真琴と祐一の大脱走!
今回は何故かドタバタ(あらあら)
勢いだけで書いてしまいました。
・・・・登場人物はみんな壊れ気味かな?
真琴がちょっとネタバレしてます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
街が夕焼けに真っ赤に染まる頃。
真琴と俺は、息も絶え絶えになって水瀬家の門をくぐった。
背中には、ぐったりした真琴が負ぶさっている。
体重こそ軽いが、同様に疲れ切っている俺の体には、それはまるで鉛の塊のようにも思えた。
「あぅー・・・ゆういちぃ・・・つかれたよぅ・・・」
「はぁ、はぁ・・・そりゃあ、三時間耐久鬼ごっこなんてやってりゃ、体力もなくなるだろ」
きっかけは、詰まらないいつもの一言。
真琴が、トテトテと俺の部屋に入ってきて、
「祐一!鬼ごっこやろう!」
子供か、お前は。とも思ったが、その時テスト明けで妙にテンションの高かった俺は、
「よし!やるか!」
やる気満々で承諾してしまった。
で、ものみの丘で、延々日が暮れるまで、二人鬼ごっこ。
「ふははははは!真琴!俺はここだぁ!」
「えええ?!いつの間にぃ!?・・・見てなさいよぅ・・・」
タッタッタッタ・・・ひゅん!
「なにぃ!?馬鹿な・・・あの距離をこのスピードでっ!」
「あははっ♪これがあたしの本気よ!どう、祐一?観念した?」
「おのれ!では、この道はどうだ!」
タタタタタタタタッ!
「ああ!こら、祐一!待ちなさいよーぅ!」
たったったった・・・・・
たったったった・・・・・
「あぅーっ、ゆういちーっ」
「ハハハ、真琴ーっ!」
・・・・・・・
はっきり言って、二人とも馬鹿だった。
で、双方ともにぐでんぐでんになって引き分けって事で、現在に至る。
「はぁ・・・真琴に本気で付き合った俺が馬鹿だった・・・」
「真琴のせいだけじゃないでしょっ!祐一が「俺の足に着いてこれるか!」なんて本気だすから・・・・」
「ばか言うな!遊びだからこそ!本気を出さなくてどうする!男として生を受けたからには、それが義務だっ!」
「はぁ・・・ばかじゃないの」
「なんだとっ!誰が馬鹿だぁ?」
「祐一がばかだって言ったのよっ!」
「なにぃ・・・」
「なによぅ・・・」
ぴしっ!ちりちりちりちりちり・・・・・
俺達は視線をぶつけ合い、互いに威嚇し会う。
「がーっ!」
「ふきーっ!」
「がががーっ!」
「ふききーっ!」
どこかで見た光景、のような・・・
「・・・よそうぜ、真琴。それこそ馬鹿馬鹿しい」
「あぅー・・・ほんとだね・・・あれ?秋子さんは?」
おや?そういえばそうだ。いつもならこの辺で、「あらあら」とか言いつつ、俺達を取りなしてくれるはずなのに・・・
俺達はそっと居間の様子をうかがった。
なんて事無く、秋子さんはただ電話口でお喋りに興じていた。
しかし・・・
よく見ると、秋子さんには、いつものほんわかした様子は微塵もなく、なんだか神妙な雰囲気だ・・
「そうですか・・・真琴を」
!!!
会話の端々に、聞き捨てならない単語をとらえる。
「わかりました・・・そちらの・・・ええ、倉田さんの研究所の方から?そうですか・・・」
・・・何となく嫌な予感がする。
多分、秋子さんは、妖弧である真琴を、何かしらの研究所に引き渡す交渉をしているらしい。
なんてことだ・・・・
なんにもわかってない真琴が、傍らから顔を出す。
「あ。秋子さん♪ただい・・・もがぁ!」
ばか!不用意に声を出すな!
