「1日遅れのHappyBirthDay」
カラリ……
庭に続く窓が、無機質な音を立てて開いた。
開かれた窓は、明るく暖かい部屋と、暗く冷たい庭を隔てる境界線。
光と闇を分断する壁。
その先は、暗く、冷たい夜の闇が広がっているだけだ。
だが、美汐は躊躇することなく踏み出す。
――――闇の中へ――――
一歩、たった一歩庭へと足を踏み入れただけで、体温がうばわれ、美汐は大きく震えた。
寒い。
だが、なんとなく……なんとなく、その寒さを心地よく感じる。
無論美汐とて、暖かい部屋が嫌いなわけではない。
ならば、何故?
疑問に思い、美汐はたった今出てきた部屋を振り返る。
ほんの少し前まで、美汐の誕生日を祝う宴が開かれていた場所だ。
そこでは、たしかに美汐が主役だった。
みんなが自分の誕生日を祝ってくれる。
そこでかけられた祝福の言葉は決して偽りのものではなかった。
心から皆、美汐の誕生日を祝っていたのだ。
美汐にもそれはわかった。
とても嬉しかった。
家族以外の誰かから誕生日を祝ってもらうことなど、本当に久しぶりだったからだ。
祐一に連れられて、パーティーの会場となる水瀬家のリビングに足を踏み入れた美汐を、盛
大なクラッカーの音が出迎えた。
「誕生日おめでとう、美汐」
「天野さんお誕生日おめでとー」
「美汐ちゃん、お誕生日おめでとう」
続いて、祝福の言葉。
「あ……」
美汐は、思わず声を詰まらせてしまう。
こうやって祝福の言葉をかけられたのはいつ以来だろう?
「祐一、おめでとうはどうしたの?冷たいのね、祐一は」
真琴が固まっている祐一にそんな声をかける。
「耳がきんきんする」
祐一が涙目になって訴える。
どうやら先ほどのクラッカーの音で耳がおかしくなったらしい。
真琴は、美汐のほうに向き直り、
「どうしたの?」
美汐が呆けているのに気付いた。
「美汐も耳がおかしくなったの?」
声をかけられて美汐はハッと我に返り、
「あ、いえなんでもありません。ただ……」
ただ……なんだというのだろう?
私は何を言おうとしているのだろう?
「ありがとう…ございます……」
「美汐、誕生日おめでとう」
「ありがとう、真琴」
「美汐ちゃん、今日はあなたが主役なんだから、真中にどうぞ」
「今日はわたしも一緒に料理作ったんだよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
美汐が笑顔をのぞかせる。
「さ、料理が冷めないうちに、はじめましょう」
その宴も、少し前に終わった。
宴は、終わってしまえば後はむなしいものだ。
楽しかった。
嬉しかった。
だが、美汐はそのあいだじゅう、何か違和感を感じていた。
なぜか、居心地がよくなかったのだ。
何か、自分が場違いなところにいるという思いが渦巻いていたのだ。
……何故だろう?
もう一度、光が溢れる部屋を振り返る。
ああ、そうか。
美汐はなんとなく理解する。
夜の闇に向き直る。
私はこちら側の人間なんだ。
私の心は夜が明けていないんだ……
まだ私は……こちら側の人間なんだ……
そんなことを思う。
あのときから、まだ私は……
そのとき、大きな音を立てて、風が吹いた。
「ただいま」
そうつぶやいて、誰もいない家の中に入る。
今日は私の誕生日なのに……
共働きの両親が、家にいないことはわかっている。
誕生日を祝ってくれる友人がいないことは、自分の心の弱さのせいだということも、わかっ
ている。
だが、それでも……今日くらいは、誕生日くらいは自分を祝ってくれる人がいるのではない
かと――淡い期待を込めても、突きつけられるのは、冷たい現実。
今年は違った。
祝ってくれる友人がいた。
まだ気持ちを打ち明けてもいないが……好きになった人も誕生日を祝ってくれた。
――それなのに――
何故こんなにも心が落ち着かないのだろう
ちりん……
美汐の耳元で小さな、本当に小さな音をたてて鈴が鳴った。
「あ……」
小さな鈴のついたイヤリングが音を立てたのだ。
それは、久しぶりに美汐が心を開いた友人の、心からの誕生日プレゼント。
「真琴……」
