いたづら秋子さん おねむなんです(後編)


ふえ〜
後編です。

前回までのあらすじ
秋子さん、倒れるように眠る。
以上。 …(^^;

ちなみに、前回はこちらへ。


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 眠りに落ちている俺の意識に、何者かの立てるノイズが軋む。

 ごそ…ごそ…

 ひやりと、外気が布団の中に差し込む。
 その何者かは、俺の布団の中に侵入しようとしているらしい。

「…誰だ…?」

 まだぼんやりとしている意識の中で、その存在の正体を確認しようとする。
 そいつは、ただ一言。
 それは、日常の中で飽きるほどに聞き慣れた声。

「うにゅ…」


 んー…
 …名雪、か。
 こんな夜中に、どうしたというのだろう。
 ひょっとして、俺と一緒に寝たい…とか?
 おいおい…
 しょうがない奴だな。

 ごそごそ…

 布団の中に名雪の足が差し入れられる。
 その少し冷えた感触に、お、と少し驚くが、俺の眠気を取り払うにはまだまだ不十分だった。

 名雪の侵入方向から俺は背を向けて寝ていたので、名雪がどのように入ってくるのか、
 俺にはわからないままだったが、それもまたスリルのようなものがあって面白い。

 足に続いて、いよいよ身体が入ってくる。
 と、同時に、二人の身体を包むように布団がかけ直される。

 ぴとっ、と背中に名雪が身体をすり寄せる。
 外気に触れて冷えた背中に、名雪の体温がとても心地いい。

「くー」

 そのまま名雪は、罪なほどにかわいい寝息を立て始めた。
 

 …名雪…

 まったく、しょうがない奴だ。
 でも、ま。
 実のところ、俺も嬉しいから、おあいこだな…

 しかし…

 ふにゅっ

 と、背中に当たる柔らかな二つの膨らみ。

 いつの間に、こんなに成長したんだ…
 ううっ、俺は嬉しいぞ。


 俺は名雪のことが愛おしくてたまらなくなり、名雪と向かい合わせになるように寝返りを打つ。

「にゅぅ…」

 そのまま、名雪をきゅ、と抱きしめる。

 可愛い。
 可愛くてしょうがない。

 つい、悪戯心が起こり、薄暗く表情も確かではない中で、
 薄ぼんやりとした名雪の唇に、そっと自分の唇をあてがう。

 ちゅ…

 粘膜と粘膜が触れあい、
 互いのぬくもりが伝わる。

「ぅぅん…」

 名雪はさもくすぐったそうに身をよじる。

 その仕草。
 何もかもが、可愛い。

 そのまま俺は微笑みながら、名雪の寝顔をゆっくりと撫でる。

「すー」

 名雪の寝息を顔に感じながら、髪の毛も同じように撫でていく。

 その都度、名雪は俺の存在を確かめるように、抱きしめる力を強くしていく。
 名雪の身体がさらに俺に密着する、柔らかな圧迫感が心地いい。

 頭頂部をなでなでする。
 眠っているくせに、恥ずかしそうに俯く。

 さらさらの耳の後ろ、結わえられたままの三つ編みのすべすべとした感触を愉しみ…











 …三つ編み?


 三つ編み。

 俺は驚いてその部分を何度も撫でさすったり、握ったりしてみる。



 三つ編み。
 三つ編みだ。



 …



 サー…っと血の気が引く。

 身体にまとわりつく、名雪…であって欲しい人の腕を振り払って急いで立ち上がり、部屋の電気をつける。


 急いで、俺のベッドで寝こけている人物の姿を確認すると…



 それは。
 やはり。



 ――――――秋子さんだった。


 驚いて声をかける。

「な、何やってるんですか秋子さん!」
「うにゅ」


 うにゅじゃないですよ。


 秋子さんは、俺のベッドをすっかり占領して、すやすやと本当に気持ちよさそうに寝ていた。


 なるほど、これが名雪の言っていた、「秋子さんのねぼけ」か…
 ううむ…困ったな。

 ん?
 まてよ。

 と、すると。

 俺が今まで、名雪だと思って抱きしめたり撫で撫でしたりあまつさえキスまでしてしまった相手というのは…




 …ぐああぁ…
 俺は頭を抱えた。


 しかし、まぁ、こうしても居られない。
 俺の安眠のためにも、一刻も早く秋子さんを起こして、俺のベッドから立ち退いて貰おう。

 すやすやと気持ちよさそうに寝ている秋子さん。
 可哀想だが、起きて貰おう。

 そうでないと、思わず襲ってしま











 …………い…は…しな…いんじゃないかな…あ、いや、でも…

 何を考えてるんだ俺はっ!
 しっかりしろ、俺!
 不埒なことを考える俺の頭を、げしげしとタンスにぶつける。


 ふー、いててて…
 こ、これでなんとか、正気を保ったぞ。


 俺は、毅然とした態度で寝姿の秋子さんに近づく。

 秋子さんは、俺のベッドの上で幼い子供のように身体を丸め、くーくーと寝ている。
 よく見ると、名雪のように目が糸目になっている。

「くー…」

 か。
 かかかかかか。

 可愛い…


 普段見慣れている秋子さんの姿とのギャップも相まって、想像を絶する可愛さだ。

 ううむ。
 唇くらいなら、もう一度奪ってもいいかな…


 ち、ちち違う!
 そうじゃなくて!

