いたづら秋子さん 髪型を変えてみます ――後日談


いたづら秋子さんの名を冠してはいますが、秋子さんは出てきません。
なにとぞご了承のほどを……

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 キーンコーンカーンコーン……

 やべっ、予鈴だ……

 俺は足を速め、もう目の前に見えている校門にダッシュする。

 そのまま教室へ、たたたたた……

 ふぅ、間一髪セーフ。

 何とか間に合った。

 と、俺が自分の席で呼吸を整えていると、

「ちょっと北川君、またギリギリ?」

 前から振り向いた美坂が、眉をしかめながら俺を注意する。

 そう、この間の席替えで、幸か不幸か俺は美坂の真後ろの席になってしまったのだ。

 美坂はすでに一時間目の準備を整え、澄まし顔で予習なんかしている。

 いつもの俺なら、ここで二言三言反論しているのだが……

 今日に限って、それは出来なかった。

 なぜなら、今日の美坂は……

 ――――ポニーテールだからだ。



 ……あ、いや、別に俺がポニーテールフェチだとかそういう訳じゃない。

 ないのだが……

 何故か、ポニーテールをしている美坂に、俺はどぎまぎしてしまう。

 その、ゆるいウェーブの掛かった髪でポニーテールにされると、どこか、こう……

 いつも見慣れてるはずなのに、不思議に大人っぽい気がして……

 恥ずかしいことだが、俺の心臓はどきどきと高鳴ってしまう。

 ぶんぶん。

 俺は首を激しく振る。

 だめだっ! 漢、北川潤!

 お前の操は、秋子さんに捧げるんだろっ!

 ……し、しかし。

 ふわり

 そよ風に揺れる美坂のぽに〜

 ……ぽわ〜ん

 はっ

 いかん!

 いったい、俺はどうしちまったんだ?

 と、俺が思い悩んでいる、その時……

「ちこく、ちこくだよ〜」

「どうしてお前はそう学習能力がないんだっ」

「う〜 努力はしてるんだよ〜」

 おっと。

 いつも賑やかなご夫婦の登場だ。

「全く、毎日飽きないものね」

 美坂の冷ややかな皮肉が炸裂する。

「好きでしてる訳じゃないよっ」

「……」

 ……あ、あれ? 相沢?

 いつもは、ここで水瀬さんと一緒に何事か口答えするはずなのに……

 そっと様子をうかがうと、なんと、相沢もやはりぽに〜な美坂にたじろいでいるようで、

 う、あ、とか訳の分からないことを口走っている。

 相沢、お前まで!

 気が付くと、相沢ばかりじゃなかった。

 周りを見渡せば、男子生徒の大半が、ぼんやりした表情で美坂のぽに〜を眺めている。

 ……くっ、くそっ!

 強烈すぎだぜ、美坂のぽに〜!





 うふふ……

 ひとまず、昨日のお返しはできたようね。

 さっきの相沢君と北川君、おかしいったら無かったわね。

 くすくす……

 でも

 ……こんなに周りから視線を感じるのはどういう訳かしら?





 授業中。

 さすがに俺も、そろそろ受験が近づいてるとあって、授業は真面目に受ける。

 しかし……

 こう、なんだ。

 先生が黒板の端っこにでも板書すると、それを追うように美坂のぽに〜も……

 ふわん

 ふわん

 ……許せ。二度目のふわんは俺の気分だ。

 ええいっ! ダメだ、授業集中!

 しかし……

 ふわん

 ふわ〜ん

 ……ああああっ!

 俺は気も狂わんばかりだった。

 ああ! 俺を惑わしてやまない美坂のぽに〜! そんなに俺を苦しめて楽しいか!?

 しかも、だ。

 ぽに〜が傾くと、必然的に美坂の白いうなじが……

 ちらっ

 ちらちらっ

 ふおおおおっ!

 お、後れ毛! 後れ毛は反則だぞ、美坂!

 はぁ、はぁ、はぁ

 ちらり

 ぐあっ! もう、勘弁してくれ!

 ……結局、授業の内容はほとんど頭に入ることは無かった。





「ちょっと、北川君?」

 休み時間、俺は美坂にきつく声を掛けられる。

「授業中、なにしてたのよ? なんだか息づかいが荒かったり激しく動いてたりしてたみたいだけど……」

「あ、い、いや……」

「はっきりしなさいよ」

「……」

 ああ……

 なんだかまるで、女教師に怒られてる気分だ……

 はぁ… 初恋の人は、小学校の担任の先生だったっけ……

「ちょっと、北川君? 聞いてるの?」

「ああ、もっと叱ってくださじゃなくてきちんと聞いてるとも、ああ、うん」

「は?」

「ま、まぁ、気にするな」

 美坂は俺が口走ったことが気になったようだが、とりあえず追求を止め、次の時間の用意をし始めた。

 ふぅ、危ない危ない。

 しかし、次の時間もこの調子じゃあ……

 ううむ、困った……

 ……

 ええいっ!

 何を迷う必要がある!

 集中力だ! 集中が足りないから美坂のぽに〜に惑わされるんだ!

 そうだ、もっと集中すれば良いんだ!

 よし、次の時間を見てろよ……





 ……そして次の時間。

 俺はその間中、ずっと集中して…………







 ……美坂のぽに〜とうなじを眺めていた。


 ふ、ふふ。こうすれば、授業中に下手に惑わされることなく、存分に観察できる!

 俺って天才!

 おお、ぽに〜

 びば、うなじ〜

 はふぅ……

 俺は甘いため息を付いた。





 ぞくぞくぞくっ

 な、なんだか、後ろの席から嫌な視線を感じるんだけど……

 ひぃ 怖いわ 北川君

 ああ 背筋がぞくぞくきちゃう

 いやぁぁぁっ







(終)

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こんなところで如何でしょうか(^^;
それでは、また〜

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