俺は慌てて真琴の口に左手を押しつけた。
これは・・・もしかすると・・・真琴が・・・大変なことに・・・
いや、秋子さんのことだ。ちゃんと断ってくれるだろう。
「そうですか・・・はい、私達としても・・・その方が・・・」
しかし・・・秋子さんの唇の動き・・・それは・・・
「ええ・・はい。「了承」です」
なんということだ!秋子さんさえも・・・
このままでは、真琴が研究者達の好奇の手の中に・・・!
(想像)
あやしげな機械が蠢く研究室。
ベッドには、身動きできないよう拘束具を付けさせられた真琴。
いかにもマッドサイエンティストな風貌の白衣の男が、手をわきわきさせて真琴ににじり寄る。
「ふぇっへっへ、さあ、脱ぎ脱ぎしましょうねぇぇ(なんか違)」
「もがーっ!(あぅー!祐一、助けてーっ!)」
・・・・なにぃ!許せん!そんないいこと・・・いや、悪いこと!
たとえ神様秋子様が許しても、この相沢祐一が許す物かッ!
ぬおおっ!今、俺の心は、怒りに燃えている!
ぐぐっ。
俺の左手に自然に力がこもる。
「もがぁ!がぁ、もごぉ!」
あ?・・・ああ。そういえば、左手には・・・
俺が慌てて手を離すと、真琴が非難の眼差しで俺を見つめた。
「なにすんのよ!痛いじゃないのぉ!」
真琴の顔には、俺の手の痕がくっきりついていて、痛々しい・・・と言うよりも、面白かった。
「ははっ、その顔・・・いや、それどころじゃない、真琴!・・・お前が、ねらわれている・・・」
「はへ?」
「あら、祐一さん、真琴、帰ってたんですか?」
まずい!気づかれたか!
「真琴!話は後だ!来い!」
「あぅっ、いたーい!」
ぐっ!
俺は真琴の腕を掴むと、
ダダダダダダダダダダ!
一目散に二階へと駆け上がり、
バタム!
ドアを閉め、自分の部屋に閉じこもった。
「はぁ・・・はぁ・・・よし、ここなら多少は安全だ・・・真琴・・・」
「ちょ、ちょっと祐一、何する気なのよぅ・・・ああっ!さては祐一、真琴にエッチなことするつもりね!やめて!人を呼ぶわよ!」
「アホっ!変なマンガの読み過ぎだ!実はだな・・・」
俺は秋子さんの会話の断片から想像できたことを真琴に打ち明けた。
・・・・・・・・・・・・・
「と、いうわけだ」
「ええっ?秋子さんがそんな事するわけ無いじゃない・・・」
「ああ・・・俺だって、未だに信じられない・・・だが・・・」
その時。
コンコン・・・・と、控えめなノックの音が、部屋中に響きわたった。
「祐一さん?真琴も一緒ね?ちょっと、お話が・・・」
やばいぃぃぃ!!!
ついに来たか!
俺は真琴をチラリと見ると、神妙な様子でコクン、とうなずいた。
どうやらようやくこの状況を信じられたらしい。
「真琴のことで、ちょっと・・・ここじゃなんですから、下まで来てくれませんか?」
ますます持って疑惑は高まり、憶測は渦を巻き、ついに真実に至った。
こうなったら・・・最早・・・
戦うしか!
スッ・・・
俺は、押入の奥から隠していたモデルガンを取りだした。
SMGタイプの特注品で、殺傷能力こそ無いが、俺達の活路を開くには十分すぎるほどの威力を持った代物だ。
弾丸は、プラスチックのが二千発。ちょっと、心許ないかな・・・
出来れば、こいつはもう二度と使いたくなかったが・・・
あのサラエボでの傭兵時代のことがふと頭をかすめる。(嘘)
「さて。ここに、軍用ブーツも二足そろえてある」
「なんでこんな物持ってるのよぅ・・・」
「細かいことを気にしてると、大人になれないぞ」
「言ったわねぇ!真琴、充分大人だもぅん!」
「・・・入っても、いいかしら?」
ガチャリ。
しびれを切らしたのか、秋子さんがドアノブを回す。
躊躇は捨てろ!
