いたづら秋子さん クリスマスの夜です


時期遅れも甚だしいのですが……
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 今夜は、クリスマスパーティでした。

 でした、と過去形なのは、それが既に終わってしまったからです。

 かちゃかちゃ

「おかーさーん、このお皿どこー?」

「そこの戸棚の、一番上よー」

 今は、その後かたづけで、てんてこ舞いです。

 私は、居間のテーブルを拭きながら、祐一さん達と一緒に飾り物のお片づけ。

 それにしても、今夜のパーティは名雪の誕生日会も兼ねて、とっても盛大でした。

 いつもなら、名雪と二人で、慎ましくお祝いをして終わりなのですが、

 今年は、何と言っても祐一さん、それにお友達の北川さん、

 そして、香里ちゃんと、病気が治った栞ちゃんが来てくれました。

 賑やかなのは、とっても良いことです……

 実は、最初、パーティは若い人たちに任せて、私は裏方に徹するつもりだったんですが、

 優しいあの子達は、とうとう私を表に引っ張り出してしまいました。

 北川さんなんて、「秋子さんが居なければ始まりませんよ」だなんて、うふふ。

 もう、こんなおばさんを引っ張り出しても、楽しくないでしょうに。

 でも、とっても嬉しかった――

 ケーキカットするときに、数を間違えて祐一さんの分が無くなってしまったことも、

 栞ちゃんがケーキを食べ過ぎちゃったことも、

 香里ちゃんがシャンペンで酔っぱらっちゃったことも、

 プレゼントの交換をしたときに私には綺麗なイヤリングが貰えたことも――

 みんなみんな、今は素敵な想い出です。

 がしゃがしゃーん

「わ、わ、ごめんなさいですっ」

「栞っ、何やってるのよ」

 あらあら。

 甘やかな記憶を辿ってないで、お台所の方も、手伝いに行きませんとね。





 しんしんとイヴの夜も更けて……

 みんなお風呂に入ったし、そろそろ、寝る時間です。

 北川さんも、香里ちゃん栞ちゃんも、ご両親の諒解を得て、うちに泊まってくれることになりました。

「香里っ、一緒に寝よっ」

「全く、名雪……子供じゃないんだから」

「あ、名雪さん、私も一緒にいいですか?」

 女の子達は、きゃいのきゃいのと今晩の寝室について話し合っています。

「えーっと、俺は、どうしようかな……」

 あら、北川さん。

「何でしたら、私と一緒に寝ます?」

「え!? あ、秋子さん、そ、それはあのそのあうう」

 北川さん、しどろもどろです。

「うふふ、冗談ですよ」

 こんなおばさんと一緒に寝ても、嬉しくないでしょうしね。

 それに、今夜は、私は……

「あ、秋子さぁん……」

 あら? 北川さん、そんなに泣きそうな顔をしないで下さい。

「北川、お前はそこのソファで寝ろ」

 ようやく片づけを終えた祐一さんがつっけんどんに言い放ちます。

「……まぁ、仕方ないな」

 北川さんはしぶしぶと言った感じで承諾しました。

「でも、風邪ひかないかしら?」

「大丈夫ですよ秋子さん、俺はそんなにヤワじゃありません」

 なら、良いんですが……

 せめて、暖かい毛布と、暖房をつけておいてあげますね。

 さて…… もうお片づけも終わって、いよいよおやすみの時間ですね。

「おあしゅみなさーい」

「わ、名雪さん、もう半分眠ってますー」

「秋子さん、今日は本当に有り難う御座いました」

 お礼を言うのは、私の方ですよ、香里ちゃん。

「ほら、名雪、自分の部屋に戻るわよ」

「うにゅ……」

 香里ちゃんは名雪の手を引いて、二階へと向かいました。

 香里ちゃん、妹が二人居て、大変ですね。

「それじゃ、おやすみなさい」

 はい、祐一さんも、おやすみなさい。

「北川さん、はい、こんな毛布と布団しか有りませんが……」

「十分ですっ、有り難う御座います、俺はもう、この家で眠れるだけで……」

 北川さんは満面の笑顔です。

 そんなに、祐一さんと一つ屋根の下で寝るのが嬉しいのかしら。仲がいいんですね。

 それでは皆さん、おやすみなさい。





 ……ぴるるるる……

 かすかな音を立てて、目覚ましが午前0時を指しました。

 かちゃん

 私はそれを止めると、のっそりと起き出して、用意してあった物を押入から取り出します。

 ようし

 ぱっつんぱっつん

 私は自分の頬を叩いて目を覚ましました。

 0000時、作戦行動開始です!

 抜き足差し足忍び足。

 私は真っ暗な廊下を、そろそろと音を立てないように歩きます。

 ……あの、泥棒さんでは有りませんよ。

 何をしているか、ですって?