そっとイヤリングに触れる。
心が、つたわってくる。
温かな心が、指を経由して、美汐の心に流れ込んでくる。
「こんなところにいたのか」
と、声をかけられる。
「相沢さん」
祐一だった。手には小さな箱を持っている。
「天野、遅くなったけど、誕生日プレゼントだ」
その小さな箱を、手渡される。
「私は……」
「誕生日おめでとう」
「もう……7日ですよ」
「そ、そうか。まあいいじゃないか。1日遅れの誕生日でも」
美汐は祐一の言葉にくすりと笑い、
「そうですね」
美汐は祐一とともに夜空を見上げる。
そこには、光り輝く無数の星があった。
そうだ。どんなに暗い夜でも、こんなにも明るい光が、星がある。
「あ、そうだ。開けてみていいですか?」
「ああ、別にかまわないぞ」
箱を開ける。
そこからでてきたのは、小さな金属製のオルゴール。
「くすっ」
オルゴールと、祐一とのギャップに、思わず吹き出してしまう。
「何かおかしいことでもあったか?」
「いえ、なんでもないです」
「?そうか」
美汐は、ゼンマイを巻きオルゴールを耳元に当てる。
小さな、澄んだ音がメロディーとして、聞こえてくる。
美汐が好きなメロディー。おそらくは、祐一が美汐の好きな曲を覚えてくれていたのだろ
う。
それだけのことだが、それがなぜか、嬉しかった。
「あり…とう……ござい…ます」
「ど、どうしたんだ、天野」
なんだか慌てたような祐一の声。
なぜか祐一の姿がかすんで見えた。
それではじめて、美汐は自分が泣いていることに気付いた。
「えっと……」
どうしてだろう?
どうして、自分は泣いているのだろう?
こんなにも嬉しいのに、どうして涙が溢れてくるのだろう?
「あー、祐一が美汐をいじめてるー」
真琴の叫び声。
どうやら、美汐がないているのをみて、誤解しているらしい。
「ち、違うぞ、俺はただ……」
祐一が慌てて弁解しようとする。
「なにが違うのよぅ、美汐泣いてるじゃない!」
いつも通りの口喧嘩が始まる。
いつもと同じやりとり。
それが何かとても嬉しくて。
それなのに、なぜかとても悲しくて……
でも、夜は必ず明けるものだから……
だから……
私はここにいてもいいんですよね。
ここは私の―――大切な場所だから―――
――――――――――――――――――-後書。―――――――――――――――――――
焔「はい、そんなこんなで美汐の誕生日SSです」
霞「もう過ぎてますけど……ね」
焔「それを言うな〜」
霞「こんなに遅れた理由はなんなんですか?」
焔「なんでだろ?」
霞「切りますよ」
焔「いろいろあったんだよ。テストとか」
霞「6日にテストがありましたからね、しかも必修の」
焔「そういうわけで勘弁してくれぃ」
霞「ま、それは仕方がないとしましょう」
焔「そうしてくれるとありがたい」
霞「で、内容ですが……」
焔「ありません」
霞「……」
焔「とりあえず、早く書くことだけを考えましたので、矛盾とか、うまくつながってないとこ
ろとかいくらでもあると思いますが、気にしないでください」
霞「推敲は?」
焔「やったよ」
霞「それでこの中身ですか」
焔「美汐属性の方々、申し訳ありません」
霞「本当にあなたも美汐属性の人間ですか?」
焔「実力が伴ってないだけだよ」
霞「まったくそのとおりですね」
焔「酷いぃ……」
霞「それでは、ここまで読んでくれた方には、厚くお礼を申し上げます」
焔「あ、なんか一人でまとめにかかってるし」
霞「他の方の出来がいいSSで口直し(?)をしっかりしてくださいね♪」
焔「なんか無視してるし……」
霞「それでは皆様……」
焔「聞けよ……」
霞「さようなら、また会う日まで」
焔「まあいい、か。さようならー」
焔(ところで、また会う日まで、っていうことは、またSS書くのか?俺は)
霞(それはあなたが決めることですよ)
焔(まあそうだが……)
霞(どうせ懲りずに書くのでしょう?)
焔(多分、ね……)
霞(じゃあいいじゃないですか)
焔(そうだね)
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