蜜柑アッパー
風の噂に、最近の蜜柑さんはアッパーだと聞いた林檎さん。
ややそんなハイテンションな蜜柑さんとはめづらしい。
それならばきっと話していても楽しいし盛り上がるだろうと蜜柑さんのお宅にお邪魔。
しかし蜜柑さんは相変わらずの無口、無愛想、無表情。
首を傾げながら林檎さん、アッパーと言う噂はどういうことなのか尋ねてみる。
蜜柑さん、こくんと頷くと、拳を固めて上に突き出す。
ぶし、ぶし。
アッパー。
蜜柑アッパー。
呆気にとられる林檎さん。
蜜柑さん、無表情のままで空中を殴る。
ぶし、ぶし。
炸裂する蜜柑アッパー。

林檎ちらり
蝉の声もかそけき夏の終わりの日。
蜜柑さんは林檎さんとお話ししていた。
するとふいに、林檎さんがもぞもぞしはじめた。
どうしたのかと様子を見ていると、林檎さん、やおら着物をはだけだす。
ここはお風呂じゃないよと言いたかったけれどとりあえずじっと様子を見る。
蜜柑さん、あっと気づいて林檎さんの首筋を叩く。
ぴしゃり。
蚊が居た。
既に刺されていたのか林檎さん痒そうに首筋を撫でる。
蜜柑さん、奥からかゆみ止めの薬を持ってきて、塗ってあげた。
嬉しそうな林檎さん。

林檎どんぐり
ある日林檎さんが森を歩いていると足下の何かに躓いた。
何だろうと下を向くとどんぐり。
しゃがみ込んで突いてみるとそれはころりと転がった。
なんだか楽しくなって拾い上げてみる。
手触りもすべすべとしていてとても心地よい。
よく見るとそこにもあそこにもたくさんどんぐりが落ちている。
林檎さん、嬉しくなって、わきゃーと片っ端から拾い集める。
両手一杯に抱えたところで、これ、どうしようと考える。
捨てるのは勿体ない。家に持っていくのも忍びない。
じゃあどうしようと考えたところで蜜柑さんの顔が思い浮かんだ。
そうだ蜜柑さんに見せてあげよう。
蜜柑さんのお部屋に行くと留守だった。
お行儀悪いかなと思いつつ足で戸を開けて、
部屋の真ん中にざらざらざらとどんぐりを積み上げる。
やがて戸が開く音、蜜柑さんのご帰宅。
目を丸くする蜜柑さん。
にこにこする林檎さん。
蜜柑さん、やおらどんぐりの山に近づくと、そのうち一つを掴み上げる。
そうしてにこにこしている林檎さん目がけて、投げつけた。
こつんとおでこにヒット。
あう、とよろける林檎さん。

絵 匿名希望さん
蜜柑ビーム
蜜柑さんが朝起きると。
目からビームが出るようになっていた。
カッと瞳を開けば放たれる青白い光線。
みー。
これは危険ではないかと蜜柑さん慌てふためく。
そこへ間が悪いことに林檎さんが訪れる。
来ちゃダメと言っても通じない。
そのうち無意識に出るビーム。
にこにこしている林檎さんを直撃。
みー。
林檎さんは、身体がぽかぽかしてきた。
蜜柑レモン
ふと蜜柑さんは自分の名前を改めようと思い立った。
何が良いかと考える。
黄色くて尖ったレモンが思い浮かんだ。
なるほどこれは如何なものかと林檎さんに相談してみることにした。
改名を考えていると話しかける。
林檎さん、ふんふんと頷く。
レモンはどうかと尋ねる。
林檎さん、酸っぱそうに口をすぼめる。
蜜柑さんは改名を諦めた。

蜜柑爆弾
遠い空の向こうからやってきた飛行機が、新型爆弾を投下した。
ばーん。
爆音と共に降り注ぐ蜜柑さんの群。
ぺちゃりと地面に落っこちると、蜜柑さんは、痛そうにおでこをさすった。
への字口。機嫌が悪そうだ。
林檎こんぴゅーた
たくさんの林檎さんが一斉に計算を始める。
いんいちがいち、いんにがに。
6の段で一人の林檎さんが詰まった。
みんなで集まって、優しく教えてあげる。
やっと分かった林檎さん、にっかと笑みをこぼす。
他の林檎さんもつられて笑い、めいめい自分の席に戻っていった。
そして一生懸命計算を再開する。
こんぴゅーたはこうやって動いています。
林檎販売機
ジュースを買おうと自販機の前まで行って、俺は腰が抜けた。
商品のサンプル欄に、二人の小さな少女の絵が有ったからだ。
一体これは何だ。人形かな。
お値段は100円。俺は好奇心を刺激され、まず、紅色の着物を纏った、
いかにも朗らかそうな女の子のボタンを押した。
うぃぃんがたんと何かが落ちてくる。
取り出し口に手を入れると、指先を掴まれた。
ぎゃあと思って飛び退く。なんだなんだ。
すると取り出し口の蓋が独りでに開き、中から一人の少女がうんせこらせと這い出てきた。
サンプル絵の通りの女の子だ。もの凄く、小さいが。
少女は可憐に舞い降り、地面に足を付くとバランスを崩してこけた。
ちょっと痛そう。
着物の裾を払い、立ち上がって、呆気にとられている俺の顔を見る。
こいつは何だ、物の怪の類か。
俺は努めて冷たい目で少女を睨んだ。
すると少女は温かい目で見つめてきた。
俺の負けだ。
少女はにっこり笑い、ぺこりとお辞儀する。
買ったわけだから、持っていって良いのだろうか、なんて俺が躊躇していると、
そのうちに少女は、とてちてたーとどこかへ走り去っていった。
あ、おーい。
商品に逃げられたよ。
蜜柑販売機
昨日の失敗を生かして、今日はもう片方の少女を買おうと俺は決めていた。
しかしこれは人身売買なのだろうか。いや、違うと思う。
大体、あれ、人なのか。
と、昨日の場所に行ってみると、自動販売機は、影も形もなくなっていなかった。
一回で消えるのが定石だろうにと俺はブツブツ呟きながら、100円硬貨を投入する。
迷わず、紺色の着物を着た、ちょっと影のある女の子のボタンを押す。
うぃぃんがたんと何かが落ちてくる。
取り出し口の蓋を開けると、つまらなそうな顔をした女の子と目があった。
俺は努めて温かい目で少女を見つめた。
すると少女は冷たい目で睨んできた。
やはり俺の負けだ。
少女は、だるそうに溜息を吐くと、俺を無視して、ごそごそと販売機の中に戻っていった。
あ、おーい。
お前ら何なんだ。
蜜柑ペンギン
水族館のペンギンが疑似氷山の上をてぽてぽと日光浴をしに歩いていると、
見慣れぬ物体が転がっているのを見つけた。
なんだろうと思って見ているとそれはむくりと体を起こした。
びっくりしてペンギン、後ずさる。
お昼寝から目を覚ました蜜柑さん、切りそろえた髪を揺らして、ふぁと小さな欠伸をする。
そして、ふと横を向くと、ペンギンと目があった。
蜜柑さんを見つめるペンギン。
ペンギンを見つめる蜜柑さん。
気が付くとお空が赤くなっていた。
ペンギンは、そうだご飯の時間だ、と思い出した。
最後に蜜柑さんを見て、アレは食べられそうにないや、と踵を返した。
絵と原案 桜塚さん
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