いたづら秋子さん 耳掃除されちゃいます



「いたづら秋子さん 耳掃除してあげますね」の後編です。
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 ……やがて、まだふるふると身を震わせながらも、祐一さんは立ち上がって落ち着きを取り戻したようです。


「あらあら、大丈夫ですか、祐一さん?」
 うふふ。
 さすがに、わざとらしいでしょうか。

「…………」

 あら?
 祐一さんったら、うつむいたまま無反応です。

 ……さすがに、怒っちゃったのでしょうか。

 私は少し不安に思い、もう一度おそるおそる声をかけてみます。

「……祐一さん?」

 すると祐一さんは、ゆっくりと顔を上げて、とっても低い声で……

「……あ〜き〜こ〜さ〜ん……」

 ひぃっ
 な、なんだか、とっても怖いです。

 ゆらぁり

 ひゃ
 祐一さんが、目に妖しげな光をたたえて、こちらにゆっくりとした足取りで向かってきます。

「許しませんよ……」

 ああっ やっぱり怒ってます

 ご、ごめんなさい
 そんなに怒るなんて
 思ってもなかったんです

 実はちょっとだけ予想していたり
 ……いませんでしたったら

 なおも近づいてくる祐一さん

 私に、何をする気ですか

 やめて
 よして

 ま、まさか

 いけません 祐一さん

 それは祐一さんは若いですから 見境がないのはわかりま
 違います

 あ でも 本当に

「さぁ、秋子さん……そこのソファに横になって下さい」

 ああ やっぱり
 くすん

 仕方ありません
 私が悪いんですもの

 でも
 せめて


 優しくして下さいね……


 私は言われたとおり、おとなしくソファに横たわります。

 それにしても、ソファの上でだなんて……

 若い人は、やっぱり違います

 違います?
 違います。
 違いますっ!

 ああっ 違います

 何を私は乗り気になっているんですか

 駄目ですっ

 こんなこと、いけません

 あきらめないで、最後まで、祐一さんを説得するんです

 焦らした方が後の楽しみも
 違います


「さぁ、秋子さん……」


 ああ もう駄目です

 祐一さんが

 私に覆い被さるように

 私の脇にぽすんと座って





 ……え?

 あら?

 ……あの?

 祐一さん?





 私が目をぱちくりさせていると、祐一さんは、とっても罪のない笑顔を浮かべて、

「……今度は、俺が秋子さんの耳掃除をしてあげますね」


 がっくり
 違います

 なぁんだ、耳掃除だったのですか

 ほっ

 さっきまでの私、まるでおばかさんでしたね

 うふふ

 耳掃除をしてくれるんですか、祐一さん。
 それならとっても嬉しい安心安心………………





 じゃないんですっ!


 私は慌てて逃げ出そうとしますが、

 がしっ
 ひぃっ

 起きあがったところを祐一さんの手に肩を掴まれてしまいました。


「秋子さん、どこへ行くんですか?」

「あ、あの、私、もう寝なくちゃ……」

「まぁまぁ、すぐ済みますから」

「その、祐一さんにも悪いですし」

「何言ってるんですか秋子さん、遠慮なんて水くさいですよ」

「あ、あの、あの」

「はい、寝転がって下さいね」


 ゆ、祐一さん
 にっこり笑ってますが、目が笑ってませんっ
 怖いです

 その迫力に押し切られるように、ソファに再び横たわる私

 ああ ああ 耳掃除なんて

 ぶるぶる

「……あの、秋子さん?」

「はいっ」

 びくびく

「……何を震えてるんですか?」

「何でもありませんっ」

 どきどき

「……俺がするのは、ホントに、ただの耳掃除ですよ?」

「祐一さんを信じますっ」

 ぶるぶる

 ……私の様子を見て、祐一さんは不思議そうな顔をしていましたが、
 やがてニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべました。

