突発シリーズ第一話 『こんなんでも、二人は仲良し編』
「やっと、見付けました…」
白い日傘を差した少女が、掠れた声で呟いた。
「へ? …どこの、どちらさま?」
少女の瞳が、はっと見開かれ、見る見るうちに潤む。
「ひどいですっ…わたくしを迎えに来て下さると、おっしゃったのに…っ」
嗚咽を堪えているのか、低い声で呟く少女。
「え? え?」
「…その言葉を信じ、この身を委ねたあの夜のこと…わたくしは、一日たりとも忘れたことはなかったのに…およよよ」
「…へー」 ビシッ(←青筋)
ゴギァ! シャイアの拳、一閃。宙を舞い、鈍い音と共に大木に叩き付けられる俺の躰。
「あっ、お兄様っ」
「お兄様ぁ!? …妹に手を出したのか、この下郎ッ!」
地面に倒れ伏した俺に追い討ちを掛けようと、飛び上がるシャイア。陽光を浴びた金髪が、美しく煌めく。
「うわ!」
流星のよーに宙を飛んできたシャイアを、間一髪のところで避ける。ゴガッ、と重い音がして、シャイアの足元が陥没した。
「チィッ」
忌々しげに舌打ちをしたシャイアは、鋭い目つきで俺を睨み、またまっしぐらに突っ込んできた。
「ちょっと待った! 知らん、知らないっ」
間断なく放たれるシャイアの手刀突きを避わしながら、必死で弁明する。
「覚えていないだけでしょーがっ!」
スカートを大きくなびかせ、回し蹴りを繰り出すシャイア。側転して蹴りを避けた俺の顔に、凄まじい突風が吹き抜ける。
「だって、記憶喪失だもん!」
「問答無用!」
ズドグシャア!
「ギャアア」
地獄絵図。
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突発シリーズ第二話 『メイドの極意を目指せ! 編』
「シャイア、前々から思っていたんだが、君はメイドという職業を軽んじているよーに見受けられる」
「そうですか?」
「うむ。メイドたるもの、常に慎ましく控え目に主人のお側に付き添い、主人の言うことには一切の口答えをせずに従い、主人に脱げ言われれば脱ぎ、奉仕をしろと言われれば躊躇なく奉仕をし(以下、二百三十四行を省略)」
しばらく呆気に取られていたシャイアは、意地悪そーな微笑みを浮かべた。
「なるほどー。ではご主人様が、その『メイド』のお手本を見せていただけますか。(にこお」
ラリーン☆ (←眼が光った)
「そう来るだろうと思った。ここに都合良く(※1)、日本のメイドさんを端的に表現した(※2)芸術作品(※3)がある。貴重な品だが、これを進呈しよう」
シャイアは『げっ』という顔をした。
「でもこれ、18歳未満は何とかって書いてますよ」
「大丈夫、この家の中は治外法権だ(※4)」
「はあ」
渋々と、いかにも汚らわしそーに受け取るシャイアさん(年齢不詳)。
「このエロゲー…もとい、芸術作品の全てを理解し得たとき、その時こそシャイア、君はメイドという、漢の夢と希望の体現、神に比肩しうる崇高な存在となる!」
「なりたくありません」
「そこをなんとか」
「いやです」
「なって、お願い。頼むから。一生のお願いですぅ」
「いい歳して、泣かないで下さい…だから、すがり付かないでっ! ほら、涙が…ああっ、ちょっと、鼻水! キャー!」
地獄絵図。任務、失敗。
注釈
※1>都合良く:常備していることに対する言い訳。
※2>日本のメイドさんを端的に表現:当を得た発言。外国に限らず、本物のメイドさんは、雇い主とアレしたりコレしたりしません。
※3>芸術作品:嘘ではないにしても、その言い方もどうか。
※4:家の中は治外法権:ンなわけねーだろ、と言いたいが、エロゲーでは珍しくない。
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突発シリーズ第三話 『お風呂任務編』
「ごしゅじんさま、お風呂お先に頂きましたー」
頭からほこほこと湯気をくゆらせ、火照った顔で告げるシャイア。
「おう」
金髪の湯上がり美人をしばし愛でる。
「どーでもいいが、なぜメイドが主人を蔑ろにして一番風呂に入るのかな」
「どうでもいいならいいじゃないですか」
「いや、今のは日本人特有の謙虚な言い回しだ。ホントは良くない」
「わずらわしいですねー」
日本の美徳をあっけらかんと否定する金髪さん。
「いや、それよりも一番風呂のことだ」
「どうでもいいじゃありませんか。どうせ二人なんですし、後か先かの違いですよ」
