愛の浪漫劇場『つやつや秋子さん前編』
※秋子さんがつやつやしてます(←意味不明)。ご注意下さいませ。
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「ふう」
ベッドの上で見慣れた天井を見上げながら、溜め息を吐く。身体全体がだるくて、頭が重い。
「せっかくの日曜なのに、風邪を引いてしまうとは」
昨日の土曜日、学校から帰ってから何か身体が重いような気がして、晩飯を食べてすぐに寝たのだが、今朝になってみると、はっきり風邪の症状が現れていた。
「あーあ」
昨日のうちに薬を飲んでおけばよかったと思っても後の祭りだ。今日が日曜なおかげで、学校を休むことにならずにすんだのは不幸中の幸いだったけど。
名雪は金曜から部活の合宿で学校に泊まり込んでいて、家を留守にしているから、風邪を移す心配はない。秋子さんにも風邪を引いたことを伝えてあるから、わざわざ俺の部屋に来ることはないだろう。
「はあ」
それにしても退屈だ。ヒマヒマ星人状態だな。
「寝るか」
風邪には睡眠が一番だ。経験から考えて今日中に完治するだろうし、休むことにしよう。
「おやすみ」
ぐぅ。
・
・
「……ん」
額に何かが当たっている。ひんやりと涼やかで、すべすべして柔らかい。すごく気持ちが良くて、心が落ち着く。
「…う〜…」
思わず漏れた自分の溜め息で、目が覚めた。
「あ、起こしてしまいましたか?」
すぐ側で秋子さんの声がした。頭を動かして、声のした方を見る。
柔らかな微笑みを浮かべた秋子さんがベッドの脇に正座をして、俺の顔を覗き込むようにしながら腕を伸ばし、俺の額に手を当てていた。
ナース姿で。
「……」
夢か、これは。
唐突にそう思ってみたが、額に当てられた秋子さんの手の平の感触がそうじゃないことを物語っている。
「……」
秋子さんの格好をまじまじと見つめる。
薄桃色に染め上げられた、紛うかたなき看護婦の制服。頭の上にはご丁寧にナースキャップまで載っかっている。普段はゆったりしたカーディガンに隠された秋子さんの豊満な肢体が、かっちりとした看護婦の制服の上に優美な線を描いている…って、そんなところまで見なくてもいい。
どうやら本当に現実らしい。ある意味、漢の夢そのものとも言えるかもしれないけど。
「あの、秋子さん。その格好は何ですか?」
取り敢えず訊いてみる。秋子さんはにっこりと微笑み、
「看護婦の制服ですよ」
それは見れば分かります。
「どうしてそんな服を着ているんですか」
「もちろん、祐一さんを看病して差し上げるためです」
なんだかよく分からん理屈だ。
ふと、秋子さんが表情を曇らせた。
「ご迷惑ですか? …それとも、私みたいなオバサンがこんな格好をしているのは…気持ちが悪いですか?」
「へ?」
気のせいか、俺の顔を覗き込む秋子さんの瞳がうるうると潤んでいて、表情も暗い。
「い、いえ、全然そんなことないです!」
むしろ超オッケーです(←?)。
「そうですか?」
秋子さんはほっとしたように表情を柔らかくして、可愛らしく微笑んだ。
「秋子さんの方こそ、迷惑なんじゃないんですか」
俺が言うと、秋子さんはにっこり微笑み、
「何をおっしゃっているんですか、祐一さん。祐一さんは、もっとうんと甘えてもいいんですよ」
「え」
『甘えてもいい』って、やけに妖しげに聞こえる単語なんですけど。
「では、看ますね。私は看護婦の資格も持っていますから、安心して任せて下さい」
秋子さんの謎が、また新たに解明された。いや、むしろ増えたのか。
俺も漢だからして、看護婦姿の秋子さんを追い返すような胆力はない。まあ、実際風邪を引いているんだし。
秋子さんは俺の額に当てた手の平を、撫でさするように動かしている。すべすべした肌の感触が無茶苦茶気持ちいい。
「……」
俺がされるがままでいると、秋子さんは小首を傾げて、
「やっぱり、手では分かりにくいですね」
言って、手の平を離すと、身を乗り出して俺の顔を覗き込んだ。俺の頭に手を添え、そのまま顔を寄せて、
「失礼します」
