cat,fox,and honeybear
真琴とぴろのお話、ほのぼのです。
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今日もお日様、ぽかぽか日曜日。
ぴろを頭に乗せて、るんるんと商店街を歩くの。
なんだか気分もうきうきして、ついついスキップなんかしちゃう。
うな〜
ぴろもとってもご機嫌で、目が糸みたいに細くなって、すごく気持ちよさそう。
秋子さんに頼まれたお使いも、ちゃんとすませたしね。
もちろん、お駄賃で肉まんを買うのも忘れないわよ。
はふはふ…
おいしい♪
そんな感じで歩いていると、ふっ…と、色とりどりのガラスケースに目を奪われる。
洋服屋さんのショーウィンドウに飾られた、マネキンについつい見とれちゃう。
かわいい服…
真琴も、こういう服欲しいな…
よく考えたら、真琴が持ってる服って、今着てるこれ一着だけじゃないの。
あとは…代わりの服って言ったら、名雪のお下がりばっかりだし。
ううん、それが嫌な訳じゃないけど、でも、やっぱり自分の服もほしいな…
見ればみるほど、可愛い服。
欲しい気持ちが、あふれ出てきそうよぅ…。
でも、横についてる値段をみて、びっくりした。
うわぁ…凄く高い。
これじゃ、秋子さんにおねだりするわけにも行かないよね…
そうだ!
名案を思いついた。
あのバカ…祐一に買って貰おう。
この間の真琴のお誕生日だって、肉まんだけ渡して、
「後でなにか買ってやるから」なんてごまかして…
そんなこと、許さないんだから。
「なんでよーっ」って、文句を言いながら、肉まんはおいしく食べたけど。
でも、ホントに可愛い服…
一見地味だけど、袖口にあしらわれたレースがポイントね。
これを真琴が着たら、祐一もちょっとは見直すかな?
「おお、真琴様、あなたはなんて可愛いんだ。今までのご無礼をお許し下さい」
なぁんて。ちょっと、からかってあげるの。いい気味だわ〜
…誤解しないでよ。真琴は祐一の事なんて全然気にしてないんだからっ。
ね、ぴろもそう思うよね…
あれ?
と、気がつくと…
頭に乗っていたはずのぴろが…いない?
ええっ!!! なんでなんで?
さっきまで…ちゃんといたはずなのに。
洋服に見とれている間に、どっかいっちゃったの?
落ち着いて…落ち着くのよ、真琴。
まだ、遠くへは行ってないはず。
首輪だって、ちゃんと付けてるしあたりを探せば、きっと見つかるわっ。
待っててね、ぴろ。
不安に押しつぶされそうになりながら、そう心に言い聞かせて、あてもなくぴろを探しはじめた。
*
うな〜
暇だよぅ。
真琴ちゃんはボクを頭に乗せたまま、じっと服に見とれてるし…
ボクにはあんな布きれの何がいいのかわかんないや。
でも、ここはいつきても、にぎやかだね。
しょうてんがいって言うんだっけ?
いろんなものがたくさんで、ボクの好奇心を刺激するけど、
ここに来るときはいつも真琴ちゃんに抱かれているから、
自由に見て回ることが出来なくて、ボクはつねづねくやしい思いをしてきたもんだよ。
うずうず…
あぁ、体がうずく。
ちょっとだけ、探検したくなっちゃった。
真琴ちゃんはまぁだじっと眺めてるし…
あーあ。口が半開きだよ。「あぅぅ」なんて、物欲しそうな声を出さないで欲しいな…
我が主人ながら情けないよ。とほほ。
でも…
これは、ひょっとしたら、チャンスかも知れないね。
今なら真琴ちゃんも気づかないだろう。
よし。
ちょっとだけ…
ちょっとだけなら、いいよね?
ボクは、まだ見ぬ冒険を求めて、道の向こうに駆け出した。
もう、見るモノ見るモノ、新しいものばっかり!
すごい! すごいなぁ!
わあ! お魚がいっぱいだ! でも…勝手にとったら、怒られそうだな
ふふん。でもボクは誇り高いネコだから、そんな事しないもんね。
おや。かわいい子がいるね…でも、檻の中に閉じこめられて、かわいそうだよ。
悲しそうな声で鳴かないでおくれよ…ボクにはどうすることもできない。
すごいなぁ…お花がたくさんだよ。赤、白、黄色…とにかく綺麗だ。
中から出てきたお姉さんに、ボクのことかわいいなんて言われちゃった。へへ。
はぁ…
はぁ…
ボクはひとときの自由に、我も忘れてはしゃいじゃって、風の向くまま気の向くまま、
何も考えずしょうてんがいを走り続けた。
そして…はっと気がつくと
あれ…
あれあれ…?
ここ…どこだっけ
ボクはいつのまにか、迷子になっていたんだ。
うな〜
真琴ちゃん…どこ?
