哀愁のこたつみかん



 あれれ。

 目が覚めるとどうも身体が妙に温かかった。

 おかしいわね〜、冬なのに。

 ぎゅっと一度目を閉じてから、もう一度開く。

 顔を起こすと、こたつ布団が見えた。

 あら、や〜ね〜。こたつで寝てたみたい。

 よいしょと身体を起こして、あくびを一つする。

 と、自分の脇に何かが転がってるのが見えた。

 うん? と横を見てみると、お人形がそこで寝ていた。

 ううん、お人形じゃないわね。息してるもの。

 それじゃあ女の子ね〜。って、あれ。

 えええっ!?

 飛び上がらんばかりに驚いたけど、眠っていたせいで頭も身体も上手く働かない。

 せいぜい身体を反り返らせるくらいのリアクションしか出来なかった。

 まあもし、ばたばたしてたら、この子を起こしちゃったから、それは良かったのかも。

 それで。な〜に、これ。

 その少女は私みたいに胸までこたつに入って、くうくうと寝ている。

 う〜ん。

 まだねぼけてるのかなと思って、一度こたつから出て、水を一杯飲んでくる。

 ごく、ごく、ごく、うん、落ち着いた。

 戻ってみると、やっぱり少女はまだ寝ていた。

 しゃがみ込んで、様子を見る。

 何なのかしらね〜、この子。

 不法侵入じゃないの。

 つんつんとつついてみると、少女はうるさそうに顔をしかめた。

 あらあら、なんだか可愛い。

 ちょっと悪戯心も沸き上がり、私はこたつ布団をずらして、少女を外に出してみた。

 おかっぱ頭の少女は、着物をきっちり着て、足袋まで履いている。

 様子を見ていると、寒いのか、もぞもぞし始めた。口もへの字形にひん曲げている。

 や〜だもう、可愛いじゃない。

 これ以上意地悪するのは悪いかなと思って、私はふとんをぱさっと掛けてあげた。

 少女の寝顔が穏やかになる。耳を側立てると、すうすうと静かな寝息も聞こえてきた。

 起こすのも可哀想だし、目が覚めるまで待ちましょか。

 ううう、気が付いたら私も寒いわね。

 私もこたつに入って、少女の寝顔を見つめている事にした。

 ちっちゃな唇。ちっちゃな鼻。ちっちゃなおでこ。

 間近で見る少女の顔は、鼻梁が通り、凄く綺麗に整っている。着物だけじゃなくて、ドレスとかも似合いそうだった。

 小指を顔に載せてみると、迷惑そうによいしょと両手で私の指を押しのけた。なんだか一生懸命で可笑しい。

 はいはい、おとなしくしてるわね。

 と。

 この子の寝顔見てたら私も。ふああ。

 う〜ん、しょうがないわね、ちょっとだけ。

 ふあ。ふぅ、すう。

 ……。

 あれれ。

 あっ、ちょっとのつもりが熟睡しちゃったっ!

 がばっと跳ね起きて時計を見る。やだ、もうこんな時間じゃない!

 あ、そうだ、あの子は。

 と、隣を見ると、少女は忽然と消えていた。




(終わり)
 
 絵と原案 桜塚さん



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