「え」
こつん、と秋子さんのおでこが俺の額に当てられる。
「あ」
瞳を閉じた秋子さんの顔が、目の前にある。
少し時間を置いてから、混乱しかけた頭がようやくまともに機能し始めた。
「あっ、あっ、秋子さんっ!?」
言うまでもなく、秋子さんは絶世の美女なわけで、その顔が間近にあるとゆー今の状況に、俺が落ち着けるわけがない。
「はい?」
集中するためか、閉じられていた秋子さんの瞳が薄く開かれる。…う、間近で見る秋子さんの眼って、すごい綺麗だ…って、そうじゃないだろ。
「あ、あの、何をしていらっしゃるんでしょーか」
何故か尊敬語で訊ねる俺。
「なにって、検温ですよ」
にっこりと微笑む秋子さん。鼻先数センチのこの距離で、その笑顔は危険すぎです。
甘えてもいいと言われたけれど、これは甘えすぎ、と言うか近付きすぎな気が。
「うー」
落ち着かない俺は、名雪のように呻き声を上げて、身じろぎをしてしまう。
「あ、動かないで下さい」
秋子さんの瞳がまた開き、咎めるような口調で言った。
「動くと、うまく計れないじゃありませんか」
「はあ」
そう言われても。
額に当てられた秋子さんのおでこは、冷たくて気持ちがいい。微かに熱い秋子さんの吐息が、俺の顔に吹き掛かる。ふんわりと薫る甘い芳香は、もしかして秋子さんの女香か。
秋子さんの美貌をこんな間近に見ることさえ滅多にないのに、これで落ち着けるわけがない。と言うか、これは新手の拷問ではないだろーか。
「うう」
小さく呻いて身体を揺すると、また秋子さんの瞳が開かれる。
「ほら、動かないで」
秋子さんの澄んだ瞳とまた眼が合った。
「いい子だから…ね?」
やんちゃをする子どもを優しくたしなめる母親のような、深い笑顔を向ける秋子さん。胸がドクンと高鳴る。
「は、はい」
俺が動くのをやめると、秋子さんは満足そうに慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
秋子さんはおでこを当てたまま、動かない。瞳も閉じて、端正な顔を寄せたきりだ。
「……」
秋子さんの両手は俺の頭に添えられていて、見ようによってはキスされている体勢に見えなくもない。
(…いかん)
不埒なことを思い付いた途端、顔が熱くなってきた。
秋子さんの薄い唇は、俺の顔のすぐ正面にある。少し首を動かしてしまえば、簡単に重ねられる。
「…う…」
顔を前に出したい衝動に駆られ、必死に理性で抑え込む。
「動かないで下さいね」
動く気配を感じたのか、秋子さんは瞳を開け、無邪気な笑顔で言い含めるように囁いた。
「あぅー」
名雪状態から真琴状態になりつつ、必死でこの拷問に耐える。
やがて、長いような短いような時間が経ち、秋子さんのおでこが離れた。
「熱は下がったみたいですね。良かったです」
秋子さんはほほに手を当てて柔らかく微笑み、我が事のように喜びながら言う。
「はあ」
俺は異様に早まっている心臓の音をやかましく思いながら、ぼんやりと答えた。
「祐一さん、食欲はありますか?」
穏やかな表情で俺の顔を覗き込んでいた秋子さんが唐突に言った。
「え」
言われてみれば、少し空腹感がある。朝から何も食べていないし、それも当たり前か。
「少しあります」
俺がそう言うと、秋子さんはうなずいて立ち上がった。
「分かりました。じゃあ、ちょっと待っていて下さいね」
音を立てずにドアを開け、部屋から出ていく秋子さん。
「ふう」
頭を振り、ぼやけかけていた思考を回復させる。
「……」
秋子さんは俺を心配して看病をしに来てくれたのに、その俺が欲情してどうするんだ。…確かに、ナース服の秋子さんはものすごく可愛いくて、色気もあるけど。
「違う! そうじゃないっ」
秋子さんから見れば、俺はまだ子どもみたいなものなんだろうし、さっきの『甘えていいんですよ』発言だってそういう意味だったんだろう。…だったら、さっきおでこを合わせているときに顔を出してキスしていても、甘えただけとして許して貰えていたかもしれない。惜しかった。
「ぐああっ、違うーっ」