 うふふ、決まってます。

 クリスマスと言えば、そう――

 恋人達が一夜の契りを
 違います。

 いえ、その、別に違うわけではないんですが。

 え、違うんです、そんな、羨ましいとか、そう言う訳じゃ

 はう。

 ええと、ですね。

 クリスマスと言えば、サンタさんです。

 そう、サンタさん。

 私はこうして、サンタさんの真似事をして、プレゼントを配ろうと思っているのです。

 まずは二階、名雪の部屋からです。

 ここにはさらに香里ちゃん、栞ちゃんと、三人も眠ってますから、起こさないようにしませんと。

 かちゃ

 中は真っ暗

 そろりそろり、枕元へ

 ぐに

 あら?

 何か、踏んづけちゃいました

 おそるおそる、足元を見ると、

「ううん……」

 きゃあ 香里ちゃん

 名雪ったら、寝相が悪いんですから

 三人も一緒に寝たから、香里ちゃんを追い出してしまったのね

 本当にもう、仕方ない子

「誰…… 栞……?」

 あ、栞ちゃんと勘違いして居ます

「栞ったら、重くなったわね……」

 ぴきっ

 …………すぅ はぁ 深呼吸

 いいえあの、きっと、違うんですよ

 栞ちゃんはほら、まだまだ小さいから

 私が重い訳じゃ ほほほほほ

 とりあえず、枕元に三つの包みを

「うにゅ……」

「すー、すー」

 うふふ、名雪と栞ちゃんが可愛い寝息を立てています

「けろぴーは、ここ」

 ……名雪、それは栞ちゃんです

「えぅ…… 私、けろぴーですぅ〜……」

 ……栞ちゃん、あなたはけろぴーじゃないですよ

 とりあえず、これでよし、です。

 香里ちゃんを抱えてベッドに戻して、一部屋おしまいです。

 次は祐一さんの部屋ですが……

 かちゃ

 きょときょと

 祐一さんは布団に包まれ、すっかり夢の中のようです。

 少し寝乱れた布団を直してあげると、気のせいか寝顔が穏やかになりました。

 枕元に包みを置いて、はい、おしまい。

 私は帰ろうとドアに戻り――ふと、不思議に思って、振り返ります。

 ……あら?

 うーん

 妙ですね

 あの、祐一さん?

 ……何も、アクシデントが起きません。

 いつもならこの辺で何か有るはずなんですが……変ねぇ。

 いえ、期待してるわけではないんですが……ほ、本当ですよ。

 私、帰ってしまいますよ?

 ……しーん

 無反応

 ……むぅ 寂しいです。

 てこてこと祐一さんのベッドの側に戻って、ほっぺをぐにぐに。

 祐一さん祐一さん、何かしないんですか?

 無反応

 仕方有りませんね、添い寝

 きゃ そんな ダメです いや、もう

 無反応

 ……ぷぅ

 ふんだ、わかりました。祐一さんなんて、もう知りません。

 もう構ってあげませんから。

 ――なんて、ちょっと子供っぽく拗ねてみました。

 仕方ないですね、じゃ、おやすみなさい。

 私は笑顔で、祐一さんのお部屋をおいとましました。

 では次は、北川さんの所です。

 てんてんと階段を降りて、居間の戸を開けると、

 いたいた、居ました。

 北川さんがソファで丸まっています。

 うふふ、何だかもう、いたづらしてくれと言わんばかりですね。

 でもでも、ダメダメ。今日は私はサンタさん、良い子達にプレゼントをあげるんです。

 サンタさんがいたづらしたら……まるで、変態さんですよぅ。

 てこてこと北川さんの所に歩いていくと、

 がばっ

「秋子さん!?」

 きゃ

 北川さん、どうして分かったんですか!?

 びっくりです。

 あ、でも、ねぼけてるみたいで。

 目がとろんとしちゃって。

 うふふ、かわいい。

 ふらふらと、立ち上がっちゃいました。

 ほら。北川さん、ダメですよ、きちんと寝ていてくれないと、プレゼントはお預けですよ?

 と、私が北川さんを寝かそうと近寄ると、

 ふらふら くらっ

 あっ、北川さんが倒れて……

 ぽにゃ

 はんっ!?

 わ、わわ、私の胸に、直撃を

 ああん、もう、ダメ、ダメです

 どうせなら直に
 違います。

 全くもう、北川さんも祐一さんも、甘えん坊さんなんですから。

「すー、すー」

 北川さんはもう寝息を立ててしまいました。

 うーん……

 何となく、「清しこの夜」の一節が浮かんできてしまいますね。

 最も、私はそんなに偉大な存在でもないですけどね。

 私はそのまま眠ってしまった北川さんを、もう一度ソファに横たえました。

「ん……秋子……さん」

 あらあら。夢で、私のことを見てくださるんでしょうか。

 光栄ですね。

 では、近くのテーブルに包みを置いて……

 ふぁ

 あくびが出ちゃいました、恥ずかしい。

 私も、自分の部屋に戻って眠るとしましょう。

 うふふ、明日のみんなのびっくりした顔が楽しみです。

 イヴの夜、素敵な贈り物を、子供達に。

 プレゼントの中身は……

 うふふ、企業秘密ですっ♪




(終)




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