いたづら一夜さん その3  うなじと鎖骨編  良く 世の男性は  うなじの後れ毛に色気を感じると聞きますが どうしてなのでしょう  私は 首を傾げて 自分のうなじをつついてみます  つんつん ひゃう  なんだか ぞくぞくしました  それから 鎖骨にも なにやら艶めかしさを感じるとか  どれ  さわさわ きゅう  やはり 不思議な感触が身体を突き抜けます  とってもいけないことをしている気がしてきました  でも もう少しだけ  つんつん ひゃう  さわさわ きゅう 「何してるんだ 母さん」  びくーん  十夜 いつから そこに  お母さんの秘密をのぞき見るなんて 悪い子ですね 「いや その 居間で そんなことしてる方が」  聞く耳持ちません  逆ギレと言うものです きー  臭い編  なにやら最近は 臭い消しが 流行っているようですが  私は昔から 体臭が薄くて  香水も 必要最低限しか持っていません  こうしてだんだんと 初夏の陽気が漂いはじめても  私の身体は清潔なまま ほら くんくん  あら いや  困りました ちょっぴり 臭気が  これはひょっとして 老臭 そんなわけは ありません  ありません  ありませんよ?  うーん 困りました  とりあえず 市販品の 臭い消しを買ってきて  脇の下に ぷしゅ  はう 冷たいです  で どうなのでしょう  効き目のほどは  くんくん 臭い消しにつーんと鼻をやられて よく 分かりませんね 「毎回 何してるんだ 母さん」  毎回とは ご挨拶ですね  でも十夜 ちょうど良いところに来ました 「な なんだよ」 「ちょっと お母さんの脇の下の臭いを 嗅いでくれないかしら」  ……  怒られてしまいました しゅん  爪編  私の爪は いつも短く 綺麗にしています  今日も 爪切りで ぱちん ぱちん  ヤスリを掛けて しゅっしゅ  おしまい  なんだか 物足りませんね  そうです 十夜 十夜  きょろきょろ  見つかりません 変ですね 先ほどまでその辺に居たような気がしたのですが  怖くないから出ていらっしゃい 爪切りを鳴らします ぱちんぱちん  それでもやっぱり見つかりません  欲求不満です  ここは 一つ 「なんですか 一夜さん いきなり呼び出したりして」  こんにちは紫苑ちゃん 早速ですけれど  爪を 切らせてください 「え はい いいですけれど」  手を差し出す紫苑ちゃん 綺麗な手です  ぱちん ぱちん しゅっしゅ 「あの それで 一体」  次は 足の爪ですよ 「えっ ちょっと それは」  怖くありませんよ さあ 「ああっ」  捕まえました もう 逃げられません 「許してくださいっ」  駄目です さあ ストッキングを脱いで 「ああん」  うふふ 紫苑ちゃんの長くて白い足が 白日の下に  さあ 爪切りです ぱちん ぱちん 「はう あう」  そして 物陰から 頬を染めて様子を伺ってる十夜  次は あなたですよ うふふ  逃亡編  今日は 追いかけっこです  突然 そう 閃きました  追いかけっこです  誰にも 文句は言わせません  と言うわけで 十夜から 逃げ回りましょう 「母さ〜ん」  さっ 「母さん?」  ささっ 「あ 居た居た」  ああん 見つかってしまいました  女性を追い込むのが上手ですね十夜は  ですが お母さんだって そう簡単には負けられません  そう 家の外は無限に広がっているのです  さささささ 「あっ 母さん どこに行くんだよ」  十夜 あなたも男の子なら 私を捕まえてごらんなさい 「ちょっと 待てよ おーいっ」  てってけてってけ  一大逃亡劇です  これから始まる 大スペクタクル ロマン そして愛  冒険活劇の 始まり  はあ はあ もう息が切れました  歳  いいえいいえ 私は慌てて首を振ります  こんなところでもたもたしていたら 十夜に捕まって どんな目に合わせられるか  なんて恐ろしいことでしょう  幸い 時刻は夕暮れ時 薄闇に紛れてしまえば  この隙に 秘密基地へ行きましょう  ぴんぽ〜ん 「はあい」  こんばんは鏡夜くん かくまってください 「え 突然 何ですか」  悪い男に 追われているのです 「何だってぇ」  あっ ほら もうここを嗅ぎつけたようです  はあはあと言う荒い息と 駆け足の音が 「わ 分かりました 一夜さんは とりあえず中へ」  ああ 身を挺して 私を  さようなら鏡夜くん 一生 忘れません  疾風の如く駆け出す鏡夜くん 「ちょやー」 「うわっ なっ なんだっ」  闇の中もつれる 二人の男性  ああっ 二人は 従兄弟同士だと言うのに  何という 運命の悪戯でしょう  神様 恨みます  はて  ところで  そういえば  私は 何を していたのでしょう?