今こそ、覚悟の時だ!
しかし、いくら何でも秋子さんは撃てない。
では・・この方法で!
「真琴・・・俺に、ついてきてくれるな?」
真琴は、ちょっと寂しそうに笑うと、
「祐一がいるんなら・・・・・・どこでもいいよ・・・」
・・・・・嬉しいことを言ってくれる。
俺はその場で真琴を抱きしめたい衝動に駆られたが、今はそんなときではない。
ほらその証拠に。いまや俺達の敵が、姿を現そうとしているっ!
ぎぃ・・・ぎぃぃ・・・ドアの隙間が少しずつ広がっていく。
急いでブーツを履き、俺はタイミングを見計らい、呼吸を合わせる。
真琴も俺の意志を察してか、グッと押し黙っている。
3・・・・
2・・・
1・・
今だっ!
「秋子さん!今までお世話になりました!」
「はい?」
がしゃん!
言うが早いか、俺は真琴を抱きかかえ、カーテンにくるまり、二階の窓を破ってベランダを飛び越し、水瀬家を脱出した!
「うおおっ!」
「あぅーっ!」
・・・ぱらぱら・・・ひゅぉん・・・ドサッ!
きらきら輝くガラスの破片に混じって、俺達も地面に降り立つ。
着地、成功!・・・実は足がちょっとしびれているが・・・
「真琴!いくぞ!」
「う、うん!」
大人はわかってくれねぇ!
若さ故の過ちだっ!
たたたたたたたたた・・・・・
俺達は、今だ見えない二人の新天地を求めて、行く当てなく街へ駆け出した・・・
「あらあら・・・困ったものね・・・」
割れた窓の隙間から、秋子さんが頬杖をついてひた走る俺達を物憂げに見つめていた。
*
たたたたた・・・
「ねえ祐一」
「なんだ?」
「別に、窓を割る必要はなっかたんじゃ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・演出だっ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・(あぅーっ、面白そうだからって付き合うんじゃなかったかな・・・)」
たたたたた・・・
終始無言で愛する二人は道無き道をひた走る!
しかし!
明日無き逃走を続ける俺達の前に立ちはだかるひとりの女の影!
こ、こいつは!
すらりと伸びた足!
長く美しい髪!
そして、ふにゃけた表情!
「・・・祐一、ひどい事考えてる」
「名雪!」
「話はお母さんから聞いたよ・・・さ、おとなしく家に戻ろう」
「お、お前までもが!」
「あぅ〜」
「こなくそ!」
俺と真琴は、脱兎のごとく名雪の脇をすり抜けた。
「あ、かけっこなら負けないよ〜」
後ろから名雪が物凄いスピードで走ってくる。
さすが腐っても陸上部・・・
「腐ってないよ〜」
俺はまだしも、このままでは真琴が名雪の魔の手に!
「人聞き悪いよ〜」
「ええい、いちいち人の思考に口を出すなっ!」
「祐一の考える事なんて全部お見通しだよ」
ならば・・・これでどうだぁ!
俺は、ポケットから予備の弾層を取り出すと、入ってるだけの弾丸を地面にぶちまけた!
「え?祐一、何する・・・きゃっ!」
つるりんすってん。
名雪は、散らばったBB弾に足を取られて、見事に転んだ!
やったぜ!
走る、滑る、見事に転ぶの三段オチだ!
「しかも・・・見えたぜ!」
「え?なになに?」
「白だ!」
「???」
傍らの真琴が理解不能、と言う顔つきで俺を見る。
いいんだ。真琴。世の中には知らなくていいことの方が多いんだ!
俺達はさらに真っ赤に燃える夕日に向かって走り続けた。
*
暴走を続ける愛の前に、再び試練が待ちかまえる!
