祐一、美汐にマッサージする。
〜後編「天野家の人々」〜
※あらすじを書くと美汐が恥ずかしがって嫌がるので今回はパスです。
俺「いくぞ」
家には俺達以外誰もいない。
二人だけの密閉空間。
そんな状況で天野に馬乗りになった俺はそう促した。
天野「・・・」
無言で頷く天野に心の準備をした事がうかがえる。
まあ初めてではないのだしそんな大した事はないか。
この家で何回も受けてきたのだから。
・・・という考えは不謹慎だろうか?
ふと天野の外気にさらされた肌に視点がいく。
それは今まで見た誰の物よりも白くて、それでいて華奢で綺麗だった。
俺は乗っている位置をややずらし、天野を揉みしだく自分の姿を想定して適切な位置に手をあてがう。
その間も天野は無言。
俺の手にいよいよ力が入る。
俺(絶対に天野をあえがせてやる・・・)
よこしまな決意で挑んでも許されるだろう。
それで俺のテクニックが最大限に発揮できるなら。
よし・・・。
マッサージ再開だ。
俺は指の1本1本に神経を走らせて天野の腰を揉み始める。
上のほうから下のほうへ移動していく。
いつもと同じ事をしているように見えるかもしれない。
しかし人間の感度の高い位置、微妙な力の入れ具合。
今までの知識と経験の中でそれらを考慮して最高の技で天野に挑んでいるのだ。
無言の天野が見えない威圧感で俺を躍起にさせる。
普通の客なら脇でもくすぐってからかうところだがそれはしない。
天野に本当に気持ちよくなってもらう・・・。
それをしてからでないと俺のプライドが許さなかった。
もみもみ・・・
もみもみ・・・
天野「んっ・・・」
俺「!?」
やったか!?
天野「ふあぁ・・・」
俺「・・・(゚゚)」
あくびだった。
気を取り直して神経を集中させる。
腎愈、肝愈等のツボはあえて試さなかった。
天野をただ俺のマッサージのみで気持ちよくさせてみたいという挑戦でもあったと思う。
しかし腰を揉んでいる始終、遂に天野のあえぎ声を訊く事はなかったのだ。
俺は続けて足のほうに手を施す。
天野の小さな足の裏を揉み解す手がじっとりと汗でぬれてくる。
俺の頬を汗が伝う。
だんだんと揉む位置を上げていき、太ももを両手で扱っていく。
その両足は色白くて、か弱くて、まるで壊れ物を扱うかのように思えた。
しかし今の俺にとってその足は俺の理解を超えた領域にあるものだったのだ。
天野は黙ったままで、俺は焦る一方。
時間は刻一刻と過ぎていく。
ふいに、揉んでいた両手を畳の上に置いた。
天野「・・・・・・」
俺(くっ・・・)
通用しなかった・・・俺の業が。
どうすればいいんだ・・・。
駄目だ。わからない。わからない。
マッサージをやり始めてから、こんな事はなかったのに・・・。
天野「相沢さん」
うなだれた俺の背後に天野が回った。
俺「・・・?」
何だ・・・?
天野「落ち着いて」
そう言って俺の両肩に手のひらを乗せてきた。
そしてゆっくりとした動きで俺をほぐし始める。
俺「・・・・・・」
天野のゆっくりで単調なリズム。
それにあわせて安堵感を感じてゆく。
気持ちいいな・・・
思えばマッサージされる、というのは最近めっきり少なくなってしまった。
舞と佐祐理さんにこの道を見せられて、はや・・・いや、そんなに日数は経ってないけど。
それからこんな風にいろいろな人たちに俺のマッサージを味わってもらった。
途中何かあったりなかったりしたけれど、マッサージとしてみたらみんな気持ちよく思ってくれていたようだ。
自分で自分にマッサージするというのも手だがいまいち感触がつかめないし、限界というものがある。
だから、こういう「される側」になると・・・。
天野「・・・どうですか?」
俺「はっ!?」
天野の声に俺は我に返る。
天野「落ち着けましたか」
俺「・・・ああ」
肩の力が抜けた気がする。
天野のマッサージは本当に気持ちよかった。
そして、心にゆとりのできた今なら・・・
マッサージできる気がする。
俺「天野、もう1回やらせてくれ」
すると、少女はとても柔らかな笑顔で応えてくれた。
天野「・・・いいですよ」
* * *
天野「私がマッサージという物を始めて受けたのは5歳の頃です」
俺のマッサージが一通り終わって、ふたりお茶をすする。
のどかな午後だった。
俺「5歳!?」
天野「はい。ただ揉んでもらう事じゃなくて、全身マッサージです。それも、これがマッサージだと訊かさせて」
俺「へぇ・・・。天野の家ってなんか浮世離れしてるな」
天野「ひどいですね」
言葉では俺を非難しながらも微笑んでいる。
天野「私は普段マッサージされる方でしたから自信はなかったんですけど・・・小さい頃、父からこう言われていました」