辺りを見回しても、見知った顔がひとつもない。
うな〜
困ったよ…
ボクが途方に暮れていると、
おや。
路地裏のゴミバケツの上に、きったないネコがいるね。相当年を食っていて、
ただ者でない雰囲気と威圧感を感じるけど…
その時のボクには、彼に話しかける以外に最善の道はないと思ったんだ。
うな〜
「ねぇ、そこのひと…ここは、どこですか?」
所がそれが大間違い。そいつは、ふん、と一瞥をくれると、
「見かけない顔だな…」
と一言。質問の答えにもなっちゃいないや。
「ボク、ピロって言います。ここは、どこですか?」
ボクは、礼儀正しく、もう一度聞いた。すると…
「よそもんの上に飼い猫たぁ…目障りだ…おう! やっちまえ!」
彼が短く鋭く鳴くと、どこに潜んでいたのか、
ごそりごそりとたくさんのネコたちが這い出してきた。
汚れた見かけから判断するに、こいつら、みんな野良猫だね…
ふん! これだから粗暴な奴らは嫌いなんだ。
とはいえ、ボクは腕っぷしに自信のあるわけで無し…
ボクは一目散に逃げ出した。
ふぎゃぎゃー!
「逃がすな!」「とっ捕まえろ!」などと、奴らが叫びながら追ってくる。
もう少し!もう少しで路地裏を抜ける!
そしたら奴らもおおっぴらにボクを追って来れないはずだ。
ところが…
がすっ
ギリギリで届いた奴らの爪が、ボクの後ろ足をひっかく。
その拍子に、ボクはバランスを失い、ずでんと転んでしまった。
うなっ!痛いっ!
…と感じる暇もなく…
無様に転げたボクに、余裕を取り戻した奴らが、ゆっくり、ゆっくりとにじり寄ってくる。
じり…じり…
くそぅ…ボクの命運もこれまでか…
ここは、潔くやられようじゃないか!
さぁ!こい!
さぁ。
さぁ…
…
うわぁん!やっぱりあきらめきれないよぅ!
真琴ちゃぁん!
秋子さぁん!
祐一くぅん!
誰か助けてよぉぉ!
ひゅん!
奴らの爪が伸びてくる!
うわぁぁぁぁぁっっ!!
と思ったその時!
ひょい。
ボクは、首の後ろを捕まれ、宙に高くあがった。
うな。
何だ? 真琴ちゃんが、ボクを助けてくれたのかな?
下を見下ろすと、奴らは突然の人間の登場に、いつのまにか退散してしまっていた。
うな〜
とにかく、助かったみたいだ。
真琴ちゃん、有り難う!
ん…でも…あれ?
何となく、違和感を感じる。
いつも持ち上げられているときよりずっと高いような。
「ねこさん、だいじょうぶ」
え? え? え? 聞いたこと無い声。
そのうちに、ぽすっと引き寄せられ、腕に抱かれる。
そしてボクが見たモノは…
全く面識のない、長い髪の人間のお姉さんだった。
うなっ!
なになに?
誰なの、この人?
全然知らない人だよ!怖いよ!
ボクは一難去ってまた一難、パニックに陥る。
もしかして…噂に聞く、「ホケンジョ」って奴らなのかな?
だとしたら、大変だぁ!
さっさと逃げ出さなくちゃ!
ボクは、全身の力を込めて、お姉さんの腕の中で暴れ回る。
時には爪を立て、綺麗な腕に傷を付けた。
でも…お姉さんは、何とも言わず、ただ、ボクを抱きしめていたんだ。
痛いとも、コラッとも言わず、ただ、ぎゅっと、ボクを抱きしめていた。
そして…
「だいじょうぶ」
そう言った。
それはとても短い言葉だったけれど、ボクの慌てていた心はすっと落ち着いた。
改めてお姉さんの瞳をのぞき込むと、とっても綺麗な色をしていた。
うん。
だいじょうぶだ。
この人は、だいじょうぶな人だ。
良くわかんないけど、ボクの中にかすかに残る、動物的本能がそう告げている。
うな〜
ごめんね、お姉さん。引っ掻いたりなんかして…
おとなしくなってお姉さんの腕の中にうずくまるボクに、お姉さんはなおも声をかける。
「怖くないから」
うん。そうだよね。お姉さんは、怖い人なんかじゃない。
ボクは、もうわかったよ。ありがとう。ホントにありがとう、お姉さん。
でも…
うな〜
どうやって真琴ちゃんの所に帰ろう?
困ったな…
真琴ちゃんだって、きっとボクのこと探してるよ…
ボクが新たな不安に悩んでいると、お姉さんが声をあげた。
「あ」
どうしたの?
「首輪…」
首輪?
ボクの首についてる、妙な飾りの事かな?
お姉さんは、その首輪をじっと見ている。どうしたんだろう?
