愛の浪漫劇場『ぷちしおり その6』
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のぼせる寸前までお湯に浸かり、俺も栞もふらふらになりながら湯舟からあがった。鮮やかな桃色に火照った栞の肢体が、電灯の光を受けて目映く煌めく。
「大丈夫か、栞」
抱っこしたまま顔を覗き込むと、
「ふぁい」
栞はふにゃっと柔らかな笑顔を浮かべ、鼻に抜けるような甘ったるい声で返事をした。
栞の躰を抱き上げたまま、浴室から脱衣所に移る。
「ん、んふ、んふぅ」
全身を薔薇色に紅潮させながら、ふにふにと甘えた仕草で躰をすり寄せる栞。
「えへ…祐一しゃん♪」
栞は蕩けるような笑顔を浮かべ、幸せそうにのどを鳴らしている。
「じゃあ、躰を拭くぞ」
「はぁい」
栞に立ってもらい、透き通るような深紅色に染まった躰をバスタオルで撫でる。
「あ、あんん、んふ、ああん♪」
火照って敏感肌になった栞は、歓声を上げながら、こそばゆそうに身をよじった。
艶めかしい表情で身悶える栞の仕草にどぎまぎしながら、若木のような脚を拭いていると、
「祐一さん、栞ちゃん。お風呂、上がられたんですか?」
脱衣所と居間を繋ぐ戸の向こうから、秋子さんの声がした。
「はい、いま出ました」
「そこの脱衣かごの上にスモックを置いておきましたから、栞ちゃん、着て下さい」
言われて見てみると、丁寧に畳まれた水色の服が置いてある。
「分かりました。わざわざ、すみません」
「どうも、ありがとうございましゅ」
「どういたしまして」
栞の躰を拭き終えてから、服を手に取って広げてみると、子どもがよく着ている上っ張りのような衣服だった。
「ほら、栞。ばんざーい」
「はい」
両手を上げた栞に頭からスモックを被せて、着せてやる。
しゅっちゅう寝惚けた名雪に制服を着させたりしているから、こういうことは慣れている。飯の種にならない特技だが。
裾を降ろし、襟を整えた。
「えへ、ありがとうございましゅ」
栞はぺこんと可愛らしくお辞儀をしてそう言うと、膝上ぐらいまでの長さの裾を、ちょんちょんと引っ張って、
「…なんだか、本当に幼稚園に戻ったみたいな気がしましゅ」
照れているのか、もじもじ腰を揺すりながら囁いた。
「まあ、いいじゃないか。その服、似合ってるぞ」
「誉めてるんでちか、それ?」
人差し指を唇に添え、可愛らしく小首を傾げながら呟く栞。
俺も躰を拭き、下着と寝間着を身につけて、
「まあ、気にするな。ほら、おいで」
「はぁい♪」
にこっと微笑んで、よちよち歩いてくる栞を、腕を広げて迎え入れる。
抱き上げて、栞が躰を揺すって居心地を確かめるまで待ってから、脱衣所を出た。
・
・
「お風呂、頂きました」
「はい、ずいぶん長湯だったんですね」
居間に入ってみると、新聞を読んでいる秋子さんと、
「…うにゅう」
心底眠そうな顔の名雪が、ぐんにゃりとソファに寝そべって待っていた。
名雪はふらりと立ち上がり、仔猫のように目元を手でこすりながら、
「ふわ…それじゃわたし、お風呂入ってくるね〜」
ぽややんとした声で、誰にともなしにそう呟くと、その場でするすると衣服を脱ぎ始めた。
「おいっ」
止める間もなく、ブラウス、スカート、ブラジャーまで一息に脱ぎ去る名雪。綺麗な珠型の乳房が、小粒のサクランボのような乳首と一緒に、ふるふると波打つ。
「ま、待て名雪、脱ぐなっ」
「うー?」
名雪は乳房を隠そうともせず、糸目のまま、ふらふら頭を揺すった。
「どうして脱いだら駄目なの? お風呂は、生まれたまんまの姿で入るんだよ」
「確かにその通りだが、そうじゃなくて、ええと…」
俺が口ごもると、名雪はまた躰を海百合のようにゆらゆら左右に揺らして、
「わたしはこれから、お風呂に入るんだよ。普通、お風呂はすっぽんぽんになって入るんだよ。だからわたしは脱いで裸にならないといけないんだよ」
「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて」
