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『CのKanon』 導入編 #0 〜マジックブック〜
by ななほし
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「相沢君」
放課後、名雪は部活。
そろそろ帰るかと1Fの廊下を歩いているところを、ふいに教室から出てきた香里に呼び止められた。
「なんだ香里?」
「ちょっとこれを秋子さんに返してもらえないかしら」
「ああ、いいぞ」
と、言って渡されたものは…
(やけに古めかしい本だ)
10センチX15センチほどの黒いあっさりした表紙。
「秋子さんにありがとうって伝えておいてね」
「あ…ああ、ところでなんだこれは? あ…あぜぇそーす…?」
「アザトゥス・アンド・アザース、それの初版ね。内容はまぁ夢で見たことを書いた詩集みたいなものよ」
「…ふーん、ところでここがおまえの部室か」
「ええ、そうよ」
ぱらぱらとめくってみるが…中身は全部英語。
(さすが香里だ、しかし返す相手が秋子さんってのも変な話しだな…)
「それじゃあ、秋子さんによろしくね」
「おう、じゃあな香里」
香里は部室に戻っていったので俺は気にとめることなく下駄箱へ向かい、そのまま家路につく。
「ううっ、今日も寒いな」
………
……
…
「ただいまー」
「お帰りなさい祐一さん」
「あ、秋子さん香里からこれ預かってきたんですけど」
「あらすみませんね、祐一さん」
黒い表紙の本を渡す。
「ありがとうだそうです、香里が」
「いえいえ、それにしても香里さんはさすがね、これを4日間で…」
なぜか妙に感心している。多少気になったが、とりあえず用件はすませたので自分の部屋へと戻りベッドに身を投げ出した、今日はまっすぐ帰ってきたのでまだ夕食には2時間ほどある。
(出かけるか…でも寒いしな、どうするか…)
そんなことを考えながらベッドを抜け出しリビングまで行くと、秋子さんが出かける支度をしている。
「買い物ですか?」
「あ、祐一さん。ええ、頼んでいたものが届いたらしいのよ」
「代わりに行って来ましょうか? 暇だし、出かけようかどうしようかと思ってたんですよ」
「そう…じゃあ、お願いしようかしら」
「ええ、まかせてください」
「じゃあ地図を書くから少し待っていてね」
渡された簡単な地図を見るとCD屋の裏の方だった、裏を見ると筆記体で8行に分けて何か書いてある。
「それじゃ行って来ます」
「すみませんね祐一さん、お願いします。このメモを渡せば大丈夫ですから…それとそのお店看板が出てないから少しわかりにくいのよ…」
「地図があれば大丈夫ですよ、じゃ行って来ます」
玄関を出る、やはり寒い。
(ついでにCDも買おうか…)
余談だがあのCD屋は見つけにくいことこの上ない、が。やたら洋楽に強い店だ。フューチャリングエックス、サンビームやバジーバス…アイラ、ライトフォース、リキッドサン、シグナスエックス…なんでもあると言ったような感じだ。
(これもこの街を離れられない理由の一つかな…)
そんなことを思っているとCD屋の前にたどりつく。
(えーとこの裏だから…この道かな)
さらに2回ほど道を曲がると、旧い洋館が建っていた。地図はここを指しているようだ。
(おいおい、ホントにここか? だいたい店って感じじゃないぞ)
だが確かに地図はこの洋館を指していた。
その屋敷はびっしりと門柱にまで…冬だというのにほとんど枯れていない青々としたツタが絡まっており不気味なことこの上ない。すでに夕刻だというのに窓には明かりの一つも見えない、そのいかにもと言う雰囲気を煽りたてている。
『ガカッ!』
「うおっ!」
一瞬洋館が照らし出される。
『…ドォォォォ…ォォォ…ン…』
突然の雷、直後に空気が内臓を鷲掴みにするような振動。
(冬に雷かよ、しかもかなり近かったぞ…うーんまぁ、とりあえず眺めてても仕方がないか…用事を済ませよう…とは言ったものの、どこから入ればいいんだ、こりゃ…)
門は鉄製の所々赤茶けているが立派な洋式の門、固く閉まっており念入りにツタまで絡んでいてとても開きそうにない…と、脇に勝手口を見つけた、軽くおすと嫌な音はするものの扉は開く。中を覗いてみると石畳がかろうじて露出していて屋敷の門まで続いている。
(人の出入りはあるみたいだな…入りますよ〜)
勝手口から扉までほぼ一直線、距離にして10メートルといったところ。すぐに扉までたどり着くがそこでまた思案する。
(インターホン…は無いよなぁ、まさか今時このノッカーしかついてないのか?)
