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『CのKanon』 導入編 #1 〜カオティックアルケミスト〜
by ななほし
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満天の星空、大きな月。
(うう寒っ、早く帰ろう…CD屋はまだやってるけど、またあとで良いだろ…)
屋敷を出ると時間はよくわからないがもうとっくに日は落ちていた。コンビニの明かりや街灯の明かりが寂しく闇を照らし出している…商店街の店はほとんど閉まっており人影もまばらだ。
(肉まん…暖かそうだな…そういえば真琴はあさって帰ってくるのか)
「ただいまー」
「お帰りなさい祐一さん」
「祐一、もうご飯できてるよー」
名雪が帰ってきていた、すでにいつもの猫柄パジャマに半纏姿だ。風呂はもうすませたらしい。
「もう腹減って死にそうだ。あ、秋子さんこれ預かってきました」
「ありがとうございます、祐一さん」
「何それ、プレゼント? 私にはないのー?」
「違うって、ちょっと商店街行くついでに秋子さんの用事を済ませただけ…」
何か記憶がひっかかる…そうだ確か秋子さんは店と言っていた、だがどう見ても店じゃなかった。だいたい金もはらってない…そのときは気にもしなかったが、男…”エフ”も、これで当然と言う態度。
「あ、えーっと”エフ”と言う人が秋子さんによろしくと伝えてくれって、それと…」
ポケットからペンダントをだしテーブルの上に置く。
「これを持っていろって渡してくれたんですけど」
「あらあら、そんなものまで…これは祐一さんがもらったものね」
「え…ええ、そうです」
「…祐一さん」
「………」
「それはお守りです、大切にしているときっと良いことがあるから…」
「………」
謎めいた言葉。
「さぁ寒かったでしょう、すぐに用意しますからね」
「やっと食べられるよ〜」
「なんだ名雪まってたのか、先に食べてて良かったんだぞ」
「そんなのダメだよ」
「そうですよ、家族なんですから」
食事をすませ風呂に入り、宿題を済ませ寝る。しかし常に何か納得できないでいる気持ちがべったりと心に入り込んでいた…そして朝。
「朝〜、朝だよ〜」
『カチッ』
「くっ…ぅあぁぁ…ふー…」
『カシャッ』
昨日はあまりに納得できないことが続き、そのせいで寝たのは1時過ぎだ、はっきり言って眠い…が、そんな気持ちを隠すようにわざと音を立ててカーテンを開ける。
「今日もいい天気だな…さて名雪を起こさないと」
ふと机の上を見るとペンダントが朝日に照らされ鈍く光っていた、とりあえず鞄の中へ放り込んでおく。相変わらずな名雪を起こして…たぶん起きてるはずだ…リビングへと向かう。
「おはようございます、秋子さん」
「おはようございます、祐一さん」
トーストとゆで卵をコーヒーで流し込んでいると名雪が降りてきた。
「ほら名雪、はやく食え」
「うにゅ〜」
「あ、そうそう祐一さん」
「はい?」
「これを香里さんに渡してもらえないかしら」
と本を渡される、赤茶けた表紙の本だ…
(昨日受け取った本かな…)
確かにそうだった、題名は”People of the monolith”
(そう言えば…)
「秋子さん、他の本って何が書いてあるんですか? それに英語じゃなかったみたいだし…」
「ええ、あれはギリシャ語です。ジャムの作り方が書いてあるのよ」
「ギリシャあ?」
(間抜けな声だと自分でも感じたが驚きの方が先にたつ、確かにわけの分からない文字だったがまさかギリシャ語とは…しかも本に書いてあるのはジャムの製法? 三冊も?)
「………」
「……!祐一!祐一!遅れるよ〜」
「…う? あ、そうか、そうだな間に合うか?」
「すっごく急げば間に合うかも…」
「よし、じゃあ急ぐぞ」
それ以上の質問は時間的理由により却下された、あまりにも昨日今日で謎が多すぎる。何にしてもこんな状態ではろくな質問はできないだろう。
(そうだ…香里にもきいてみよう)
結局いつもの通り。朝はろくに話しもできず、渡したのは昼休みになってからだ。
「香里、これ秋子さんから」
赤茶けた表紙の薄い本。
「あ、ありがとう相沢君」
「さすがだな、香里」
「え?」
「そんな英語の本、俺なら受け取る気にもなれないぞ」
「…ふふ、相沢君らしいわ」
「そうか」
「でも、とても大切なのよ…時間はもうあまり残されていないんだけど…」
「時間?」
「私にとっても…私の…いえ、何でもないわ」
「なんだよ、気になるな」
「相沢君、私午後休むわね」
「はいっ?」
「代返よろしくね」
「出来るかっ」
結局香里は午後からの授業には姿を見せなかった、それどころか放課後になっても戻ってこない。
(鞄は残ってるな、まだ学校には居るってことか…それにしても…少し考える時間が必要だな)
(………夢…の詩集、これだけなら別に女の子らしい。しかし渡す相手が秋子さんで…それとあのエフと言う謎の男…そうだ秋子さんとの関係も気になる。あとジャムの本だと言うがあまりに怪しすぎる…モノリス…アザトゥス…夢の詩集………出かけるなら別に香里から預かった本を返した直後でも…いや、その前だって…それに今日の本も別に名雪に持たせたって、なぜ俺に…)
「………もしかして…あの男と会わせるために、俺にわざと取りに行かせた…」
「…何か取りに行くの、祐一?」
「いや、それは昨日の…ぅどゎわぁっ!!」
「きゃっ」
「なっ、名雪っ? なんでここに…」
「祐一、もう外真っ暗だよ」
「はえ?」
確かに日が暮れる直前だ…
「それにここは学校、今部活が終わったの」
確かに学校だった…
(そうか、つい考え込んで…あれ、香里はまだ居るのか?)
