inthebed


in the bed

注意・18禁ではありません
   舞のネタバレが若干あります
   ちょっと祐一が壊れ気味です

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高校卒業後、俺は舞との約束を守り、佐祐理さんと舞と俺との同棲生活を始めた。
で、今夜は、佐祐理さんが大学のコンパで、帰れなくなったとのこと。

まあなんだ、そんなことはどうでもいいっ!(断言)

重要なのは、今ここの現実!

つまり、今夜は舞と二人っきり!

待っているのは、ラブラブな展開!

ああ、考えただけでも嬉しくて身震いしてしまう・・・

思わず歌なんか歌っちゃうぜ。
「楽しみ〜楽しみ〜ラララー・・・」
「祐一、うるさい」



・・・・・・・・・・・・



あら、なんだか舞は冷たい・・・
いや、そもそもこの生活を始めてから微妙に俺に冷たいような・・・

いいや、俺はネガティブな考えを頭から追い払った!

そんなさめた関係も今日でおさらば!
これからの舞とのラブラブな生活が俺を呼んでいる!

と言うわけで始まった一夜だが・・・




かた。かた。食器のセットも、終わり・・・

今日の夕食当番は、俺だ。
今日は舞のために、腕によりをかけて、ゴージャスな食事にした。
といっても、俺の料理の腕では、卵焼き、ウインナーといった、せいぜい弁当のおかずに色が付いた程度が関の山だが。

「さて、舞、そろそろ夕食にしようか・・・」
「・・・・(コク)」

もぐもぐ。

何も話すこともない・・・・

無言で食事は進む。

もぐもぐ。

なんだか気まずい雰囲気だ。
とりあえず、場を和ませようと、さり気なく話しかけてみる。

「なあ、舞?このタコさんウィンナー、俺が作ったんだぜ」
「・・・・・・」
「うまいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(コク)」

反応、皆無に等しい。
とりつくしまもない。

と、その時・・・・・・・・・

舞の箸が目玉焼きに向かう直前にピタ、と止まった。

・・・・どうしたのだろう?

「なんだ、舞?何かあったか?」
「・・・・」
「虫でも入ってたか?」
「・・・・なんでもない」
「そうか・・・」

しかし、なんでもないと言う割には、舞の箸は一向に動く気配がない。
それどころか、舞はぎゅっと身を縮こまらせ、何かを必死にこらえているようにも見えた。

「・・・どうした、舞。調子でも悪いか?」
「・・・・・・」
「トイレか?」
と、俺は半分ふざけていったのだが、

「・・・ごちそうさま」
舞はそう吐き捨てると、半分以上残った茶碗を持って、さっさと台所に引っ込んでいってしまった。


「・・・・あちゃあ」
怒らせたかな・・・ま、後で謝っておけばいいか。

さて、舞の残した、ウィンナーでも食べるか。
ひょい、ぱくっ。
おお!これはなかなかの焼き加減だ。微妙な塩味も実にいい。

俺もなかなか料理がうまくなったもんだ・・・・・

もぐもぐ・・・・

・・・・・・・・・・

もぐもぐ・・・・


ひとりで食べる飯はまずい、な・・・・・





かちゃかちゃ・・・

俺は流れる水を手に、凍えそうな冷たさに耐えながら食器を洗っている。
あの後、舞は一度も口を利いてくれなかった。
ふー・・・こんなんでやっていけるのか、俺・・・
今更ながら舞との共同生活に不安がよぎる。

すると、舞がやってきて、

「・・・祐一、お風呂」

おお!お風呂!風呂!風呂か!
感傷的になった俺のナイーブハートは、一瞬に消し飛んだ。
お風呂・・・それは、男の浪漫・・・・

湯煙の中で一緒に戯れたり、
背中の流しっこをしたり、
そして・・・
「祐一・・・私、変な気分・・・」
「そうか・・・舞・・・よし、俺に任せろ・・・」
「祐一・・・・」
「ん?」
「・・・優しくして」
なぁんて・・・・
むむ!辛抱たまらん!

