いたづら秋子さん 読書の時間です
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ぽかぽかと陽光も暖かい、お休みの日の午後。
仕事がお休みの日には、私はこうしてソファに寝そべりながら、
空いた時間に読書をたしなみます。
今読んでいるのは、官能小説
違います。
こほん、『閉鎖された空間』という本で……
宗教団体の内部で、自分の過去と向き合う少女のお話なんです。
まず三つ編みを解いて、長い髪をソファの縁に掛けて、準備万端です。
ぺら ぺら
ううん 文学的です
ぺら ぺら
あら こんな展開に
ぺら ぺら
と、その時、
「ただいまー」
あら 祐一さんの声です。
学校から帰ってきたようですね。
本当は今は夏休みなんですが、受験が近いと言うこともあり、補習を受けていたそうです。
学生さんは大変ですね。
居間にぱたぱたと現れる祐一さん。
「あ、秋子さん。本を読んでいたんですか?」
私はちらりと横目で祐一さんを見ながら、
「ええ、でもキリが良いところだから、この辺で……」
と、栞を挟みました。
一旦顔を上げて、
「ところで、祐一さんは、ご本とかは読まないのかしら?」
私がそう聞くと、祐一さんはちょっと首を傾げて、
「そうですね、それほど読む方じゃ有りませんが…… あ、でも、今日ちょっと本屋によって買ってきたんですよ」
「あら、なんて本なんですか?」
「すいません、タイトルは忘れちゃって……」
と祐一さんは苦笑い。
「確か、7年ぶりに住んでいた街に帰ってきた少年が、叔母の家に居候する話なんです」
あら それはまるで……
「俺の事みたいでしょう」
「そうですね」
うふふ、と私は笑います。
「秋子さん、読んでみますか?」
「え? 確かに、面白そうですが……でも、祐一さんはまだ読んでいないんでしょう?」
「いえ、それとは別に、北川から借りた本があって、そっちを先に読もうかと」
なるほど、そうなんですか。
「それなら、読ませてくださいますか?」
「あ、はい。どうぞ」
と、祐一さんは、鞄の中からカバーの掛かった一冊の文庫本を取り出しました。
「有り難う御座います」
「いえ、そんな」
祐一さんはちょっと恥ずかしそうに照れ笑いしながら、二階へと戻っていきました。
さて……
では早速、読んでみましょうか。
タイトルは……
ぺら
『近親相姦シリーズ・叔母と甥 背徳の宴』
きゃぁっ
な なんですかこれは
ひょ ひょっとして 本当に
か 官能小説
はふぅ そんな
いえ まさか そんなはずは有りません
きっと中身は、真面目な本なのでしょう
ぺら ぺら
『亜希子は、息を荒げながら優一の硬く濡れそぼった分身をそっと口に』
ぱたん。
いやぁっ 本物ですっ
思わず閉じちゃいました
はぁ はぁ
ゆ ゆ ゆ 祐一さんっ
どうしてこんな本を私に
あああっ どうしても 私にこれを読めと
なぜ どんな意図があるんでしょうか
……さっぱりわかりません
そんな そんな ああっ セクハラですっ
でも 無下に返すのも可愛そうです……
とりあえず 祐一さんの意図を理解するために 読んでみましょう
きっと 浅薄な私の考えでは読みとれない 深い意図が隠されているに違い有りません
なになに
未亡人の叔母 それとその娘と一つ屋根の下に居候してる甥
いつしか叔母の身体は 甥の男に惹かれ
……なんだか まるで 私のような
違います
そんな 私は祐一さんの身体が いえ あの
テント
違いますっ
ああ ああ 祐一さんと聞いて 真っ先にアレが思い浮かんでしまいました
私 私 いやらしい女なのでしょうか
そんな ひふぅ
もぢもぢ
なんだか 落ち着かなくなってきました
そわそわ
もうっ…… 祐一さん どうしてこんな本を私に
……あ
ひょっとして
……これは 祐一さんからの 遠回しな私へのアプローチ
ええっ え その あの 困ります 祐一さん
あるいは 私の牝の獣欲を目覚め
こほん 私 落ち着いて 言葉を選びましょう
そんないやらしい言葉を使っちゃ だめよ ええ
えっと その
じゃあ なんですか
この小説のように いえ まさか
はひゅう
ダメです 頭が なんだか ぼーっとしちゃって
こんなの こんなの いけないわ
祐一さんとそんな関係
憧れ………………ません ませんったら
この本は きっぱりと返しましょう
でも その時の 祐一さんの気持ちを考えると
はぁ 気が重いです……
*
こんこん
気のせいか ノックの音も沈みがちです
「はい あ 秋子さん」
私は 黙ってその本を差し出します
「……お返しします」
「え そうですか 面白くなかったですか」
どうして 祐一さん
あなたは そんな 平然としてられるのかしら
「祐一さん」
「はい」
「ごめんなさい 私 祐一さんの期待に応えられません」
「はぁ?」
祐一さん びっくり顔です
でも この後の顔は 見たくなくて
「さよならっ」
たたたたたっ
私は 思わず駆けだしていました
「……あ あーーーーっ」
後ろで祐一さんの声が聞こえます
ああ なぜなの 私の目から 涙がにじんできそう
「違うんですっ 秋子さん これは これは 北川から借りた奴と間違って」
いいですっ 何も聞きたくありませんっ 聞こえませんっ
ひぃん えっく うく
(終)
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まぁ…… いっそのこと、完璧にマンネリズムを目指してみました(笑)
場つなぎともいいます(^^;
挿し絵はななほしさんから戴きましたっ。
ななほしさん、いつも有り難う御座います〜
それでは〜
挿し絵無し版
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