俺がベッドから起きあがると、部屋は二頭身の小さな娘さんたちによって占拠されていた。
床中に少女少女少女。
ベッドの上にも少女少女少女。
俺が起きあがった事によって、二三人の少女がころころと転がり落ちた。
少女達は起きあがった俺をびっくりした顔で眺めている。
紅色の着物に、紅色のリボン。
小さな足袋でしっかりと床に立ち、数百の瞳が一斉に俺を見る。
なんだこりゃ。
夢の続きかと思って、再び枕に頭を預ける。
すると、娘さんたちは、おっかなびっくり俺に近づいて、頬をぺたぺたとつっつき、耳をぎゅーと引っ張る。
くすぐったい。
鼻息をふーとやると一人転がった。
なんだなんだなんだ。
もう一度起きあがり、現状を把握するべく努力する。
無駄だった。
今起こっている現象は俺の理解の範疇を優に超えていた。
「お前ら、なんだっ」
すると少女達は、お互いの顔を見合わせ、そして頷くと、口々に、
「林檎」「林檎」「林檎」「林檎」「林檎」「林檎」「林檎」「林檎」「林檎」「林檎」
「うーるせえーっ」
俺が叫ぶと少女達はぴたりと口をつぐむ。
はあはあと俺の息は荒い。
一体なんなんだこいつらはっ。
林檎? 食えるのか?
じっと、すぐ下にいた少女を見る。
俺の視線に意味に感づいたか、わわわと口を開き、あたふた逃げる。
するとすぐに他の少女にぶつかり、二人してこてんとこけた。
「何やってんだ」
なんだか可笑しい。
「よいせっと」
体勢を変え、立ち上がろうとする。
と、足の裏に違和感。
見ると、一人踏んでしまっていた。
そいつは逃れるべくわたわたともがき、他の少女が二人がかりで引っ張り出そうとしている。
「おーおー、すまん」
俺が足をひょいとどけると、引っ張っていた二人の少女が、どしんと後ろにこけた。
「で……だ」
俺は頭をぽりぽり掻きながら、目を閉じて尋ねる。
「お前ら、なんでここにいんの?」
少女達は俺の問いに目をぱちくりとさせる。
中には、居ちゃダメ? と言わんばかりに俺を見上げる奴すら居た。
「いや、つーか」
あ〜〜〜〜〜と俺は息を吐く。
ますます混乱しそうだ。
少女達は、しばらく俺の問いに悩んでいたようだが、少したつと、一人飽き、二人飽き、とうとう全員が再び鼠のようにちょろちょろし始めた。
「ええい」
俺は着替えるべく、床に足を降ろす。
勿論、連中を踏まないように細心の注意を払っているが、何が楽しいのか奴らは駆けめぐっているのでなかなか難しい。
脅かそうかと、どんと床を踏むと、少女達はますますパニック状態になり、きゃーきゃーわーわー、あっちでごちん、こっちでごちん、お互いに額をぶつけ合う。
逆効果だったか。
「はいお前ら、動くなー」
聞いちゃいねえ。
「動くな!」
ぴし! と綺麗に少女達の動きが止まる。
数人、無理な体勢で止まったため、転んだ。
「よーし、そのままだ」
俺は椅子に投げ出してあった服を掴むと、それを羽織る。
少女達はすっかり動かない。
何人かは顔を紅くして、走ったままのポーズで止まっていた。
「あ、いや。座っていいぞ」
ふう、と部屋のそこかしこから安堵の吐息が漏れ、ぺたぺたと少女達は体育座りをする。
まさか部屋の外までこんなんなってるんじゃねえだろうな、と俺は、少女達を避けながら、入り口のドアに近づいた。
ノブを回し、ドアを押す。
ドアに寄りかかっていた少女が、とつぜん背もたれを無くされ、びっくりして後ろに倒れ込んだ。
顔を出して辺りをきょろきょろと見ると、そこは全く昨日と変わりない、静かな廊下のままだった。
「じゃあ俺の部屋だけかよ」
やれやれと部屋を振り返ると、少女達は跡形もなく消えていた。
(終わり)
絵と原案 桜塚さん
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