「ははぁ……秋子さん、さては」

 どきっ

「……耳掃除、するのは良くても、されるのは苦手……なんですね?」

 びくん

「そんなことありませんっ」

「声が震えてますよ」

 ああん
 祐一さんのイヂワル

「では、どれ」

 ああっ

 祐一さんの吐息がっ

 今、今

 私の耳が 祐一さんに

 覗き込まれてます
 覗き込まれてますっ

 はぁ はぁ

 怖い 怖いですっ

 落ち着いて 落ち着いて

 耳かきくらい どってことないことなのよ

 そう 落ち着きましょう

 ……うん 少し平気になってきました

 ああ でも まだ祐一さんが私の耳の中をじっと覗き込んでいます

 いやん

 いつも自分で綺麗にはしているはずですが

 まさか 汚い なんて事は…… ないですよね?

 ね、祐一さん?

「うわぁっ」

 いやああぁっ

 なんですか なんですか今の声は

 まさかまさか

 たっぷりと溜まっているとか

 いやぁ いやぁ

 そんな そんな

 恥ずかしすぎますっ

 落ち着くなんて無理ですっ


「……すんごく綺麗だ」


 ……え?

 身じろぎをしていた私は、その声でハッと我に返りました。


「凄いですね秋子さん、耳カスひとつありませんよ」


 あらあら。

 うふふ。

 やっぱり、いつも綺麗にしていた甲斐はありました。

 はぁ… 良かった。

 私はほっと胸をなで下ろします。

 では……

「じゃあ、祐一さん、私の耳掃除する必要はありませんね? はい、おしまいっ」

 と、私がまたも立ち上がろうとすると

「駄目です」

 ぐい
 ぱたん

 ああん どうしてですか

「それでも、少しくらいはやってみる必要がありますよ」

 ……祐一さん、どうしてそんな満面の笑顔なんですか

 楽しんでますね?

 私のことイヂメて、楽しんでますね? 祐一さんったら。


 確かに、祐一さんに耳掃除して貰うって言うのは、一種魅力的でもあります。

 でも、でもでも、でもでもでもーっ


「さ、始めますよ」


 ひゃ
 耳たぶに固い感触

 いよいよ 耳かきの登場のようです

 ここで下手に動いたら 痛い目を見るのは私です

 怖い 怖いけれど でも 


 ……私はせめて恐怖を少しでも紛らわそうと、きゅっと拳を握りしめ、縮こまります。


 ああ…

 ああ…

 どうせなら、ひと思いに……


 ……こしゅこしゅ


 ひぃんん……

 そんな、入り口の方を刺激しないで下さい……

 あっ やぁっ

 くしゅぐったいっ


「……ん、なるほど」


 何がなるほどなんですか


「確かに、見づらいな……」


 え? あ、ああ。
 先ほどの私のように、見づらくて困ってるんですね

 え、では、もしかして


「秋子さん、ちょっと失礼」


 ああっ やっぱり


 ぽふっ


 私の頭は、ゆっくりと祐一さんの太ももの上にのせられました。

 ああ…
 あったかいです
 なんだか、安心できます

 さっきの祐一さんも、きっと同じ気分だったんですね

 ふふ
 良い気持ちです……

 幸せ
 しあわせ……


「さて、見やすいように」


 きゅっ

 あンっ
 私の耳が、ひっぱられました


「秋子さんの耳、小さくて可愛いですね」


 やっ 祐一さんたら
 変なところ誉めないで下さい

 恥ずかしいじゃないです……かぁぁっ、もう!


「では、行きますよ」


 ああ いよいよ
 祐一さんが 固いモノを 私の敏感な部分の奥にまで突っ込んで

 ……えっと…… なんだか、違います

 なんて、考えてるうちに


 こしょこしょっ


 はうっ


 こしょこしょ


 奥の方にっ
 ああっ
 耳かきの感触がっ


 こしょこしょ こしゅっ


 はふ はふ
 震えないようにするのが精一杯です


 こしこし……


 まだ です かぁっ

 ゆう いち さぁんっ……っんんんんん


「……ふぅ、奥の方にちょっとだけありましたね」


 いやあ
 そんな 報告しなくてもいいですっ


「で、これも使いましょう」

 どれですか

 ああ ポンポンですね

 ……えっ?