シャイアはうちわで顔をはたはたと扇ぎながら、面倒臭そうに答えた。
「じゃあ、明日からは俺が先に入る」
「駄目です。ごしゅじんさまの後のお風呂には、入りたくありません」
たったいま自分で言ったことを否定することを言い切り、絶っっ対に譲れません、とまで断言した。
「なんでだ」
「汚そうですから(キッパリ)」
フツーはもう少し言葉を選ぶとゆーか、オブラートに包むもんだと思うんだが。
「ほら、一番風呂は躰に良くないとかなんとか言うじゃありませんか。メイドとして、雇い主の健康を気遣うのは当然のことです」
「それ、いま思い付いたんだろ」
「いいえ(キッパリ)」
顔も知らないお父さん、女は平気な顔で嘘をつく生き物なんだネ。ボク、初めて知ったヨ。
「よし、分かった」
決然と言い放ち、立ち上がる。
「どうぞ、行ってらっしゃい。残り湯はお洗濯に使いますから、流さないでくださいね」
シャイアは新聞のテレビ欄を眺めながら、投げやりに言った。ふふ、その余裕に満ちた態度も、これまでだ。
「ああ。シャイア汁を、堪能してくる」
ぴくん、とシャイアの肩が震えた。
「…冗談ですよね?」
新聞から顔を上げて立ち上がり、にっこり微笑みながら訊ねるシャイア。
「本気だ」
「冗談ですよね」
シャイアが笑顔のまま、一歩前に進み出る。
「だから、本気だって」
「冗談ですよね」
また一歩。
「だから…」
「冗談ですよね」
また一歩。
「あの…」
「冗談ですよね」
張り付いた笑顔で詰め寄ってくるシャイアに気圧され、壁際まで追い詰められた。
「……えっと」
「ジョ・ウ・ダ・ン・デ・ス・ヨ・ネ」
「うあわあああああん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、冗談です、魔が差したんです、気の迷いです、もう二度と、金輪際、決して、こんなこと言い出しません、誓います、許してくださいぃぃ」
シャイアは可愛らしくうなずいて、
「なーんだ、やっぱり冗談だったんですね♪」
その夜、俺は惰弱な自分を呪いながら、枕を涙で濡らした。
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突発シリーズ第四話 『お姉さんが教えてあ・げ・る編』
「ほらほら、お姉さんにだけ、お・し・え・て…ふぅっ」
「ひゃんっ!? あ、あの、でも、その…ひぅっ…そういうことは、音芽さんの…あぁんっ…ぷ、プライバシーに関わることで…あっ、んぁっ」
「ふふっ、可愛い…大丈夫、内緒にしておけばいいじゃないですか…ね?」
「で、でも、でもぉ…あぁ、ふぁ」
「あらあら、お顔が真っ赤ですよ? 熱があるんじゃないですか」
「え? …あっ! ど、どこに、手をっ…あぁ…はぁ」
「すごぉく熱くなってますねー? 大丈夫ですか?」
「あひっ、ひっ、ひぅっ…んっ、んくぅっ…や、やめ、て、ください…っ」
「ふふっ、やめていいんですか?」
「あぁ、あんっ! ……い、いやぁっ!」
「逃がしません♪」
「ああっ! …やっ、やぁっ、いやぁっ…ゆ、許して…あっ、あっ、あっ」
「大丈夫、怖がらないで…ほら、力を抜いて、ね?」
「はぁ、はぁ、はぁ、ああ…んっ、んん」
「うふっ…ほぉら、気持ちよくなってきたでしょう?」
「ふぅ、ふぁ、はぁ、あっ…は、はい…」
「…さ、気持ちを楽にして…お姉さまって、呼んでごらんなさい?」
「はぁ、ふぅ…そ、そんな…あっ! あ、あっ、あぅあぁっ」
「呼びなさい? いい子だから」
「あ、あっ、ああっ! あっ、あーっ! …はっ、はぁぁっ、あっ…はっ」
「ほら…」
「…はっ、はぁ、ふぁ…お、お、おぉ」
「お・ね・え・さ・ま」
「お、ねえ、さ、ま」
「もう一回…お姉さま」
「…ぅ…お姉さまぁ…あ、あぁ」
「うふん、よくできました…はい、これはご褒美よ」
「あぅうっ、うぁっ、あぅっ、あぁうっ! …お、お姉さま、お姉さまぁぁ、ああっ、あーんっ」
オチが無くてすみません。
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突発シリーズ第五話 『こんなんでも、二人は仲良し編 その2』
「お勤め頑張って下さい、ごしゅじんさま。気が向いたら、差し入れ持っていきますから」
「おう、ジャ○プとサ○デーを…って、気が向いたらかよ! ってゆーか、無実だって証言してくれよ!」