もの凄く強引な三段論法に脳味噌の機能を強制停止させられ、言葉が出てこない。
「うにゅ、わたしの勝ちだおー」
俺が口ごもって反論できなくなると、名雪は満足げにこっくり頷いた。
「…ん、しょっと」
脱ぎ掛けた服を肩に引っ掛けたまま前屈みになって、指をパンツの両縁に掛け、そのまま降ろす名雪。
「ああっ」
「あらあら、名雪。お行儀が悪いわよ」
おっとりと微笑んだ秋子さんに注意され、名雪の動きがぴたりと止まる。下着は既(すんで)の所で、降ろしきっていなかった。
「ほっ」
惜しかったよーな、勿体なかったよーな気持ち(※同じ)で、溜め息を吐く。
「名雪、子どもじゃないんだから、服を脱ぎ散らかさないの。脱いだ服は、きちんと畳みなさいね」
それもちょっと違います、と秋子さんに突っ込む間もなく、
「はぁい」
名雪は秋子さんの言葉に素直に頷くと、パンツと靴下だけの艶姿のままで、てきぱきと服を畳み始めた。
「おお、おおお」
名雪が身動きするたびにふるふると揺れ動く乳房に、ついつい見惚れる俺。
「んしょ」
名雪は丁寧に服を畳み、わざわざパンツと靴下まで脱いで揃えて、素っ裸のままよたよたと風呂場まで歩いていった。
いいもの見せてもらったなあ。…違う、と自分に突っ込んでいると、
「…むー」
「ギク」
腕の中の栞が、ほっぺたをぱんぱんに膨らませて拗ねていた。
やばい、怒られる、と身構えていると、
「……」
栞は力なく顔を伏せ、躰を丸めてしまった。
「えっと…栞? どうした」
見るからに元気のなくなった栞に、恐る恐る呼び掛ける。
「…なんでもないでち」
顔を上げずに、抑揚のない声で返事をする栞。
「何でもなくはないだろ。気持ち悪くなったのか?」
栞はふるふるとかぶりを振って、
「大丈夫でち。…眠くなっただけでしゅ」
それだけとは思えないけど。
「なあ、本当にどうしたんだよ」
「なんでもないんでしゅっ」
癇癪を起こしたように、うーっと不機嫌そうにのどを鳴らす栞。
「うーん」
栞もこうなると頑固だから、手の打ちようがない。
俺は少し考えて、秋子さんに向き直った。
「秋子さん、栞の寝床の準備は、出来てますか」
「ええ、名雪の部屋に、お布団を敷いておきました」
「そうですか。…ええっと」
秋子さんの気遣いを無にするみたいで、心苦しいけど。
「すみません。今日は俺、栞と寝ます」
「え…」
そっぽを向いていた栞が、はっと顔を上げた。
秋子さんは優しく見守るような表情で俺と栞を見つめて、
「そうですか。お布団は、移動させなくてもいいんですか?」
「はい、構いません」
秋子さんは何も詮索せずに、いつものように柔らかく微笑んで頷いた。
「分かりました。それでは祐一さん、栞ちゃんはお任せしましたから」
「はい」
「では、私は部屋でお仕事をしていますから。栞ちゃん、祐一さん、お休みなさい」
「お休みなさい、秋子さん」
おっとりとお辞儀をして、居間を出ていく秋子さん。
秋子さんがいなくなってから、呆気に取られていた栞が、ようやく我に返った。
「あっ、あの、祐一しゃん?」
「なんだ、眠いんだろ? ほら、さっさと寝よう」
栞を抱っこし直してから、居間を出て階段を上がる。
「えっ、でも…あっ…えぅ〜」
・
・
恥じらってもがもが暴れる栞を抱きかかえたまま部屋に入り、ベッドに真っ直ぐ向かう。
「あ、あっ、ああっ」
可愛らしくあたふた慌てて躰を緊張させた栞を、シーツの上にそっと降ろした。
「きゃう」
寝転んだまま、ぱちくりと瞳をまたたかせる栞。スモックの裾が大きく捲れ上がり、華奢な脚とももが見えている。
「よっこらしょ」
栞の隣りに躰を入れ、掛け布団を肩まで引っ張り上げる。
半ば布団に密閉された狭い空間の中で、栞と向き合った。子どもっぽい高めの体温と、蜂蜜のような仄かな甘い匂いが感じられる。
「さてと、栞」
栞を怖がらせないように手を伸ばさず、瞳を見つめて呼び掛ける。