少しの間重々しい扉の周囲を観察するがやはりこの重々しい雰囲気にマッチした重々しい赤茶けたノッカーしかない。
(ふぅ…しかたがないか)
と、手をそろそろとノッカーまでのばそうとした時に扉が開いた。
「何か、用か」
突然扉が少しだけ開きその隙間から唐突な男の声。かなり驚き、さらにそのセリフに少しむっとする。が、それはそれで当たり前だと言う気もする。何しろこの雰囲気は特異すぎた。
「あ、これを…」
隙間からメモを渡す。
「………」
男はしげしげとまるで疑うかのようにメモを見やると胸ポケットに押し込み、軽くため息をついた。張りつめていた空気が和らぐ。
「入りたまえ…」
「いえ、頼まれただけなんですが…」
「いいから。ここではいつ他のグレートオールドワンズに見つかるかわからんのだよ」
「は…はぁ…」
正直にいってさっぱりわけがわからなかった。なかば強引に屋敷の中に入らされる
『…コツコツコツ…』
「いかにヴォルバドスの保護をうけようとももはや彼はかつてのようにこの世界に身を置くことはできない。…ゆえに奉仕者に対してはあまり関係ないのでね」
洋館の中に入るが、第一印象は”暗い”だけだった、明かりは必要最低限をさらに下回っていて前を歩く男の顔もよくわからないほどだ、その男はゆったりとした足音を響かせ奥へと進んでいく。
とある一室に入るとそこは書斎のようだった。光量も申し分ない、ようやく男の顔がはっきりと見えた。
わけがわからないのはそのままだったが、とりあえず喋らせておく。
口調や動作はともかく声からはそれほど歳がいってるように感じられなかったが、思っている以上に若かった。青年と言える…混血だろうか…女のように整った細い顔立ち、髪は長いので肩くらいまであり少し癖毛で黒、瞳の色も黒だ。かなり理知的な印象を受ける。
服装は、少し時代がかってはいるがあしらえと思われるきっちりとしたスーツだ。
(俺より4〜5歳ほど上といったところか…しかし…)
そう考えるとさっきの態度が思い出されて少しむっとする。男の第一印象は容姿以外それほど良くなかった。
「先ほどはすまなかったね、私の交友関係は友好的な人ばかりとは言えなくてね」
「あ、え、いえ…そんなことは…」
紅茶を出しながら男が言う。
「秋子さんの使いの人だね、私の名は…”エフ”だ」
「相沢祐一と言います」
「…そうか、キミが…秋子さんからよく聞かされるよ、とてもいい目をしているとね。確かにその通りのようだ。あ、コーヒーのほうが良かったかい?」
「いえ、おかまいなく」
(かなり変な人だ…秋子さんから良くきかされる? そんなにあっているのか? まさか恋人? …それにエフ…? そんな名前の奴が居るかよ…でもまさか、なぁ)
第二印象もあまり良くなかった…
「あ、誤解しないでくれ。あくまでも仕事上のつきあいだ」
あまり自分の気持ちを隠すのはうまくないようだった、秋子さんがどう思っているのかは別として、この人は確かに好意を持っているのが見て取れる。
「これが約束の品だ、エメラルド陶片の完全版に…それと…これだな。なぜ今更この本が必要なのかはよくわからないが…」
と、言いつつ4冊の本を渡される、うち2冊は上下のようだ。
1冊は赤茶けた表紙の薄目の本で”People of the monolith”と題されていた、他は見たことも無いような文字で題名が書かれていて立派な装丁が施されていた。
(これはモノリス…の本…? 確か映画でそんなのが出てくるのがあったな。他は英語…じゃ、ないな。しかし秋子さんこれ読めるのか…いったい何してる人なんだか…)
謎は深まるばかりだったが、ふとCDを買うんだっけと思い出した。
「じゃあこれで失礼します」
「長いこと引き留めてすまなかったね、秋子さんによろしくと伝えておいてくれ」
「はい」
『…コツコツコツ…』
「………祐一君、これを持っていたまえ」
館から出ようとしたときに突然男から何かを渡された。短剣を模したペンダントのようだ。
「これは奉仕者を退ける力を持っている、まぁお守りのようなものだ…ショゴスやディープワンには効果がないがビヤーキーくらいなら従わせることも可能だ」
「は? いや、でもわけもなく受け取れませんよ」
「気をつけたまえ…」
銀色はしているが銀ではない金属。妙に現実離れした男…”エフ”はそう言い残し扉の奥に消える。そして俺の手にはわけの分からないペンダントが残っていた。
(やっぱり変な人だ…)
結局俺はCDを買わずに家へと急いだ、空はさっきの雷が嘘のような満天の星空をたたえている…月がやけに大きかった…
………
……
…
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どうもななほしです。
初Link記念贈呈用KanonSSです。
…なのにこの重い展開、さらに設定に伏線ばかり、ごめんなさい(T-T
このカノンに取り入れた世界は言うまでもなくクトゥルフです。
作中の謎の人物”エフ”はもちろんF.coolさんでした、またこれからさらにキーパーソンとして深く関わってくるでしょう(笑)
それではまた。
次回予告:
はぐらかす香里の意図は、秋子さんはいったい何を、そして謎の人物”エフ”の目的とは!
次回CのKanon 〜カオティックアルケミスト〜、お楽しみに!
(*タイトルは予告無く変更される場合があります。ご了承ください。)
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