いざ!
大和、発進!
「舞、俺と一緒に「私は先に入ったから、あがったら電源きっといて」
玉砕!
そして大和は海の藻屑へ・・・
ぶくぶくぶくぶく

「・・・どうしたの、祐一」
「な・・・なんでも・・ない」
「・・・そう」
ふっ・・・俺の攻撃を紙一重でかわし、なおかつ強烈なカウンター・・・
さすが、剣の達人なだけあるぜ・・・(ちょっと違います)






で、真夜中。
高まるだけ高まった俺の煩悩は、行き場を失って俺の体中を苛み、
悶々とした夜を過ごす羽目になった。

隣りのベッドで寝ている舞に目をやる。
くそぉぉ・・・舞、お前のせいで・・・

すやすやと気持ちよさそうに寝・・・・・・

「・・・・・・ぅぁ・・・・」

・・・舞?

「・・・ぅぅっ・・・」

・・・なんだ?
胸がドキリとする。

「・・・・舞、・・・どうしたんだ」
なんだか・・・心配だ・・・
「あ・・・祐一、おきてたの・・・」
俺は起きあがり、舞のベッドに近寄る。
「どうした、舞・・・やっぱり、調子悪いのか・・・?」
「祐一、来ないで・・・」

そういわれても、ほっとくわけには行かない。
一体、どうしたというんだ?

「舞・・・」
「来ないで・・・」
俺は舞の言葉を無視して、ゆっくりと舞の顔をのぞき見る。

舞は顔を伏せようとしたが、俺が舞の頭をしっかりと押さえたので、それは出来なかった。
薄闇の中で、舞の顔で何かが光っているのが見える。
それは・・・・

涙。

「舞・・泣いてるのか・・・?」
「ぅぅ・・そんなこと、ない・・・」
「嘘つくなよ。ほら、全く・・・」
俺は指先で優しく舞の涙を拭った。
「あ・・・」

ぽろぽろぽろ。

ところが、涙はさらに堰を切ったように後から後からあふれ出てくる。

押し黙って、その澄んだ瞳から涙を流し続ける舞・・・
その姿は、俺の胸をぎゅっ・・・と締め付けた。
「舞、どうしたんだ・・・哀しいことでも、あったのか・・・?」
「祐一・・・でも」
「俺に、話してくれよ・・・いったろう?舞が泣いているときは、いつでも俺が側にいてやるって」
「ぅぅ・・・ぁぁ・・・」

舞は、何も言わず、俺の寝間着にぎゅっとしがみついてきた。
俺は何も言わず、舞の背中をゆっくりとなでさすってやる。

所がそれが逆効果だったのか、舞は泣きやむどころか、ますます強く俺にしがみついてきた。
「ぅっ・・・ぁぁぁ・・・・ん、ひっ・・・ぅ」
まいったな・・・
俺はポリ、と頭をかき、泣きじゃくる舞の背中を優しくさすり続けた。

数分後。
ようやく落ち着いたか、舞は俺の寝間着から手を離すと、ベッドの上にぽふ、と座った。
電気をけした、暗闇の中で見る舞は、いつも陽光の下で見るその姿とは違っていて、
初めて夜の学校で会ったときのようなミステリアスな雰囲気を携えていて、
その・・・・何とも言えず、綺麗だった。

そのまるで彫刻のような美しさが、口を開いた。
「祐一・・・わたし・・・・わたしは・・・・」
まだ多少舌がもつれている。

「舞、ゆっくりでいいから、な。落ち着いて話せ」
コクン。

「祐一・・・祐一は、どうしてそんなに優しいの・・・」
ええ?俺が、優しい?
そんなことは・・・・・・いや、確かに、舞に対しては、優しい気分になれる・・・・
それは。その理由は・・・一つしかない、かな。

俺は、あまり深く考えてもいけないような気がして、素直に思ってるままを答えた。
「それは・・・俺が、舞のことを好きだからだ」
闇のもたらす雰囲気に助けられ、、俺はそんな言葉もさらりと素直に言える。
・・・・・多少、赤面したが。
「祐一・・・」
舞はもじもじと身じろぎする。
夜目が利かないのでよく見えないが、舞の顔も赤くなっているんだろうな。