天野「『静かな心であれ。体を解すのでなく、心を解せ。ならば、光明は常にその先にある』・・・・・・と」
俺「・・・難しいな」
天野「はい。私も半分も理解出来てないように思えますし」
でも・・・少しは分かる気がする。
さっきの天野のマッサージでその言葉の意味を感じ取れたからだ。
心が疲労していた俺を落ち着かせてくれたのは間違いなく・・・天野のおかげだから。
天野「あ・・・そういえば」
そこで思考を中断される。
俺「?」
天野「つぼ・・・やりませんでしたね」
俺「あ」
そういえばそうだった。
少し意地になって押さなかったんだった。
天野「マッサージの華ですし・・・どうしますか」
俺「よし、もう一丁やってやるか」
つぼ押しがマッサージの華だったとは知らなかったが。
俺も今となっては何もためらう必要もないのでやってみようと思う。
改めて横になった天野に手をあてがう。
俺「あのさぁ、本で読んだけど臑兪とか肩井とかってさ・・・」
天野「マッサージ中はお喋りは厳禁ですよ」
俺「へいへい」
ま、確かに具合とか訊く以外は私語はあんまり感心しないな。
俺は揉むことに加えツボを押しながら体の上の手を這わせていく。
ときおり力を入れるところでは、
天野「んっ・・・」
とか魅惑的な声が訊こえたが。
幼い頃から慣れている天野はこらえる事ができるのだろう。
波立つ感情を押さえて全体マッサージを終えた。
それから、なにか物足りなさをふと感じた俺は以前から持っていた疑問を天野に投げかける。
俺「天野に訊きたい事がある」
天野「・・・? 何ですか」
俺「一般に知られているツボって意外に少なくないか」
体の一部分にある数はばらけているが全体的に体の凝る部分を見て少なく思っていた。
同じ、いや俺以上のマッサージ暦を持っている天野なら何か知っているんじゃないかと話し掛けた。
天野「・・・ツボ、というのは結局人間の痛覚の位置に関係していますから・・・大体のものは現在発見されていると思います」
俺「そうか・・・」
天野「ですが」
落胆しそうになった俺を止める。
天野「効果の高いツボ付近等に、もしかしたら未知のツボがあるかもしれない・・・と私は思います」
俺「・・・」
やはり俺の考えと同じだった。
さすが俺が見込んだだけはある。
天野「・・・試してみますか?」
俺「・・・ああ。ちょっと付き合ってもらうぞ」
そのままツボ探索に両手を這わせた。
俺「んー・・・まずは頭、いってみるかぁ」
おもむろに俺はぐわしと天野の後頭部を掴む。
そしてツボを探して手を動かしていく。
俺「どこらだと思う? 天野」
天野「そうですね・・・頭蓋に筋肉はありませんが・・・渦の真ん中とか可能性としては」
俺「そうか」
言われて俺は天野の頭上に力をこめた。
天野「うっ・・・」
途端小さな叫びが聞こえる。
いくら慣れていたとはいえ、それは以前に受けていたところに関して、だ。
マッサージ師がしたこともない所を攻められてはかよわそうだ。
俺「・・・どうだった?」
天野「・・・眠気覚ましにはいいかもしれません」
俺「成る程」
考えるに、突起のついた野球帽をかぶった少年が上から叩かれる意外な痛さのようなものだろう。
気持ちよさとは程遠い。
俺「じゃあ・・・脇だ」
背後から天野の脇の下に両手を滑らせる。
そして芯のようなものをぐいぐいと押してみる。
普通の人間がこれを受けるとくすぐったがるか、痛がるか・・・というのが予想だ。
天野「・・・何も感じません」
俺「そ、そうか」
あまりにも冷たい声だったのは本当に何も感じなかったからだろう。
こういう性質の人もいるのでツボとして適切じゃない、そういうことか。
俺「うーん・・・」
俺は天野をひっくり返す。
つまりは仰向けにさせたのだ。
天野「・・・どうしますか?」
俺「肋骨の下辺り・・・」
目をつけたのは言った通り肋骨が丁度なくなりそうな位置。
その、腰に近い部分を試してみる。
いつもは背後からやっているところだが・・・
ぐいぐい。
天野「あっ・・・」
俺「ん?」
いつもの天野とは様子が違うように感じた。
俺「・・・良かったか?」
天野「は、はい。結構・・・」
一瞬我を忘れたのを恥じたのか、天野が少し顔を赤らめる。
俺「よーし。この調子だな」
天野「はい・・・」
次はどこにしよう。
俺の思考の中にいつもしている位置を思い浮かべる。
普段から行っているツボの背後というのもなんだか有望そうだ。
今度は両肩、鎖骨の下辺りに目をつけた。
俺「鎖骨の下やってみるから、ちょっとはだけてくれ」
天野「・・・・・・」
黙って俺の言う通りにする天野。
俺「ありがとう」
そして直に見れる肌に両手をあてがおうとする。
天野「あっ、ちょっ・・・」
俺「どうかしたか?」
天野「あ・・・いえ」
