愛の浪漫劇場『つやつや秋子さん完結編』

 ※これもそこはかとなくえっちです。

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「ふう」
 ベッドの上で見慣れた天井を見上げながら、溜め息を吐く。身体全体がだるくて、頭が重い。
「って、これじゃあ朝と一緒じゃないか。……はあ」
 自分に突っ込みを入れて、また溜め息を吐いた。

 治りかけていた風邪がぶり返し、俺はまたこうして病床に伏している。風邪がぶり返した理由については語るまい。
「ふう」
 まあ俺は自業自得だからいいんだけどな。
「どうかしたんですか、祐一さん」
 床の上に敷かれた布団から赤い顔を出し、秋子さんが声を掛けてきた。

 俺は身体を転がして、秋子さんの方に向き直り、
「すいません、秋子さん。俺のせいで、秋子さんにまで風邪を引かせちゃって」
 秋子さんは布団から手を出し、ほほに指を当てていつもの微笑みを浮かべて、
「祐一さんのせいじゃありませんよ」
 優しくねぎらうように言う秋子さん。
「でも」
「油断していたのは私ですし、最近疲れが溜まっていましたから」
 祐一さんが気に病むことはありませんよ、と秋子さんは笑顔で締めくくった。
「はあ」
 申し訳ない気持ちになり、生返事を返す俺。
「あらあら、そんな顔をしないで下さい、祐一さん」
 秋子さんの気遣いが胸に痛い。

「本当にすみません、秋子さん」
「いいんですよ。……あ、でも、一つだけ残念なことがありますね」
 と、秋子さんが瞳を伏せ、独り言のように呟いた。
「何ですか」
 俺が訊ねると、秋子さんはまぶたを薄く開き、
「せっかく風邪を引いているのに、祐一さんに看病していただけないことが残念です」
 妙に潤んだ瞳を向け、甘く囁くように言った。
「え」
 秋子さんは潤んだ視線を向けたまま、うっとりとした表情で、
「風邪を引いた私を励ましてくれたりしながら、祐一さんが優しく……………………うふふ」
「や、優しく何なんですかっ! 変なところで途切れさせないで下さいよ!」
 秋子さんは深みのある笑顔を向けたまま、じっと俺を見据えている。

「……」
 秋子さんを看病する、とゆーことは。
 『熱を測りましょうか』とか言って、体温計を秋子さんの脇の下にはさんだり…。……いいかも。
「良くないっ!」
 頭を振り、妄想を振り払う。
「あら、私は構いませんよ」
「え。……もしかして俺、口に出していましたか?」
「はい」
 にっこり微笑んで応える秋子さん。
「ぐあ」

 秋子さんは何を想像しているのか、瑠璃色の瞳を熱く濡らしている。
「…はあ…祐一さんが私の寝間着のボタンを一つ一つ外していって、ゆっくり前を開いて…」
「ちょ、ちょっと秋子さん!?」
 上擦った声で怪しげなことを言いだした秋子さんに呼び掛けたが、秋子さんは瞳を潤ませたまま語り続ける。
「…聴診器が、私の胸の上を這っていって………ああ」
「あー、じゃないですっ!」
 秋子さんは恍惚とした表情を浮かべ、うずうずと躰を揺すっている。

「……」
 前をはだけさせた秋子さんの胸に聴診器を当てたり、『触診です』とか言って指を……。
「ぐおおーっ!」
 不埒な妄想を頭から追い出した。って言うか、それじゃ『お医者さんごっこ』じゃないか。
「うふふ、やっぱり祐一さんも興味があるんじゃありませんか」
 妙に深みのある笑顔を浮かべながら言う秋子さん。
「……俺、また声に出していましたか」
「ええ」
 秋子さんが愉しげな表情で、こっくりうなずいた。
「ぐわあ」

 秋子さんはじっと俺を見上げている。秋子さんの濡れた瞳は相変わらず綺麗で、俺は魅入られたように眼を逸らせないまま、秋子さんと見つめ合う。
「祐一さん。寒くありませんか?」
 秋子さんが唐突に口を開き、上擦った声で囁いた。
「え? いえ、寒くないですよ」
「……」
 俺が答えると、何故か空気が重くなったよーな気がした。
「寒くありませんか?」
「だから、別に」
 ズドン、とさらに空気が重くなる。ちなみに、秋子さんの表情は変わっていない。
「寒くありませんか?」
「いえ、だから…」
 凄まじい圧迫感で、胸が苦しくなってきた。
「さ・む・く・あ・り・ま・せ・ん・か!?」
「あ、あの…」
 秋子さんは寝たままだし笑顔なのに、何故かものすごくコワイ。