「祐一、私は・・・」
俺は頷き、舞の言葉を黙って聞いた。
「私は・・・いつも・・・泣いていた」
そう・・・だったのか?
「俺は・・・ここに住んでから舞の泣いている姿を、見たことが無いぞ」
「祐一にも・・佐祐理にも・・・隠れて・・・泣いていたから・・・」
その悲痛な告白に、俺はショックを受ける。
「なぜだ・・・俺は、言ったはずだぞ・・・舞が泣いても、側にいて、慰めてやるって・・・
それとも俺が、信じられないのか?」
「ちがう!」
珍しく大きな声を出す舞。
びっくりして、俺は、二の句が継げなくなった。
その途端、再びぽろぽろとこぼれ落ちるもの。
月明かりにきらきらと光る、舞の、涙。
「舞・・・」
「わたしは・・・・わたしは・・・・二人に、心配をかけたくなかった・・・!
祐一も、佐祐理も、優しくて・・・優しすぎて・・・ひっ」
舞は嗚咽をこらえながら、ぽつぽつと話す。
「二人とも・・・優しいから・・・だから・・・」
「心配をかけたくなかった?」
俺は舞の言葉の跡を継いでやる。
「祐一・・・わたしは・・・!」
「舞」
ぐっ・・・・・!
何も言わず、ゆっくりと舞の体を抱きしめてやる。
母親が赤ん坊をあやすように、ゆっくり、しっかりと。
「・・・ゆう・・・いち・・・」
「ばかだな、舞・・・・」
「・・・・」
「俺も、佐祐理さんも、舞が隠れて泣いているなんて、絶対にそっちの方が心配だよ・・・」
「・・・・ぅっ」
「舞、いいか?何度も言うけど、俺は、お前が泣いているときは、たとえ道ばたを歩いているときでも、ご飯を食べているときでも・・・」
!?
そこで俺は、ひとつの事に気づいた。
「舞・・・ひょっとして、さっきのご飯の時も・・・?」
「(コクン)」
「なんだ・・・そうだったのか。てっきり舞に嫌われたかと思って、ひやひやしたよ」
「ぅぅ・・・、祐一・・・!ごめんなさい・・・・」
俺はポン、と舞の頭に手を置く。
「大丈夫、怒ってなんかいないさ。ふいに、あの頃のことを思い出しちゃったんだよな?」
舞は、黙って頷いた。
「これから、そういうときは、遠慮せずに言えよ・・・?いつだって俺は、お前の側にいるから」
「でも・・・迷惑・・・・」
「迷惑なもんか・・・・」
全く・・・・優しすぎるのは、お前の方だよ・・・
俺達に、心配なんて・・・
こんなに・・・傷つきやすい心で・・・全てを抱え込んで・・・
いつか、弾けてしまうぞ・・・
そうならないために、俺達がいるんだろう・・・
「舞・・・でも・・・・」
「なに・・・?」
「もし、俺がうっとうしくなったら、はっきり言ってくれよ・・・
・・・俺は鈍いから、お前が泣いているのも気づいてやれないような男だから」

ぶんぶん

舞はこれ以上無いほど激しく首を横に振った。
「そんなこと・・・私は・・・私は・・・出来るなら、ずっと祐一や佐祐理の側にいたい・・・!」
「俺だって、それは同じさ」
「私は・・・弱いから・・・本当に・・・ぅっ、・・・弱いから・・・!」
「弱いのは、俺だって一緒だ・・・佐祐理さんだって、心に傷を抱えてる・・・」
「でも・・・ずっと、こうやって、祐一や佐祐理に甘えていたら、私は・・・」
「舞。何も、急ぐことはないんだ。それに、俺だって、佐祐理さんだって、決してひとりで生きていけるわけじゃない。
みんな、誰かに甘えているんだ。俺だって、佐祐理さんだって、お前に甘えているんだよ」
「それでも・・・!わたしは・・・それが、なくなりそうで・・・!
私の前から無くなって消えていきそうで・・・!怖い・・・・!」
「舞。大丈夫だ。それは絶対にない。約束する。断言する。何の確証もないが、それだけは、絶対だ。
俺だって、佐祐理さんだってずっとお前と一緒にいたいんだ。
舞の前からいなくなるなんて、ありえない」
「ほん・・とう・・?」
「ああ・・・」
俺は舞をさらに強く抱きしめた。
肩に重みが加わる。
舞が顔を俺の肩に預けてきた。
「祐一・・・ぅぅ、ぅぅぁぁ、ぁぁ・・・」
か細く、悲痛な泣き声。
でも、もうこんな風には泣かせやしない。
いつだって、俺が側にいるから。
今度こそ、本当の意味で、俺がお前の側にいてやるから・・・、な、舞。
大丈夫だよ、
大丈夫。