変な雰囲気だった。
とりあえず気にしないでツボを探し始める。
俺「いつもはここ後ろからやってて、気持ちいいだろ?」
天野「・・・はい」
俺「って言っても、天野はマッサージ中はだんまりだからなぁ」
天野の性格からしてそれはしょうがないのだが、なんとなく笑ってしまう。
そんなことを考えている間にも鎖骨の下辺りを探りながら押していく。
ぐぐ・・・、と程よいと思われる力をこめて。
その時。
わずかにしこりを感じた。
俺「・・・? ここ、こってるのか」
天野「さ、さあ・・・」
先ほど感じた辺りに、ひょっとしたら・・・
そんな予感がそれを夢中にさせてくれる。
執拗に鎖骨下部で手を動かし、そのうち筋肉の筋があると感じ取る。
普通の状態ならばもっと滑らかなはずのその筋が、今は不自然に硬くなっているのに気がつく。
俺「お前、こってるな。あ、こっちもだ」
なんだかプロの域の天野に揉む所を発見すると楽しくなってくる。
天野「あっ・・・あ」
へえ、天野でもこんな可愛い声を出せるんだ。
俺(ツボを探すと同時にマッサージするのも、相手に気持ちよくなってもらっていいもんだな)
そうして元の場所からこっているであろう位置に下がっていく。
天野「・・・・・・・・・」
しばらく揉みつづけているうちに硬い所に手が行った。
俺(??)
天野「うくっ・・・あい、ざわ・・・さん」
ふと我に返った。
今の状況。
ええと、俺は・・・
鎖骨から下にそって揉んで・・・?
胸・・・
硬い所に手が・・・?
突起・・・
俺「うおおおおおあああっ!?」
俺は、俺はツボ探しに夢中になって、こんな事になっているのに気づかなかったのかーっ!?
とんでもないところを揉んでいたじゃないかーっ!!
驚いて思わずマッサージのために浮かしていた腰ががっくりと落ちる。
だが落下位置がさらに悪かった。
天野「あ、相沢さん・・・わ、私・・・」
すっかり硬くなった俺のモノが、天野の中心の上に重なっていた。
俺「▽×☆♪Σ#μ$%’V@;>⇔!?!?」
動転しながら視界に入ったものは天野のはだけた肩ごし・・・
俺は、俺は一体これから!?!?
がららら
窓の開く音。
そこに見知らぬ女性が立っていた。
俺「あ・・・」
天野「お母さん・・・」
・・・そうか、天野のお母さんか。成る程・ザ・わ〜るど。
俺「・・・って、違います!! 誤解です!! 俺は決して白昼堂々となん・・・いや、もう夕方だけど・・・じゃなくってこれは!!」
あたふたとマウント・ポジションで弁解をする俺。
説得力ないなぁ。
天野母「先ほどの業、見させていただきました」
俺「・・・へ?」
動揺しまくった俺と対照的に、落ち着いて物腰のある着物姿の天野母は俺に視線を投げかけてきた。
天野母「あなたほどの才能、業、そして今のようなマッサージに夢中になるくらいの情熱・・・私が今まで見た中でも最高の人物です」
天野「・・・」
俺「ど、どうも・・・」
いまいち話が飲み込めない。
天野母「代々天野家ではその家長が認めたマッサージ技術の主でないと結婚を許さないのですが・・・あなたなら大丈夫そうですね」
俺「はい??」
いや、俺には舞が・・・。
天野母「美汐をよろしくお願いします。夜は長いですから」
その言葉を残してその場からそそくさと立ち去っていった。
一方的だな、おい。
天野「・・・相沢さん」
呆気にとられた俺にいまだに乗られたままの天野が話し掛けてくる。
顔を赤らめながらのその台詞は俺を刺激するのに十分事足りたのだった。
天野「・・・母も、結婚相手とはマッサージした直後に結ばれたそうです」
俺「は、は、は・・・・・・(゚゚;)」
・・・その後、俺がどうしたかは想像に任せる。
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みなさんごめんなさい、すごく遅くなりました。これから秋子さんの続きを仕上げます。
(^^;)それにしても煩悩だらけのSSですね。ぎりぎりで年齢制限はつかないです(笑)
すでに栞編が仕上がっている事がわかっていて大急ぎでした。
さあ真琴編(完結編?)はいつできるのでしょうか。楽しみですね♪
こんな馬鹿なSSが読みたい人はぜひ田尻帝国に来てやって下さいね!
ではまたどこかでお会いしましょう!!
2000/3/9 PM 14:18 田尻
*F.coolです。上記の後書きは、掲示板投稿時の田尻さんの後書きをほぼ完全にそのまま写した物ですが、
ちょっとした誤解だけ訂正させて戴きます(^^;
次回は、「真琴編」です。その次が「栞編」となります。
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