頭を抱えて悶絶する俺。
落ち着いて邪心を捨てて、俺がするべき事を考えよう。…秋子さんの心遣いに素直に感謝して、風邪を治すことだけを考えればいいんだな、うん。
「よし」
ようやく考えがまとまったところで、
「祐一さん、入りますよ」
ドアの向こうから秋子さんの声が聞こえた。
「はい、どうぞ」
「失礼しますね」
お盆を持った秋子さんが、いつもの笑顔で部屋に入ってきた。
「お待たせしました」
「……」
薄桃色のナース服を着込んだ秋子さんを見た途端、いきなり決意が揺らぐ。
「ぬおおーっ」
取り敢えず慟哭しておく。
「?」
秋子さんは不思議そうな顔で俺の奇行を見ながらも、落ち着いた仕草でベッド脇に正座をして、お盆を置いた。
お盆の上には、お粥の盛られた茶碗とレンゲ、それに水差しとコップが載せられていた。
「起きあがれますか?」
「はい」
言って、上半身をベッドの上に起こす。秋子さんが差し出してくれた丹前を羽織った。
「すみません」
「どういたしまして」
秋子さんはにっこり微笑み、お盆から茶碗とレンゲを手に取って、俺の方を向いた。茶碗からのぼる湯気に乗って、うまそうな匂いが漂ってくる。
「じゃあ、いただきます」
秋子さんから茶碗とレンゲを受け取ろうと手を伸ばした。
「駄目です」
秋子さんが腕を引き、指が虚しく宙を掻く。
「あの、秋子さん?」
「いいんですよ、祐一さんはそのままでいて下さい」
「え?」
秋子さんはおもむろにレンゲでお粥を一掬いして、
「…ふー、ふー」
息を吹きかけて冷まし、レンゲを差し出しながら、
「はい、あーんして下さい」
柔らかな微笑みを浮かべ、恐ろしげなことをのたまった。
「……」
口を半開きにして呆然とする俺。
「ほら、祐一さん。もっと大きく口を開けて下さい。あーん」
にこにこ笑顔を絶やさないまま、優しく俺を急かす秋子さん。俺はようやく我に返り、声を張り上げた。
「ま、待って下さい! そんなことしてくれなくてもいいです、自分で食べられますっ」
「駄目です。祐一さんに、ご無理はさせられませんから」
あっさりと却下される。
「無理はしてないです」
「いいじゃありませんか。はい、あーん」
言いながら、自分も口をあーん、と開ける秋子さん。なんだかやけに楽しそうに見えるのは、俺の思い過ごしだろーか。
「いえ、あの」
「あーん、です」
「えっと」
「あーん」
「……」
口を開けている秋子さんてなんか可愛いなあ…って、現実逃避している場合か。
「うー」
仕方ない、一口めは秋子さんの厚意に甘えて、次からは自分で食べよう。と俺が覚悟を決めたとき、
「あ、もしかして祐一さん、ご自分で食べる元気もないんですか?」
「へ?」
秋子さんは少し考え込んでから、ぱっと顔を輝かせた。
「分かりました。私に任せて下さい」
何をですか、と俺が訊くより早く、秋子さんは自分の口にレンゲをくわえた。
「あ」
「…ん、…んっ」
秋子さんは口元を手の平で隠しながら咀嚼して、顔を俺の方に近付けてきた。
「あの、秋子さ…むぐっ!」
秋子さんの手が俺の顔に添えられ、顔が寄せられたと思った瞬間、唇が押し付けられた。
「ううっ!」
唇を半開きにしていた俺の口内に、秋子さんの口の中から柔らかく噛み下されたお粥が流し込まれる。
「んぐっ」
反射的に飲み込むと同時に、顔が熱くなった。
「…う、う」
秋子さんは俺の顔に手を添えたまま、微動だにせずにいる。お粥は俺が飲み込みやすいように、器用に小出しにされながら流し込まれてくる。
「…う…」
やがて、秋子さんの口の中のお粥がなくなる。
「…んふ、ん…、…はぁ」
秋子さんはゆっくりと唇を離し、悩ましげな溜め息を漏らした。
「…う…はあっ」
大きく息を吐いて、酸素を供給する俺。
「……」
まだ頭の中は錯乱していて、思考がまとまらない。取り敢えず、順序立てて考えてみる。
秋子さんの『あーん♪』を拒絶していて、俺が覚悟を決め掛けた瞬間に秋子さんが『分かりました』ってレンゲを口に入れて、もぐもぐしてから秋子さんは俺に顔を寄せて…って、おい!
