆと同じように真っ赤になっている俺の顔を見られないため。
同じように動揺している、俺の心を気取られないため。
・・・・・・・・
全く、なんでこんな事してしまったんだろう・・・
・・・・・・・・
またも、沈黙の時は訪れる。
遠く噴水の音だけがやけに耳に響いた。
・・・・・・・・
あゆはただ下を向き、何も言わずうつむいている。
俺はどうすることも出来ず、あさっての方を向いて焼き芋をただもぐもぐと食べるだけだった。
誰か他人が今の俺達を見たら、気まずい雰囲気のカップルとしか見えなかったろう。
さいわい、辺りには誰もいなかったが。
「ああ、食った食った」
焼き芋をしっぽまで食べ終え、俺は何とはなしにそう呟いた。
結局どんな味だったかは最後までよく分からなかった。
公園の木々は赤く燃え、俺達を囲んでいる。
その光景に、奇妙な圧迫感を感じた。
「どうして・・・」
あゆが、ふいに呟く。
「どうして、いきなりこんなことしたんだよっ・・・」
「どうして、いつも、祐一くんは・・・」
「ボクをいじめて、からかって・・・・」
その神妙な雰囲気に俺があゆの方に振り返ると、あゆはうつむきながら、拳をわなわなと震わせていた。
え・・・・まさか
泣いて・・・いるのか?
俺の問いに答えるように、震えている真っ赤な顔に、きらりと光るもの。
その雫がポタリと堅く握りしめられた拳の上に落ちる。
「あ・・・」
取り返しのつかないことを・・・・してしまったかな・・・・
俺は、自分の軽率な行動を反省した。
「あゆ・・・」
「・・・・・」
謝らなくちゃな・・・
「ごめんな・・・」
「・・・・・」
すこしくらい、素直にならなくちゃな・・・
「俺が、お前をついいじめたり、からかってしまうのは・・・」
「・・・・・」
「で、今、キスしたのは・・・・」
「・・・・・」
「えーと、その・・・」
「・・・・・」
ここまで来たら、言うしかないか・・・
「お前が、可愛いから、なんだと思う・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・え?」
「悪かった、だから、許し・・・・ぷわっ」
「そうなの!?」
途端にあゆは顔を上げ、ぐしっと一息に涙を拭った。
突然のことに、俺はすっかり面食らってしまった。
その顔は、いままで泣きはらしていたとは思えないほど、爛々と輝いていた。
「本当?祐一くん、それ、本当?本当?」
ぐいぐいと俺に詰め寄る。
あゆはもうこれ以上無いほどにこにこにこにこ笑っていた。
・・・・・・・泣いたあゆがもう笑った。
「うぐぅ・・・ボク、困っちゃうよぅ・・・・」
あゆは勝手に盛り上がり、頬に手を当て、ぶんぶんとかぶりを振る。
先程とは違った意味で頬が真っ赤に染まっている。
ぐああ・・・しまった、こいつを調子づかせてしまった・・・
滅多なことを言うべきじゃなかったな・・・
その様子からは、先程の落ち込んだ状態は想像できない。
なおもあゆは身をよじれさせる。
「うぐぅ、うぐぅうぐぅうぐぅぅ・・・・♪♪♪」
なにやら大変な興奮のしかただ。
ベンチがぎしぎしときしむ。
おかげで今までの俺の申し訳ない気持ちはどこかへ吹っ飛んでしまった。
「あ、あのな、あゆ・・・・」
「もう・・・祐一くんたら、もうっ・・・もうっ」
聞いちゃあいない。
それどころか、あゆはますます調子づいて、
「ね、祐一くん、もう一回言って?ね?ね?ね?」
・・・とんでもなく恥ずかしい要求をしてきた。
あゆは期待に満ちた目で俺の顔をのぞき込む。
うっ・・・くそ
しょうがないな・・・
「俺が、」
「うん!」
「あゆをついいじめてしまうのは、」
「うんうん!」
「お前が・・・」
「うんうんうん!」
あゆの期待は最高潮に高まっている。
そこで俺は一息つくと、
「・・・・お前が「うぐぅ」だからだっ!」
「・・・・・うぐぅ?」
「「うぐぅ」だからだっ!」
さらにもう一度言ってやった。
「うぐぅっ!言ってることが違うよっ!」
「ええいうるさい!このうぐぅめ!」
俺は気恥ずかしさも手伝って、またもあゆのほっぺたをうにぅと引っ張る。
「うぐぅぅ!!!」
あゆは怒ったような、でもちょっと嬉しそうな顔で、俺をぽかぽかとたたく。
そんなあゆを見ていると、
やはり、心の奥では、
ちょっと
・・・・・・「可愛い」と思ってしまうのだった。
(とりあえず、おわる。)
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解説・・・・
しまった・・・本当はもっとほのぼのにするはずが、いつのまにかラブラブに・・・・
なぜにたい焼きでなく焼き芋?
その時の時節柄・・・といいますか、ああ・・・それは不問として下さい(^^
あゆでむにゅう。(爆)
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