「は、はい…なんでちか、祐一しゃん」
躰を丸めながら、怖ず怖ずとした表情で答える栞。
「何か、言いたいことがあるんだろ」
俺がそう言った途端、栞のあどけない美貌が、寂しげに曇った。
栞は顔を伏せて、前髪で目元を隠し、
「…なんにも、ありまちぇん」
鼻声でそう呟くと、そのまま布団に潜ってしまった。
「あ、待て」
「いやでち」
布団の中に手を突っ込み、探ってみると、指が何か柔らかいものに触れた。
「きゃんっ! …ぅ〜」
栞の鳴き声がして、またもそもそと掛け布団が蠢く。
「ん…こっちか」
むにっ。
「ひゃんっ…あっ、あんっ」
手の平ですべすべしたものを撫でたり、ふんわりした何かを揉んだりしてから、ようやく手探りで栞の腕を見付けた。
「ほら、栞」
スモックの袖と思われる部分を、軽く引っ張る。
「…ぅー」
頬を薔薇色に赤らめた栞が、布団の隙間から出てきた。
また潜って逃げられないように、背中に腕を回してそっと抱き寄せる。
「あっ…うぅ〜」
逃れようとして、もがもがと躰を揺する栞。
「栞」
背中に添えた腕に、少し力を込める。
「…えぅ、う」
栞はびくっと肩を震わせて、諦めたように力を抜いた。怒られることを覚悟した子どものような、息苦しい表情で唇を噛む。
ほんの少し紅色になっているおでこを撫でて、前髪を払い、額をくっつけて栞と見つめ合った。
「栞」
「…はい」
「いや、怒らないから。そんなに、怖がらないでくれ」
スモック越しに背中を撫でて安心させてやりながら、一言一言、噛んで含めるように聞かせていく。
「栞、俺が何かして、怒らせたんだったら、謝る。ごめん」
「え? …あっ、違うんでしゅ」
俺の眼を見返しながら、ふるふるとかぶりを振る栞。
「わたち、怒っているんじゃなくて、祐一しゃんが悪いわけでも全然なくて……えっと、その…う」
栞の淡い色合いの瞳が、寂しげに潤む。
「…すん」
栞は小さく鼻をすすり上げ、目線を逸らした。
自分から言ってくれるまで、黙って栞の背中を撫でてやる。
「祐一しゃん」
「うん?」
「…さっき居間で見た名雪しゃん、綺麗でちたよね」
目線を逸らしていた栞が、天気のことを言い出すような口調で呟いた。
「え? …ああ、まあ、汚くはなかったな」
名雪の瑞々しい肢体を思い出しながら返事をする。
「わたちも、すごく綺麗だと思いまちた。…お尻は丸くて格好いいし、腰もきゅっとしていましたし、おっぱいだって大きくてぷるぷるしていて…」
「何の話しだ、おい」
栞はひっく、と小さくしゃっくりを上げた。
「……わたちとは、全然、違う…う、うう」
栞の瞳の端から零れ出た涙が、丸いほっぺたの上を流れた。
「…名雪しゃんだけじゃなくて、お姉ちゃんも、秋子おばさまも…皆さん、すごく綺麗で、美人で…」
ひくっ、とまたしゃっくりを上げ、言葉を詰まらせる栞。
「名雪しゃんの綺麗な躰に、ぼんやり見惚れている祐一しゃんを見ていたら…ひょっとしたら、いつか祐一しゃんが、わたちみたいな子どもっぽい女の子のこと…ど、どうでもよくなっちゃうんじゃないか、って…う、うぅ」
栞の頬に、幾筋もの涙が伝う。
「わたち、本当に子どもっぽくて…今日だって、わたちが変なことしたせいで、祐一しゃんにいっぱい迷惑掛けちゃって…うっく…本当は、怒っているんじゃないでしゅか?」
栞は顔を伏せたまま、上目遣いに俺を見つめた。
怯えてぶるぶると痙攣している栞の小さな背中を、そっと撫でる。
「ふう。そんなことを気にしてたのか」
俺が溜め息混じりにそう言うと、栞はむっと唇を尖らせた。
「そんなことって、なんでしゅか。わたちは、真剣に…ひゃん」
頬に付いた涙の跡を舌で舐め取ってやると、栞はびくっと肩を震わせた。
栞の頭を少し乱暴に撫でながら、
「まとめて答えるぞ。今日一日のことを迷惑だなんて考えてない。当然、怒ってもいない」
「……」
少し安心したように、栞の肩から力が抜けた。
「それと、俺は栞のことをどうでもいいなんて絶対に思わない。だから、余計な心配はしなくてもいいんだ」