「待って下さい、祐一さん!」
「なに!栞!」
「秋子さんから聞きましたよ・・・ここは通しません!」
おのれ秋子さんめ!何があっても俺達の駆け落ちを認め無いつもりかぁっ!(違)
「栞!お前では、俺達を止めることは出来ない!」
「あぅーっ・・・」
「ふふ・・・それは、どうでしょうか」
そういうと栞は、身につけているストールをするりと引き抜いた。
「まさか・・・街頭ストリップで、色仕掛けを迫るつもりかぁ!」
「そんなこという人、嫌いですっ」
栞は、俺の甘美な期待をいともたやすく否定すると、ストールを両手に持ち、
自分の右側でひらひらとふるわせた。
「さぁ・・・こっちですよ〜」
ひらひら・・・ひらひら・・・
ぐぁ・・・!なんだか知らんが、無性にあのストールに突進したくなってきたぞ!
「ぐおおっ!」
ひらり。
栞は軽やかに身をかわす。
「さあ牛さん、こっちですよ〜」
お前はマタドールかっ!
しかし、ストールに反応してしまう自分が恨めしい・・・
ひらひら〜
「ぬおおっ」
ひらり
「ほらほら、どうしました?」
気分は、性悪女に弄ばれる情けない男のそれだった。
ふふ・・・まあ、それもいいか・・・
ほら・・・ストールが揺れているよ・・・
ああ・・待ってよボクの愛しい小悪魔め〜
「ちょっとぉ祐一!なにしてんのよぅ!」
はっ!
真琴の声が俺を倒錯の世界から現実に引き戻す。
「とっとといくわよっ!」
「よ、よし!さらばだ、栞!」
たたたたたたたたたたっ・・・・・・・
・・・・・・
「あ〜あ、いっちゃった・・・」
「栞、ふざけ過ぎよ」
電柱の影から緩いウェーブのかかった髪の毛がス、と顔を出す。
「あ。お姉ちゃん。ごめんなさいですぅ」
「・・・(上目遣いで申し訳なさそうな表情・・・いつの間にこのこったらこんな高等テクニックを・・・うっ、萌え〜)」
「おねえちゃん?鼻の下のびてるよ?」
「はっ・・・いけないいけない・・・・・まあいいわ、栞。
大丈夫よ、任せなさい。後は、わたしが全てカタを付けるから・・・・」
「わ。お姉ちゃん、かっこいいですー」
「ふふふ・・・見てなさい、相沢君・・・私と出会ったときが、貴方の最後よ・・・」
何となく当初の目的からずれていってるような二人だった。
*
「待てぇい!相沢!」
「北川ぁ!」
「美坂に頼まれたとあっては、この北川潤、お前を生きて返す訳には行かない!」
・・・・なんかだんだん物騒な話になってるな。
「あぅ・・・このひと、だれ・・・?」
あ、真琴は北川とあったことないんだっけ?
すると北川は、へこへこと愛想笑いをし、
「あ、初めまして、北川といいます」
「あぅ・・沢渡真琴・・・」
「こらそこっ!和やかに自己紹介するな!」
「あぅ・・・祐一のけち!もう知らない!」
「そんなこと言ってる場合かっ!」
「おっとと・・・そうだった。ゴホン。
やいやいやいやい相沢祐一!このぉ北川の!目の黒いうちはぁぁ!」
北川は、自分に酔ってるのか、妙に大仰な動きで、芝居がかったセリフを喋り始めた。
・・・知らなかった。北川って、歌舞伎ファンだったのか・・・・
しかし、こんな道の真ん中で、そんな真似しなくてもいいだろうに・・・
見ろ。何がなんだかわからない真琴が、怯えてるじゃないか!
ほらほら、周りの人たちも、遠巻きにこちらを見てるぞ・・・
「奥さん・・・ほら、あの人達・・・」
「しっ・・・目を合わせたら、絡まれますわよ」
ちがぁう!俺達は無関係だぁぁぁ!
