しずかなよるに


クリスマスSSです
短いです

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ジングルベール
ジングルベール
鈴が鳴るー


クリスマスの夜

街は赤と緑のイルミネーションに彩られさながら別世界のような様相を醸し出していた
まあ、毎年見られる安っぽい別世界ではあるが

この光景があってこそクリスマスを実感できる
まるで本末転倒だ

俺はコートのポケットに手をつっこんで歩きながら
街中に流れるおなじみのメロディーを聞いていた


「寒いですね」
俺の傍らの天野が呟く

「・・・そうだな」
俺は気の抜けた返事を返す


水瀬家でのパーティーの帰り
シャンペンで酔っぱらった真琴が大暴れしてはちゃめちゃな騒ぎだった



「なあ、天野・・・・」
俺はふと気になっていたことを聞く

「なんです?」
「パーティー・・・・楽しかったか?」

天野はクスッと笑う
そんな風に無防備に笑顔を見せてくれるようになったのは最近だが

「相沢さん・・・・真琴と同じ事を聞くんですね」
「え・・・そ、そうか」
俺はちょっと照れくさくなってあさっての方を向く

「そんなに、つまらなそうに見えましたか?」
「いや・・・・そう言う訳じゃないが」

「私は、みんなが騒いでるのを見てる方が好きなんですよ」
天野は、そう言って微笑む
正直、ちょっとドキッとするくらい可愛い顔だった

「だから、心配してくれなくていいですよ」
俺は溜息をつく
「はぁ・・・・だから天野は」
天野の顔が途端に険しくなる

「・・・・なんです?相沢さん」
慌てて開きかけた口を閉じる
「いや、何でもない」
「そうですか」

・・・・おばさんくさい、なんてもう言えないよな・・・・


「真琴、大丈夫でしょうか」

その後、真琴はひとしきり大暴れした後、くるくるまわってぱたんできゅーしたのだ
秋子さんがあらあらといいつつ介抱していた
どうも疲れて寝てしまったようだったが

「大丈夫だろ、たかがシャンペンくらいで」
「そうですよね」

そう言って天野はまた笑う
出会った頃には考えられないくらい無邪気な笑顔で


・・・・おばさんくさい、なんてもう言えないよな・・・・・

・・・・こんなに可愛い笑顔を見せられたんじゃあ・・・・・


「なあ、天野。家はどの辺だっけ?」
「後少しです」


俺達の足は、商店街の真ん中に立った、巨大なクリスマスツリーに差し掛かる


思わず見上げてしまう


「はぁ・・・・」
「大きいですね」


目の前に広がるのは絢爛豪華なデコレーションを施された大きなもみの木

「この商店街の自慢のもみの木らしいが」
「綺麗ですね」
天野はそのもみの木に見とれている

「こういう物を見ると・・・・・ああ・・・・・クリスマスなんだって思いません?」
「ああ・・・・そうだな」
それは本末転倒
でも、別にそれでも構わないじゃないか


一年に一度の人工的なお祭りの日
それでも
これだけ綺麗な物を見られて
みんなとバカ騒ぎが出来て
恋人達は愛を交わし
子供達はサンタを待ちこがれる

クリスマスの日


ふと、気づくと

天野は神妙な様子で目を閉じて、手を胸の前で組んでいた


「何してるんだ?天野」

「見てわかりませんか?」

「ああ、わからないな」

「ふぅ・・・・」

天野はちょっと呆れたような顔をする。

「お祈り、ですよ」

「お祈り・・・?」

俺は聞き返す。

「そうです。そもそも、クリスマスという物は、本来ならば教会で厳粛にお祈りをして過ごす物なのですよ」

「ああ・・・」

そう言えば、そうだった。昔、社会科の勉強で聞いたことがある。

「相沢さんも、お祈りしたら、どうです?」

「お祈りと言ったって・・・・俺は、何を祈ればいいのかすらわからない男だぞ」

「なんでも、いいんですよ」

そう言って天野はちょっとはにかむ。

「そう。なんでも・・・・相沢さんの好きなことで」

「そうか・・・・」

天野の言葉に従い、俺は形を真似て手を組み、目を閉じる。

えー・・・・と・・・・

何を、祈ればいいんだ・・・・

何も思いつかない。

では、ま、とりあえず・・・・





・・・・・・・・・






その時

俺達は目を閉じていたから気づかなかったが

遙か天に立つもみの木の

そのさらに上方、天空の彼方から

真っ白い

雪が

音もなく








・・・・・・舞い降りてきた





























・・・・・・silent night.


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・・・解説

はい、こんばんは、F.coolです
「アシスタントの水瀬秋子です」

突発的に書いてみた美汐クリスマスSSですが、いかがでしょうか
「ところで、祐一さんは何を祈ったのですか?」

それは、秘密・・・ということで。
「そうですか・・・・」

では失礼します。
「メリー・クリスマス・・・・・」


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