屋敷の秘め事
ある日のお昼のこと。俺は、毎度のように佐祐理さんと舞と重箱をつついていた。
時節は二月、まだまだ肌寒い季節だが、佐祐理さんと舞は進路も決まり、悠々と学校生活を過ごしていた。
すると、突然佐祐理さんが、
「舞、今日は佐祐理の家で遊ぼうかー」
・・・・こくん。
舞は卵焼きを口にほおばってもぐもぐしながら、頷く。
二人とも相変わらず仲がいいなあ・・・と思っていると、佐祐理さんは俺の方を振り向いて、
「今日は、祐一さんも佐祐理の家に遊びに来ませんかーっ」
俺は一も二もなく了承した。
*
俺は、案内された地図に従って、佐祐理さんの家にやってきた。
佐祐理さんと舞は、卒業前なのですでに授業が終わったらしく、一足先に家にいるとのことだ。
しかし・・・これはまた・・・・巨大な鉄格子の門が眼前に立ちふさがる。
呼び鈴を押すと、スピーカー越しに澄んだ声で「どなたでしょうか?」と返ってきた。
どうも佐祐理さんの家付きのメイドさんらしい。
この広大な土地と言い、メイドさんと言い・・・
やはり佐祐理さんは物凄いお嬢様なんだな・・・
俺は、名前と来意を伝えると、すでに言付かっていたらしく、物々しい金属の門がきいきいと開いた。
一本の長く伸びた道の遙か先に、巨大な建造物が見える。
白亜の豪邸。
俺はしばらく、その豪奢な建築の前で呆然としていた。
気を取り直し、重い扉を開く。
しかし、俺が本当に驚くのは、その巨大な屋敷の中に入ってからだった・・・
*
「お嬢様は、二階でお待ちで御座います」
「あ。どうも」
俺を出迎えてくれたメイドさんにそそくさと礼を言い、俺はこれまた豪華な階段を踏みしめた。
二階でお待ちって言っても・・・
俺の目の前に広がるのは、向こうの壁がぼやけて見えるほどの長い廊下と、そこに面する膨大な数のドア。
どの部屋が佐祐理さんの部屋なんだ・・・俺はもう呆れるより無い。
ま、歩いて探すしかないか・・・。とぼとぼと歩を進める。
各廊下の隅には、俺なんかには価値が分からないであろう、様々な調度品がある。
二階のある部屋の前で、ピタと足を止める。
そのドアには、上手だがかわいらしい字で、「佐祐理の部屋」と書かれていた。
ここか。しかし、上手い字だな・・・
字は本人の鏡と言うから、考えるに恐らく佐祐理さん自身の字なんだろうな。
俺は、ドアをノックしようとする・・・・が
「あ・・・舞、そこ・・・・」
・・・・・・
・・・・・・
「・・・ここなの?」
「はぅん・・・・そう・・・舞、もっと・・・・」
なにやらドアの中から不穏当な会話が聞こえる。
俺は慌ててノックしようとした手を引っ込め、ドアに耳をそばだてた。
「はぅ!・・・舞、いたいよ・・・」
「・・・あ、ごめん・・・」
「ううん。大丈夫。ねぇ、だから、もっと・・・・」
今まで聞いたことのない、佐祐理さんの悩ましげな声が俺の耳に入ってくる。
「佐祐理、こんなに固い・・・・」
「うん、そう・・・・だから、もっと・・・ぁん、そこっ!」
「・・・いたくないの?」
「大丈夫・・・」
「でも、固くなったところは・・・・」
「ううん、気持ちいいよ・・・ねぇ、舞・・・」
「・・・わかった」
「はん!や、舞、くすぐったいよ・・・」
「・・・我慢」
こ、これは!
もしや俺の明くる日の妄想が現実のモノに!
ゆ、夢じゃないよな。
ぐい。
痛い。
と言うことは!
俺は気配を殺し、ますますもってドアに耳をくっつける。
聴覚に全神経を集約すると、とろけるような甘い声が我が鼓膜に届く。
「はあん、舞。そこ、そこぉ・・・・」
「・・・ここ?」
「ああっ、そんなに強くぅ・・・」
「これくらいの方が、いい」
「や、だめ、もういいよ、舞、あっ!」
「・・・もう少しだから」
「あああっ、もう、だめっ・・・!!」
むはっ・・・
おっと、鼻血が出そうだ
しかし・・・いつまでやってるんだ?
