meet
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ひさしぶりに、こういう話を書いてみたりしまして・・・
あゆの一人称です。
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タタタタタタタタタタタッ!
まだ薄く雪の積もる商店街を、ボクは駆け抜ける。
理由は・・・・これ。
小脇に抱えられて、暖かな湯気を放っている・・・・・・
たいやき。
例によって、また、お金を払わずに・・・・・持って来ちゃったんだ。
うぐぅ!だって、仕方なかったんだよ!
今日こそは、今日こそはお金を持ってこようとしてたのに・・・
どうしてボクってこんなにそそっかしいんだろう?
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
ボクは、人目を避けて、路地裏に入った。
ふぅ・・・・ここなら、もう、だいじょうぶだよねっ。
ボクはごそごそと袋からたいやきを一つ取り出す。
ほかほかと、とってもおいしそうだよ。
では、いただきま〜・・・・
ぽかっ
ボクの待ち望んでいた瞬間は、頭へのチョップによって邪魔されたんだ。
いたい! 誰!? もう、何をするの?
ボクが文句を言おうと、振り返ると・・・・・
・・・・・・・・・
そこには、とても怖い顔をしたお姉さんが居たんだ。
うぐぅ・・・こ、こわいよう・・・・
いったい、なに・・・?
ボクが後じさりすると、お姉さんも一歩、また一歩と近づいてくる。
こ、こわいよ・・・・!な、なんなの、このお姉さんは・・・・?
ボクがそう思っていると、お姉さんは、ぽそりと一言、たいやき、と言った。
え・・・・?もしかして、このたいやき、ほしいの・・・?
ボクがお姉さんの顔を見ると、まだ怖い顔でじっとこちらを睨んでいた。
この人、不良なのかな・・・?
こんなに鋭い目してるし・・・
うう・・・不良に、カツアゲされちゃうよぅ・・・・
ボクはそのお姉さんが、ボクのたいやきを欲しがっていたものとばかり信じ込んでいたから、
おそるおそる、袋の中からほかほかのたいやきを一つ取り出して、お姉さんの前に差し出したんだ。
お姉さんの身長は、ボクよりずっと高かったから、顔の前まで差し出すのにボクはとっても苦労した。
怖さと緊張で、腕がつりそうになっちゃったくらいだよ。
そしたら・・・・
ぽかっ
いたい!
今度は、さっきよりも強めのチョップだった。
そうしてお姉さんは、また、ぽつりと一言、ごまかさないで、と言ったんだ。
うぐぅ・・・なんなの・・・一つじゃ足りないの・・・・?
でも、どうやらちがったみたい。
お姉さんは、今度は、ちょっと悲しそうな顔をして、ものを盗んでは、だめ、と言った。
お姉さんは、ボクがたいやきをお金を払わないで持って来ちゃったことを怒ってるみたい。
でも、お姉さんはたいやき屋さんとは何の関係もないみたいだし・・・
どうして、怒ってるんだろう?
ボクがそう思って、おどおどしていると、お姉さんは、こちらに近づいてきて、
諭すような口調で、ぼくと話し始めたんだ。
うん・・・お金を払わなかったのは、悪かったと思ってるよ・・・
でも・・・・仕方なかったんだよ・・・お金を、忘れちゃったんだから。
え?仕方ないなら、いいのかって?