 なんて、私が気づいたときには、もう……


 しょわしょわしょわ


 いひゃぁっ

 くしゅ くしゅ くしゅぐったいっ


 ふしょふしょふしょ


 ああんっ これっ これっ

 苦手なんです 自分でも使えません

 なのに なのにぃ

 祐一さんが

 耳が 耳が 感じすぎちゃって はふん

 もうだめっ

 だめえっ


「……はい、終わり」


 しゅぽん

 はぁ…… はぁ……

 ようやく終わりましたか……

 私はほっとため息をつきます。


 確かに、くすぐったかったですが、
 終わってみると、すっきりした気分になれて、良いですね。
 たまには人に耳かきをして貰うのも良いかも知れません。


「……じゃあ、もう片方も」


 前言撤回っ!

 いやぁ いやぁ もういやぁ

 祐一さん、きらいっ

 ぱたん

 私は為す術もなく祐一さんにひっくり返されます。

「はい、いきますよ」

 やああああああぁぁぁぁぁ……………







「……ふぅ、終わりました」

 しくしく……

 私……

 祐一さんに、いいように弄ばれちゃいました……

 もうお嫁にいけな
 違います

 はぁぁ……

 終わったことを確かめて、大きくため息。

 喉元すぎればなんとやら、
 やっぱり、すっきりするものですね。

 祐一さんも私が痛がらないように、最大限に気を使ってくれたようで……

 あら、気づいてみると、祐一さんの額に汗が浮いてます。

 よっぽど一生懸命にやってくれたんですね……
 ……ごめんなさい、私のために。

 先ほどまでの気持ちはどこへ、今の私は優しい祐一さんへの感謝の気持ちでいっぱいでした。

 なにか、お礼でも……

 そうして、私が立ち上がると……

「だめですよぉ、秋子さぁん」

 ぐいっ

 ぱたり

 …………どうして、また、倒されるんですか、私。

 えっと。
 えっと。
 なぜかしら。

 ううん?
 ふと、脳裏に浮かぶ記憶。

 確か、さっきもこんな事を……







 …………ああっ!!


 祐一さん、あなたはやっぱりひどい人です

 そんな そんな

 ああ なんて嬉しそうな顔

 それでもなんとか逃げようとする、私の細い肩をぐっと押さえ込むと……

 気配が 祐一さんの顔の気配がっ

 私の顔にっ

 はぁ はぁ

 ああ、耳に吐息が

 来ます 来ます あれが来ます

 いやっ いやっ 怖すぎます

 がたがた ぶるぶる

 私はオシオキされる子供のように、固く目を閉じて、それが来るのを覚悟します

 怖い 怖い

 祐一さんの膝の上で、私はちっちゃくなっちゃいます

 怖いですよぅ……

 ああ まだ まだですか

 んんんっ

 ああああっ

 くううううっ

 …………

 ……あら?

 いつまで経っても、来る気配がありません。

 ひょっとして……

 根は優しい祐一さんの事です。

 私があんまり怖がっているので、途中で止めてくれたのかも知れません。

 なぁんだ、安心。

 ほっ。

 有り難うございます、祐一さん。

 そうして、私が全身から力を抜いて、固く閉じていた目を開いた瞬間――――
















 ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!








 ひゃぁぁぁんっ!!!



 はんっ くふぅっ んはんんんっ!


 あまりのこしょばゆさに、こてん とひっくり返ってしまった私を後目に、
 祐一さんは満足げな表情を浮かべると、

「では秋子さん、おやすみなさい」

 と言い残して、さっさと二階へ戻って行きました。



 はふ はふ

 私はと言うと、先ほどの余韻がまだ耳に残っていて、とっても変な気分です。


 ぞくぞくぞくぞくぅっ

 いや いやぁっ


 ……もぉぉぉっ! 祐一さんったらっ!









(終)

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読んで下さって有り難うございました。
それでは、こんなところで〜

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