いたづら秋子さん 人間椅子です
お茶目な性格の秋子さんシリーズ、
なんですが、
今回はおばかな性格の北川の話です。
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「おい、相沢」
「なんだ、北川」
「ようやく金が貯まったんだよ」
「そうか、よくわからんが、よかったな」
「アレが買える」
「アレってなんだよ」
「ふふふ……」
「気持ち悪い奴だな……」
*
……あら。
休日の午後、私が一人ロシアンティーをたしなんでいると、インターフォンが鳴りました。
何かしら?
ぱたぱたと玄関口に向かうと、宅配便のお兄さんが。
あらかっこいい
違います
どちらかというと可愛い
そうじゃありません
「えーっと、水瀬さんのお宅ですね」
「はい、そうですが」
私の返事を聞くと、お兄さんは外に置いてあった荷物を抱えて来ました。
なんでしょう。
とても大きな物です。
「えっと、商店街の抽選に当たりました」
まぁ嬉しい
……でも、私、そんなものに応募したかしら?
でも、とりあえず戴ける物は貰っておきましょう。
主婦の知恵です。
お兄さんがその荷物の包みを開けると、なんと、中には豪奢な革張りの椅子が入っていました。
「あらあら…… こんな良い物、貰って良いのでしょうか」
「ええ、是非貰って下さい!」
……どうしてこのお兄さんはこんな熱心なんでしょうか。
それにしても、何処かで聞いた声ですね
「あの」
「はい」
「何処かでお会いしませんでしたか?」
ぎくり
なんでしょう お兄さんはばつが悪そうに顔を伏せます
帽子に隠れた素顔を見ようとすると、お兄さんはつつーと顔を逸らします。
んんー?
左につつー。
右につつー。
……なんだか、妙な人です。
お兄さんはその場を誤魔化すように、
「え、ええっと、奥に運びますね」
まぁ、それは助かります
私一人では、とても持てる物ではありませんからね
お兄さんが椅子の片方を持ち、私がもう片方を持って……と。
二人の共同作業
いつしか芽生える愛
違います
私には祐一さんという心に決めた方が
それも違います
と、ぼぉっとしてると、居間にたどり着きました。
「……ここでいいですか?」
「ええ、助かりました」
にっこり
あら、お兄さん照れてます
かわいいですね
「あ、あの、それじゃ、判子を……」
あ、はいはい
判子、判子……
と、私が自室から判子を持ってくると……
……あら?
お兄さんは影も形も居なくなっていました。
……どうしたのかしら?
辺りには誰の姿も見えません
……忍者?
まさか
でも、困ったわ
運送会社に連絡しようにも、何処の会社かすら聞いてません
……うーん
悩んでいても仕方ないですね
そのうち、戻って来るでしょう
ですから……
うふふふ
―――早速、座ってみましょう♪
実は、さっきから座りたくてうずうずしてたんです
こんな立派な椅子ですから 座り心地も良いに違いありません
ううっ、もう我慢できません
ではでは えいっ
ぽすんっ☆
*
……しめしめ、上手く行った。
俺の名は、北川潤。
……え? 野郎の自己紹介などいらん?
もっともだ。
とりあえず、かいつまんで俺の計画を話そう。
バイトして金を貯めて、でっかい椅子を買う。
中のクッションをほとんど取り出す。
運送屋のフリをして、秋子さんの家に届ける、とこういう算段だ。
それで、どうするかって?
はは…… 決まってるだろ。
秋子さんが判子を取りに行ったスキに……
急いで中に潜り込む!
ここまでは順調だ。
さて……外の様子が見えないが、どうなってるかな……
と。
ぽすんっ☆
うおうっ
来た…… 来た来た来た!
あ、秋子さんが!
い、今! 革ごしに、俺の上に!
秋子さんは感触を確かめるように、ぎしぎしとその身体を震わせる。
ふにふに ふに〜
う、う、うおおっ
た、たまらん!
あ、あたたかい!
柔らかい!
これぞ、俺の求めていたものだぁぁぁぁっ!!