自分に酔ってる北川は、周りの目などなんのその、続きのセリフを紡ぎだす。
「あ、死んでもここを、通さねぇぞ〜」
「じゃあ、死んでくれ」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
俺のモデルガンが火を噴いた!
「ぎゃああ!相沢!マジでやるかぁ!?」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
「ぐえ、ぎゃあ!ががががが!」
「さようなら北川!お前のことは忘れない!」
俺は捨てぜりふを残すと、満身創痍の北川を置いて、天国への道を走りだした。
「あ、待って祐一」
ぐに。
「ぐぼぉ」
・・・真琴のブーツは、見事に北川の下腹部をとらえていた。
「あ」
「気にするな!死して屍拾う者無しだ!」
「そ、そうね」
たったった〜
・・・・・
しばらくして。
北川の側に走り寄る二人の少女。
「はぁ・・・はぁ・・・何してるの、北川くん」
「ああ、美坂・・・ははっ、ドジっちまった・・・俺、無様だろ・・・?ふふ、笑ってくれていいぜ・・・」
「ほほほほほほほほ!無様ね!」
「ぐふあ」
その香里の高らかな笑いは、今までのどんな攻撃よりも北川の胸にこたえた。
「おねえちゃん。早くしないと・・・」
「あら・・・そうね。急がないと・・・じゃあね、北川くん」
美しき姉妹は逃亡者の後を追ってさっさといってしまった。
ぽつー・・・ん
後にひとり残された北川。
「グッバイ・・・俺の青春」
自嘲気味に笑うその顔には、一筋の涙がきらりと光っていた。
*
たたたたた・・・
俺達がしばらく進むと・・・
「む!なんだこのプレッシャー!」
ただごとではないコスモを目の前から感じる!
ふと前方に目を凝らすと、そこには・・・
「か、香里!」
「はぁ・・・はぁ・・・ようやく追いついたわよ・・・最も、先回りするのは・・・・はぁ・・・
苦労・・・・した・・・わよ・・・ぐふっ」
なんか香里ったら見るのも辛そうな状態。
フルマラソン全力疾走でもしてきたのだろうか?
「お、おい、香里・・・大丈夫か・・・?」
「ふん・・・私の・・・はぁ・・心配をするんだったら、
自分たちの・・・心配を・・・し、な、さいよ・・・・」
といわれてもなぁ。
「さあ・・・ここらで・・・はぁはぁ、私が・・・引導を・・・」
引導って・・・・だから、物騒だって。
ところが、香里は、そこまで言った途端、
「う」
と一言呻いて、ぱたりと地面に倒れ伏してしまった。
「・・・・・・・・」
その後、一言も喋らない。
「・・・よくわからんが、行くぞ、真琴」
「あぅー・・・この人、いいの・・・?」
「心配するな、寝てるだけだ!」
「そうなの?」
「さあ、未来へダッシュだ!」
まあ、香里なら間違っても死ぬことはあるまい。
たたたたたたたたたたたた
俺達の逃避行は続く・・・・
倒れ伏せる香里を抱き起こす小柄な少女。
「わあっ、おねえちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫・・・栞の顔を見たら、もう思い残すことはないわ・・・ふふ」
「わあぁ、セリフがおかしいよ」
*
商店街の中頃まで辿り着いた頃。
その背中の羽が、パタパタと揺れている。
「あ、祐一く〜ん」
邪悪な微笑みをたたえて、あゆが俺に走り寄ってくる!
「うわぁあゆ!お前までも!」
「へ?」
俺は間髪入れず走り寄るあゆに足かけをかます。
ずしゃぁぁぁぁぁぁぁ!
「うぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
雪の上を物凄いスピードで滑走するあゆ。
ゴン!
