お呼ばれ林檎蜜柑


 今日もいつもどおり平和です。
 公園では、お馴染み二人の少女がお手手を繋いでとてとてお散歩しています。
 あ、そうです。
 この子達を是非息子にも見せてあげましょう。
 私はそう思いつくと、早速、二人の元にしゃがみ込みました。
 じいと私を見上げる二人の少女。
 私が家に誘うと、二人は見つめ合った後、こくんこくんと頷きました。
 そうして二人は、めいめい私の肩に乗り、きゅっと衣服にしがみつきます。
 心地よい重さで、可愛らしいですね。
 さて、家に着きました。二人にお茶を振る舞い、しばし談笑したものの、息子は一向に帰ってくる気配を見せません。
 困りましたね。私はううんと首を捻ります。
 段々と日も暮れて、少女達は、なんだかそわそわして来ました。
 今日は、もう、帰る時間でしょうか。
 少女達は、家まで送りましょうかと言う私の申し出を固辞して、玄関先でぺこりぺこりとお辞儀をし、道を駆けだして行きました。
 本当に、出来た子たちですね。
「ただいま〜。あれ、誰か来てたの? ……母さん、何怒ってんのさ」
 もう。遅いですよ。
「は?」




お酒蜜柑


 蜜柑さんはお酒を言うものを手に入れてみた。
 興味津々に、ぺろっと舐めてみる。
 ふわあ。くらくら。くら。
 ぺたんと尻餅をつく蜜柑さん。
 なんて危険なんだろう。でもなんだか良い気持ち。
 ふわふわ、ふわふわ。
 林檎さんにも呑ませてあげようと、千鳥足で彼女の家へ。
 これをどうぞ。あらなあに。
 ちょっぴり呑んでご覧。うんわかった。
 所が林檎さん、ただの水とでも思ったか、がぶりと流し込んだ。
 あ、あ、あ。慌てふためく蜜柑さん。
 林檎さん、ひっくと軽く喉を鳴らす。見る見るうちに顔が赤くなって行く。
 心配そうな蜜柑さんを見ると、林檎さんは笑顔を向けた。
 林檎さんなんだかとても愉快。自然と笑いがこみ上げてくる。
 けたけたけたけたけたけたけたけたけた。
 けたけたけたけたけたけたけたけたけた。
 けたけたけたけたけたけたけたけたけた。
 ひとしきり笑って、林檎さん、ぐてーんと昏倒。蜜柑さん、うわあ。




走れ蜜柑


 しまった。もう時間がない。
 蜜柑さんは走っていた。
 森の小道を、わき目もふらず、ただ疾駆する。
 急がないと、急いで帰らないと、林檎さんが、林檎さんが!
 早く、とにかく早く。
 約束の時間はもう迫っている。その時間が来たら、蜜柑さんの到着を待たずして、林檎さんは……!
 走った。途中、足をもつれさせて、何度も転んだ。
 しかし、着物の汚れを厭う間もなく、蜜柑さんは駆けていた。
 やっと、家が見えてきた。残る時間は、後僅か。間に合うか。
 がらりと、玄関を開ける。
 ああっ。遅かった。その光景を見て、蜜柑さんは、がっくりと膝を突いた。
 林檎さんは、とうとう――蜜柑さんのおやつまで、食べてしまっていた。




必殺林檎


 日々、ぽけーと過ごしている林檎さんだって、時折衝動に襲われることがある。
 強く。強くなりたい。
 さしあたって、転んでも泣かないようになりたい。
 とりあえず林檎さんは、蜜柑さんに相談することにした。
 熱っぽく自分の野望を語る林檎さん。みぶり、てぶり。
 ――呆れる蜜柑さん。
 ついては必殺技なんかも覚えたい、と漏らす林檎さん。きゃあ言っちゃった。
 ――お茶碗を抱えたまま呆れる蜜柑さん。
 大体、必殺技なんて覚えてどうするの、と、問うてみた。
 すると林檎さん、うーんとひとしきり考えると、にぱっと笑って、こう答えた。
 蜜柑さんに試す。
 ……
 蜜柑さんは、林檎さんにお引き取り願った。




