ポテトの受難
「お姉ちゃん、お願いがあるんだけど」
突然、佳乃ちゃんがこんなことを言い出した。
「ん、なんだ?」
「お料理教えて」
「だめだ」
普段は佳乃ちゃんの言うことなら何でも聞く聖さんも、このお願いは聞かなかった。
「えーどうしてー」
「包丁は危ないからな」
「うぬぬー、でもー」
「でもじゃない」
聖さんは取り合わなかった。
正しい行動だと思う。
「だいたいどうして急に料理なんだ」
「急じゃないよぉー」
佳乃ちゃんは拗ねたように口を尖らせた。
「前にもたのんだのにお姉ちゃん危ないからだめだ、って教えてくれなかったんだよぉー」
「そうだったかな」
「そうだよぉー」
「とにかく、だめだ」
いつもならこれで引き下がる佳乃ちゃんも、今日はしつこかった。
どうやら往人君においしい手料理を食べさせたいから、らしい。
でも佳乃ちゃんの料理下手は練習云々のレベルを遥かに超越していると思う。
つまりはどうにもならない、というわけだ。
「わかった」
……………………………え?
「そんなにいうなら教えてやろう」
何を言ってやがるかこの通天閣はああああああああああああっっっっっ!!!
「本当?お姉ちゃん」
「ああ、ちょうどそこに味見役もいることだしな」
聖さんがそう言った時、僕はすでに霧島診療所を脱出していた。
その辺を歩き回ってるうちに、いつのまにか夕方になっていた。
そろそろ夕飯の時間だ。
さすがに夕飯は聖さんが作るだろう。
もしかしたら佳乃ちゃんに教えるのをもうあきらめてるかもしれない。
何よりも僕はおなかがすいていた。
なにしろ朝から何も食べていないのだ。
もし診療所から怪しいオーラが立ち込めていたら、そのときは逃げればいい。
そう思って霧島診療所の前まできた。
しかしこれは……漂ってるよ。怪しげなオーラが。
匂いが怪しすぎるよ。
これは、逃げるしかない。
僕が身をひるがえして逃げようとしたとき、
「やあポテト、君はこんなところにいたのか」
それは死刑判決を告げる裁判官の声だった。
「ぴ、ぴこ」
ゆっくりと、振り返る。
「君の分はまだ残ってるぞ」
「ぴ、ぴこぴこ」
いやだ。僕はまだ死にたくない。
「さあ、行こうか」
首をつかまれ、診療所に強制連行される。
「ぴこぴこー」
抵抗は無駄だった。
診療所の中には、屍が一つ転がっていた。
……違う。往人君だ。
いや、違わないか。往人君の屍だ。
僕は台所に連れてこられた。
「さあポテト、これが今日の君の夕飯だ」
怪しげなオーラを発する皿が並べられる。
いやだ。食べたくない。僕はまだ死にたくない。
「なんだポテト、君は食べたくないというのか?」
しゃきしゃきしゃきしゃきーん
聖さんの手にメスが現れる。しかもいきなり4本だ。
これを食うか、それともばらされるか。
究極の選択とはこのことだろうか。
食わなければ確実に死ぬが、食ったら死ぬほど苦しむ。
「死」と「死んだほうがまし」はほんとのところどっちがましなのだろうか。
僕は……「死んだほうがまし」を選んだ。
そして僕はお星様になった。
「えいえん」という言葉がうかんだのはなぜだろうか。
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えーと、たぶんポテトのSSならほとんど書いた人がいないだろうと思って書いたSSですね。
マナティSSを書きながらふと書きたくなったのは逃避でしょうか。
あっちが難産だった分、こっちは妙に早く書き上げたんですが。
読み直してみると「ダビつくやりながら1時間で書き上げた」SSですね。確かに。
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