シンデレラ・ハイスクール

 ほう、キミが新任の副会長か。
 確か、天野、美汐君……と言ったか。
 ああ、そんな堅苦しい挨拶は抜きで良いよ。
 僕か? 僕がここの会長……久瀬、ん、なに、知ってる?
 まぁそれはそうだろう。
 こほん、まぁ頑張ってくれたまえよ、僕らの仕事はこの学校をよりよくすることだ。
 キミはどうして生徒会に? ん? 友人が?
 ……ふむ、詳しい事情は知らないが、その友人の為にも自分を変えたいと。
 よく分からない理由だが、きちんと仕事をしてくれれば文句は言わないよ。
 宜しく。
 ん? キミ、結構、可愛いじゃ――
 ああ、いや、気にしないでくれたまえ。独り言だ。
 では早速書類の整理と――

 ああ、天野君。他の連中はどうした?
 何? ああそうか、何も言わなくて良い、きっとキミに仕事を押しつけて帰ったのだろう。
 キミも大変だな。
 慣れている、か。殊勝な心がけだが……まあいい、僕も手伝おう。
 遠慮はしなくていい。これも会長の仕事だからな。

 おや天野君、今帰りか。
 ちょうど良い、僕と一緒に帰らないか。
 ――何故そこで意外そうな顔をするんだ。
 僕がこんな事を言うのがそんなにおかしいか。
 もう冬だ、夜道は暗い、女性一人では危なかろう。
 ふん、僕とて女性のエスコートくらい……
 何、顔が真っ赤? 余計なお世話だ。 わ、笑うなっ。
 おや? ……僕は、天野君の笑顔を、今始めて見た気がするよ。
 キミは笑顔が魅力的だな。

 ええ、では、始業式の挨拶は天野君に――
 では、議事を解散します。
 ふぅ……ようやく終わったな。
 おや、天野君か。どうした?
 そう自信がなさそうな顔をするものではないよ。
 この抜擢は正当なものであると僕は確信している。
 買いかぶりなんかじゃないよ。
 ふふ、僕はとうにキミの可愛さに気づいているんだ。
 今日も帰り道、肉まんを買っていくかい?
 気にするな、僕のおごりだ。ただ、太ると――
 こ、こら、冗談だ、怒らないでくれ。

 ここが僕の部屋だ。
 ああ、そう緊張しなくても良い。
 別に変なことをするわけではない、ちょっと明日の始業式のために、キミを変身させてあげよう。
 大丈夫安心して、僕はキミを――
 こほん、僕は生徒会長だと言おうとしたのだよ。さて――まずは髪型からだな。

 どうだ、これがキミの姿だ。驚いたかい?
 そう、もっと魅惑的な視線を、こうだ。こう。
 突き放すような瞳は止めて、暖かい雰囲気を。
 そうだ、いいぞ、これで全校生徒がキミの虜だ。

 あっはは、皆が驚いているよ。
 実に爽快だな。
 おお、天野君お疲れさま。
 さて、昼ご飯は、何? 弁当を? 嬉しいな、それは。心遣い感謝するよ。

 皆の視線が痛い? そうかい? 気にしすぎだ、もっと自信を持って良い。
 僕が嬉しそうに見えるかい? ああ、それはそうだろうな――ははは。
 シンデレラとランチタイムか。悪くない――

 天野君、どうした、そんな困った顔をして。
 なに、ラブレター? 破って捨ててしまえ、そんなもの。
 出来ないか。君は優しいな。
 噂じゃキミは高嶺の花だそうだ――ははははは。

 どれ、帰ろうか。ああ、もちろん、肉まんは買ってあげよう。
 ほら、手が冷えているじゃないか。僕が握っていてあげよう。
 このまま、僕たちは、ずっと一緒だよ。

 天野美汐は、僕のものだ。

 おや、天野君。
 今日は――何? 用事があるのかい。気にするな。そう言う日だってあるだろう。
 じゃあ、また明日。

 ……天野君。今朝、一緒に居た男は、誰だ?
 相沢祐一? 聞いたことがある名だが……とにかく、キミは――
 お、おい! 何処へ行くんだ!

 クソ、あの男が相沢祐一か。
 確かに僕より背が高くて顔もまぁまぁ……だが、それだけじゃないか。
 僕には数段劣っている。どうして天野君はこんな奴を。

 天野君、天野君!
 はぁはぁ、やっと追いついた。一人で帰ろうとするなんて酷いじゃないか。
 ……どうしてそんな怪訝そうな目をするんだ。
 ほら、肉まんだ――要らない?
 今更まとわりつくなって……どういう意味だ。
 お、おい、天野君!

 一人の帰り道、彼女はどうしているだろう?
 相沢祐一と手を繋いで仲良くやっているのだろうか。
 ああ、息が白い。

 天野美汐は、僕のものだろう?

 髪型を変えて、服装も綺麗に、ああ、メガネなんて外してしまえ。
 今更遅いか。いいやそんなことはない。
 僕が奴に何が劣っているというのだ。
 まだだ。まだ、これからだ。

 僕は生徒会長だ。

 天野美汐は、僕のものだ。
 天野美汐は。


(終)

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