いたづら秋子さん 派手な水着です


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 じーわ、じーわ、じーわ、じーわ…

 ああん

 暑い、です。

 冬の間は凍てつくような寒さのこの雪の街でも、

 夏はやっぱり暑いです。

 それは名雪も祐一さんも同じようで、二人とも何をするでもなく

 ぐでんと居間で横になってたりしています。

 はふぅ

 それで、少しでも涼みをとろうと、プールに行くことになったのですが…





 ここはデパートの婦人服売り場の一角、水着コーナーです。

 名雪は去年何度も泳ぎに行ったから、水着は問題ないのですが、

 私は、ここ数年あまり泳ぎになんて行ってませんので……

 こうして、水着を買いに来る羽目になったのです。

 ……そもそも、初めは私が泳ぐ予定は無かったはずなのです。

 それを名雪が、

「お母さんも一緒に泳ごうよ〜」

 なんて言うから……

 私は、この歳じゃ恥ずかしいわ、と断ったのですが……

 今まで横で聞いてないそぶりをしていたくせに、

 祐一さんったら「そんなことありません!」なんて、言うんです。

 もう、そんなに強く否定しなくても良いじゃないですか。

 ……ちょっと、嬉しかったですが。

 それで、私は二人の強い勧めもあって、こうして水着を買いに来たのです。

 それに……祐一さんが、私に泳いで欲しいと言うことは、

 もしかしたら……その、つまり、私の……水着姿を……

 うふふ

 やんやん

「……あの、お客様?」

 はっ

 しまったです

 いつの間にか、店員さんが近くに来ていました

 恥ずかしいです

「……こほん、は、はい、何でしょうか?」

 私は顔の赤らみをごまかすように、咳払いをして答えます。

「ええと、水着をお探しでしょうか」

 私が肯定の旨を告げると、店員さんは、それならこちらにどうぞ、と案内してくれました。

 ……店員さんに連れられて、着いた先には……

 ……がーん

 な、な、な、なんですかこのいやらしい水着の数々は

 うそ うそうそ

 今時の若い人たちはこんな水着を着ているのですか

 ひとつ 手に取ってみてみましょう

 ビキニタイプの これは

 ぴろーん

 ひン

 これじゃあ 胸の先がギリギリで隠れるくらいです

 下の方も ほんの少ししか布地がありません

 いやん

 こんな水着 着れません

 ……でも、もし着てみたら……



 はぅっ

 だめだめ

 いやぁ はしたないです

 年甲斐もなく
 いえいえ そんな まだ若いですが

 せめて もう少し 普通の

 あら これなんかどうかしら

 ……ぴろん

 うん いい感じ

 後ろは

 きゃっ

 がーん

 てぃ、てぃ、てぃーばっくでした

 お紅茶を入れる
 違います

 こんな こんな お尻丸出し

 はぅ

 私の顔が真っ赤になっちゃいます

 こんなの 人前じゃ着れません

 いえ 自分一人なら着れるとかそういう訳じゃなく

 いえ そんな

 祐一さんの前ならだなんて
 あああっ
 違いますっ

「お客様、お決まりですか?」

 はっ

 困ったわ まだ決まってません

 ええと ええと

 私はつい慌ててしまいます

 あ

 これ これ ダークレッドで 素敵な色合い

 いいかも

 えと セパレートタイプでも無いようですね

 ちら

 後ろはてぃーばっくじゃありませんね

 でも 布地がちょっと少ないような

 あら パレオが付いてるんですか

 おしゃれですね

「秋子さん、そのパレオ似合ってますね」

 だなんて 祐一さんったら

 恥ずかしいですよっ

「……お客様?」

 あ あらあら またぼーっと

 うん これにしましょう

「はい 決めました」

「有り難う御座います」

 レジで精算

 じゃらじゃら ちーん

 あら けっこうお買い得

 得した気分です

 るんるん♪





 ……そして、当日……になって気づいたのですが……

 いざ、着替える段になって……

 な、な、な、な、なんですかこの水着はっ

 背中が

 ぺろん

 まるあきですっ

 しかも

 前の方も 首から二本の布地が伸びていて それが胸を隠す様になっているのですが

 細いですっ! 細すぎます!