「誰かの飼ってる…ねこさん…だれ…さわたりまこと?」
へぇぇ? ボクはびっくりした。
そうだったんだ。あの首輪って奴は、どうも鬱陶しかったけど、
真琴ちゃんの名前とか、いろんなことがわかるような仕組みになっていたんだね。
ひとつ、勉強になったよ。
さて…これで、真琴ちゃんを探しにいけるかな?
お姉さん、ありがとう! あとはもう大丈夫だよ。
「探しに行く…」
しかし、お姉さんは(当たり前なのかもしれないけど)ボクを離そうとはせず、
自分からずんずんと歩いていった。
おおい。もう大丈夫なんだよぅ〜
でも…お姉さんの腕の中…
真琴ちゃんとはまた違って、気持ちいいな…
うな〜
それじゃしばらく、ゆっくりさせてもらおうっと…
うな〜…
*
「ぴろ!ぴろーっ!」
全く、ぴろったらどこに行っちゃったの!?
そこらじゅう探しても、見つからないし…
あ〜あ、全くどこへ行ったのよぅ…
ちょっと目を離した隙に、いなくならなくてもいいじゃないの!
ぴろったら!
全くもう! 全くもう! 全くもう!
ぷんぷん!
そりゃあ、無理矢理肉まんを食べさせたこともあったけど!
一緒におふろに連れ込んだこともあったけど!
ぴろったら!
ぴろったら…
あぅー…
ぴろぉ…どこにいるのよぅ…
もう、目を離したりしないから…
戻ってきてよぅ…
あぅ…
さもないと…
あぅぅ…
拳ふるわせて、
泣いちゃうんだからっ!!!
もう、もうっ、不安で、爆発寸前なんだから!
もう、我慢できないんだから!
いいわね? 泣いちゃうわよぅ! 後悔しても、遅いわよ!
ぴろのばかっ!
うう…うっ…うう…ぐすっ…
うううううううううう!
もう、今にも…爆発しそう…
でも。
うな〜
あぅっ?
こぼれかけた涙をふき取って、思わず振り向くと…
見知らぬお姉ちゃんに抱かれた、ぴろ。
のんきな顔で、ゆったりしている。
その顔を見たら、思わず体中から力が抜けちゃった。
ばかぁ…
なんて安心した顔でいるのよぅ…
ぴろのばかぁ…
戻ってきて、良かったよぅ…
ついに、ぴろと感動の(?)再会を果たした。
そして、見つけてくれたお姉ちゃんにお礼を言った。
よくみると…お姉ちゃんの腕には、引っ掻き傷が付いていた。
あぅぅ…痛そう…これ、ぴろが付けたんだよね
でも、お姉ちゃんは、真琴が謝るのを先回りして、
「気にしなくて…いい」
って、言ってくれたんだ。
でも、さすがにそれじゃ悪いよぅ…
家に連れていって、ケガの手当をしてあげようか…という前に、
お姉ちゃんは、
「それじゃ…これから、気を付けて」
といって、ふわりと体を翻して、さっさっさと、鮮やかな歩き方で帰って行っちゃった。
その、後ろ姿…
あぅ…
かっこいい…
祐一なんて比べものにならないよぅ…
あああ。ぽーっと見とれちゃった。
あぅーっ、せめて…
もう一度、お礼を言わなくちゃね。
「ありがとう、お姉ちゃん」
うな〜
(「ありがとう、お姉さん」)
お姉ちゃんは振り向いて、ちょっとだけ、笑った…のかな?
よく見えなかったけど、そんな気がした。
うな〜
ついに目で見えるところから、お姉ちゃんがいなくなった。
はぁ…いっちゃったぁ…
あぅーっ…
…じゃあぴろ。かえろっか。
うな〜
今日もお日様、さんさん日曜日。
ぴろを頭に乗せて、ほわほわと帰り道を歩くの。
そのほわほわをくれた、お姉ちゃんに感謝しながら、ね。
本当にありがとう! お姉ちゃん。
うな〜
(終わり)
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こんばんは、F.coolです。
「アシスタントの水瀬秋子です」
実は、物凄く書きづらくて、こりゃあだめかな?と思いましたが、
ぴろの視点を取り入れた途端、すらすらと書くことが出来ました。
「よかったですね…でも、ひょっとしてこのお話は…」
もちろん…「お姉さんシリーズ」の4回目です。
シリーズとは言っても、一話完結なので、問題なく読むことは出来ますが。
「そうですね…でも、前回(waiting for)とのつながりは、どうなんですか?」
…ありますよ。
「では…真琴は」
…そういうことです。
感動のシーンは省きました。
むやみに湿っぽくなるのを防ぐため、そのシーンは詳しくは書きません。
そのシーンは、読んで下さった方が心に思い浮かべて下されば、嬉しく思います。
では皆さん、読んで下さって、有り難う御座いました!
「それでは、失礼しますね」
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