「ああっ、あっ!?」
お、俺、今、秋子さんと…!
「あっ、あっ、秋子さん! 今…」
「はい」
言いかけて、秋子さんの顔を見る。薄くて綺麗な唇が目に入った。
「……っ」
その柔らかい感触を思い出し、いきなり語尾が詰まる。
「…あ…あー」
俺がしどろもどろになっているのとは対照的に、秋子さんは落ち着いている。
「口移しがどうかしたんですか?」
何でもないことのように言い放つ秋子さん。
「ど、どうかしたんですかって、どうかしますよ!」
秋子さんは動転している俺をなだめるように優しく微笑んだ。
「祐一さん。口移しは、医療行為ですから」
「は、はあ」
秋子さんの動じていない態度に、俺も幾らか落ち着きを取り戻した。
「そうですね。えっと…ありがとうございます」
わざわざ口移しまでしてくれた秋子さんに、お礼を言う。
「どういたしまして」
ほほに手を当て、にっこり微笑む秋子さん。そのほっぺたの横の唇に目が行ってしまうのは、仕方がないことだろう。
「う」
改めて秋子さんの唇の感触を思い出し、顔が熱くなる。しっとりと湿っていて、柔らかくなめらかで、じんわり温かくて…。
「んぐ」
そう、ちょうどこんな感じに…って、ええっ!?
「んん…ん」
秋子さんの顔が目前に寄せられ、また唇が重ねられていた。
「あっ、秋子さ…んむっ」
口を開けた途端、さっきと同じように柔らかく咀嚼されたお粥が口の中に注ぎ込まれる。
「う、う」
条件反射的にそれを飲み込むのと同時に、また頭の奥がぼーっとしてきた。
秋子さんはさっきと同じように俺の顔に手を添え、俺が飲み下しやすいようにお粥を小出しに注ぎ込んできてくれる。
「…んぐっ、…ぐ」
秋子さんの柔らかな唇が隙間なく重なり、そこから温もりが流れて込んでくる。
ご飯はよく噛むと甘くなるという諸説があるが、実際に今俺の口の中に注がれてくるお粥はこれ以上ないほど甘く、うまかった。
「…う」
とろけるような気持ちよさに気が遠くなり、思わず口元が緩む。
「…あ」
と、流し込まれたお粥を飲み込むのに失敗し、口の横から溢れ出しそうになった。
「んっ」
秋子さんが素早く顔を動かし、舌の先でそれを受け止める。
「…んぅ、んっ…ん」
お粥がこぼれ落ちないように、懸命に唇をすくい上げるように動かす秋子さん。端正な秋子さんの顔がほんのりと紅潮し、ものすごく色っぽい。
「…う〜」
いかん、頭がくらくらしてきた。無論、風邪による発熱が原因ではない。
「…ふう」
ついばむように俺の口の周りを舐めていた秋子さんが、また悩ましげな溜め息を吐いて顔を離した。
秋子さんの舌と唇が這った跡が、じんわりと温かい。
「あ、あの」
俺がぱくぱくと口を開けたり閉じたりしていると、
「医療行為です」
押しの強い笑顔で言い切る秋子さん。
「……」
どう考えても行き過ぎた行為だと思うんですけど。とゆー俺の言葉は、のどの奥に仕舞われた。………だって、気持ちよかったし。
秋子さんはじっと俺の顔を見て、何か言いたそうにしている。気のせいか、瞳が潤んでいるよーな。
「祐一さん。のどは渇いていませんか?」
言われてみれば、渇いている気もする。
「はい。少し」
「分かりました」
嬉しそうに微笑み、いそいそと甲斐甲斐しい仕草で水差しからコップに水を移す秋子さん。そして、当たり前のように水の入ったコップを自分の口に近付けた。
俺は慌てて、
「ちょ、ちょっと秋子さ 「駄目です」 」
止めようとしたが、凄まじい反応速度で制された。俺が思わず黙り込んでいる隙に、秋子さんは一息にコップをあおる。
「あ」
口元を手の平で押さえ、ほっぺたを膨らませた秋子さんが俺の顔に手を添える。
「んむ」
また唇が重ねられた。抗えない自分が情けない。
ふうう、と水が口の中に流し込まれ、自然にそれを飲み込んでしまう。
「…んぐ、んぐっ」
味覚だけで考えればただの水であることは分かるのだが、やけにおいしく感じられるのは何故だろーか。とぼんやりと霞む頭で考えつつ味わう。
「…んぅ」