うぐぅ・・・それは・・・・
ボクが答えに困っていると、お姉さんはゆっくりと話し始めた。
あのたいやき屋さんは・・・いつも、笑顔で・・・・
美味しいたいやきを、みんなに食べさせてあげるために、
朝早くから、屋台を引いて・・・
小麦粉だって、特別な物しか使わない・・・・・
あんこだって、そうなんだって。
それでも、お値段はとっても安い。
ゆうきさいばい、とか、ボクにはよく分からなかった言葉もあったけど、
あのおじさんは、みんなのために、一生懸命、たいやきを作ってる。
そのことは、お姉さんの静かな語り口と重なって、痛いほど・・・・伝わってきた。
痛い・・・
痛いよ・・・・
心が・・・・痛いよ・・・・
うん・・・・そうだよね・・・・・
ボクは、お金を払わずに、たいやきを持って来ちゃった・・・
それは、たいやきを「盗んだ」ことなんだよね・・・・
犯罪・・・・なんだよね
ボクは・・・みんなに美味しいたいやきを売っている・・・
あの優しそうなおじさんの気持ちを・・・裏切っちゃったんだ・・・
そりゃあ・・・おじさんだって、怒るよね・・・・
うぐぅ・・・
ごめんなさい・・・・
ボク、悪い事しちゃいました・・・
本当に、悪い事しちゃいました・・・
ごめん・・・なさい
ボクが心の中でそう呟くと、堰を切ったように、
「うぐぅ・・・うっ・・・うう・・・ああ・・・」
涙が、溢れて来ちゃったんだ・・・・
ごめんなさい・・・・
ごめんなさい・・・・
その時のボクは、ただ、心の中で謝りながら、泣きじゃくることしかできなかった。
どうしよう、どうしよう・・・・
ボク、ボク・・・・
ごめんなさい・・・・
すると・・・すっ、とお姉さんの手が伸びてきて、
ボクの頭を、優しく撫でてくれたんだ。
ボクが、驚いて涙に濡れた目でお姉さんを見上げると、
お姉さんは、とても悲しそうな顔をしていて、ごめんなさい・・・と言ったんだ。
そして、泣かせるつもりじゃ、なかったの・・・と。
うぐぅ・・・お姉さん、本当は・・・優しい、人なんだね。
ごめんなさいって謝るのは、本当は、ボクの方なのに。
うぐっ・・・お姉さん・・・
そうしてボクは、お姉さんの温かい手で頭をなでなでされながら、しばらくの時間、そこで、反省していたんだ。
そして、ふ、と思い立って、ボクは歩き出した。
どこへ行くの・・・・?と、お姉さんの心配げな声。
ボクは、涙を拭って、できるだけ元気よく、こう答えたんだ。
もちろん!おじさんに、たいやきを返して、あやまりに行くんだよ、と。
それは、ちょっとだけ、怖かったけど。
ボクは悪いことをしちゃったんだから、謝らなきゃ、いけないよね。
そうしたら、お姉さんは、私も・・・と言って、ボクの横に並んだ。
ありがとう・・・・一緒に、ついてきてくれるんだ・・・・
本当に、優しいんだね・・・お姉さん。
だから、関係ないのに、ボクのことを、怒ってくれたんだね。
二人で、商店街のにぎやかな町並みを歩きながら、
あれ?どうしてだろう・・・・
お姉さんが側にいて、心強いはずなのに・・・・
とっても嬉しいはずなのに・・・・
また、涙が溢れて来ちゃったんだ。
*
「うーん・・・・そう言われてもねぇ・・・・」
たいやき屋のおじさんは、ボク達を目の前にして、腕を組みながら困っている。
最初、こちらに歩いてくるボクを見たとき、おじさんは一瞬怖い顔をしたけど、
ボクの思い詰めた表情を見たら、はっとしていつもの優しい笑顔に戻ったんだ。
でも、いざ、おじさんの前に立ったボクは、恥ずかしいことだけど、
もう、どうしたらいいかわからなくなって、また、わっと泣いちゃったんだ。
おじさんも、泣き出したボクを見て、おろおろと困ってしまった。
そうしたら、お姉さんが、また、ボクの頭の上に手を置いてくれて。
本当に、申し訳ありませんでした・・・って。お姉さんから、頭を深く下げたんだ。
たいやきを盗んだのは、ボクなのに。
ボクは、お姉さんにつられるように、ごめんなさいって頭を下げたけど、
心の中は、見ず知らずのボクのためにここまでしてくれるお姉さんへの感謝の気持ちでいっぱいだった。
そうして、ボクは、お姉さんと一緒に、
何度も何度もあやまって、
あやまって、
泣きながらだけど、あやまって、
そうして、これを返します、済みませんでした、と言って、たいやきの入った袋を差し出したんだ。
でも、おじさんは、困った顔をした。
うぐぅ・・・そうだよね・・・・
ボクが抱えていたたいやきは、色々なことがあったせいか、すっかり冷めちゃって、
