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『CのKanon』 導入編 #2 〜ブラックファラオ(上)〜

 by ななほし

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(舞からもう少し事情を聞かないとな。マモノ…って、やっぱり魔物?…しかしあんまり現実離れしてるって言うか…)





「祐一どうするの?」

 とりあえず舞は泣きやんだが、まだどこかしら不安げな様子だった。

「そうだな、こんな状態じゃ…とりあえずうちに連れていかないか」
「そうだね…うん、わかったよ」

「舞、良いか?」
「………」

 こくりとうなずく、名雪の手をしっかりと握ったままだ。やっぱりこの状態じゃ一人で帰すのはちょっと…だな。

「歩けるか舞? それとも…おぶってくか?」

 ………しばらくの沈黙。

「…歩ける」

「そうか、じゃあまず名雪と俺のカバンをとりに教室にいこう」

 教室に入り自分の机まで行くと、まだ香里のカバンがあるのに気付いた。

(まだ、いるのか…)

 もう少し調べたかったが、舞がこの調子では名雪一人に任せるのはいささか気が咎めた。

(いや……そうだ、まじめに調べるなら香里が居たんじゃダメだ…)

(しかし名雪も普段はあんななのにな…こういうときはしっかりしてる)

「祐一? 何かひどいこと考えてる?」
「名雪、舞。はやく帰るぞ」

「あ、舞さん。私の名前、名雪って言うんだよ。名前の名に空から降る雪の雪。よろしくね」

(こういうことにするどかったり、ごくまじめにちょっと…いやだいぶボケてるのはいつものことだけど…それに佐祐理さんだな。魔物って…)

「ん? 舞どうした?」
「………」

 一階の廊下まで来たときに舞の歩みが止まった。表情は、ほとんど変わらないが雰囲気がさっきまでの頼りなげなそれとは明らかに違う。

「舞…さん?」

『パキッ…』

「……名雪、下がって」
「え?」
「なんだ? どうした?」

 舞は名雪の前に一歩進み出るようにして手で名雪を制す。

「……魔物」
「魔物…って、さっきいってた奴か?」
「…ちがう」

 舞は名雪をかばいながら廊下を窓側に移動する。名雪はとまどいながらも舞の突然の変化にただならぬ様子を感じ取ったのか素直に移動する、舞の視線はドアに向けられているようだ。

(あれ、ここは確か…)

『ガラガラッ』

 突然ドアが開いた。
 しばしの沈黙があたりを覆う。

「…名雪? 相沢君?」
「…香里じゃないか…舞」
「………」
「舞…さん? あ、倉田先輩のお友達の…それにしても相沢君何してるの、こんな大勢で…こんな時間に」
「あ、いやそれは…舞?」

 そこは気がついてみればさっき舞と出会った場所、つまり香里の部室の前だった。舞を見ればまた雰囲気が変わっていて、先ほどのように名雪の手をぎゅっと握っていた。

「……消えた」
「消えたって…」
「………」
「祐一とりあえず帰ろうよ。香里も一緒にかえろ、もう真っ暗で危ないよ」
「…そう…だな、香里はどうする?」
「ありがとう、でも後かたづけがあるから。またね」
「あ…ああ、またな香里」
「香里またね」

 香里はそう言うと部室に使っている部屋に鍵をかけて廊下を歩いていった。

(あ! そうか鍵か、しまったな…これじゃ、あとで来ても調べられないじゃないか)

「………」

 舞が香里の後ろ姿を追うように見つめている。

「祐一」
「なんだ名雪、ここじゃ寝るなよ」
「まだ大丈夫だよ、でも…」
「ああ、はやく帰ろう」

(ふう…それにしてもなんでこうわからないことだらけなんだ…)



 確かに舞は謎が多い。余計なことはもちろんのこと、特に自分から何かを話すことはまずない。


(そう言えば…舞が一人でいる時に俺が会うことってほとんど無かったな、いつも佐祐理さんと一緒だったような気がする…と言うか今日が初めてかも知れないな、こうして舞とあうのは)


 はっきり言えば佐祐理さんや舞とは、正直親しいわけではない。俺の不注意から…少しごたごたがあって知り合いになった、そう…せいぜい『知り合い』と言う関係。


(そんな舞が…俺を頼ってるんだ、ばからしいかも知れないけど…話しくらいは聞いてやっても罰は当たらないさ)