「寒く……」
「さ、寒いです! すごく!」
 秋子さんのプレッシャーに押し負け、震えながら言う俺。秋子さんはにっこり微笑み、
「あらあら、仕方がありませんね」
 楽しげな微笑みを浮かべ、布団から躰を起こす秋子さん。
「分かりました。私が添い寝して差し上げますね」
 秋子さんが瞳をギラリと輝かせながら言った。
「え!」
「失礼します」
 俺が何か言うより早く、秋子さんの肢体が布団に滑り込んできた。
「あ、あの、ちょっと…おおっ!」
 秋子さんが素早く躰を寄り添わせてくる。柔らかな温もりが絡み付き、思わず呻き声を上げる俺。

「あっ、秋子さんっ! ちょっと、離れて…」
 振りほどこうと身体を暴れさせても、秋子さんはくすくす笑いながらしっかりと抱き付いてくる。
「いいじゃありませんか」
 愉しげに微笑みながら、手足を巻き付けるように絡み付かせ、俺を抱き締める秋子さん。薄手の寝間着越しに、ふんわりと柔らかな感触が伝わってきて、頭がくらくらし始めた。
「うう」
 いかん、このままでは理性が保たない。
「あ、秋子さんっ、分かりましたから、あんまり身体をすり寄せないで下さい!」
 折衷案を出して、秋子さんを押しとどめることにした。
「嫌です」
 折衷案は一秒で却下された。

「祐一さん…はああ」
 俺の胸板に頬擦りしながら、熱い溜め息を吹きかけてくる秋子さん。
「あっ、秋子さん…ちょっと…う」
 柔らかな温もりに包まれていると、何もかもどうでもよくなってくる。
「…そうだな、どうせもう関係を持ってしまったんだし、今さら四回や五回…」
「秋子さん、人の口調で変なこと言わないで下さい! って言うか、四回や五回ってなんですか!」
 秋子さんはほほに手を当てて、誤魔化すように微笑み、
「あらあら、すみません。でも祐一さんは若いんですから、それぐらい平気でしょう」
「え」
 秋子さんはうっとりと艶めいた表情を浮かべて、
「あ、それとも、もっと大丈夫ですか? ……十回ぐらい…」
「え? え?」
 十回という自分の言葉に触発されたのか、秋子さんはとろんと瞳を潤ませ、うずうずと躰を揺すりだした。

「あ、秋子さん?」
 いつの間にか、俺は秋子さんの下に組み敷かれていた。
「はあ、はあ……」
 俺を見下ろしながら、熱い溜め息を吹きかける秋子さん。
「…祐一さん…私、もう…」
「も、もう? もう何なんですかっ!?」
 秋子さんは答えずに、濡れた瞳で俺を見据えたまま寝間着のボタンを外し始めた…って、おい!
「あ、秋子さん! どうして脱ぐんですかっ」
「…私、暑いんです……」
 上擦った声で囁き、秋子さんはボタンを外していく。寝間着の間から、桜色に火照った秋子さんの肌と、深い胸の谷間が見えた。
「うわああっ」
 秋子さんは一番下のボタンを残して前をはだけさせると、前屈みになって俺に覆い被さった。
「…祐一さん…」
 一番下のボタンだけ留められた秋子さんの寝間着はほとんど全開状態で、それで前屈みになっているもんだから、もう…ううー。

「あ、秋子さん、落ち着いて下さい」
 秋子さんは焦れったそうに躰を震わせ、
「…祐一さん…あんなに積極的に愛して下さったのは、なんだったんですか…?」
「うっ。…い、いえ、あれは、その、熱で浮かされていたっていうか」
 俺がみっともなく言い訳じみたことを言うと、秋子さんはうっとりと瞳を細めて、
「…じゃあ、きっと私は今、祐一さんに移していただいた熱に浮かされているんです」
「…う」
 ものすごく色っぽいセリフに、頭がくらくらした。俺が目眩を感じている間に、秋子さんの顔が近付き、唇が重なりそうなほど間近になる。
「あう、ううー」
 秋子さんの濡れた瑠璃色の瞳が、目の前にある。

「…祐一さん…私は今、すごく躰が火照っているんです」
 秋子さんの一言毎に、熱い吐息が俺のほほに掛かる。
「は、はあ」
「…祐一さんのせいなんです…ですから」
 突然秋子さんの躰が頽(くずお)れ、体重が掛けられた。
「うっ」
「…鎮めて下さってもいいですし、もっと熱くして私を焦がして下さっても構いません…愛して下さい」
 耳元で囁かれるのと同時に、バチッと頭の中で何かが弾ける。
「あっ、秋子さんっ!」
 もう何も考えられなくなった俺は、秋子さんの背中に腕を回して抱き寄せた。
「ああん」