「刑事さん聞いて下さい。この人、雇い主であることをかさに、自分のことを『ごしゅじんさま』って呼べって強要して、あまつさえ毎晩わたしに首輪と手枷足枷を嵌めて、汚辱と恥辱と陵辱の限りを尽くして…くすんくすん(←嘘泣き)」
「おい待てそんな余所様が誤解するよーな内容を有ること無いこと吹聴するな!」
「あるのか、貴様!?」
「あっ刑事さん、いえ今のはホンの言葉のあやでございます(←超卑屈)」
「ううっ、三角木馬にくくりつけられたまま、朝を迎えたこともしばしば…およよよ(←嘘泣き)」
「シャイアアアアア!?」
「貴様ァ――っ、金髪の美女をはべらせているだけで死刑確定なのに、そのうえそんな羨ましいことを…許せん、裁判官も弁護士も要らん、本官がこの場で断罪してくれる!」
バギュン、バギュン、バギュン。
「キャ――――」
地獄絵図。
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突発シリーズ第六話 『お正月編』
「あけましておめでとう、シャイア」
「おめでとうございます、ご主人様。本年も、宜しく…」
「待てーい!」
「きゃっ? なんですか、もう! 急に大声出したりして、驚かさないで…」
「うるさい! シャイア、答えろ!」
「ひゃあっ…は、はい…(ご主人様、いつもと違う?)…」
「シャイア…」
「はい…(ドキドキ)」
「…どうして、振り袖じゃないんだッ!?」
「は?」
「せっかくのお正月なのに、どうして振り袖を着てないんだようっ! なんで、いつものメイド服なんだようっ!」
「え? え? …だってわたし、ほら、外人だし。金髪に、振り袖は…」
「イイ! 俺が許可する! 着ろ! いや、着てくれ、頼む!」
「わっ、わわっ……どうして、そんなに必死なんですか?」
「……」
「え、ちょっと、どうしたんですかご主人様。そんな、シリアスな顔しちゃって…ほら、お正月なんだから、もっと笑ってー。笑顔、笑顔、にこにこーっ…ダメ?」
「…誰にだって、思い出すと辛くなる記憶が、一つや二つ、あるもんだ」
「ご主人様…ひょっとして、悲しい想い出が、あるんですか」
「……ああ」
「…(ご主人様、なんて寂しげな顔…)…あの、わたしでよければ、聞かせてくれませんか? いえ、興味本位とかじゃなくて、その悩みを分かち合えたらいいかなあ、なんて…(やだ、私ったらなに言ってるんだろう)」
「……。分かった、聞いてくれるか」
「はい…(ドキドキドキドキ…ああ、なんなの、この胸の高鳴りは?)…」
「俺が昔、音芽と一緒に暮らしていた頃の話しだ」
「はい」
「あの日も今日と同じ、静かで落ち着いた、元旦だった。…さっきみたいに、俺と音芽も、『あけましておめでとう』って、新年の挨拶を交わした」
「はい」
「音芽のやつ、生意気に振り袖を着込んでいてさ、すげー綺麗だったんだ」
「…(ムカ)」
「あいつはほら、性格はがさつだけど、一応美人だし、馬子にも衣装っつーか、美人は得って言うか」
「…へー(ムカムカ)」
「それで、俺も男だから、その…襲い掛かったりしたわけだ、うん」
「…ほほー(ムカムカムカムカ)」
「そして、飛び掛かる寸前、俺はあることを思い付いた。せっかく和装なんだから、あの伝説の大技『独楽回し』をさせてもらおう、と!」
「…………はあ?」
「知らないのか? 着物の帯を手に持って、『よいではないか』って言いながら引っ張るんだ。そうすると、女の人が『あ〜れ〜』って言いながらくるくると回って、裸になってくれるという、心躍る遊びだ。日本の重要無形文化財にも指定されている(※嘘)」
「いえ、そーゆーことを聞いてるんじゃなくて」
「? まあ、いいや。させてくれ、一生のお願いです、って頭を頼み込んでみたら、あいつ、『目が回って気持ち悪くなるから、イヤ』なんて言いやがったんだ! ひどいだろ?」
「……」
「しかもあいつ、俺が誠心誠意、頼み込んでいる間に振り袖を脱いじゃって…『もう一回着てくれ』って頼んでも『イヤ』の一点張りで……ウウウ」
「……」
「シャイア、俺はあの忌まわしい過去を振り切るためにも、今年こそは雪辱を晴らしたいんだ。だから頼む、振り袖を着て、俺に回されてくれ!」
「…ご主人様」
「うん?」
「…回ってください」
ゴズン!
シャイアのフックが 俺の頬骨にめり込み
俺のからだは こまのように まわった
くるくる くるくると
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