おお〜
仄かに漂う髪の毛の香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
これを至福と呼ばずして、なんと言おうか!?
ああっ 秋子さまっ!
「ううん、どうも具合が悪いわね」
ぎく
気づかれたか?
「そうだ」
なんですか
「こういう座り方はどうかしら」
……?
と、俺が不思議に思っていると、
ぎにっ
ぐがっ!
太ももに鈍痛が走る。
……あ、秋子さん、椅子の上に膝で乗るなんて!
ぎにぎに、ぐぎっ
痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
危うく叫びだしそうになりつつ、俺は必死に耐えた。
すると。
ぽにゃん。
……?
顔の辺りに、柔らかな感触。
なんだ?
んー、位置関係を考えるに、今、秋子さんは、逆向きになっているわけだから……
……もしや。
この、たわわに実った、まさに神秘とも言える、漢の浪漫が濃縮された様な感触は……
まさか……
ふにゅ むにぅ
秋子さんの……
ふるん くぬくぬ
お、お、おっぱ…………
にゅむん♪
ぶぼうっ! 辛抱たまらんですよ!
「ううん、どうもこれでも妙な感じね」
はぁ はぁ はぁ
そんなこと言わずに、もっと、もっと!
結局、秋子さんは一旦降りてしまった。
膝の痛みが無くなったのは嬉しいが、そんなことよりも、そんなことよりも、もっと大事な……
くぅぅっ! わかるだろう! なぁ! 同士!
俺は男泣きに泣いた。
ん? しかし、なんだか下半身が妙に……
……ぐあっ!
そこで俺は気づいた。
んー、だ、その、つまり……
こういった強い性的興奮を覚えるような場面に出くわした場合、
健全なる男子としては生理現象として身体の一部分が膨張を開始し……
ええいっ! 有り体に言えば、テントだ、テント!
テントが建ってしまった!
「……あら? なにかしら、この出っ張り」
……うおっ!?
し、しまった! 気づかれたか!?
つんつん
ふおぅっ!
あ、秋子さん、そ、そんな
「何かしら……」
ぺちんぺちん
あぐほっ!
秋子さん、も、もっと優しく!
「ううん?」
なぜなぜ
のほっ!
これはこれでヤバイ!
う、ああ、だ、だめだ秋子さん、止めてくれ!
「不思議ね…… もう一度、座ってみようかしら」
そ、そんな事されたら、ぼ、ボクは、僕はぁぁぁぁ!
「ただいま帰りました」
「あら、祐一さんお帰りなさい」
……ちっ、相沢が帰ってきたか。
ま、まぁ、今だけは感謝だ。
いや、ある意味残念とも言えるが……あ、いや、俺はそんなスケベな男では。
「祐一さん、こんな物が届いたんですが」
「おや、立派な椅子ですね」
「祐一さんもどうぞ」
「あ、じゃ遠慮なく」
……おい、相沢、なんだ?
ま、まさか! お、おい、止せ! やめろ!
どさっ
ぐわぁ!
ぎしぎし
ぎゃああ!
すっく
はぁ、はぁ、はぁ……
ようやくどいたか……
「ううん、妙な座り心地ですね」
「祐一さんもそう思います?」
「変だな」
ばしばし
ぐふっ!
た、叩くな!
「ま、いいや。も一度座らせて貰いますね」
「はい、どうぞ」
あ、あ、あ、秋子さん、行かないで……
と。また。
どさっ!
ぎゃああ!
微妙なぬくもりが伝わる。
相沢の筋肉の脈動が、俺の太ももに……
やめろ! よせ! 男は! 男はいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
*
その後俺は、深夜になるのを見計らって、椅子を持って這々の体で逃げ出した。
*
後日。
「よう北川、今日は早いな」
「……」
「ど、どうした北川? 暗い顔して……」
「……ち、ちきしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
だっ!
「……?」
「あれ? どうしたの祐一、北川くん泣いてたよ」
「さぁ?」
「ほっときなさいよ……」
はぁ、はぁ、はぁ……
人生なんて……
人生なんて、嫌いだぁぁぁぁぁっ!!
(終)
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こんなところで。それでは。
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