 ・
 ・

 【数日後】

「ふう」
 昼食を食べ終え、ベッドで横になる。
 看護婦秋子さんの、嵐のよーな医療行為(?)の日曜日から数日。俺も秋子さんも風邪は問題なく治り、ちょっとつまらない……いや、なんでもない。

 あれ以来、秋子さんとはご無沙汰とゆーか、何もない。まあ、あったら倫理的に大問題なので、なくて結構なのだが。
「…退屈だ」
 また風邪を引きたいなー、とかアホなことを考えていると、ドアがノックされた。
「祐一さん、起きていらっしゃいますか?」
 秋子さんの声がした。
「はい」
 秋子さんは一瞬、言い淀むように間を置いて、
「入ってもよろしいですか?」
「いいですよ」
 俺が深く考えずに答えると、
「分かりました♪」
 本当に嬉しそうな声で秋子さんが返し、ドアが開かれた。

 俺はベッドから身体を起こし、
「秋子さん、なんか用で………………………………………………………」
 部屋に入ってきた秋子さんの格好を見て、中途で言葉を失う俺。
「うふふ」
 ほほに手を当て、ふんわり微笑む秋子さん。

 肩口が膨らんだ、スカート部分が足首近くまである紺色のワンピース。フリルの付いた白いエプロン。同じくフリル付きのカチューシャが頭に乗っかっている。腰にはベルト代わりの赤いリボンが巻き付き、腰のくびれを強調している。

 …メイド服。

 脳が目の前の現状を理解するのに時間が掛かり、明確な単語が出るのが遅れた。

「…秋子さん、その格好は一体なんですか」
 無駄だと思いつつも、一応訊いてみる。
「メイド服です」
 案の定、笑顔であっさり切り返す秋子さん。
「そうじゃなくて、どうしてそんな格好をしているんですか」
「祐一さんに悦んでいただこうと思って着てきました」
 秋子さんは邪気の全くない朗らかな微笑みを浮かべて答えた。

 眼を奪われた俺が何も言えないでいると、秋子さんは表情を暗くして、
「あの、似合っていませんか? …私みたいなオバサンが、こんな服を着ているのは気持ちが悪いですか?」
「いえ、全然変じゃないです(0.1秒)」
 脊椎反射で応える俺。変だと言うほど俺は罰当たりじゃないし、漢を捨ててもいない(←?)。
「そうですか?」
 秋子さんは本当に嬉しそうに、華の咲くような可愛らしい笑顔を浮かべた。
「うっ」
 秋子さんの可憐な表情に、ガツンと衝撃を受ける俺。

 秋子さんはしずしずとベッド脇に近寄り、
「ご主人様」
「ブフッ!」
 思わず吹き出した俺を、秋子さんは心配そうに見やり、背中をさすってくれた。
「あらあら、大丈夫ですか、ご主人様」
「ゴホッ! …あの、秋子さん。そのご主人様っつーのは何なんです。…あ、いえ、やっぱり答えてくれなくていいです」
 愚問を繰り返しそうになり、諦め半分に取り消す。

 秋子さんはほほに手を当てて考え込み、ぱっと顔を輝かせた。
「あっ、もしかして祐一さんは、ご主人様よりも旦那様の方がいいんですか?」
「はい。…あ、いえ」
 思わず即答してしまった。…だって、ご主人様ってダイレクトって言うか、いかにもな感じが大きすぎるような気がするし。
「かしこまりました、旦那様」
「ゴフ」
 それでも吹き出してしまう俺。

 秋子さんは柔らかく微笑んだまま、俺の背中をあやすように撫でてくれている。
「それで秋子さん、なんの用なんです」
 俺が訊くと、秋子さんは待ってましたとばかりに瞳を輝かせて、
「はい。旦那様に、ご奉仕させていただきに参りました」
 メイドさん口調で、キッパリ答える秋子さん。
「………五胞子?」
 無為だと知りつつ、ボケてみる。
「うふふ、違いますよ旦那様。ご奉仕…尽くすことです」
 秋子さんは俺のボケを軽くいなして、たしなめるように微笑んだ。
「……」
 尽くすって…やっぱり、アレとかソレとかのことだろーか。
「はい、アレとかソレとかです」
 秋子さんはくすくす笑いながら、やけに明るい口調で応えた。また声に出していたらしい。