「名雪、これ…」
「香里の鞄だね」
「名雪は確か…香里がなんの部活してるか…」
「うん、知らないよ」
「…だよな」
「どうしたの?」
「気にならないか」
「え?」
「気になるよな、よし」
「ええ?」
「香里の部室は1Fだ、行くぞ」
「やっ、やめようよ…」
香里と秋子さんの関係、あの本のこと…
「確かここだ、静かにな」
「帰ろうよ…」
「静かにしろ」
「…うー」
なるべく小声で話す。
「………」
中から人の声がする、やはりここのようだ。ドアに耳をそばだてる…
「…やっぱり………ね…長く…あと半月…はやく………誕生日…」
(何言ってるんだろう、奇跡とか…なんとか、誰か他にいるのか?)
「…倉田財閥………奇跡なんて…使えるものは……生徒会……」
(いや、一人みたいだな)
『くいくい……』
「なんだよ名雪、静かにしろって…」
『くいくい…くいくい…』
「………祐一」
「静かにしろって…」
「………」
『ビシィッ』
「ッ!」
(いっつぅ〜!)
何とか声は出さずにすんだが…
「名雪、何を!…って、舞?」
「……こっち」
「な、なんで舞が…」
「……こっち」
小声で話しながらも屋上まで移動する、名雪も一緒だ。
「………」
「どうしたんだ、舞」
「ねぇ祐一、この人誰なの?」
「あとで話す」
「…うー」
「………舞でいい」
「舞…先輩?」
「………舞でいい」
「じゃあ舞さんで…」
(なんでこの状況でそうにこやかなんだ、名雪…舞もうなずくし…)
「ところでどうしたんだ」
「……祐一……佐祐理をとめて」
「なんだって?」
「……佐祐理を助けて」
「佐祐理さんが? どうしたって言うんだ」
「………」
「佐祐理さんがなんなんだよ、言わなきゃわかんないぞ、舞」
「…魔物」
「ま、魔物!?」
「……うっ、ぐっ…ぅ…」
「ま、舞…!」
舞はこらえていたものがおさえきれなくなったのかぼろぼろと泣き出した。
(舞が…こんなに…自分の感情を表に出すなんて…)
「佐祐理が…私じゃ…私じゃ…」
「舞さん……大丈夫、大丈夫だから…」
崩れ落ちそうになった舞を名雪が抱きかかえた。舞はその名雪の肩を掴み声を殺して泣いている。名雪がやさしく背中を撫でているとそのうちに落ち着いてきたようだ。
「……今の佐祐理は…佐祐理は……佐祐理じゃない……時々………魔…魔物の気配しかっ…佐祐理がっ……」
「佐祐理さんがどうしたんだ、それに魔物だって?」
わけがわからないのは相変わらずだったが、すでに全身を絡め取られていて、抜け出せない。そんな気がしていた。
(佐祐理さん…いったい何がおこってるんだ…香里、秋子さん…そしてあの男…)
そんな思いをあざ笑うかのように…月はどこまでも綺麗だった…
………
……
…
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どうもななほしです、カオティックアルケミストをお届けしました。
またもや伏線ばかりなような…(T-T
とうとう出ました、舞です、どのような秘密を抱えているんでしょうか…
登場シーンがあまりに突発すぎるのは私の構成力のなさゆえに、です。
質問や感想、批評などありましたらお気軽にメールをください。
ネタバレにならない限りは(時にはネタバレでも)ここかメールでお返事します。
次回予告:
過去の記憶、エフの独白、衝動と衝撃、そして今為すべきこと…
次回CのKanon 〜ブラックファラオ〜、お楽しみに!
(*タイトルは予告無く変更される場合があります。ご了承ください。)
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