はじめての再会,2度目の出会い
美凪「…ただいま、お母さん」
私は、玄関のドアを開けて、お母さんに声をかける。
母「お帰り、美凪」
お母さんがそれに答える。
たった1年前にはなかった風景。
母「美凪、手紙が来てるわよ」
美凪「あ…うん」
私は食卓の上に置いてあった封筒をとり、自分の部屋に向かう。
母「それと、みちるちゃんを迎えにいってきて」
美凪「…あ」
そういえば、今日はみちるが遊びに来る日だった。
みちるは時々こちらに遊びに来るようになっていた。
みちるのお母さんは、そのことをあまりよく思っていないようだけど。
母「まさか、忘れてないとはおもうけど」
すっかり忘れていた。
美凪「いってきます」
もう一度ドアを開けて、家を出る。
後ろでお母さんが笑っているのがわかった。
母「いってらっしゃい」
家を出た私は、バス停ではなく駅へ向かう。そこが私とみちるが待ち合わせる場所だった。
美凪「…よかった」
駅にはまだみちるはいなかった。みちるを待たせずにすんだようだ。
みちるを待つ間に手紙を読もうと、封筒を開ける。
そこには、見慣れた雑な字が並んでいた。それでも、読み進めていけば彼の優しさが感じられる。
美凪「…今はそんなところにいるんですね」
手紙は国崎さんからのものだった。国崎さんの手紙は、大体一週間おきに届いた。
どうやら場所を移るごとに送ってきてくれているらしい。
そこにはいろいろなことが書いてあった。
子供たちが人形劇で笑ってくれたこと。
その町で出会った人たちのこと。
また行き倒れになりかけたこと。
そして……
まだ旅が終わらないこと。
美凪「…まだ、みちるとの約束は果たせてないんですね」
ふと、つぶやく。
美凪「…国崎さん、私は…」
国崎さんからの手紙を読むたびに、思う。
私はさびしいです。
だけど、それは声には出さない。
みちる「んに?美凪、何してるの?」
とつぜん声をかけられて、あわてて手紙をしまう。
美凪「…みちる」
振り向くと、後ろにはみちるがいた。
みちる「にゃはは、美凪、びっくりした?」
美凪「…はい…びっくりです…」
私は、バッグから白い封筒を取り出す。
美凪「…進呈」
みちる「うに?」
美凪「びっくりさせたで賞」
みちる「お米券?」
美凪「…はい」
みちる「にゃははー、お米券ー」
よろこんでいた。そんなによろこんでくれると私も嬉しい。
美凪「…家…行く?」
みちる「んーーーー」
考えていた。
美凪「…少し遊んでこっか?」
私がそう言うと、
みちる「うんっ」
元気よくうなづく。
美凪「何して遊ぶ?」
みちる「シャボン玉」
それを聞いて、私はバッグからシャボン玉を取り出す。
みちる「みちる、れんしゅうしてシャボン玉とばすのうまくなったんだよっ」
美凪「…ただいま…お母さん」
日が暮れるまでシャボン玉で遊んで、私たちは家に帰ってきた。
みちる「おじゃましまーーーす」
あいかわらず、みちるはシャボン玉を飛ばすのが下手で、顔をテカテカにしていた。
母「いらっしゃい、みちるちゃん」
みちる「おなかすいたー」
みちるらしかった。
母「それじゃ、ご飯にしようか」
みちる「今日のごはんなに?」
母「ハンバーグよ」
みちるが来る日は決まってハンバーグだ。
みちる「わーい、はんばーぐー」
うれしそうだった。
ご飯を食べて、私たちは星を見ていた。
美凪「…あれが琴座で、そのまんなかの明るいのがベガ」
みちるに、昔お父さんに教わったことを、教える。
みちる「美凪、すごいねー。よくそんなこと知ってるね」
美凪「…全部…お父さんに教わったことよ」
それからしばらくは、星を見て過ごした。
美凪「…女の子」
みちる「うに?」
美凪「ねえ、みちる、あの空の向こうに羽根を持った女の子がいる…って言ったら、信じる?」
なぜか、みちるにそんなことを聞いてみたくなった。
国崎さんからの手紙を読んだからだろうか。
みちる「んーーー」
考えていた。
みちる「美凪がいる、って言うなら信じるよ」
みちる「美凪はみちるにうそついたことないもん」
私は、なぜだかみょうに嬉しくなった。
みちるが、空にいる少女のことを信じてくれたことが。
夜。
みちるが寝てから、私はひとり起きだして、手紙を書いた。
国崎さんから手紙が来るたびに、書いておく手紙。
決して投函されない手紙。
そこには、私が国崎さんに伝えたいことが、すべて書いてあった。
楽しかったこと。
嬉しかったこと。
悲しかったこと。
そして…
国崎さんに、会いたい、ということ。
だけどそれは、決して投函されることはなく、私の思いも国崎さんには届かない。
翌日、私はみちると一緒に夏祭りに出かけた。
みちるの希望で、ふたりとも浴衣を着ていた。
美凪「…みちるとおそろい」
みちる「にゃははー、美凪とおそろいー」
みちるは嬉しそうだった。私も嬉しい。
その途中、橋のそばに小さな人だかりができていた。
みちる「ねえ、美凪、あれなにかな」
美凪「いってみようか」
みちる「うん」
私はみちるの手を引いて人だかりの中に入っていった。
その中心には、古ぼけた人形、そして…
再会は一瞬。
美凪「国崎さんっ」
私は、思わず国崎さんに抱きついていた。
国崎さんは、そんな私を受け止めてくれる。
往人「ただいま、遠野」
美凪「お帰りなさい、国崎さん」
みちる「美凪、その人、誰?」
往人「国崎往人だ。」
みちる「くにさきゆきと?」
美凪「みちる、自己紹介は?」
みちる「みちるは、みちるっていうんだぞっ!」
みちる「しかも美凪の親友だっ!えっへん!」
夏は続いてゆく。
今はまだ、風の中。
だけど、新しい始まりは、すぐそこにあった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これがはじめてかいたAIRSSです。
国崎往人の読み方は「くにさきゆきひと」だとばっかり思ってたんですが、「くにさきゆきと」だったんですねえ。一応読み返したはずなんですが、思い込みとは怖いもので、ぜんぜん気付きませんでしたよ。
内容的には、ありきたりのような気もしますが。
焔帝さんに感想のメールを
管理人からの感想
Libraryへ トップへ