お約束通り、店の壁にぶつかった。
「うぐぅ、痛いよ〜」
「悪く思うな、あゆ!」
俺達は速度を緩めず、そのまま走り続けた。
たたたたたたたたたた・・・・・
「うぐぅ・・・・祐一くん・・・・」
ふと、傍らの真琴が口を開く。
「ねえ、祐一・・・」
「なんだ、真琴?」
「あゆちゃん、ただ祐一に会いたかっただけじゃなかったの?」
・・・・・・・・・
あ。
そういえば、確認してなかった・・・・
「うぐぅ」
「祐一、ごまかしてるよぅ」
・・・・・・・・・・・
さて、気を取り直して!
俺達は互いの愛を信じ、走り続ける!
さあ禁じられた愛を求め、走り続ける俺達は、寛一お宮かはたまたロミオジュリエットか!
「うぐぅ・・・どっちかっていうと、ボニー&クライドだよ・・・」
あゆは痛む頭をさすり続けた。
*
俺達は町外れの公園に来ていた。
「ひぃ、はぁ・・・・ここまでくれば・・・」
「うん・・・だいじょうぶかな・・・」
「あははーっ、そうですねーっ」
ずざっ
思わず後ずさる。
「さ、佐祐理さん!」
いつのまに・・・・
「な、何故佐祐理さんまでも!」
「あははーっ、聞いてませんでしたか?研究所の名前を」
研究所の・・・・名前・・・・?
たしか・・・倉田・・・・
はっ!
「さ、佐祐理さん!あなたは!」
「祐一さん、大丈夫ですから、どうか佐祐理と一緒に来て下さい」
「それはダメだ!」
「ふぇ・・・」
俺達は休む間もなく、さらに走り出した。
「あ、祐一さん、そっちは・・・」
佐祐理さんの声が俺の耳に届いた直後。
ヒュン!
一筋の閃光が煌めく。
「・・・・祐一。佐祐理を困らせないで」
「舞!」
「あぅーっ・・・怖いよぅ」
舞は手にいつもの一振りの剣を持っていた。
あ、危うく命を散らす所だった・・・・
「あははーっ、舞、乱暴はいけませんよーっ」
「・・・祐一。出来れば私も、こんなことしたくない・・・」
前門の舞、後門の佐祐理さん。
絶体絶命か!?
と、その時、俺達の前に現れた人物の、意外な正体とは!
次回を待て!
すいません。嘘でした。
俺達の前に現れた人物は!
「おや、相沢くん、ひさしいな」
「久瀬ぇ!」
「僕の近所でどうも騒々しいなと思ったら・・・何事だい?川澄さんまで・・・なんとも、物騒だな」
「きゃああ!久瀬さん」
佐祐理さんが突然の久瀬の出現に黄色い声を上げて喜んでる!?
「いやぁ!こないで!」
・・・いや、むしろ嫌がっている。
ここまで嫌われれば悪役として本望だろう。
「く、倉田さん・・・」
どうも大ショックだったらしい。肩を落としこみ、嘆く姿は、ちょっとあわれだった。
しかぁし!今の俺達に、他人に同情する暇などなぁい!
俺は呆然自失に陥ってる久瀬を呼び寄せた。
「ふふ・・・どうせ僕なんて・・・・」
ふらふらと久瀬はこちらに向かってきた。どうやらもう何も考えられない精神状態らしい。
「よっ・・・と」
俺は久瀬の肩を担ぎ上げた。思ったより、久瀬の体は痩せていた。
へっ、貧弱なボウヤめ。
「真琴、お前は足を持て。」
「あぅー・・・よいしょ・・・・で、どうするの?」
「こうするんだ。・・・・佐祐理さん、ごめん!・・・せいっ!」
俺は久瀬を佐祐理さんに投げつけた。
「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
久瀬さんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
両手を振り乱し、泣き叫ぶ佐祐理さん。
・・・そこまでイヤか。
しかし、ねらい通り!
「・・・佐祐理を泣かしたら、許さないから」
ひゅん
目にも止まらぬ早さで舞が佐祐理さんの前に立ち、剣を掲げた。
「良し、今がチャンスだ!」
「あぅっ」
俺達は一目散に駆け出した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
バシュ!ズバシュ!