最後まで一息に言ってから、栞を出来るだけ優しく引き寄せ、包み込むように抱き締める。
「あっ…」
怯えた表情で、弱々しくもがく栞。
「栞」
「はい」
怖ず怖ずと顔を上げた栞を真っ直ぐに見つめて、
「好きだぞ」
「え…」
栞の瞳が、ぱちくりと可愛らしくまたたいた。
ぽかんとしている栞の背中を、あやすように叩く。
「どんな美人が幾ら目の前に現れても、栞を好きだっていう俺の気持ちは変わらないよ」
「えっ…あ…」
栞のあどけない美貌が、熱に浮かされたように紅く火照った。
「あ、え、あぅ、えぅ…」
栞は目線をさまよわせて、戸惑っている。
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した栞は、まだ心細そうな表情で、俺を上目遣いに窺った。
「え、えっと…本当でしゅか?」
「俺は冗談は言うけど、この手の嘘は言わない」
「…わたち、子どもっぽいでしゅけど、いいんでちか?」
「いいじゃないか、可愛くて。それに、栞はそんなに子どもっぽくないと思うぞ」
容姿はともかく、栞はそんなに卑下するほど幼稚ではない。
「…でも…その」
「まだ何かあるのか」
俺の告白は、そんなに信用がないのかな。
「わたち、小さ……大きくないでしゅよ」
「なにが」
「え、えっと、その………ぉ、おっぱい…」
「……」
俺が思わず無言になると、栞は拗ねたように唇を尖らせて、
「さっき祐一しゃん、名雪しゃんのおっぱい、じっと見てまちた」
「うっ」
「…やっぱり…わたちみたいなぺったん胸の女の子は、ダメなんでしゅね」
栞の美貌が寂しげに曇り、涙で潤んだ瞳が湖面のように揺らぐ。いかん。
「待て、栞」
「……」
無言のまま、訝しげに俺を見据える栞。
「名雪の胸に見惚れていたのは否定しない。俺も、その…男だから、大きな胸に気持ちを惹かれる感性はある。だけど、栞の胸だって好きだぞ」
栞は呆れたような表情で、
「…祐一しゃんは、おっぱいなら何でもいいんでちか」
「そんなわけないだろ。栞のことが好きだからに決まってるじゃないか」
「……」
「勿論、胸だけじゃない。手だって足だって、顔だって、頭の天辺からつま先まで好きだ。栞のこと全部が、好きだからな」
おでこを軽く触れ合わせ、栞の顔を覗き込む。
「俺は、どんなことがあっても、栞のことを愛し続ける」
「……」
栞の澄んだ瞳が、真っ直ぐに俺を見つめている。
眼を逸らしそうになったが、自分の言ったことに嘘がない以上、やましい部分はないと思い直し、正面から見つめ返した。
「祐一しゃん」
「うん」
栞は少し間を置いて、抑揚のない声で呟いた。
「…祐一しゃんは、わたちがお婆ちゃんになっても…死んでしまっても、わたちのことを想い続けてくれましゅか」
「ああ。…あの冬に、約束したじゃないか」
俺が頷いてそう言うと、栞の瞳の端に涙の珠が浮かび、雫になってこぼれ落ちた。
「…う…ふぇっ、うぅ」
何か酷いことを言ったのか、と俺が戦慄したのと同時に、
「…うっ…嬉しい、です…えっく、うぅ…ふぇぇ」
栞は泣き声を上げながらそう言うと、飛び掛かるように俺にしがみつき、背中を震わせて嗚咽し始めた。
「栞」
弱々しくわななく栞の背中に腕を回し、そっと抱き締めた。
泣き顔を見られたくないのか、栞は顔を伏せたまま、小さな手で俺のパジャマを握り締め、ひっくひっくと背中を震わせている。
「…うっく、えぐっ…う、嬉しい、嬉しい…うっ、うっ」
「……」
黙って腕を動かし、栞の背中を優しく撫でる。
「えぐっ…すん…」
やがて栞の泣き声が低くなり、震えていた背中の揺れも収まってきた。
「…んっ…祐一しゃん…」
泣き濡れた瞳でちらっと俺の顔を見て、うっとりと幸せそうに顔をほころばせる栞。小さな躰でしがみついたまま、恥ずかしそうにふにふにと身じろぎをした。
お互い無言のまま、ベッドの中で抱き合う。栞の躰は心持ち体温が上がっていて、抱き締めていると温かくて気持ちがいい。