 そして ……その 大事な部分も

 あ、あんまり隠れません

 むだ毛の処理は怠ってないので安心で
 違います

 あああっ

 こ こ こ

 こんなの

 こんなの 水着じゃありませんよっ

 はぅ

 あのとき きちんと確認しなかったのが運の尽き

 どうしましょう どうしましょう

 さすがにもの凄く抵抗があります

 露出度高すぎますっ

 胸の谷間も ほら くっきり

 あああっ いやぁっ

 だめだめ こんなの 着られません

「おかあさ〜ん 早く〜」

 名雪はカラフルな柄のビキニ

 パレオなんて巻いちゃって

 若いって羨ましいですね

「祐一も待ってるよ〜」

 うっ 祐一さん

 くぅっ

 私だって 若いですっ

 で でも さすがにこれは抵抗が

 うううううっ

 ここで着なかったら 一緒に泳ごうと言った名雪をがっくりさせてしまいます

 祐一さんもがっくりするでしょう

 あ いえ 一緒に泳げなくて です

 けっして 祐一さんが 私の水着姿を見たがっているとか

 あああっ 違うんです

 落ち着いて 落ち着いて秋子

 そうよ うん 祐一さんは名雪の水着姿に見とれてればいいの

 ……それも問題です

 ……とりあえず もう一度 じっくりこの水着を見てみましょう

 胸と…… 背中……

 ひぅ

 お肌…… まだ くすんでませんよね?

 大丈夫 のようです

 それに

 腰にパレオを巻けば 少しは露出度も……

 ……ええいっ

 よーし 着ちゃいますよっ

 勝負ですっ





 パレオ さらにバスタオルを巻いてプールサイドへ どきどき

「あ、お母さんやっと来たね」

「あ、秋子さん」

 ああん 祐一さん あまり見つめないでください

 恥ずかしいです

「さぁ 早く泳ごうよ」

 名雪 どうしてあなたはそんなに元気なの

 仕方ありません

 一瞬のためらいの後

 バスタオル はらり

「……」

 ……あの 祐一さん

 どうしてそんな 食い入るような目つきで

 はぅはぅ

 いやん

 そんな 胸の谷間ばっかり

 あら

 気が付けば 他の男性方も

 じーっ

 誰を見てるのですか

 え 私

 ひん

 勘弁してください

 こんなおばさんの水着姿をみても仕方ないでしょう もうっ

 あんあん

 視線が 視線が 貫くように

 熱い 熱いですっ

 はぁ やっぱり 着たのは失敗だったのでしょうか

 こんなに見られるなんて

 恥ずかしい

 新しい快感が
 違いますっ!

「お母さん こっちだよ〜」

 あら 見ると 名雪はすでにプールの中に

 私も 私も これ以上ここにいるのは居たたまれません

 準備運動 おいっちに

 じーっ

 ああん その間も 視線が 視線がぁ

 プールサイドに腰掛けて

 足の先 ちゃぽん

 うん 水温おっけーです

 ……あら?

「祐一さん、どうしていつまでもそこに座ってるんですか?」

「いえ、その……」

 祐一さんは歯切れの悪い返事で 前屈みに座っています

 くすくす 変な祐一さん

 あ パレオははずした方が良いでしょうか

 はらり

「ぐあっ!」

 あら 祐一さん ますます前屈みになっちゃって

 どうしたのかし…… あ

 ひょ ひょっとして

 ……いえ これ以上考えてはいけません

 自制なさい 秋子っ

 ぶんぶん

 邪念を振り払って

 えと よし

 では 私も

 じゃっぽーん

 ……

 ……

 ……

 ぶくぶく……

 こんなに深いなんて知りませんでした……





 その後、私は名雪に助けられ、一緒に別の浅いプールで遊びました

 何故か祐一さんは始終前屈みで 泳ぎづらそうでしたが やっぱり いえ 私 分かりません

 そうそう 祐一さんと言えば

 もし あのとき私が溺れていたら

 人工呼吸

 マウス・トゥー・マウス……

 ……きゃっ

 そんな

 ふるふる

 だめよ 秋子 不謹慎だわ

 でも……

 うふふ

 楽しかったけれど ちょっと残念なような 夏の一日でした。





(終)

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