「…旦那様」
 秋子さんは瞳をきらきらと輝かせて、間合いを詰めてきた。
「は、はい? なんですか、秋子さん」
 取り敢えずベッドの上で後ずさる。
「失礼いたします」
 秋子さんは楚々とした仕草でベッドに乗り、俺は壁際に追い詰められた。やばい、危険な香りがする。
「あ、秋子さん、ちょっと待って下さい!」
 押しとどめようと声を張り上げてみたが、そんなことで秋子さんが止まるわけもない。秋子さんはほほに手を当てて微笑み、
「旦那様、私はメイドなんですから、敬称は必要ありません」
「え? なんて呼べばいいんですか」
 秋子さんは恥じ入るように瞳を伏せて、
「…秋子とお呼び下さい」
「うっ」
 ゾクリとしたものが背筋を駆け抜けた。

「はあ…」
 にじり寄ってきた秋子さんの吐息がほほに掛かる。秋子さんは上目遣いに俺を見つめて、
「旦那様。どのようなご奉仕をお望みですか?」
「え? どのようなって…」
 俺が戸惑っていると、秋子さんの瞳が妖しく輝いた。
「口ですか? それとも指がよろしいですか?」
 く、口!? 指? 何の単語なんだ!? ………いや、まあ、分かってるんだけど。
「胸や太ももですか?」
 む、胸! 太ももッ! …うーん、どっちも捨てがたい…って、考え込んでどうするんだ、俺!
「それとも、フルメドレーがお望みですか?」
「ごふぁっ!」
 一瞬、フルメドレーと言いそうになった。

「…旦那様…」
 秋子さんはうずうずと躰をくねらせ、焦れったそうに俺の応えを待っている。 
「ううっ…」
 ものすごく後ろ髪を引かれる気持ちだが、ここで流されてはいけない。
「あの」
 と、俺が口を開くのと同時に、
「あっ、分かりました。旦那様は下の口がよろしいんですね?」
 秋子さんが瞳を爛々と輝かせ、恐ろしーことをのたまった。
「え!?」

「申し訳ありません、旦那様。私が察しが悪いばかりに、旦那様に不快な思いをさせてしまいました」
 口調とは裏腹に、秋子さんはやたらと愉しげな仕草で、腰のリボンを解き始めた。
「ちょ、ちょっと秋子さん! 違いますよ!」
 リボンを解き、エプロンを脱いで、ワンピースのボタンを外し始めたところで秋子さんの動きが止まる。
「え? 何が違うのでしょうか、旦那様」
 半脱ぎの状態で、可愛らしく小首を傾げる秋子さん。……う、無茶苦茶燃える…って、違う。
「いや、何がって」
 違うところだらけで、俺がどう言えばいいか悩んでいると、また秋子さんの瞳が輝いた。
「あっ、分かりました」
 秋子さんはポンと手の平を合わせて、
「服を着たままでしなければいけなかったんですね?」
「ブッ!」
 俺が吹き出している間に、秋子さんはうなだれるように瞳を伏せて、
「申し訳ありません、旦那様。お手をわずらわせてばかりで、私はメイド失格です」
「そもそも秋子さんはメイドさんじゃないでしょうが」
 俺の的確な突っ込みを聞き流し、秋子さんは決意に燃えた…って言うか、爛々と輝く瞳で俺を見据え、
「旦那様、私をメイドとして再調教…げふん、再教育して下さい」
「あっ、秋子さん! 今、絶対聞き流せないことを言いましたよっ」
 俺の突っ込みはまた聞き流され、秋子さんは躰をすり寄せてきた。
「ああっ、ちょ、ちょっと秋子さん! …あうう」
 秋子さんの温もりと、絹地のメイド服の肌触りが気持ちよくて、つい声が裏返る。

「うー、うー」
 頭が徐々に熱くなり、考えがまとまらなくなってきた。秋子さんは濡れた瞳で俺を見つめて、
「…旦那様」
「な、なんですか」
 秋子さんはぴったりと身を寄せたまま、
「秋子は、不出来なメイドです。どうか旦那様のお手で、秋子を躾けて下さいませ」
「ガフッ!」
 頭に血がのぼり、意識が白く霞む。
「……っ」
 バチン、と頭の中で何かが弾けた(またか)。
「秋子さんっ」
 名前を呼ばわりながら抱き締め、横抱きに押し倒す。
「きゃっ。…秋子ですよ、旦那様」
 ストッキングに包まれた脚をもがかせながら、だめ出しをする秋子さん。
「……あ、秋子っ!」
「はい、旦那様っ………………………………………………あん♪」

 後のことは企業秘密。取り敢えず、フルメドレーはとんでもなかったとだけ言っておく。


                                    愛の浪漫劇場『つやつや秋子さん完結編』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 メイド属性の方、メイド秋子さんとのラブシーンがなくて、申し訳ない。入れちゃうとオチがつかないんです。
マキ「未熟者め」
 ういい。すいません。

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」


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