秋子さんは身を乗り出して、うっとりとした表情で唇を重ねている。ほんのりと紅潮したほっぺたが、可愛らしさと艶美さを兼ね備えていて、一度見てしまうと、もう眼が離せなくなった。
「……」
口の中に注ぎ込まれる水を飲み下しながら、秋子さんの顔に魅入っていると、秋子さんの瞳が開かれて、眼が合った。
「…んふぅ」
瞳を細め、眼だけで微笑む秋子さん。ぐっと身を乗り出し、より強く唇を押し付けてきた。
「う、うー」
息苦しさと、気持ちよさで目が回りだす。
いつの間にか、秋子さんの口の中の水がなくなっていた。
「……」
秋子さんの柔らかな唇の感触が名残惜しくて、俺がそのまま動けないでいると、
「…んぅ」
うっとりと瞳を潤ませていた秋子さんののどの奥が微かに鳴り、俺の口の中に秋子さんの舌が差し入れられてきた。
「うう、うっ?」
驚いて身を引きかけると、俺の頭に添えられていた秋子さんの手に力が込められ、引き戻された。
「……うぅ」
熱っぽく潤んだ瞳で、咎めるような視線を俺に投げ掛け、秋子さんは俺の頭を抱え直す。
秋子さんの舌が滑るように俺の口の中を動き回る。
「う、ぅんっ…んふっ、んっ、んっ」
悩ましげに鼻を鳴らし、陶酔したように唇を押し付けてくる秋子さん。瞳が熱く潤み、ほっぺたは薔薇色に紅潮している。
「うう、う」
舌先で口腔内をいじられ続ける俺は、くすぐったいような、気持ちがいいような心持ちになり、身動きがとれないでいた。
「んぅ、うっ、う、うぅん」
秋子さんの艶めいた鼻声と、混じり合った唾液が啜り上げられる音だけが部屋に響く。
「うっ、う……ぅんんっ」
じゅっ、と音がするほど唾液を強く吸い上げたのを最後に、ゆっくりと秋子さんの唇が離れた。
「ふう」
「…はっ、はあ、はあ」
秋子さんの舌技に圧倒されていた俺は、荒い呼吸で酸素を補給した。
「………うふふ…」
唇に指を当て、うっとりと微笑みを浮かべる秋子さん。
「あ、あの、秋子さん」
俺が掠れる声で呼び掛けると、
「医療行為です」
反論を封じる笑顔で言い切られた。
「……」
今のは絶対違う、と思いつつ、黙り込む俺。
お粥を二さじ、水を一口を三回繰り返して、お盆の上が空になった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
回数を重ねる毎に濃厚になっていった秋子さんの舌技に、既に意識が霞んでいる俺。
「…はふ」
うっとりと唇に指を当て、悩ましげな溜め息を吐く秋子さん。空になったお盆を残念そうに見つめている。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
ふんわりと微笑み秋子さんの唇に、自然に目が行ってしまう。
「う…。あ、ありがとうございます、秋子さん。わざわざ…その、…く、口移しまでしてもらって」
もっと落ち着いて言え、俺。
「どういたしまして、祐一さん」
秋子さんがいつもより心持ち艶めいて見えるのは、俺の気のせいだろーか。
秋子さんは空になった食器をお盆に載せて、
「では、私はこれを片付けてきますから、祐一さんはゆっくり休んで下さいね」
「はい」
秋子さんが部屋を出ていき、また一人になる。
「……ふぅ〜」
異様に疲れた気がするので、秋子さんに言われた通りに一眠りすることにした。
《中編に続きます》
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星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
うぃ。本作品はRicken殿のご厚意を受け作成されました。謹んでお礼申し上げます。
まだ序の口なんだよねえ、これ。
マキ「他人事のように言うなぁぁっ!」
むい。
お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」
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