いたづら秋子さん うなぎのぬるぬるです



はい、想像力豊かな方、ご安心を。
恐らく、あなたの想像通りの展開です―――――――

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 えっと。
 今日はうな重を作ろうと決めていたのです。


 ですから、腕によりをかけてうな重を作ろうと、
 お魚屋さんから新鮮なうなぎを買ったまでは良いのですが…


 ワンピースのエプロン、帯をしっかり締めた私。
 じっと見つめるその先に、バケツの中に入った一匹の魚。

 おもむろに私は、そのバケツの中に手を突っ込みます。


「えいっ」

 ぬるっ

「えいえいっ」

 ぬるぬるぬるっ


 ああん、もう。

 バケツの中に入れられたうなぎは、捕まえようと思ってもぬるぬるとその体をくねらせ、
 私の手から逃げ去ってしまいます。

 困りました。

 このままでは、うな重が作れません。

 それに、このうなぎの「ぬるっ」とした感触も…

 いやん、ちょっと苦手です。

 でも。
 でもでも。

 前々から、祐一さんは、この日を楽しみにしていたのです。

 居間では、帰ってきたばかりの祐一さんが、お腹をすかせて今か今かと出来上がりを楽しみにしています。

 最近は、妙に気温が上がって、暑苦しい日が続いています。

 だから私も薄着の扇情的な服装を
 違います。

 …祐一さんも名雪も、この暑さでバテ気味のようです。

 そんな二人のためにも、精を付けて貰おうと、うな重を食べて欲しいのに…

 そして、精の付いた祐一さんに可愛がって
 違いますっ


 ……とにかく、私はうな重を作らなければならないのです。


 ええい。覚悟を決めました。

 祐一さんのためにも、…えいっ!


 ぬら ぬるぬる


 よっと…!


 きゃあっ、っとと、何とか捕まえました。

 これを逃げられないように布巾でくるんで、まな板の上に…


 あっ、あっ、逃げないで


 ぬるぬる


 うなぎは水の中から取り出されても、私の手から逃れようと、懸命に体をくねらせ、上へ上へと登っていきます。


 私はそれを逃がすまいと、必死でぬるぬるする体を掴み、逃げられては掴み、逃げられては掴み…


 ううんっ…もう!

 おとなしくして下さい!


 ぬるぬるっ


 ああっ、手が滑るぅ… 気持ち悪いです


 でも、負けては居られません。


 よっ、とっ、はっ…


 ところが。

 その時です。


 うなぎは、ついに私の手の届かないところまで登り詰めると、
 私の手が届かない物ですから、そのまま重力に従って――――――



 にゅるっ



 …真下にいる、私の開いた胸元に潜り込みました。










 え?

 ひぃえぇぇぇぇぇぇっ!?



 うそ、うそうそ、そんな



 にゅるにゅるにゅる



 ひぃっ


 いやっ


 蠢かないで


 うなぎは、何とかこの狭苦しい空間から逃れようと、死にものぐるいで暴れまくります。


 ふんっ


 くぅっ


 あ、あ、あ、


 ぬるぬるしてて… いやぁ…


 あ、だめ


 気持ち悪いぃ…


 ついに私は、ぺたんと床に座り込んでしまいます。

 でも、うなぎはそんなことお構いなしに、私のお腹から胸にかけて、暴れまくります。


 ぞくぞくぞくっ

 あっ、鳥肌が立って来ちゃいました。


 本来ならばもう服の隙間から抜け出ていっても良いと思うのですが、私がエプロンの帯をきつく締めたせいで…


 にゅるにゅるっ


 あふっ☆


 帯が、帯が…とけません


 にゅるり。


 ふはぁっ


 はぁ、はぁ、はぁ…

 どうしたの私 おかしいわ

 気持ち悪いはずなのに、こんなに息づかいを荒くして…


 くふんっ☆


 こんな、こんな声…

 はぁ はぁ

 いやらしいわ…


 あっ…うなぎが…

 にゅるにゅると…その

 私の…ふくよかな双丘に…

 巻き付く…ようにっ


 にゅるにゅるぬるぬるっ


 ひゃふんっ


 は、早く取り出さないと…

 私ははしたないと思いつつも、自分の胸元に手を差し入れ、うなぎを取り出そうと試みます。
 
 でも、私の脳はその刺激に痺れきってしまっていて、うなぎのぬるぬると相まって、なかなか取り出すことが叶いません。


 ふひゃんっ


 はぁ はぁ

 もうダメです、私…


 こうなったら…

 最後の…はひっ…手段、です…






「ゆ、祐一さ〜ん」






 私は恥も、外聞も、何もかもかなぐり捨てて、居間にいる祐一さんを呼びました。


「どうしました、秋子さん?」


 私のか細い呼び声を聞きつけて、程なく祐一さんがやってきてくれました。


「はぁ…はぁ…祐一さん…あの…」


 私は、祐一さんに自分の胸元を開いて見せます。



「どわっ!? あ、あああああ、秋子さん、その、あの、俺、俺、俺、俺…」



 ああん、何をびっくりして居るんですか、祐一さん

 確かに今私は、真っ赤な顔をして、頬を上気させて、
 とろんとした目で、荒い息を解き放ちながら、祐一さんに胸元を開いて見せていますが…


 …あら?