「あの、祐一しゃん…ごめんなさいでしゅ」
「ん? なんで謝るんだ」
栞は目尻に涙を残したままの顔を上げて、
「…わたち、その…祐一しゃんの気持ちを、無理矢理に聞き出したみたいで…」
小声で囁き、申し訳なさそうに瞳を伏せる栞。
「うーん」
無理矢理だったか? まあ、さっきの告白を日常会話で出来るほどの度胸は俺には無いけど。むしろ、栞に気持ちを伝えるための、ちょうどいい機会だったと思える。
「そんなこと気にするな」
「…でもぉ…」
栞は居心地が悪そうに、落ち着かない仕草で目線をさまよわせている。
「じゃあ、栞」
「はい?」
「栞は、俺のことをどう思ってるんだ」
俺がそう訊ねると、栞はきょとんと呆けて、次いで見る見るうちに頬を染め、
「え、えっ、えぅっ…そ、それは、その、あの、えっと…えぅぅ〜」
耳たぶまで紅くした栞は、もじもじ恥じ入ると、そのまままた布団の中に潜り始めた。
「待て」
栞の脇の下に腕を差し入れ、引っ張り出す。
「きゃあん」
可愛らしい啼き声を上げ、もがもがと暴れる栞。
「ほら、どうなんだ」
「あっ、えっと、うう…ゆ、祐一しゃん、そんなこと聞かないでも、分かってるじゃないでしゅか」
栞は曖昧な笑顔を浮かべて、誤魔化すように呟いた。
「俺は栞の口から直接聞きたい」
「えぅ〜」
栞はこのまま溶けてしまいそうなぐらい、ふにゃふにゃとはにかんでいる。
「…う、う〜、う〜…」
「栞」
栞の赤らんだ耳たぶに口を寄せ、
「俺は、栞の気持ちが知りたい」
「…ひぅっ…」
栞は首筋に息を吹きかけられ、ぞくぞくと背筋を震わせた。
瞳を伏せて恥じ入っていた栞が、怖ず怖ずとした表情で顔を上げた。
「祐一しゃん」
「うん」
俺の顔を見つめた栞の目元が、さっと朱に染まる。
「…ん、んっ…わたち、その、ええと…」
栞は上目遣いに俺の顔を窺いながら、何度も言い淀んでいる。
「…ふぅ」
気を落ち着かせるように息を吐き出し、唇を舌で湿らせる栞。
「祐一しゃん。…わたちは、祐一しゃんのことが……好き、でしゅ…」
語尾に近付くにつれて小声になり、ほとんど囁くような声音で呟いた栞は、幼い顔立ちを真っ赤に火照らせて恥じらい俯いた。
恥じ入ってまた布団に潜りそうになる栞を抱き留めながら、頭を撫でてやる。
「ありがとうな。俺も、栞のことが好きだぞ」
「ぅ〜」
栞は紅潮した顔を上げてのどを鳴らし、もごもごと躰を揺すってはにかんだ。
《その7に続くんでち》
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星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
今回は浪漫からチョイと離れて、甘々な代物になってしまいました。 【完】
マキ「終わるな!」
うぃ。
勢いに任せて描いている最中は気にならなかったけど、読み返してみると小っ恥ずかしい代物だネ。
マキ「ネじゃない」
うん。でも真面目な話し、やっぱり浪漫と萌えだけの力業で押し進めることに抵抗はあった。今回の告白シーンがなければ、栞嬢は我が侭娘、祐一は幼女萌えの阿呆で終わってしまうし。
だから書いたんだけど…その煽りを受け、色気が足らなくなってしまいました。てへっ☆
マキ「てへっ☆ じゃないッ」
うぃぃ。
浪漫に関しては、冒頭の栞嬢の拭き拭きと、名雪嬢の脱衣ぐらいで、どうかご勘弁を。
マキ「一般に流布されている作品ならば、それすらないとゆー事実を分かっておるのか」
(無視)その代わり、次回は栞嬢が脱いで喘いで悶えて濡れて(略)とゆー感じですので、ご期待下さい。
マキ「おぅい」
お読みいただきありがとうございました。ご意見、ご感想はこちら→hosikiba@hotmail.comまでどうぞ。
マキ「それでは、ご機嫌よう」
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