いたづら秋子さん 正体は秘密です(後編)


もうこれ、番外編扱いにして下さい(汗)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 どすん ばたん

 二階の騒ぎは全く収まるそぶりを見せません

 ああん だめよ名雪

 年頃の女の子がそんなに暴れちゃあ

 階段を上り 祐一さんのお部屋の前まで来ると 二人の激しい会話が聞こえてきます

 激しい会話

 え あ 違います 喧嘩してる声です

 いえ そんな けっして いや 激しいだなんて ああん もぅ

「もうっ 祐一っ! わたしのけろぴー、どこへやったのっ!」

「だから知らねぇって言ってるだろ!」

 あ いけません 早く二人を止めないと

 けろぴー

 名雪のけろぴーが 無くなってしまったようです

 それはそうです

 ……だって さっき私が二階から持ってきた物は

 この 小脇にちょこんと抱えてる けろぴーだったんですから

 このおかげで 私の出番が

 うう ごめんなさいね名雪 正義のためには犠牲が付き物なの

 さて では いよいよ

 ごくん 

 正義の味方の――――

 ガチャン

「おやめなさい!」

 ――――登場です!







「……は?」

 俺は、名雪の猛攻に耐えながら、突如開かれたドアから現れた人物を見て絶句した。

 防災ヘルメット。

 メガネ。

 ほどいた髪。

 ……何をやってるんですか、秋子さん。

 俺はただ、呆れるより出来なかった。

 見ると、名雪も同様に……あ? いや……本気で誰だか分からないような顔をしてるぞ?

 秋子さんは俺たちの間にさっと割って入ると、

「名雪さん。あなたのお探しの物はこれでしょう」

 と、名雪の腕にぽすんとけろぴーをのっけた。

「……わ、これだよ〜。誰だか知らないけど、ありがとうございます〜」

 けろぴーを抱きしめてわーいわーいとはしゃぐ名雪。

 ……おい、本当に気づいてないのか!?

「争いは消えました。それでは、私は退散します」

 ちょ、ちょっと、秋子さん!? あなた、何を、てか、けろぴーをもってったのは

 しかし、そう訪ねようとした俺を名雪が遮り、

「ありがとう、あなたのお名前は?」

 ……おい! ……いや…… これ以上、深く考えるのはよそう……

 頭痛くなってきたし。

「私ですか――――?」

 秋子さんはちょっと逡巡した後、にこやかに微笑んでこう言った。

「……私は、正義の味方、謎ジャム仮面です!」

 へ〜、そうなんだ〜と目を輝かせている名雪。

 俺の頭痛はますますひどくなった。

 頭を抱える俺を置いて事態は収拾し、

 名雪は部屋へ、謎ジャム仮面こと秋子さんは階下へと戻っていく。

 やれやれ。

 ……俺は秋子さんの真意を確かめようと、こっそり秋子さんの後を尾けていった。





 はぁ……

 一段落、付きました。

 お部屋に戻って、ヘルメットを脱ぎ、メガネを外して……

 ガタン

「だ、誰ですかっ!?」

 私は後ろの物音に慌てて振り向きました。

 するとそこには、なんと祐一さんが―――

 急いで私はメガネとヘルメットを装着しましたが最早遅いです。

 ああ なんて事でしょう

 正義の味方は、正体を知られたらおしまいなのです

「あの、秋子さん―――」

 私に何か言いかける祐一さんに、私は駆け寄ってすがりつきます

「え、ちょ、ちょっと、秋子さん!?」

「違います、私は謎ジャム仮面なんです」

「は? あ、その……?」

 お部屋のドアを閉め、廊下へと祐一さんを押しやります

 私のお部屋は秘密基地ですから おいそれと一般人を入れるわけにはいきません

「お願いです祐一さん、これは二人だけの秘密に……」

 よよよ

 私は祐一さんにすがりついたまま、目元を押さえます

 そして、じっと上目遣いで祐一さんの瞳を見つめます

 あ 祐一さんがたじろいでます

 謎ジャム仮面の正体が私だと知って きっと 驚きを隠せないで居るのでしょう

「お願い…… 誰にも言わないで……」

 すりすり

 私は祐一さんの肩に頬を寄せて懇願します

「う、あ、その、あの」

 祐一さん どぎまぎしてないで 約束してください

 ああ もうおしまいなのでしょうか

 しくしく

「祐一さん……」

 すり……

「あ、う、秋子さん」

 祐一さんは逃げ腰になってしまいました

「お願い……します……」

 ぴとっ ぎゅっ

 私は祐一さんを引き留めるように、腰に手を回して抱きしめるようにします。

「う、うぉぉぉっ! 我慢できんっ!」

 きゃっ

 突如、祐一さんが咆吼をあげたかと思うと、私に覆い被さってきました

 ああ そんな 口止め料に私の身体を要求する気ですか

 いやぁ ひぃん

 と、その時です

 ごいん

 鈍い音がしたかと思うと 祐一さんがゆっくりと前に倒れてきました

 あ 危ない 

 私はとっさに受け止めます

 すると 祐一さんの背後には、なんと……名雪が!

 私はびっくりして祐一さんを落っことしちゃいました

 どすん 

 あら痛そう

「大丈夫だよ、謎ジャム仮面さん。よくわかんないけど、祐一の声がしたから来てみたら……」

 と、傍らでダウンしている祐一さんをちらりと見て、

「祐一があなたを困らせてるみたいだから、助けに来たよ」

 そういって、にっこり笑います

 ああ 名雪 ありがとう

 ほろり

「それじゃ、おやすみなさい、謎ジャム仮面さん。……ところで、お母さん見ませんでした?」

 どき

「た、多分お部屋で寝てるんだと思います」

「そうなんだ」

 名雪は、納得すると祐一さんを引きずって二階へ上がっていきました。

 ふぅ……

 正義の味方の進む道は、茨の道なんですね。

 でも私、くじけません!





 それからしばらく経ったある日――――

 ぼーん

 きゃ また爆発音

 でも もう驚きません

 もう テレビの音だって分かってますから

 今日も放映してるんですね 見逃してしまうところでした

 どきどき

 私は胸を高鳴らせながらテレビ画面を食い入るように見つめます

 一瞬の様に時は過ぎ去り、もうラストシーンです……

 怪人たちの魔の手から間一髪助け出された少年がヒーローに駆け寄ります。

「ねぇ、僕もヒーローになれるかな?」

「もちろんさ! 正義の心を持つ『少年少女』なら、誰だってヒーローなんだ!」

 がーーーーーーーーーーーーーーーん

 私はその言葉にこれ以上ないほどの衝撃を受けました。

 しょ、少女……

 ……私も、いくら若いとはいえ、少女とは……

 少女でない私は、正義の味方失格なのでしょうか

 もう、謎ジャム仮面も引退ですね……

 ……ぐすん





 謎ジャム仮面の引退により、こうして水瀬家の平和は守られたのであった!

 しかし、いつまた水瀬家に騒動が巻き起こるかもわからない!

 がんばれ、秋子さん! 負けるな、祐一!


(終)


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
いつのまにか単なるギャグ作品になっておりますが、
まぁ、そこはそれ(^^;

Libraryへ   トップへ