AM 6:00

ピピピ……ピピピ…カチッ

「はい、また私の勝ちですね」

目覚ましより早く起きていた私は、鳴り出した目覚まし時計をそう呟きながら止めました。

普段の私は目覚まし時計より早く目が覚めるので、

着替え中にアラームを止めることが日課になっているんです。



起きた時にスイッチを切ればよいかもしれませんが、

既に一日の日課に組み込まれてしまった事を止めるのは何となくスッキリしないので

アラームが鳴るまでそのままにしているんです。



さ、早く着替えて朝ご飯を作りましょう。

私はエプロンを羽織り、台所に向かいます。


うん、冬の早朝は空気がピーンと張りつめた感じがして気持ちが良いです。

まるで空気が固形化してその場所を保存していたかのような廊下を突っ切って台所へ。

さぁ、今日の朝ご飯は何にしましょうか。


まな板と包丁の前に立った私は頬に手を当てちょっと考え中。

そうね、今日はご飯に目玉焼き、お味噌汁にしましょう。

メニューが決まったので早速お味噌汁の具のお豆腐を、と………。


あら、自己紹介が遅れました。

名雪の母、水瀬秋子です。















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  だって、秋子さんなんだもん  〜黒い恐怖〜

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さってっと。

名雪も祐一さんも学校に行きましたし、少しのんびりしましょうか。

今日は仕事も休みですし。

え? どんな仕事なんだ? ですって?

うーーん、それは企業秘密です。










私は午前中、珍しくテレビを見て過ごしていました。

「うーーん」

両腕を頭の上に上げてぐーーっと体を伸ばしてみます。


ふぅ、久しぶりにのんびりするのもいいですね。

でも、少しお腹がすきました。

壁に掛けてある時計を見るともうすぐお昼です。

それではお昼ご飯にしましょう。

祐一さんと名雪が学校に行っているのでひとりで食べることになりますが、

ちゃんと自分で作ります。

出前を取るようなことはしませんよ。













私はお昼ご飯を作りにエプロンを羽織って台所に入っていきました。


すると、そこに、「あれ」が、いたんです………。



そう……、その黒い物体………。


触角をヒクヒクと動かしながら…………壁に…………。












い、いやぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!





駄目!! 駄目です!!

ネズミもカエルもヘビもナメクジも大丈夫ですけど、「あれ」だけは駄目なんですーーー!!


私は声にならない絶叫を上げつつも、必至に心を静めようと努力しました。

なんと言っても、今この時からここは戦場。

「あれ」を葬るまで負けるわけにはいかないんです!!





すーー、ふーー。すーー、ふーー。

私はドクドクと脈打つ胸を押さえながら、大きく息を吐きます。

勿論息を吸うときは口を小さくしていますよ。

だって、あんなのが居るところの空気を大きな口を開けて吸えません。




で、でもなぜ!?

あれだけは家の中に入ってこないように鉄壁の防御を敷いていたはずなのに!!

あらゆるトラップ、あらゆる囮をくぐり抜けてきたというのですか?

………上等です。

それならば、チャレンジャーに相応しく、本気で相手させていただきます!!






……………誰ですか!! 「既に本気で、しかも相手に押され放しだ」なんて言っているのは!!



私はどこからか飛んできたツッコミに逆ツッコミをかましつつ、「あれ」に向き直ります。




…………ひーーん、やっぱりイヤですーー。

近くに寄ることすらイヤです!

「あれ」が目の端に移ることすらイヤなんです!



………でも、でもでも、あのまま放って置くわけにはいきません。

あんな物を放っておいては台所が汚染されてしまいます!

一家を預かる主婦としてそれだけは許せません!!





私はとにかくあれに対して有効な対処法を頭から引き出しました。

えと、確か……

1.叩いて潰す

却下です!! 「あんなの」の近くに寄れません!!

それにそんな事をしたら後始末が大変です。



2.熱湯をかける

これは良さそうですね。

ああ、でもポットは「あれ」の向こう側です。

コンロはこっち側だから今から沸かせば……なんて、今から沸かすなんて悠長なことやってられません!!