 手を握ってる相手は名雪だが。きっと同姓の方が気が休まるのだろう。



………
……




「ただいまー、お母さん?」
「おかえりなさい。あら…お友達?」
「うん、舞さんって言うの…今日泊めてあげてもいいかな?」
「了承」
「ありがと、お母さん」

(舞はだいぶ落ち着いたな。そろそろ話しをしても良いか)

「それじゃさっそく話しを…」
「だめだよ、祐一」

 と思ったら名雪にとめられた。

「なんでだ」
「ご飯食べてお風呂入ってから」
「ぐぁ……」
「はいはい、ご飯の支度はすぐにすみますからね」
「うん」
「あ、そうだ。舞さんに着替えを出しますから、先にお風呂入ってらっしゃい」
「うん、わかったよ。舞さん一緒に入る?」
「………」

(……おいおい、うなずいたぞ…)

「あらあら、楽しそうで良いわね」
「…くそぅ」
「あら、祐一さんも入るんですか?」
「なっ! はっ、入りませんよ!」
「覗いちゃだめだよ、祐一」
「………」

(うらやましい…。って今はそんな状況じゃないだろ。舞も…心なしか赤くなってないか)

「はぁ…はやく出て来いよ」
「うん、わかったよー」

『とてとてとて』『………』

「ふぅ…」

 二人の足音を聞きながら…舞の足音はほとんどしないが。リビングのソファーに腰を下ろし、重くため息をつく。

 相当疲れてると自分でもわかる。

(思いっきり濃いコーヒーでも飲みたい気分だ)

「…ふぅ…」

 二度目の思いため息。

「祐一さん、疲れてるみたいですね」
「あ…秋子さん、ありがとうございます」

(こういうときコーヒーが出てくるあたり、さすが秋子さん…出てきたコーヒーを一口すすると、濃いブラックのストレート。うーん、まるで魔法だな…)

「…うまい…」

 確かに苦かったけど…やっぱり秋子さんのいれたコーヒーだった…

 ふと目を向けると、考え込むような…何か悲しげで、昔を懐かしむような表情で俺がテーブルの上に戻したコップを見つめている…こんな表情の秋子さんは珍しい…

「………やっぱり、祐一さんには話しておきましょう…」
「え?」
「でもその前にご飯にしましょうね」

 秋子さんは俺の視線を受けとめ、そう言って微笑む。

「あ、手伝います」
「ふふ、大丈夫よ。ゆっくり休んでなさい」
「…はい」

(それにしても、話しってなんだろう。大事な話し…だよな、やっぱり)



………
……




 名雪と舞がお風呂からあがりキッチンで夕食を食べている、名雪はいつもの猫パジャマ。舞は秋子さんのだろうと思われるパジャマを着ている。

(しかしなんというか確かに名雪とか真琴、秋子さんの風呂上がり姿は特にだけど…ときどきやっぱり女なんだなぁと意識するけど…舞には”綺麗”と言う形容詞が似合うな)

 光の反射具合によっては緑にも見える…まだ少し濡れている黒い髪が特に神秘さを際だたせている。

「…ごちそうさま…おいしかった」

 食べ終えた舞が感想を漏らす、これだけでも珍しい。

(そろそろ、話しをしても良いかな)

「なぁ舞…さっきの話。聞いても良いか?」
「…その前に祐一さん。ちょっと待っててください」
「は? はぁ…」
「もうすぐくるはず…ですから。それに川澄さんにもたぶん関係ある話しです」

(誰かくるのか、そう言えばさっき電話してたっけ…って、舞にも…あれ? 舞の名字…)

「とりあえず、リビングで話しましょう」

『コンコン…』

 とそのとき玄関からノックの音…

(ノック? 確かチャイムがあったと思うんだけどな)

「ちょうど来たようですね」





………
……






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どうもななほしです、ブラックファラオ(上)をお届けしました。

 別に上下にすることはないような気もするんですが、
 そうなるとタイトル変えないといけないので…(笑)

 あと書き忘れましたが、CのKanonはねたばれがあります。
 次回は確実にねたばれあると思います…ごめんなさい。
 それでは、また


次回予告:
 失った記憶、失った過去、真実を知る恐怖…
 次回CのKanon 〜ブラックファラオ(下)〜、お楽しみに!



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