ぬいぐるみ林檎


 私はぬいぐるみだ。
 とある少女の枕元を占拠させて貰っている。
 少女に愛され早数年。
 こうして今晩も、少女の安らかな寝顔を眺めて、私は心を和ませる。
 だが突然現れる闖入者。平和を乱すその相手は。
 少女の腕の中にすっぽり包まれるサイズの私よりも、さらに小さい娘だった。
 なにやら赤い着物を纏い、いつのまにかベッドの上にちょこんと現れたかと思うと、私と同じように少女の顔を観察しだす。
 こら、こら、何をする気だ。ああっ。寝ている少女のほっぺたをぺたぺたするなんて。ななな、なんて悪逆非道。
 しかし私は所詮ぬいぐるみ、少女がこの小さな悪魔に虐待されるのを黙ってみていることしか出来ない。
 あげく娘は、露出している彼女の肩に乗り、ぶらぶらと足を揺らす。何と言うことを。彼女の肩が潰れたら、どうしてくれる。
 そうして煩悶の時間は流れていき、飽きたのか、娘はようやく少女から離れた。私がホッとしたのも束の間、娘の視線と目があった。
 ……
 うわあっ! 私に飛びついてくるな! やめろ! 私を抱きすくめてもふかふかするだけだぞ!




座敷蜜柑


 蜜柑さんがひょいと訪れてみた旅館、どうもそこでは奥の部屋に座敷童子が出るらしい。
 座敷童子。
 一体どんなのであろうか、お友達になれるかな。
 蜜柑さんはわくわくしてその奥の部屋に向かう。
 すると泊まり客と見られる数人の若者が、わいわいと騒いでいた。どうもまだ座敷童子は出ていないらしい。
 と言うわけで蜜柑さんは、床の間にぺたんと正座し、待つことにした。
 やがて、若者の一人が、ふいに床の間の方を見て、驚きの声を上げる。
「座敷童子だ!」
 えっ、どこにいるのと、蜜柑さん、後ろを振り向いた。




キック蜜柑


 未だに必殺技必殺技と騒いでいる林檎さんが帰った後、蜜柑さんはふうと嘆息する。
 全く、必殺技だなんて、何が良いというのか。必殺技。
 例えばそれはどんなものだろう。パンチだろうか。投げ技だろうか。それとも。
 蜜柑さん、着物の裾を掴むと、えいやと飛び上がり、中空に鋭いキックを放つ。
 ぽてーん。畳の上に尻餅をついてしまう。
 お尻をさすっていると、ふと背後に視線。
 帰ったとばかり思っていた林檎さんが、襖の隙間から、にこにこしていた。
 両者、しばしの沈黙。
 やがて立ち上がり、つかつかと歩み寄る蜜柑さん。
 邪気のない笑顔のままの林檎さん。
 やがて両者は対峙する。
 えいやっ、蜜柑キック。わあと逃げ出す林檎さん、なんだか嬉しそう。



笑顔林檎


 いつも笑顔の林檎さん。
 そんな林檎さんを改めて眺めつつ、蜜柑さんは、もっと違った笑顔は作れないのかと訪ねてみた。
 言われて、きょとんとする林檎さん。
 自分のほっぺを持ち上げたり、掴んでみたりする。
 どうやら、どんな顔をすれば良いのか分からないらしい。口をぽかんと開けたまま、首を傾げた。
 蜜柑さん、大いに悩む。ううん。
 では例えば、嘲笑というのはどうかと提案。
 そんなこと出来ない、と、林檎さんは両手を振る。
 何事も挑戦だと、蜜柑さん必死の説得。
 熱意にほだされ、林檎さん、興奮気味に何度も頷いた。
 じゃあやってみるね。うんどうぞ。
 にやァ。
 真っ正面からそれを見た蜜柑さん、瞳を見開き、慌てて背を向ける。
 どうだったかと訪ねる林檎さんに、後ろを向いたまま、とっても良かったと告げる蜜柑さん。
 どきどきどきどき。あの時は背筋が凍るかと思ったと、蜜柑さん、後々大いに語る。



笑顔蜜柑


 しかし、と、林檎さんは首を捻る。
 人にそんなことを言うわりに、蜜柑さんこそ無表情ではないか。
 ようやくこっちを向いた蜜柑さんにその旨を告げると、蜜柑さんは心外だと鼻を膨らませた。
 曰く、自分ほど表情豊かな者は居ない、と。
 呆気にとられる林檎さん。ならば。
 笑って、と、頼んだ。すると蜜柑さんの口の端が僅かに広がった。
 怒って、と、頼んだ。すると蜜柑さんの眉毛がちょっぴり動いた。
 林檎さんは、色々、諦めた。



唐揚げ蜜柑


 一生懸命唐揚げを作った蜜柑さん。ふう。
 この出来ならば今すぐにでも店を構えられそうなほど、会心の仕上がりです。
 では試食。箸を伸ばしてぱく熱い!



絵と原案 桜塚さん



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