形だって、しっぽがまがったり、あんこがはみ出ちゃったりと、とても可哀想な状態だった。
こんなたいやきを、いきなり返すって言われても、困るよね・・・
でも、おじさんは、しばらく悩んだ後、
「おし!せっかく謝りに来てくれたんだ、その心に免じてそいつはお嬢ちゃんにあげよう!」
と言ってくれた。
え・・・でも・・・・と、困るボクの横で、お姉さんが、
それはだめ、と言った。ちゃんとお金を払わなければ、いけないって。
「お姉さん、あんた、厳しいねぇ」
おじさんはそう言ったけど・・・そうだよね・・・お姉さんの言うとおりだよ・・・
ちゃんと、お金を払わなければ・・・・
だめなんだよね・・・・
おじさんに、悪いよね・・・・
でも、ボク、お金持ってないし・・・
うぐぅ・・・どうしよう・・・・
ボクが悩んでいると、お姉さんは、スカートのポケットから何かを取り出した。
それは、かわいいウサギさんの形をした、お姉さんのお財布だったんだ。
そして、お金は、私が払う・・・・と言ったんだ。
ええ?そんな、悪いよ・・・と私が止めるのも聞かずに、
困り顔のおじさんに、さっさと代金を渡しちゃったんだ。
うぐぅ・・・
「二人とも・・・ごめ、ごめんなさい・・・うぐっ・・・そして、ありがとう、ござい、ます・・・」
ボクは、泣きながらだったけれども、心の底から、二人にお礼を言ったんだ。
今度から、気を付けてくれれば、いい・・・・お姉さんは、そう言ってくれた。
そうしたら、おじさんは、何故か嬉しそうな顔をして、
「全く、お嬢ちゃんもお姉さんも、今時感心な娘だねぇ・・・よぅし、ほれ」
と言って、ボクとお姉さんに、焼きたてのたいやきを一つずつ手渡した。
うぐぅ?このたいやき、なんなんだろ?
なに、これ・・・・と、お姉さんも不思議顔だ。
「なあに、久しぶりにおじさんを感動させてくれたって事で、お二人にプレゼントだよ」
おじさんは、照れくさそうな顔で、そう言ったんだ。
お姉さんも、ボクも、それでもちょっと困った顔をしてたけど、
「これは、プレゼントなんだよ。おじさんからの。それとも、いらないかい?」
おじさんの問いに、ボクも、お姉さんも、ぶんぶんぶんと、大きく首を振ったんだ。
「あっはっはっは、へい、毎度あり!これからも、ご贔屓に!いつまでも姉妹二人で、仲良くな!」
え?姉妹?
ボクとお姉さんが?
そう言う風に見えてたんだ・・・・
ボクとお姉さんは、顔を見合わせて、ボクはクスっと笑った。
お姉さんも、少しだけ笑ったような気がした。
うぐぅ・・・なんだか、嬉しいな・・・
お姉さんが本当のお姉さんだったら良かったのに。
ボク達は、おじさんの元気な声に見送られ、二人で近くのベンチに座ったんだ。
そうして、二人で食べたおじさんからのステキなプレゼントは、
ボクのはちょっと涙の味が混ざってしょっぱかったけど、
ほかほかで、甘くて、香ばしくて、しっぽまであんこが詰まってて・・・・
とても、おいしかったんだ。
今まで食べたどんなたいやきよりも、おいしかったんだ。
お姉さんも、おいしい、と言ったんだよ。
先に食べ終わっちゃったお姉さんは、食べるスピードが遅いボクが食べ終わるのを見届けると、
友達と約束があるから、じゃあ、と言って、向こうの方にすたすたと歩いていってしまったんだ。
ボクは、立ち上がって、その後ろ姿に、精一杯大きい声で、
「お姉さん、ありがとうっ!」
って言ったんだ。そうしたら、お姉さんはこちらを振り返って、
また、会おうね
って、言ってくれたんだ。
*
今日は、とてもいいことがありました。
泣いてしまったこともあったけれど、
人の優しさという、
とても大事なもの、
かけがえのないものを、
知ることができました。
あとで、祐一くんにも話してあげようっと。
月宮 あゆ
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解説・・・・・
F.coolです。
「水瀬秋子です」
いかがでしたでしょうか。
「こういうお話を書くのは、久しぶりですね」
そうですね・・・本来、私はこういう話を書く人なんですけど(苦笑)
「浪漫系はいやなんですか?」
とんでもない!大好きです(爆)
でも、たまには原点に立ち戻って、こういう話もいいかなと思いまして。
「そうですね(にっこり)」
それでは〜
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