 秋子さんを起こさねば。
 よし。

 とりあえず、声をかけてみる。
「起きて下さい、秋子さん」
 無反応。


「起きてくださーい」

 ちょっと心が痛んだが、秋子さんの無邪気な寝顔を軽く張る。
 ぺっちんぺっちん。

「うー…」
 唸ったきり。


「起きて下さいよっ…!」

 秋子さんの細い肩を掴み、前後に揺さぶる。
 ゆっさゆっさ。

「揺れる…ゆれるお…」
 ゆりかご気分で、とても気持ちよさそうだ。


 はぁ…これでも無理か。

 しかし。
 秋子さんを起こすことこそ叶わなかったが、
 そこで俺は、大変な事に気づいてしまった。

 んー、まぁ、つまり。
 …秋子さん程の大きさにもなると、だ。

 肩を揺さぶると、その、あー、えっと…







…胸の方も…

 ゆっさゆっさ。


 ぐあっ!

 い、いかん。これは毒だ。

 しかし、理性とは裏腹に、俺の本能はさらに秋子さんを強く揺さぶっていた。

 ゆっさゆさゆさ。
 ゆっさゆさゆさ。ふるふる。

 だ、だめだぁっ! これ以上は、俺の理性が…!

 しかしその時。
 あんまり強く揺さぶったため、ゆるく掛かっていたぴんくのパジャマのボタンが外れ…

 ひらり

 とはだけて…




 すべすべのお肌と
 そこはかとなくセクシーな鎖骨と
 清楚な秋子さんには不似合いな黒いレースのブラ紐が露わになった。







 ぷしゅー
 俺は蒸気を立てた。


 あっああああ秋子さん!

 ぼっぼっぼっぼっぼぼかぁもう!

 た、たまりません!


 はー、ふー。

 どっきんどっきんどっきんどっきん。


 も。
 も、も、も、も、もうダメだぁ!


 はやる気持ちを抑え、秋子さんのちっちゃくて白いおみみに口を近づける。










 ぼそり。
「秋子さん…襲っちゃっていいですか?」
「りょーしょー」


 うおおっ! 一秒だっ!

「あぁ〜きこさぁぁ〜ん!!」

 がばぁっ!

 俺は秋子さんに覆い被さる。



 …ところが


 どがぁん!

 勢い余って俺は身体をしこたま壁にぶつけてしまった。
 部屋が揺れる。


 おー、いててて…

 だが、これぐらいでは俺は負けない!
 ではでは、いっただっきま〜…





 がちゃ。
「うるさくておきちゃったよ〜」




 …ドアの方から名雪の声。
 今度は本物。


 なんでこんな時だけ起きるんだよぉ…
 俺は泣きそうだった。



 …さて。
 状況を整理してみよう。


 今、名雪の目には、俺が秋子さんに覆い被さっているという非常に素敵な光景が映っている。




 ………ぐふぁ。

 俺の全身を、恐怖感が支配する。
 怖い。
 振り向きたくない。
 このまま、時間が凍り付いてしまえばいいと思った。
 ずっと、このままで、望まない未来へと進むことなく。


 しかし、物理法則は俺の思惑通りには働かない。
 時間は流れるものだ。



「…祐一…」

 低い声。
 冷や汗、たらり。

「は、はひぃ!」

 崩壊しそうな感情を抑え、背を向けたまま裏返りそうな声で返事をする。


「祐一…」

 再び、低い声で俺の名を呼ぶ。

「はい、なんでございましょう」

 俺は冗談のように卑屈な返事しかできない。






 す…と名雪のからだが揺らめく気配がした。


 そして…






「ずるいよ、わたしもっ」



 もふっ

 名雪が俺の背中に抱きついてきた。



 え?


 と思う間もなく、名雪は強引に俺の身体をベッドに横たえ、秋子さんと反対側に俺を挟む形で布団に潜り込んだ。

 そしてそのまま、


「くー」


 だ。




 ……こっ…

 …この、ねぼけ親子はぁぁぁぁぁっっっ!!!!



 しかしそのねぼけ親子は、俺の苦悩など知る由もなく、

「ゆういひぃ…」
 ぎゅっ

「ゆういひさん…」
 ぎゅっ


 ぐああ。


 もんもんもんもん。


 いくら何でも、二人同時にいただくような度胸はない。
 二人の魅力的な女性に挟まれ、そのまま俺は朝まで眠れずに過ごした。


(終わり)

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はい、終わりです。
…ダメスギ(^^;<自分
読んで下さって、有り難うございました。
では〜

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