「ほら、すっかり体が冷えちゃったぞ・・・」
「・・・・(コクン)」
「大丈夫だよな。もう、寝ようか」

「祐一・・・」
「なんだ?」

「その・・・」
「うん」

「え・・・と」
「はいはい」

「こ、今夜は・・・」
「ああ」







「今夜は、ずっと私を抱きしめていて欲しい・・・」

・・・・・・・・・・・・・
はふ。
それって。

ああああああの、舞さん?ホントに、ホントによろしいですか?
お、俺は、も、もう

ぽかっ

舞のつっこみチョップが顔面にクリーンヒットする。

「祐一、今、変なこと考えてた・・・・」
「い、いや、そんなことは」
「ただ、抱きしめるだけ・・・・それだけで、いいから」
それだけってのが難しいと思うぞ・・・俺は。
しかし舞は、上目遣いに俺の顔を見上げると、一言。

「だめ・・・?」
「駄目なわけない」
「よかった・・・・」
しまった、つい上目遣いの魔力に負けて即答してしまった。
「・・・・」
しかし、ゆっくりと俺の懐で目を閉じる舞を見ると、
そんなことはどうでも良くなってくるのだった。

俺は、舞の体を抱きかかえると、二人の体に布団を掛けた。
大柄な舞だけど、こうやって抱きしめていると、
暖かくて・・・
柔らかくて・・・
吐息が、俺の胸にあたって・・・
とても、抱き心地が良かった。

舞は、彫刻なんかじゃない、舞は、舞なんだ。
生きている、女の子なんだ。

舞のにおい。なんの飾り気もない、石鹸のにおい。
でも、それが舞のにおい。
世界中の何よりも、一番いいにおい。

するすると、舞の髪の毛に手をはわせる。

すべすべの、美しい黒髪。
「祐一、くすぐったい」
心が・・・安らぐような。


だが、しかし。だがしかし!
男には男の事情というものがあって・・・だな、その


クマさん模様のパジャマからのぞく、豊かな膨らみ。
それが、今・・・

ふにふに

俺の、腹の辺りに・・・・

くゆくゆ

くわ!たまらん!

おーい、舞・・・俺だって、男なんだぞ・・・

でも、純真な寝顔。俺を信頼しきってる、無防備で、危うい、舞の寝顔。
この信頼を、裏切るわけには行かない。

しかし!ああ、しかしぃ・・!

舞は俺の苦悩などどこ吹く風で、すー、すーと穏やかな寝息を立て始めた。
まるで子供のようだ。

舞・・・

かわいい、と素直に思った。
いつもぶっきらぼうで、不器用だけど、その心は、繊細で、傷つきやすくて・・・
そんな舞の全てが、今の寝顔に現れている。

ふぅ・・・
ま、こんなのでも、いいか。

俺は額を舞の頭にコツンとくっつけて、眠りについた。
すべすべとしていて、ほのかに暖かい、舞の頭。
十分すぎるほど、心地よかった。





「おはようございますーっ、二人とも。朝ですよー・・・・・・ふぇ?」

うう・・・朝か・・・ふぁぁ・・・

窓から射し込む光が眩しい・・・・目がくらむ・・・

あ、佐祐理さん・・・帰ってきたのか・・・

「あははーっ・・・ふたりとも・・・・」

ふたり?

おれと、

まい?

まい・・・・

ああっ!

舞は昨晩と変わらない格好で、俺の横でまだ寝ていた。

こ、この状況は!

「あああああ!えーと、だからだな、佐祐理さん、これは、その、なんというか・・・」
「あははーっ、変な祐一さん。でも、二人とも、仲がよくってうらやましいな・・・今度は、佐祐理も一緒でいいですかーっ?」

って、ええっ?

わ、わかっているのか、いないのか・・・・

佐祐理さんは、いつもと変わらない無邪気な笑顔で、微笑んでいて、

何も知らない眠り姫は、その顔中に朝日を浴びながら、ベッドの中ですやすやと寝息をたてていた。




こんな生活が、いつまで続くか・・・・

でも・・・・

ずっと、続けていければいいな・・・

いや・・・ずっと、続けていこう・・・・

な、舞。


(終わり)

解説・・・・
えっと・・・・この作品は、私が舞かわいい〜という思いから発生した物なのですが、
それにしては妙な展開ですね(苦笑)



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