 私は、ふと、自分の様子としたことの意味に気が付きました。

 いや 恥ずかしい
 そんな場合ではありません!

 私ったら、なんて淫らな姿を
 違います



 にゅるにゅるにゅろろろ

「ふはんっ☆」

 あ、変な声が漏れちゃいました

「ぬあっ」

 ……祐一さんまで変な声を出さないで下さい。


 ぴょろぴょろと、私の胸元からうなぎのしっぽが見え隠れします。

 ああんっ… いい加減、やめてぇ…


「祐一さん、うなぎ、うなぎが…」


 初めは狼狽していた祐一さんも、ようやく事態に気づき、私のそばに来てくれます。


「…で、俺はどうすれば良いんですか?」

「私の胸元に手を突っ込んで、うなぎを捕まえて下さい」

「わかりましたっ………って、ええっ!?」


 ああん、祐一さん、驚いてる場合じゃありません。


 ねぇっ…早く…お願いです…

 ぐい

 私は一層胸元を開いて見せます。


「わっ、分かりましたから、あんまり見せないで下さいっ!」


 あらあら。

 祐一さんったら、照れちゃって顔を背けて、かわ…ひゃふっ!…うなぎが、ぬるぬる…

 だっ…だめです!

 私は待ちきれなくなって、つい大声で…




「―――――祐一さん、早くシテ下さいっ!」

「わーっ、わーっ、人に聞かれたら誤解されますっ!」

 と言いつつ、祐一さんは私の胸元に手を差し入れました。

 でも、相変わらず私の胸元からは目をそらしたままですので、どうも勝手が掴めないようです。


「え、えっと、この辺かな?」


 むずむず さわさわ


 はふっ…


 ぬるぬるうなぎと、祐一さんの腕が同時に私の胸をぬちゅくちゅと…

 ああっ、私、どうにかなっちゃいそう…


「こ、ここか?」

 さわりさわり


 ヒんっ…


 祐一さん、わざとやってませんか?


 あんッ… うなぎと祐一さんの腕が、私の谷間を摩擦して…


 あふっ はふんっ

 はぁ はぁ


「ん…手応えアリ!」


 あっ 祐一さん、それはっ…


 むにゅう。


 わ、私の胸の…あんっ…強く…揉まないでっ


 もにゅもにゅ。


 あっ いや…

 本格的に、尖って来ちゃいそう…ですっ…んっ…


「わっ…わわわっ…」

 ようやく掴んで居た者の正体に気づいたのか、祐一さんは慌てて手を引き抜きます。


 ああん、もうちょっと長くても
 違います



 はぁ はぁ

 何してるの 私

 祐一さんとこんな事 いけないわ

 えっ

 あっ 違います


 うなぎです

 うなぎが悪いんです



 はふっ…

 でも、うなぎは、まだ…

 ぬるぬる

 ぬるぬる

 みゃふっ いやぁ


「祐一さぁん… お願い、助けて…」


 床にくてッと座り込んだまま、媚びるような熱い視線を祐一さんに送ります。


「で、ではもう一度…」

 祐一さんが私の胸元に再び手を突っ込みます。

「早く…早く…」

「わ、わかりました…」



「…………………何してるの、二人とも」



 えっ!?


 驚いて声のした方を向くと、いつのまに帰ってきたのか、暗い目をした名雪が。



「えっ、あっ、違うのよ名雪、これはうなぎが」

「そ、そうなんだ名雪、うなぎが」

「うなぎ? ふーーーん…」


 うっ、名雪、なんだか怖いです。

 そうして名雪はつかつかと私に歩み寄ると、

「事情は大体分かるよ…」

 すっと私の胸元に手を差し込み、鮮やかな手つきでうなぎを取りだしてしまいました。

「よっと…」

 そのまま、布巾にくるんで、まな板の上へ。

 私と祐一さんは、ぽかんとした顔でその一部始終を眺めていました。

「はい、準備は出来たよ… お母さん、早くご飯作ってね…」

 と言い残すと、名雪は暗い目のまま呆気にとられてる私たちに一瞥をくれると、
 手を洗ってそのまま二階へと向かってしまいました。

 取り残された私たち二人。

「名雪、凄いですね…」

「ええ…」

 で、でも…

 なんだか妙に怖かったのは、気のせいでしょうか。

 まあ、確かに、自分の恋人(?)と母親が台所であんな痴態を繰り広げていては…

 痴態…


 ぽっ


 今更ながら、自分が祐一さんにして貰ったことを思いだし、恥ずかしくなってしまいます。

 私ったら、なんて事を

 もう、もう… いやぁっ…


 でも…

 ちょっと、クセになっちゃうような
 違います。
 違います。

 違いますったら、違うんです!







 その日を境に、水瀬家の食卓にうな重が上ることは無くなった…………





 訳ではなく、時々思い出したように食卓に現れ、そのたびに秋子さんは胸元の開いた服を着ているという。








(終)

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ああ、こんな展開で面目次第も御座いません(笑)
読んで下さった皆様、有り難うございました〜

※このSSは海原玲さんからネタの提供を戴きました。
この場を借りて篤く御礼申し上げますm(_ _)m

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