このままでは生殺しだ・・・・
どうせなら俺も混ぜて欲しい・・・なんて
「そこで何をしているのかね?」
ぐはぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
口から心臓が飛び出るかと思った。俺はびっくりしてその場に尻餅をついてしまった。
慌てて振り返ると、背広を着た屈強な中年の男が・・・
だ、誰だ?
程なく、ドアが開く。
「あ、お父様ーっ」
「おお、佐祐理、ただいま。今日は仕事が速く終わったよ」
「・・・お邪魔してます」
舞も佐祐理さんに続いてひょこりと顔を出す。
「おお、川澄さん。いつも佐祐理と遊んでくれて、有り難うな。」
「・・・いいえ」
「所で、そこに転がってる男の子は佐祐理のお友達かな?」
「え?・・・・あ、祐一さーん、来てたんですかーっ」
「は、はは、どうも・・・」
な、なんなんだ、一体・・・・
「ほほお。君が相沢祐一くんかね。話は佐祐理から聞いているよ。よろしく。佐祐理の父だ」
さ、佐祐理さんのお父さんか・・・
「は、はじめまして」
「はは、ゆっくりしていきたまえ」
そういうとお父さんはのっしのっしと奥へ向かって歩いていった。
なんだかいろんな事の連続で、驚き疲れた俺は情けないことに今だに腰を抜かしていた。
「祐一さん、何してるんですかーっ?」
「いや、その・・・あれ?」
佐祐理さんは、生まれたままの姿・・・ではなく、学校の制服を着ていた。
急いで着替えた訳じゃ・・・・ないよなあ。
「佐祐理さん、服・・・」
「ふぇ?服?」
「服は・・・制服のまま」
舞が口を出す。
「いや、なんでもない」
・・・じゃあ、なんだったんだ、さっきのアレは?
佐祐理さんの部屋に招き入れられた俺は、そのかわいらしい内装にも、その広さにも気を向けず、単刀直入に聞いた。
「あの、佐祐理さん?」
「はい?」
佐祐理さんはいつも通りにこにこと笑っている。
うぅ・・・聞きづらい
しかし男として、聞かねば!
「あの、佐祐理さん!」
「は、はい!」
佐祐理さんがびっくりする。
「・・・・・!」
舞も心なしかびっくりしている。
俺は意を決して、
「さっきまで、この部屋で何をしていたんですか?」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「えっ、祐一さんたら、聞いてたんですかーっ・・・?」
「・・・祐一の、スケベ」
えっ・・・と言うことは、やはり?!
俺は期待に胸膨らませると、佐祐理さんは心なしか頬を赤らめて、
「えーとですね」
「はい!」
「その・・・」
「はい!」
「舞にマッサージして貰ってたんですよーっ」
「・・・佐祐理、肩こってたから」
膨らんだ期待は見事に一瞬でしぼんだ。
な、なんだ、そういうことか・・・・
まあやっぱりというか、お約束というか。
「舞、佐祐理さん、俺を許してくれぃ」
俺は不埒な自分を恥じる。
「はぇ?祐一さん、どうしたんですか?」
「・・・・何となく、わかる」
・・・このごろの舞は、直感が鋭くて困る。
「え?なんなの、舞?佐祐理にも教えて」
「・・・・佐祐理は知らない方がいい」
舞は顔を真っ赤にして首を横に振る。
うん、知らない方がいい。
「秘密なの?・・・二人とも、ずるいな」
いや、そういう問題じゃないんだが・・・
「あ、そうだ!」
突然、佐祐理さんがパン、と手をたたく。
何か思いついたのだろうか。
「ねぇ舞、祐一さんにもマッサージしてあげようかーっ」
「ええっ!?さ、佐祐理さん、それは・・・」
「マッサージはお嫌いですか?」
「そんなことないが・・・」
う、嬉しいような、気恥ずかしいような・・・・
「・・・祐一、遠慮しないで」
ま、舞まで
「あははーっ、はい、じゃあこっちに来て下さいねーっ」
俺は二人に引きずられるようにベッドの上に座らせられる。
ああ、これから俺はどうなるんだ・・・・
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どうもこんなSSですいません(笑)
ネタ的にありきたりですね。
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