・・・・遙か遠くから、断末魔の声が聞こえたような気がした。
グッドラック、久瀬。
*
「ふぅ・・・はぁ・・・」
「はぁ・・・はっ、はっ・・・」
いい加減疲労の限界だ。
もう言葉すら交わせない。
しかし、ここは・・・・
ものみの、丘。
俺と真琴の約束の地。
俺達の旅の終着駅には、相応しいかもな・・・・
しかし、ダウン寸前の俺達の前に、さらなる刺客が姿を見せる。
「・・・誰が刺客ですか?」
「あ。美汐〜♪」
「天野・・・お、お前まで・・・」
「これも全て、真琴のためです・・・」
「嘘をつけっ!俺は真琴を、研究の対象になんかさせやしないぞ!」
「どうも、聞く耳を持たないようですね・・・それなら、こちらにも考えがあります。」
そういって、天野が懐から取り出した物は・・・・
黒光りする一丁の拳銃!
ではなくて。
ほかほかと湯気を上げる・・・
それは・・・・
「あぅーっ、肉まん!」
真琴は先程までの疲労もどこへやら、天野の元へたたっと駆け出した。
「よせ、真琴!罠だ!」
「あぅーっ、おいしそう!」
「はい、どうぞ」
「はふはふ・・・うん!おいしいね!」
真琴は満面の笑みを浮かべる。
天野もクスリと微笑んで、
「では、一緒にもっと買いに行きましょうか」
「うん!」
こらこらこらこら!
「おーい、真琴ぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!」
俺の声はすでに真琴の耳へは届かず、二人は仲良く手をつないで丘を降りていった。
俺は、その姿が見えなくなっても、いつまでも、いつまでも、二人の歩いていった方向を見つめていた。
カア、カア・・・帰る場所を無くしたカラスの鳴き声が、哀愁を誘う。
「お・・・俺達の愛は・・・・所詮、肉まんには勝てないのかぁぁぁっっ!?」
ガーーーーーーーーーーーーーーーーーン
俺が途方に暮れていると。
いつのまにか忍び寄った影が、俺の脇から手を差し入れ、もう身動きがとれないように、がっしと掴んでいた。
「ふふふ・・・・やっと・・・追いついたわ・・・・もう、逃がさない・・・」
振り返ると、そこには・・・・・・
「ぎゃぁぁ!鬼ババ!」
この世の物とは思えないほど恐ろしい顔をした女が!
「誰が鬼ババよっ!」
よく見ると、香里だった。
か、香里。
香里ぃ・・・
俺は見知った顔にあって、途端に感情が緩みだした。
「香里・・・俺は・・・俺はぁぁ!」
俺は香里に泣きつこうとしたが、
「はいはい、おうちに帰るわよ!」
香里は、ひらりと身をかわし、ぐずる子供の言い分を聞かない母親のように、俺をずるずると引きずって家路についた。
ずるずるずるずる・・・・
「ぎゃぁぁ!擦れる!痛てぇっ!」
「ぎゃーぎゃー五月蠅い!!!!!」
「は、はい。申し訳ありません」
「わかればよろしい・・・・」
ビクッ・・・・・・・・・・
だ、大迫力・・・・
逆らったら、殺される!
その迫力に、俺はただ神妙にお縄につくしかなかった。
*
数時間後。
俺は、家に帰ってから、誰とも口を利かず、ただ部屋の隅っこに座って床の目をなぞっていたりしていた。
ひゅー・・・ひゅー・・・
ふふ・・・割れた窓から吹きすさぶ風が冷たいぜ・・・・
ひゅー・・・ひゅー・・・
風は容赦なく吹き付ける。
ああ・・・真琴・・・
せっかくお前が、もう一度俺に会いに来てくれたというのに・・・・
お前は・・・・あんな事に・・・・
くっ!
ゴン!
俺は、自分の拳をしこたま床にたたきつける。
ゴン!ゴン!ゴン!