3.殺虫剤をかける

最近の「あれ」には殆ど聞かないとき来ますから、却下です。

それに殺虫剤でよけい活性化したら………いやぁぁ!! 考えただけで震えが来ます。


4.中性洗剤をかける

これは良い方法かもしれませんね。

なんでも中性洗剤は「あれ」に対して凄い破壊力を持っていると聞きますから。

それじゃあ、これにしましょう。




私は基本方針を決め、流しに置いてある中性洗剤にそーーっと手を伸ばします。

まだあれは悠然とそこに留まっています。

下手に動いて、「あれ」まで動き始めては元も子もありませんから、慎重に、

とにかく慎重にゆーーっくり動いて中性洗剤を手に入れました。


うふふ、これでもう大丈夫。

さぁ、覚悟してください。



私は狙いを定めつつ、洗剤のボトルを握りしめました。





カサカサッ





いやぁぁぁあぁぁーーーー!!

動かないで下さいーーーー!!!


そんな事言っても「あれ」は下等生物、人間の言葉なんか分かりません。

……いえ、分かってたらなおさら動き回るでしょうから……って、こんな事考えてる暇ありません!!


「えい! えいえい!! えいえいえいえいえいえい!!」

ほぼパニック状態に陥った私はあちこちに中性洗剤を振りまきます。


でも、「あれ」は憎たらしいことにあちこち逃げ回ります。

ひーーーーん、いやぁぁぁぁ。

あちこち動いて台所を汚染しないで下さいーーーー!!



もう完全にパニック状態になった私はなりふり構わず中性洗剤のペットボトルを握りしめました。




しかし、そんな戦い方では先が見えていたのです。


スカッ



ああ、洗剤が切れてしまいました!

そんな! なんて事ですか!! もっと大きい洗剤を買っておくべきでした!!


根本的なところが間違ってる気がしないでもありませんが、私が一瞬、その事に囚われて

隙が出来た事は間違いありませんでした。


そんな隙を、「あれ」は見逃さなかったんです。



「あれ」は、自分の勝利を確信したのか、トドメとばかりに、

…………こっちに向かって飛んできたのです!!







「いっ、いっっっっっやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!!」







ジャキッ!!

パァンッ! パァンッ!!


その時、私は無意識にエプロンの裏に隠してあったモノを握りしめ、

「あれ」に向かってその力を行使していました。







「……………………………………あら?」

もう、「あれ」の気配がしません。

いえ、居るのは分かるんですが、さっきは飛んできたりとかして、

その存在を十二分に知らしめていたのですが、今はそんな気配がしないのです。


私はおそるおそるそちらの方を見ました。


すると、「あれ」は既に戦闘停止、息絶えていました。

あら、するとこれは……。


そのとき私の手に握られていたのはコルト=パイソンの4インチモデル。

「あらあら、つい抜いちゃったわ」

私は無意識に銃を持っていない左手を頬に当てていました。

どうやらこれは癖みたいですね。



コルト=パイソンはソーコム・ピストルみたいにサイレンサーを付ける様なタイプじゃないので

銃声が近所に響いてしまいました。

まぁ、好奇心で爆竹を鳴らしてしまったと言えばとりあえず納得してくれるでしょう。


でも専用の弾じゃなくて練習用の弾を詰めておいて良かったです。

もし専用の弾丸を詰めていたらいくら私が設計した台所といえども

かなりの被害が出ていたでしょうから。






「それにしても…………」

私は台所の現状に目を向け、ため息をついてしまいました。


あちこちに撒かれた中性洗剤。

めり込んでいる弾丸と、「あれ」

そして、二度とあれが入ってこれないようにセキュリティの強化。

やることが多くて目眩がしました。

でも、仕方ありません。

私はへたり込んでいた場所から立ち上がって作業を開始しました。






特に「あれ」の処理に一番時間が掛かったのは言うまでもありません。


あーーーーん、イヤですーーーーー。













その夜



「ねえ、お母さん」

「なあに、名雪」

「あんな所に穴、開いてたっけ?」

「あら、あれはあの時の……」


訝しがる名雪をごまかすのは一苦労でした。


はぁ……、もう「あれ」の事を考えるのはイヤです。









しかし私は知りませんでした………いえ、忘れていたんです。

余りに強い衝撃、精神的ショックを受けると、それが夢に出てきてしまうことに。










その夜、突然の銃声に驚いて皆が起き出してくるのもお約束というモノかもしれませんわね。

えーーーーん、あんなの夢にまで見たくないですーーー。












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ども、ぱとりっくです。

うわあああ、なんてお目汚しなモノを送ってしまったんだ(><)

しかも「いたづら秋子さん」の影響モロ受けです。

F.coolさん。こんなので良ければ貰ってやって下さい。m(__)m


………え? なんで秋子さんが「あんなモノ」持っているかって?

題名をもう一度見てください(^^;

それでわーー。




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