骨がしびれ、皮が破け、血がしみ出てくる。
だが、これくらいの痛みなど・・・
・・・・・・・・・・
真琴ぉ・・・・
俺が!俺が、ふがいないばっかりに!
真琴!
ああ、真琴!
くそっ!
俺を、許してくれ・・・・
くぅぅ・・・・・・・
自然と、目の奥からは、熱いものがこみ上げてきた。
その雫が、
顔を伝い、
ぽとりとフローリングの床に落ちる。
「真琴・・・」
俺はもう一度、その名を呟いた。
*
真琴・・・お前が側にいてくれさえすれば・・・・
俺は、もう何も・・・・
「祐一、ごはんだよーっ」
名雪が俺を呼ぶ声が聞こえる。
だが、とても飯を食べる気分にはなれなかった。
「いらない・・・」
「え・・・いいの?」
「いらないって言ってるだろ!」
自然と口調も乱暴になってしまう・・・
「あ・・ごめんね。祐一、ご飯食べないって。」
「あぅー・・・そうなの?お腹の調子でも、悪いのかな?」
名雪が真琴に話しかけている。
はぇ?
真琴?
「真琴!」
俺は、ドアを壊すかのような勢いで開き、目に映る光景の中に、それを探し求めた。
そしてそこに、それは居た。
確かに、居た。
・・・・・真琴。
真琴が。
「あ、祐一。ご飯、食べないんなら、真琴が全部食べちゃうけど。いい?」
「真琴・・・お前、研究所に・・・」
俺の頭は今や混乱の極みだった。
「どうも祐一さんは、誤解していたようですね・・・」
秋子さんが階段を上ってくる。
「あ、秋子さん・・・誤解って・・・?」
「研究所と言っても、別に真琴を実験の対象になんてしませんよ?
そんなひどいこと、私が許しません。」
「え・・・?」
「真琴は、妖弧が人間になったという特殊なケースですから・・・
病気とかは大丈夫なのかしらと思って、ちょっと、検査に行って貰っただけです。
大丈夫。信頼の置ける所ですよ。だって、倉田さんのと言えば、祐一さんもご存じでしょう?」
まあ・・・そりゃ・・・佐祐理さんの所だからな・・・
「祐一さんが突然飛び出すから、困ってしまって、祐一さんのお友達の方に協力をお願いしたんですが・・・」
ああ・・・そうだったのか・・・全ては俺の勘違い・・・・
「真琴・・・何もなかったわよね?」
「うん!ちょっとちくっとしたけど、かんごふのお姉さん優しいし、お菓子もたくさん貰ったよ!」
そういって真琴は両手を大きく広げてみせる。
「あらあら・・・よかったわね」
そういって微笑む秋子さん。
はは・・・ははは・・・
俺は全身から力が抜けていくのを感じた。
馬鹿馬鹿しい・・・ことだ・・・
がくりとその場に崩れ落ちる。
「なんだ・・・そうか・・・」
あんまり馬鹿馬鹿しくて・・・・
涙が・・・
出るぜ・・・
「あぅー・・・祐一、どうしたの?」
真琴が心配そうに俺の顔をのぞき見る。
全く・・・人の気も知らないで・・・
こいつめ。
ぎゅぅぅ。
俺は真琴を、力一杯抱きしめた。
「あぅーっ、苦しいよ、祐一」
「あらあら・・・」
「もう、妬けちゃうよ〜」
もう、離さない。
もう絶対に、離さないからな。
真琴。
こうして俺達のなんでもない日常は駆け抜けるように過ぎて行く・・・・
と思えたのはほんの数分間のことで。
「相沢〜」
「ゆるさんぞ〜」
水瀬家の前に蠢く二つの影・・・
今や怨念の塊となった北川と久瀬の復讐がその身に迫りつつあるのを、
相沢祐一は、
知らない。
(どっとはらい。)
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・・・・解説
まだまだ、ムラがありますね。
要修行です。
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